「16歳になれば、女には男を惑わす“魔力”が生まれる」というディストピア【レビュー】

 「16歳になれば、女には男を惑わす“魔力”が生まれる」というディストピア【レビュー】
『グレイス・イヤー 少女たちの聖域』(キム・リゲット著 堀江里美訳)
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”魔性の女”という責任転嫁

本作の“女性だけが持ちうる男性を誘惑する魔力”という描写から”魔性”という言葉を連想する読者も多いかもしれない。

”魔性の女”は男を惑わす女として未だに使われるワードであることを鑑みると、「女には男を惑わす魔力があると信じられているディストピア世界」である本作が、現実と地続きであることがよくわかる。

2年ほど前、10代の女性の俳優に関する記事が”日本最大のビジネスニュースサイト”をうたうサイトに掲載された。タイトルには、“中高年男性を虜にする魔性”と書かれており、記事内では当該俳優のことを”魔性の女ではなく魔性の女子”と形容していた。その俳優は、まだ女性ではなく子どもでありながら、中高年を魅了してしまう魔力がある、というわけだ。

10代女子に中高年男性が惹かれてしまうのは、その10代女子が”魔性”だったから……という語りは、”10代女子に惹かれるおじさんはヤバい”という自己認識を持つ中高年男性にとっては魅力的なロジックだろう。自分が幼い女の子が好みなのではなく、少女が魔性だからだ、と思い込むことができれば、ふたりの間で何かが発生しても、責任は少女にあることになる。

”魔性の女””は、女性に責任や罪をなすりつけるよい口実になる。自分が欲望したのではなく、あいつの魔性のせいなのだ、と。責任を魅力的な女性側に求めるという点で、”魔性の女”は、短いスカートを履いていたから痴漢してもよい、という価値観と地続きだ。女には魔力があるから、その魔力を抑え込み、男を誘惑しないためにも着るものに気をつけるべきなのだという語りは、女性に責任転嫁をするおなじみのやり方だと言えるだろう。

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原宿なつき

原宿なつき

関西出身の文化系ライター。「wezzy」にてブックレビュー連載中。



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