心理学博士が考案|″人との距離感覚″を見つけるためのヨガプログラム

 心理学博士が考案|″人との距離感覚″を見つけるためのヨガプログラム
Matthew Nager

人間関係において、「ノー」と言えずにエネルギーを消耗してしまうことはありませんか? そんな時は、体の声に耳を傾け、コアのパワー、強さ、内なる安らぎとともに、自分の自然な限界を見つけ出して。心理学博士のボー・フォーブス先生に、「他者との境界線」のための心理的テクニックとヨガプログラムを教えていただきました。

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境界線がもたらす喜び

綿密な計画を立てて境界線を定めたことがあるだろうか?
感情を吸いとられる友人とのディナーからどう8時きっかりに帰るか。もう1つだけと仕事を頼もうとする上司をどのように断るか。自分の持つ創造的な智慧を生かす時間をどうつくるか――にもかかわらず、結局はまた、計画からそれていることに気づいてしまう……ほとんどの人にこんな経験がある。

それは人類に共通しているのだ。だが、境界線を越えたり、それが侵されたりすることが頻繁にあると、健康が損なわれてしまう。ストレスを感じ、つながりを失い、病気にさえなるのだ。幸いなことに、境界線を明確にする方法は、ヨガとマインドフルネスに導かれるプラクティスによって学ぶことができる。するとそこから、健康、感情バランス、創造的充足感、人とのさらに強い結びつき、より大きな慈しみの気持ちなども生まれてくる。

境界線をテーマにしたブログや本では、それを単純に表すことが多い。エネルギーの消耗を感じたときには「ノー」と言えばいい、というように。そこでは境界線と何を行い、他人のどんな態度を我慢すべきかといった、外側への制限として捉えている。「イエス」と言って、その一線を踏み越えてしまうと、利用されたような気分になり、エネルギーを消耗してしまうというわけだ。最初はこれでもいい。だが、本当の意味でそのプロセスを理解し、適切な境界線を設定するためには、境界線をシステムとして考えることが役に立つ。

他者との境界線をシステムとして考えよう

3つの層のあるりんごをイメージしてみよう。

一番外側の層(りんごの皮)は、「時間やエネルギーを費やす行動と選択」

一番外側の層(りんごの皮)は最もよく見える部分で、友人やパートナーのために費やす時間や、自分のためにどの程度エネルギーを使うか、という行動と関わっている。創造的なエネルギーを他人のキャリア計画のために注ぎ込み、自分のことはおざなりになっていないだろうか。この次元で境界線を引くと、人をがっかりさせてしまうだろうと大きな罪の意識に苛まれることも多い。だが、その気持ちに負けず、その罪の意識は、自分が確実に正しい道を進んでいるという意味だと考えてみるといい。

中間の層(りんごの果肉)は「対人関係」

中間の層(りんごの果肉)は対人関係の部分だ。他人の気分は自分にどのくらい影響するのだろう。例えば、気分よく帰宅したのに、パートナーの不機嫌さが黒い雲のように残りの1日を覆ってしまったことはないだろうか。他の人の感情を自分のもののように感じるときには、自分がどんな感情的な犠牲を払おうと、その苦しみをすぐにでも解放してあげたいという気持ちでいっぱいになることもあるだろう。ここでカギとなるのは、彼らの苦しみを引き受けることなく、慈しむ気持ちを感じることだ。

境界線の最も内側の層(りんごの芯)は、「自分の内側の部分」

境界線の最も内側の層(りんごの芯)は、自分の内側の部分だ。それは、一番深いところの自己とのつながりに関わっている。瞬間ごとに、自分は体とどう結びついているだろう。友人みんなに好かれている人に会うとき、これは自分にとって安全な人ではないと知らせる腹部のこわばりや喉の緊張といった、体が発するシグナルを無視してはいないだろうか。この次元で境界線を欠く場合は、神経系のバランスが崩れていることが多い(不安や気分の落ち込みを思い出してみよう)。境界線の最も内側の部分を強めるコツは、奥深いところで体を感じる力を培うことだ。それは、ひとつの瞬間から次の瞬間へと変化する感覚を常に感じ続ける能力だ。

明確な境界線を引くと、思いやりに欠ける人だと思われたり、そうなったりするのではと恐れる人も多い。だが実際は逆で、健全に人に共感することができるようになる。境界線について長年研究を続ける社会科学の博士、ブルーネ・ブラウンは、慈しむ気持ちは、境界線を引くことによって減るのではなく、深まることを発見している。ここで紹介するヨガのシークエンスと瞑想を行い、自分の自然な境界線を見つけてみよう。すると、自分にも他人にもポジティブな影響を与えながら、直感を認め、それを信じて真実を表現できるようになるだろう。

完全な境界線をつくろう

心理学者、ヨガ指導者として人々が適切な境界線を定めるのを助けながら、わたしは境界内にとどまる真のパワーを得るためには、境界線は最も内側の層から外側へとつくらなくてはならないと学んだ。これには3つの構成要素がある。

テクニック1:自律神経(ANS)を調節する

自律神経が働きすぎていると、すべてが逃走/闘争反応を引き起こし、誤って「イエス」と言ってしまったときの体の不快感のような、体内の境界線に関係した危険信号と調和しづらくなる。ANSを落ち着かせるのに効果的な方法には、吐く息を長くしながら行う鼻呼吸(心拍が下がる)、リストラティブヨガのポーズ、マインドフルネスなどがある。

テクニック2:体の中で感じる力を培う

ANSが安定したら、体の中で感じるプラクティス、つまり、体内感覚で今の瞬間に気づく練習をするといい。最近の神経科学の研究では、体内感覚を感じるプラクティスはネガティブな声のボリュームを下げ、より確固とした自己の感覚をつくるという結果が出ている。この体をベースにしたマインドフルネスは、経験の中にしっかりととどまり、境界線が侵されたときにすばやく気づき、真実を大切にする強さを感じさせてくれる。体内の感覚を感じるのに最適な方法は、体や意識的な動きにフォーカスする瞑想だ。

テクニック3:腸神経系(ENS)へのエネルギーや気づきを養う

ENSを内側の境界線が生じる中心点だと考えてみよう――文字通り「腸による確認」だ。コアの筋力を高め、固い結合組織を解放し、感覚への気づき(満腹感や体内炎症など)を高めるプラクティスは、腸の持つ知能とつながる手助けとなる。

こういった要素に取り組むと、境界線をより明確に感じ、設定することができる。すると、周りの人々もその内側の強さを読み取り、強い態度に出られることも、その頻度も減っていくだろう。

前ページで紹介した3つの構成要素は、ここで紹介するヨガのプログラムに、すべて取り入れられている。

1.体とマインドのチェックイン

体の感覚と感情に意識を向けてそれに気づき、このヨガのプラクティスや、関わり合う人たちから受ける影響についての理解を深めよう。

HOW TO:
1.呼吸の深さに注意を向けよう。早い呼吸は神経系が働きすぎているというシグナルかもしれない。ゆっくりとした呼吸は、体が休息・消化モードにあることを示し、適切な境界線の設定へと導いてくれる。

2.膝を曲げて仰向けになり、片手を胸、もう一方の手をお腹に置く。目を閉じてゆっくりと鼻から呼吸をしながら、次のように自分に問いかけてみよう。今この瞬間に体に意識が向いているだろうか。呼吸の感覚が感じられるだろうか。筋肉や組織はゆるんでいるか、違和感があるだろうか(できていなくても構わない。問いかけることが第一のステップだ)。

3.マインドの動く速度に注意を向けよう。思考がくるくる変わるだろうか。速い速度で動くマインドは、しばしば不安感が増していることを意味する。

4.ENSが備わる「お腹にある脳」である腹部に緊張がないかを確認しよう。ここが緊張していると、腸のマイクロバイオーム(微生物の集合体)に変化が起き、不安が増し、境界線の設定が困難になる。

5.次に、体内のエネルギーレベルに注意を向けよう。エネルギーが消耗し、もっと深いセルフケアが必要なとき、それに気づくことができるようになる。

6.意識を感情へ持っていこう。悲しみ、怒り、不安の存在を感じるだろうか。もしそうであれば、それは自分のもののように感じられるだろうか、それとも最近関わった誰かからきたものだろうか。

7.終わったらゆっくりと目を開けよう。

 

体とマインドのチェックイン
体とマインドのチェックイン/Photo by Matthew Nager

 

2.膝をまわすテーブルトップのポーズ

これは、境界線の設定に役に立つ、コアへの意識と筋力を高めるポーズだ。

HOW TO:
テーブルトップのポーズに入り、手首は肩の下、膝は骨盤の下に置く。左膝に少し体重をかけ、右膝を床から引き上げる。膝を浮かせたまま、下腹部の筋肉を胸のほうへ引き寄せながら3回呼吸する。次に、骨盤をできるだけまっすぐに保ちながら、コアの筋肉を使って右膝を右へ数回まわし、その後左へもまわす。左右に数回ずつまわしたら、もう一度膝をマットから浮かせて3回呼吸する。息を吐いて解放し、左側でも繰り返す。

膝をまわすテーブル トップのポーズ
膝をまわすテーブルトップのポーズ/Photo by Matthew Nager

 

3.ブロックを使ったプランクポーズ

これは、コアの筋力を高め、限界を感じたり境界線のリセットを始めたりする場所である、自分の中心とつながることのできるポーズだ。

HOW TO:
テーブルトップのポーズから手を前に歩かせ、膝をついたプランクポーズへ入る。息を吐いて、腹部の奥の筋肉を胸のほうへ引き寄せ、ウディヤナ・バンダ(腹部の引き上げ)を働かせる。普段練習しているようなら、ムーラ・バンダ(骨盤底の引き上げ)を一緒に行ってもいい。呼吸とバンダの調和がとれたら、片脚を伸ばす練習をし、次に両脚をまっすぐに伸ばして完全なプランクポーズへと入る。8 ~ 12呼吸を保ち、その後、大腿上部の間にブロックを縦にはさむ。息を吐き、バンダを働かせてブロックを強く押す。もう8 ~ 12回呼吸保つ。

ブロックを使ったプランクポーズ
ブロックを使ったプランクポーズ/Photo by Matthew Nager

4.コアを鍛えるランジのポーズ

これは、コアを鍛え、安定と中心を感じる手助けとなるポーズだ。他人の期待に応えるため、感情を無理にでも変えなくてはいけないと感じるときには、ポーズがもたらす自由と深いところで起こる感覚が付加的な効果をもたらす。

HOW TO:
アドームカシュヴァーナーサナ(下向きの犬のポーズ)から始める。この姿勢を保ち、右膝を胸のほうへ引き寄せる。息を吐き、バンダを働かせて、右膝を右肘の方へ移動しながら、肩を前へ動かして手首の上へ持っていく。すると、ハンギング・プランクのポーズになる(写真)。次の吐く息で、右足を手の中間の位置に下ろす。ここで数回呼吸をする。次に、左手の指の付け根の部分(左手首ではなく)で体重のバランスをとる。右手で右足首をつかみ、息を吸って右足をマットから持ち上げる。このまま数回呼吸を続けてもいい。その後息を吐き、コアをもう一度働かせ、右足を手の間へ。次の吐く息でダウンドッグに戻る。左側でも繰り返す。

コアを鍛える ランジのポーズ
コアを鍛えるランジのポーズ/Photo by Matthew Nager

 

5.頭蓋骨と仙骨を引き合うウッティターパールシュヴァコーナーサナ(体側を伸ばすポーズ)

これは、大地に根付き、安定をもたらすポーズだ。後頭部を引っぱると、脳から腹部へと走り、神経系を落ち着かせる働きを持つ迷走神経が刺激される。

HOW TO:
ランジから後ろの足を回転させ、ヴィーラバッドラーサナⅡ(戦士のポーズⅡ)のスタンスにする。左の前腕は左大腿に置く。右肩を左肩の上に重ねるようにして、視線はまっすぐ前へ。右手を後頭部のつけ根(頭と首の境目)に持っていき、親指と人差し指を後頭部つけ根すぐ下の両側に置く。頭蓋骨と後頭部を腰椎下の仙骨から離すように、筋肉の長さは変えずに引っぱり(等尺性収縮)、後ろ足のかかとを床にしっかりとつける。普段練習しているようならバンダを働かせる。12 ~ 20呼吸を保つ。息を吐いてダウンドッグに戻る。右側でも同様に。

体側を伸ばすポーズ
体側を伸ばすポーズ/Photo by Matthew Nager

 

6.ブロックを使った足をクロスするナーヴァーサナ(舟のポーズ)

これは、体のコアを鍛え、エネルギーを中心へと引き込み、バランスをとる動きが組み合わさったポーズだ。これらはすべてが内側への気づきを培うのに効果的だ。

HOW TO:
膝を曲げてブロックの上に座り、手をすね上部に置く。膝を胸のほうへ引き、足をブロックのほうへ。胴体全体と頭頂部を引き上げる。息を吐くときにバンダを行ってもいい。深い呼吸をしてコアを働かせることができたら、かかとをマットから引き上げる。もっとチャレンジしたければ、手をアンジャリムドラにして胸の前に持っていく。首と顔をリラックスし、下腹部を胸のほうへ引き寄せ続ける。12 ~ 20呼吸保つ。

舟のポーズ
舟のポーズ/Photo by Matthew Nager

 

7.ブロックを使ったバーラーサナ(子供のポーズ、エネルギーの封じ込め)

子供のポーズのこのバリエーションは、コアを働かせた後に体をリラックスさせる。また、迷走神経を刺激し、神経系を落ち着かせ、体にエネルギーをもたらしてくれる。

HOW TO:
子供のポーズに入り、額をブロックにつける。すると、迷走神経が刺激を受け、神経系にリラックスするようシグナルを出す。手のひらを下に向け、親指をブロックの前端に、他の指はブロックの横に置く。肘で膝を固定する。エネルギーが内側へ引き込まれ、滋養となっていくのを感じよう。思考が活発なようなら、呼吸を長くして心拍を下げ、神経系のバランスをとるといい。この姿勢で1 ~ 2分、できればそれ以上保つ。

子供のポーズ
子供のポーズ/Photo by Matthew Nager

 

8.マッサージボールを使った腰方形筋の解放(体側を伸ばすポーズ)

バランスボールを用いたエクササイズ(あるいは、セルフ整体/マッサージ)は、身体感覚を得るまでの橋渡しとなる。このエクササイズにより、筋肉や組織の緊張が解けて神経系が癒され、身体的な境界線をより強く感じられるようになる。

HOW TO:
膝を曲げて仰向けになる。頭の下にブロックを置く。テニスボールかヨガ用のマッサージボールを2つ、右半身の背中側の肋骨下部と骨盤上部に置く。深く呼吸する。呼吸が止まったり、刺激に抵抗してしまうようなら強すぎるかもしれない。ボールをソックスに入れるかタオルにくるんでみよう。適切な強さに制限して刺激することは、マットから離れたときの境界線に直接関係する。ゆっくりと体を右へ傾ける。右膝を胸のほうへと引き寄せ、感覚を強めてみてもいい。体をゆっくりと動かしながら、深いところにあるコアの筋肉、右側の腰方形筋のいろいろな部分を感じ、2~ 3分呼吸をしよう。十分行ったという体の感覚を感じたら、ボールをとって休もう。右側の結合組織がマットのほうへ「膨らむ」のを感じよう。左側でも繰り返す。必要な刺激の強さは左右で違うこともある。

体側を伸ばすポーズ
体側を伸ばすポーズ/Photo by Matthew Nager

 

9.顔を下へ向けるシャヴァーサナ(亡骸のポーズ)

これは、腹部の緊張の解放を助けるポーズだ。

HOW TO:
ブランケットを縦に3回折りたたみ、ある程度厚みのある細長い形にする。マットの上で膝をつく。たたんだほうの端を肋骨のすぐ下、反対側を恥骨のすぐ上にして、ブランケットをカマーバンドのように体に巻き付ける。別のマットや、たたんだり丸めたりしたブランケットを足首の下に置き、マットから足を持ち上げる。顔を下に向けて横になり、ブランケットの端をエックスの形にして背中にかける。目か額の下にアイピローを置くか、腕を枕にして頭を休ませる。腕は体側に沿って伸ばしてもいい。

亡骸のポーズ
亡骸のポーズ/Photo by Matthew Nager

 

10.ボルスター・マウンテン 自己への慈しみを体で感じるプラクティス

自分への慈しみの気持ちは、ストレスホルモン、不安、気分の落ち込みを軽減し、感情の回復力を高めることがわかっている。ボルスターを膝の下に置いて仰向けになる。ボルスターを少なくとも1つ縦にして体の上にのせる。自分の体とボルスターブランケットで覆う。アイピローを目の上にのせる。すると、眼球心臓反射が刺激され、心拍が下がって副交感神経、つまり休息・消化の反応が活発になる。その後、オースティンのテキサス大学教育心理学部教授、クリスティン・ネフ博士の研究から生まれた自己への慈しみを感じるプラクティスを行おう。

 HOW TO:
もし、困難をくぐりぬけている最中ならば、これは苦しみの瞬間だと認めよう……ほんの一瞬だけ。こういった挑戦や困難の瞬間は生きとし生けるものすべてにあることを思い出そう。自分1人ではないのだ。この瞬間、困難は体のどこに存在しているのか、問いかけてみよう。苦しみは今、体のどこの部分に宿っているのだろう。もしできれば、手を体のその部分にあててみよう。手があるところに呼吸を送ろう。

ボルスター・マウンテン
ボルスター・マウンテン/Photo by Matthew Nager

教えてくれたのは...ボー・フォーブス先生(心理学博士)
ヨガ、マインドフルネス、神経科学、心理学を組み合わせて指導を行う。「感覚を通じて健やかになる」ことをミッションとするオンライン上の教育企業、Embodied Awarenessの設立者。『Yoga for EmotionalBalance:Simple PracticestoRelieve Anxiety and Depression』の著者でもある。

※表示価格は記事執筆時点の価格です。現在の価格については各サイトでご確認ください。

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Story and sequence by Bo Forbes, PsyD
Photos by Matthew Nager
Model by Newsha Rostampour
Styling by Emily Choi
Hair&make-up by Shelley Kamstra
Translation by Yuko Altwasser
yoga Journal日本版Vol.49掲載



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