とびひ、あせも、脂漏性皮膚炎…正しいケアで早めに対処!薬剤師が教える、夏の皮膚トラブル解消方法
日差しが強く、高温多湿な夏は、皮膚にとっては過酷な環境です。夏の皮膚トラブルの多くは、紫外線や汗、細菌感染などが原因で起こるもの。とびひ、あせも、脂漏性皮膚炎などに加え、アトピー性皮膚炎やニキビの悪化などが挙げられます。皮膚を清潔に保ってトラブルを予防するとともに、トラブルに応じた薬の正しい使用法を覚え、早めに症状を改善しましょう。この記事では、夏に起こりやすい皮膚の感染症と治療薬の選び方、使い方を解説します。
夏に多い皮膚の感染症とは?
夏場の皮膚は高温多湿の環境によって、細菌やカビが繁殖しやすく、さまざまな皮膚の感染症が起こりやすくなります。また、夏は多量に汗をかくため、皮脂膜が流れ落ちて皮膚のバリア機能が弱まり、細菌の繁殖を招いたり、汗が皮膚を刺激して炎症を起こしやすくなったりします。
夏場に繁殖しやすい細菌や真菌(カビの一種)による感染症にはとびひやおでき、癜風(でんぷう)などが挙げられます。脂漏性皮膚炎は通年で起こる病気ですが、夏場は真菌の増殖が盛んになるため、発症しやすくなります。アトピー性皮膚炎やニキビも夏に症状が悪化しやすいので注意が必要です。夏場に起こりやすい皮膚の感染症には、次のようなものが挙げられます。
とびひ
子どもに多く、皮膚に細菌が感染することで起こる皮膚の病気です。湿疹や虫刺されなどをかき壊した部位に細菌が感染し、そこから“飛び火”するかのように周辺や離れた部位に湿疹や水ぶくれなどの症状が広がります。水ぶくれをかきこわすと、全身に広がります。
おでき
おできは、専門的には「毛のう炎」といい、黄色ブドウ球菌が大人の皮膚に感染すると、とびひではなく、おできになります。痛みを伴い、多量の汗を多くかくとできやすくなります。
あせも
汗をたくさんかいたために汗腺が詰まり、汗が皮膚の中にたまることで起こります。かゆみのある小さな発疹が汗をかいた部分に急速に現われます。黄色ブドウ球菌が汗の出口から侵入し、化膿性の炎症を起こすこともあります。
脂漏性皮膚炎
脂漏性皮膚炎は、細菌感染や皮脂の分泌異常などが原因で起こる湿疹や皮膚炎のことです。皮脂が多く分泌される、頭、顔面、胸などに赤い斑ができ、かゆみを伴います。
癜風(でんぷう)
癜風菌という真菌(カビの一種)による感染症です。白または茶色の斑点が胸や背中など脂の多い部分に出ます。汗により菌が繁殖しやすくなります。
市販の皮膚病薬の選び方
皮膚病の多くは、かゆみや湿疹、皮膚の炎症を伴うことが多いため、これらの症状を抑えるステロイド薬という外用薬(塗り薬)を使用します。ステロイド外用薬は、効果の強弱によって次の5つのランクに分類されています。
- 弱い(weak):プレドニゾロン、ヒドロコルチゾン酢酸エステルなど
- 普通(medium):プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル、トリアムシノロンアセトニドなど
- 強い(strong):ベタメタゾン吉草酸エステルなど
- とても強い(very strong):モメタゾンフランカルボン酸エステルなど
- 最も強い(strongest):クロベタゾールプロピオン酸エステルなど
このうち、「とても強い(very strong)」と「最も強い(strongest)」に分類されるステロイド薬は、医師の処方が必要な医療用医薬品のため、市中では購入できません。一方、ドラッグストアなどで購入できる市販のステロイド薬は、弱いほうから3ランク(「弱い(weak)」「普通(medium)」「強い(strong)」)に属する成分のものに限られています。
この3つのステロイド薬の選び方は、症状の程度にもよりますが、最初に「強い(strong)」ものを使用し、短期間で症状を改善したのち、「普通(medium)」や「弱い(weak)」のものに移行するように使うことが推奨されています。
これは、効果の弱いものから使うと、治療期間がいたずらに長くなったり、効き目が弱いために症状が悪化したりすることがあるからです。こうした強い作用のものから使う方法をステロイド薬の「ステップダウン療法」といいます。
逆に、「強い(strong)」に分類されるステロイドを5~6日使用しても症状が改善しない場合は、市販薬では対処できない状態のため、医師の診察を受け、より強い効き目の医療用医薬品(処方薬)での治療が必要ということになります。
なお、患部がジュクジュクと化膿している場合は、「抗生物質」(フラジオマイシン硫酸塩など)が配合された外用薬、癜風や水虫など真菌が原因で起こる疾患は、「抗真菌薬」(テルビナフィン塩酸塩など)が配合された外用薬を使用します。これらの薬は薬局やドラッグストアでも購入できます。
皮膚病薬の効果的な塗り方
皮膚病薬では、薬の効果をしっかり得るために塗る分量の目安としてFTU(フィンガーチップユニット)と呼ばれる単位が使われています。FTUは大人の人差し指の先から第一関節まで薬を乗せた量で、チューブタイプの軟膏やクリームでは、1FTU=約0.5gに相当します。
1FTU(約0.5g)は、大人の手のひら2枚分の面積に塗るのに適した分量の目安です。塗る量が少し多いと感じるかもしれませんが、十分な量をしっかり塗ることで、期待する効果が得られやすくなります。ローションタイプの場合は1円玉大が1FTUの目安です。
また、皮膚病薬は塗り方が大切です。軟膏は塗布した部分にテカリがあり、触ると多少ベタつく程度、クリームはしっとりする程度、ローションは1滴ずつ垂らして指先でなじませるように塗布します。1日2回、朝と入浴後に塗りましょう。
なお、軟膏、クリーム、ローションの使い分けは、伸びがよくベトつかないクリームタイプを使用するのが一般的です。患部が化膿していたり、かき壊していたりする場合は、患部を保護する軟膏タイプ、患部の範囲が広い場合や足の裏など皮膚が厚い部位には、ローションタイプを使用するとよいでしょう。
汗や菌から皮膚を守るには?
汗や菌による皮膚トラブルの発症や悪化を防ぐために、次のことを心がけましょう。
皮膚を清潔に保つ
汗をかいたら、早めに洗い流すことを心がけましょう。感染症がある場合には、せっけんを使い、やさしく洗います。菌が出す毒素を洗い流すことで、症状の悪化を防ぐことができます。
かかない
かき壊して皮膚を傷つけると、症状を悪化させ、細菌にも感染しやすくなります。また、皮膚も体の一部であるため、食事や生活習慣の乱れ、ストレスの影響を受けます。ストレスを受けると、気を紛らわすために、かく行為が繰り返され、習慣化しやすくなります。
バランスのよい食事
食事が不規則になると、栄養バランスが偏り、症状の悪化を招くことにつながります。皮膚を守る働きがあるビタミンA、ビタミンB群、ビタミンCなどを含む食品を積極的に摂りましょう。サプリメントを利用するのも一案です。
まとめ
夏場は、高温多湿の環境や、多量に汗をかくことで、細菌や真菌(カビの一種)が増殖しやすくなり、さまざまな皮膚トラブルが起こりやすくなります。皮膚病薬を使用する場合は、ステロイド薬、抗生物質、抗真菌薬などを症状や患部の状態に合わせて、適切なものを選んで正しく使用することが大切です。
また、皮膚病は病気を特定し、適切な治療薬を選ぶことが難しい場合も多いため、いつから、どのような症状があるのか、できるだけ詳しく薬剤師などに相談して、最適な薬を選んでもらうとよいでしょう。
AUTHOR
小笠原まさひろ
東京薬科大学大学院 博士課程修了(薬剤師・薬学博士) 理化学研究所、城西大学薬学部、大手製薬会社、朝日カルチャーセンターなどで勤務した後、医療分野専門の「医療ライター」として活動。ライター歴9年。病気や疾患の解説、予防・治療法、健康の維持増進、医薬品(医療用・OTC、栄養、漢方(中医学)、薬機法関連、先端医療など幅広く記事を執筆。専門的な内容でも一般の人に分かりやすく、役に立つ医療情報を生活者目線で提供することをモットーにしており、“いつもあなたの健康のそばにいる” そんな薬剤師でありたいと考えている。
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