更年期の「汗が止まらない」、実はバセドウ病の可能性も?更年期症状との見分け方や違いは|医師が解説
更年期症状のひとつとして広く知られている「汗が止まらない」現象。実はただの更年期症状ではない場合もあります。医師が解説します。
更年期の「汗が止まらない」とは
女性は、14歳前後に初潮を迎え、28歳前後に女性らしさがピークに達し、35歳頃から肌や髪の衰えを感じ始めるでしょう。そして、42歳頃に体力の衰えが気になり始め、49歳前後に閉経が訪れて、閉経が近づいてくると、女性ホルモンのバランスが大きく変動し、子宮そのものが小さくなります。そんな閉経前後の約10年間を「更年期」と呼び、この時期には汗が止まらなくなったり、イライラといった精神状態が現れることが少なからずあり、これらは「更年期」にみられる特徴的な症状と言われます。のぼせたり、ほてったり、カーッと熱くなったり、汗が止まらないという症状は、このような不調に悩まれている方は、更年期に起こりやすい「ホットフラッシュ」が考えられます。ホットフラッシュは、年齢だけでなく、緊張やストレスによる自律神経の乱れが引き起こしている場合もあります。
バセドウ病とは
甲状腺機能亢進症の代表的な病気がバセドウ病であり、女性が男性より5倍罹患率が高いことも特徴的です。バセドウ病を含めて甲状腺機能に異常があると、全身にさまざまな症状が現れ、特にバセドウ病では新陳代謝が活発になります。脈拍が速く、汗が多く、暑がりで疲れやすくなる、あるいは慢性的にいらいら感や不眠に陥る、食欲が増加するも体重が減ってしまう場合もあります。また、顔つきや目つきがきつくなる、眼が出てくるなどのサインはバセドウ病の代表的な症状であり、甲状腺が腫れて大きくなって首が太くなってきて初めて病気に気づくケースもあります。
バセドウ病を患っている人が、高熱症状を認めて意識が悪くなった際には、「甲状腺クリーゼ」という状態を考えねばなりません。甲状腺中毒症で甲状腺ホルモンが高値である際に、その治療が不十分である、あるいは治療をまったく受けていない場合に、感染症や手術など生体に多大なストレスをうけると、甲状腺ホルモンの過剰な状態に耐え切れなくなり、複数の臓器の機能が低下します。甲状腺クリーゼは、死の危険が差し迫った状態になり、高熱をともない、脈が速くなって意識が悪化して、呼吸が止まることも想定されます。心配であれば、甲状腺専門外来や代謝内分泌内科など専門医療機関に相談してください。
更年期の「汗が止まらない」とバセドウ病との見分け方や違いは?
更年期障害の症状のひとつに「何もしていないのに大量に汗をかくようになる」というものがあり、汗が大量に出るのが特徴で、今まで汗かき体質ではなかったのに汗が出て止まらなくなってしまう症状が認められることがあります。特に寝ているときに汗をかく「寝汗」に悩まされている方が多く、女性ホルモンの一種「エストロゲン」の分泌量が低下するために汗だくで目覚めるということもあります。自律神経には汗腺を調節する機能があるため、その汗腺のコントロールが上手くできなくなってしまうことで多汗の症状が現れ、手や足ではなく、顔や頭、胸、背中などの上半身を中心に汗をかいてしまいます。更年期障害の症状では、イライラや不安を感じると交感神経が優位になり、発汗しやすくなるという仕組みになっています。
一方で、バセドウ病は、甲状腺機能亢進症のひとつであり、発症する原因が自己免疫によるものであり、過剰に分泌された甲状腺ホルモンにより代謝が異常に活発になる病気です。代表的な症状としては、喉仏(のどぼとけ)の下にある甲状腺が全体的に腫れる、あるいは動悸が長期的に続き、暑がりで汗をかいて疲れやすく、1~2ヶ月で数kgの体重減少を引き起こすこともあります。バセドウ病の初期に自覚しやすい症状が「甲状腺の腫れ」です。のどぼとけのあたりが腫れている感じがする、首が太くなった感じがする、などがあれば一度医療機関を受診することをおすすめします。またバセドウ病の特徴的な症状として「眼球突出」という眼の症状があり、眼球が正常な位置よりも前に飛び出た状態をさし、バセドウ病患者の約10~30%にみられます。バセドウ病を根本的に治すことは難しいですが、薬物治療、手術、アイソトープなどの治療手段を用いて甲状腺ホルモンの生成を抑えて正常に社会生活が送れるように治療します。心配であれば、甲状腺専門外来や代謝内分泌内科など専門医療機関を受診しましょう。
まとめ
これまで、更年期に「汗が止まらない」際には深刻な病気の可能性もあること、特にバセドウ病との見分け方や違いなどを中心に解説してきました。更年期障害の原因であるエストロゲンの減少にともなって、更年期に汗が止まらなくなることがあります。特に、更年期の時期の大量発汗は、昼間だけではなく夜間にも起こるため、朝目覚めるとパジャマや布団が濡れていることも多く、そもそも寝汗が酷くて就寝中に何度も起きることで睡眠障害になる可能性もありますので注意が必要です。
その一方で、バセドウ病は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、体内のさまざまな機能に影響を与える疾患です。バセドウ病は適切な治療を行うことで、症状をコントロールしながら健康的な生活を送ることができる病気ですが、バセドウ病の治療をせずに放置していると、心不全や臓器不全など、命にかかわる重篤な合併症を引き起こすことがあります。心配であれば、代謝内分泌内科や甲状腺専門外来など医療機関を受診しましょう。今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。
AUTHOR
甲斐沼 孟
大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センターや大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センターなどで消化器外科医・心臓血管外科医として修練を積み、その後国家公務員共済組合連合会大手前病院救急科医長として地域医療に尽力。2023年4月より上場企業 産業医として勤務。これまでに数々の医学論文執筆や医療記事監修など多角的な視点で医療活動を積極的に実践している。
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