更年期の「イライラ」「落ち込み」実は更年期症状ではなく、うつ病かも?見分け方や違いは|医師が解説

 更年期の「イライラ」「落ち込み」実は更年期症状ではなく、うつ病かも?見分け方や違いは|医師が解説
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甲斐沼 孟
甲斐沼 孟
2024-04-11

イライラする、わけもなく落ち込む、何をしても気が晴れない。「でも、きっとこれも更年期だろう」と思っていませんか?

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更年期の「イライラ」「落ち込み」とは

女性は年齢を重ねると生理が来なくなる閉経を迎え、閉経の前5年間、後5年間という10年間が更年期です。

閉経に向けて女性ホルモンの分泌量が大きく変化しながら低下していくため、更年期には心身の不調が現れやすくなっています。

閉経の前5年間・後5年間という10年間の更年期に、女性ホルモン分泌量が大きく揺らぎながら減少することで日常生活に支障が及ぶ心身の症状がある状態を更年期障害と呼んでいます。

更年期障害における代表的な症状にホットフラッシュがあり、突然のほてり、気温が低いのに滝のような汗が出る、のぼせなどを起こします。

これらの症状以外にも、イライラや落ち込み、頭痛・肩こり、睡眠障害など幅広い症状が起こります。

症状の内容や強さには個人差が大きく、環境の変化などに影響を受けて強くなることもあります。

更年期の女性は、社会的にも責任のある立場になることが多く、介護や子どもの自立など家庭でも変化が起こりやすい時期ですから、更年期障害でつらい症状があると心身への負担が大きくなってしまいます。

更年期障害は。健康保険適用の治療で症状を改善・緩和することができて、ホルモン補充、漢方、対症療法、エクエル(エクオール)、サプリメントなど有効的な治療の選択肢も多いため、症状やライフスタイルなどに応じた治療が可能です。

気分が変動するうつ病とは

うつ病とは、一言で言うと日常生活に強い影響が出るレベルで気分の落ち込みが続く、あるいは何事にも意欲や喜びを持つことができなくなる疾患です。

うつ病は遺伝性やストレス、薬の副作用、ホルモン分泌異常症など様々な要因が契機となり発病し、本邦の発症率は100人中およそ5人とされています。

うつ病は目に見える症状が少ないため気づきにくい病気であり、うつ病を患っている本人自身が自覚していないことも多いと認識されています。

うつ病の明確な発症メカニズムは現在でも詳細に解明されていませんが、本疾患は患者自身の性格、普段の生活環境、あるいは日常生活におけるストレスなどが絡み合って引き起こされるといわれています。

うつ病は、罹患した患者本人が悪いわけではなく、誰しもが発症する可能性がある病気のひとつであり、特に真面目な性格の人がなりやすいと言われており、「ある日、突然布団から起き上がれなくなる」など症状が重度になってから周囲の人が気づくケースもあります。

うつ病では遺伝的要因も関与していると考えられていますが、実際にうつ病の罹患するリスクを高める強い効果を示す遺伝子異常タイプは同定されていません。

うつ病患者の中には情動行動を制御する神経伝達に関する物質のなかのセロトニンやドパミンの機能低下が関連している可能性が示唆されており、セロトニンというホルモン物質は心を落ち着かせ、ドパミンは活動性を高めて楽しみを感じさせると言われています。

また、脳の海馬や前頭葉などの領域で学習機能に重要な神経作用を介する栄養関連因子が減少していることも最近になって示唆されています。

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更年期の「イライラ」「落ち込み」とうつ病との見分け方や違いは?

更年期では、怒りを抑えられない易怒性や、怒りの反動で起こる落ち込み、不安、睡眠障害、うつ状態などの症状があります。

感情のコントロールが難しくなって、気分がクルクル変わりやすくなるなどの症状もよくあります。

更年期でも、軽い症状のうちに受診することで、つらい症状を出さずに更年期を過ごすことができます。

更年期はその後の老化をゆるやかにして、快適に過ごすための予防を行う重要な準備期間でもあり、さまざまな疾患リスクも上昇しはじめる時期ですから、症状に重大な病気が隠れていないかを調べることも重要です。

専門医による診察で症状が更年期障害によって起こっていることがわかれば、適切な治療で症状を緩和することができます。

一方で、更年期に伴う「イライラ」「落ち込み」など心身の不調とうつ病とは若干違いがあります。

うつ病は、日常的に過ごす社会生活に想像以上に強い影響が出る程気分の落胆が続いたり、何事に対しても喜びや嬉しさを持ったりすることが困難になる疾患を指しています。

うつ病はストレスを誘因にして発症することが多いために、基本的には過度なストレスがかからない居住環境において心の休養を十分に確保することが重要です。

一般的に、ストレスを受けるとその反応に対処するためにグルココルチコイドと呼ばれるステロイドホルモンが分泌され、このホルモンが長期に過剰放出されると神経細胞が一部傷害されることが知られており、うつ病発症を惹起する一因と考えられています。

うつ病を潜在的に有しており、甲状腺機能低下症や更年期障害など体内のホルモンバランスに乱れを引き起こす病気を併発することが契機となって発症することがある以外にも、ステロイド薬やインターフェロンなどの薬剤の副作用として抑うつ症状が生じます。

うつ病は非常にありふれた精神疾患であると同時に、再発や寛解を繰り返すことが知られており、およそ三人に一人は治療抵抗性で慢性に症状固定されると言われています。

うつ病治療の主体となるのは薬物療法であり、主に頻繁に用いられるのは脳内のセロトニン濃度を高めることができる作用を持つ選択的セロトニン再取り込み阻害薬です。

それ以外にも、セロトニンやノルアドレナリン再取り込み阻害剤や三環系抗うつ薬などが使用されることがあります。

薬剤効果には個人差があり、必ずしも処方された抗うつ薬が有効であるとは限りませんし、抗うつ薬は通常では効果が発現するまでに4~8週間という時間がかかることも認識しておく必要があります。

単純な抗うつ薬に反応しない場合には、より主流的に抗精神病薬が使われることもありますし、うつ病によって引き起こされる周辺症状を軽減させるために同時に睡眠薬や抗不安薬などが処方されることもあります。

うつ病に対する薬物的な治療薬は即効性を有するわけではなく、約2週間~1カ月程度で効果が感じられる傾向があり、急性期の期間では十分な休息と薬物治療などを実践することで、約1~3か月ほどで症状が改善すると言われています。

まとめ

これまで、更年期に「イライラ」、「落ち込み」が起こる可能性もあること、特に気分の変動を引き起こすうつ病との見分け方や違いなどを中心に解説してきました。

40代半ばから55歳くらいまでの時期は、閉経を迎えるにあたって女性ホルモンのエストロゲンの分泌量が減少する結果、更年期には不定愁訴と呼ばれるさまざまな症状が起こりやすく、症状が重い場合は「更年期障害」と診断されることもあります。

この時期に起こりやすい症状のひとつに、気分の落ち込みやイライラなどがあります。

更年期は、心身ともに不安定になりがちであり、気分の変動以外にも頭痛やめまい、動悸、のぼせやほてり、冷え、便秘など何らかの身体的不調を感じやすいものです。

日常的に、気分が落ち込む、イライラする、不安にさいなまれるなどの状態が続いている場合は、更年期によるうつ症状を疑って婦人科などに相談してみましょう。

また、社会生活を送るうえでは、悲しいことや不快な体験を完全に避けて通ることはできません。

そういった時に、人並みに悲しくなって気分が落ち込む、あるいはやる気が起こらなくなる状態になることは誰にでも経験されることですが、その症状の程度が仕事や日常生活に支障をきたすほど強くひどい様式で現れるのが「うつ病」の特徴と言えます。

心配であれば、心療内科など専門医療機関を受診しましょう。

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甲斐沼 孟

甲斐沼 孟

大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センターや大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センターなどで消化器外科医・心臓血管外科医として修練を積み、その後国家公務員共済組合連合会大手前病院救急科医長として地域医療に尽力。2023年4月より上場企業 産業医として勤務。これまでに数々の医学論文執筆や医療記事監修など多角的な視点で医療活動を積極的に実践している。



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