更年期の不正出血を放置してはいけない理由|実は深刻な病気の可能性もある?医師が解説
生理でもないのに出血があった場合、これをただの更年期症状だと決めつけてはいけません。医師が解説します。
更年期の不正出血とは
更年期とは、一般的に閉経前後の5年間ずつの10年間のことを指します。
月経周期の乱れは、更年期に入ったひとつのサインであり、今まで周期的に排卵し、2種の女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)を分泌していた卵巣の機能が衰えてくるために起こる変化です。
更年期前後の時期では、周期が短くなったり、長くあいたり、経血量が少なくなったり。逆にナプキンからもれるほど大量出血する、あるいはだらだらと出血が続くこともあります。
卵巣機能の衰えからホルモン分泌が不安定になり、子宮内膜がうまく剥がれず厚くなりすぎるために大量出血や不正出血が起こるのです。
更年期を迎えて閉経が近づくと、ホルモンの分泌が不安定になって、突然大量の出血が起こる場合があります。
一般的には、閉経後に症状は治まりますが、あまりに出血量が多い、何度も出血したりする場合には深刻な貧血が生じることがありますので、ホルモン補充療法(HRT)などの治療で症状改善をはかります。
子宮体癌とは
子宮体癌とは、子宮内面を覆っている子宮内膜部と呼ばれる組織から発生する悪性腫瘍のことを指しています。
良く勘違いされやすいのですが、子宮体癌は、同じ子宮臓器に生じる子宮頸がんとは腫瘍が発生する場所が異なっており、それらの疾患の原因や治療の方向性などが全く別の病気になります。
2017年の段階で約1万人を超える方が「子宮体癌」と診断されており、患者数そのものでは子宮頸がんを上回ります。
子宮体癌は本邦でも比較的ポピュラーな疾患であり、年間死亡者数も2007年時点では約1600人でしたが、2017年で約2500人とこの10年間で概ね1.5倍に増加しています。
一般的に、子宮は筋肉成分で構成されていて、その内側は受精卵が着床する部位でもある子宮内膜と呼ばれる粘膜で覆われており、この子宮内膜は女性ホルモンの分泌によって増殖、あるいは剥がれ落ちることを繰り返しています。
子宮体癌とは、そんな子宮内膜から発生する悪性腫瘍であり、閉経した50代前後の女性にもっとも多く発症すると言われています。
子宮体癌のおよそ8割以上は子宮内膜の増殖を促す作用を持っている「エストロゲン」と呼ばれる女性ホルモンが過剰に分泌されることが原因と言われています。
また、子宮内膜の増殖を抑制してエストロゲンの作用を調整する役割を担っている「プロゲステロン」という女性ホルモンが不足するがゆえに相対的にエストロゲンが過剰となる状態が続くと子宮内膜が異常に増殖して子宮体癌を発症するとも伝えられています。
したがって、妊娠回数の少ない人などを始めとしてエストロゲンに頻繁にさらされている期間が長ければ長いほど、子宮体癌の発症リスクが上昇すると言われています。
ちなみに、子宮頸がんの原因はヒトパピローマウイルス由来の感染症であり、同じ子宮にできる腫瘍でも子宮頸がんと子宮体癌では実際には原因や背景が全く異なります。
また、子宮体癌は、普段の生活で摂取する栄養状態が関連していると言われており、特にインスタントラーメンを頻繁に食べるなどの近年における食生活の欧米化が我が国で子宮体がんが急増している主因だとも伝えられています。
それ以外にも、肥満の方、あるいは多嚢胞性卵巣症候群や糖尿病、高血圧症を合併している場合には子宮体癌の発症リスクが健常者よりも高くなると考えられています。
更年期の不正出血と子宮体癌との見分け方や違いは?
更年期や閉経が近づくと、月経周期や経血量が変化することがあり、不規則な月経は、生理が終わり閉経する兆候かもしれません。
通常では、40歳を過ぎた頃からホルモンバランスの乱れが起こり始めるため、出血量が多くなる、いつもより生理の量が少ないなど様々な生理トラブルを認めることがあります。
不正出血は、月経期間中以外のときに性器から出血することであり、不正出血では、鮮血や茶褐色の出血が出たり、おりものに血が混じったりする場合があります。
不正出血の原因は、ホルモンバランスの乱れや子宮や卵巣の病気などが考えられます。
子宮頸がんや子宮体癌、卵巣腫瘍といった重大な病気の可能性もあるので、不正出血が長引く場合は、ためらわずにすぐに婦人科を受診するようにしましょう。
不正出血の原因を自分で判断することはできませんので、子宮体癌などの早期発見のためにも、無症状でも年に1回のがん検診を受けることが大切です。
月経の異常は、更年期のホルモンバランスの乱れによるものだけでなく、子宮体癌などの病気が原因となっている可能性も考えられます。
万が一、経血量に関係なく、10日以上出血が続いている、少量の出血を頻繁に繰り返す、大量に出血する、貧血や体調不良などの症状がある、40代前半で生理が3か月以上来ていないなどの症状がある場合は、早めに産婦人科などを受診しましょう。
まとめ
これまで、更年期に不正出血を認める際には深刻な病気の可能性もあること、特に子宮体癌との見分け方や違いなどを中心に解説してきました。
だらだらと出血が長引いて生理が終わらない、レバーのような血塊が出る、大量の鮮血が出るなど、更年期の前後の月経異常は、女性なら誰にでも訪れます。
月経周期が乱れてきたことに動揺せず、「更年期」を乗り越えられればいいですが、不正出血の症状が長引く場合や異常が見られる場合は、子宮体癌などの病気の可能性もあります。
不安がストレスにつながるので、気になる症状がある場合は早めに産婦人科など専門医療機関を受診しましょう。
子宮体癌はおおむね50歳代が好発年齢と言われており、その中でも閉経後に発症するケースが多く認められます。
子宮体癌では、初期の段階から不正性器出血を自覚するために比較的早期に発見できる腫瘍ですが、進行して病状が悪化すると癌細胞が腹腔内など様々な部位に転移することもありますので十分に注意が必要です。
子宮体癌という病気は日々の生活習慣のスタイルが発症リスクに関連することが判明しているため、本疾患にならないためには普段の食生活や運動習慣を中心に整えていくことが重要な観点となります。
特に、エストロゲンという女性ホルモンは脂肪細胞からも合成されるために肥満傾向であれば、その分エストロゲンの分泌量が増えて子宮体癌のリスク因子に繋がりますので、出来る限り肥満体形にならないように継続的に運動するように認識しましょう。
さらに、生理不順のある人も子宮体癌にかかりやすい、あるいは家系内や親族間に大腸癌や乳がんなどを患った経験がある女性は遺伝的に子宮体癌の発症リスクが高いことが知られていますので、心配であれば気兼ねなく産婦人科を受診するように心がけましょう。
今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。
AUTHOR
甲斐沼 孟
大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センターや大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センターなどで消化器外科医・心臓血管外科医として修練を積み、その後国家公務員共済組合連合会大手前病院救急科医長として地域医療に尽力。2023年4月より上場企業 産業医として勤務。これまでに数々の医学論文執筆や医療記事監修など多角的な視点で医療活動を積極的に実践している。
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