あなたの汗は、よい汗?悪い汗?薬剤師が教える〈体臭の原因と汗のにおい対策〉

 あなたの汗は、よい汗?悪い汗?薬剤師が教える〈体臭の原因と汗のにおい対策〉
Adobe Stock

ムシムシ、ジメジメとするこれからの季節は、汗をかきやすくなり、においも気になり始めます。実は、汗には、においのない「よい汗」とにおいのする「悪い汗」があり、悪い汗が体臭の原因となります。体臭を防ぐには、汗をきちんと処理して「よい汗」をかくことが大切。この記事では、よい汗、悪い汗による体臭の違いとデオドラント対策について解説します。

広告

汗をかくとなぜにおうのか?

汗の成分の99%は水分で、もともとにおいはありません。においを生み出すのは汗そのものではなく、皮膚にすみついている雑菌(皮膚常在菌)です。皮膚には、表面1平方センチメートルあたりに20~30種類、数十万個の細菌が存在するといわれ、肌を乾燥や病気などから守っています。

これらの皮膚常在菌は、皮脂や角質に汗が混ざった物を栄養源として増殖します。その際に発生する、脂肪酸などのにおい物質が「汗のにおい」の正体です。つまり、皮膚に存在する雑菌がにおいをつくるのです。

「よい汗」と「悪い汗」の違いとは?

汗には、においのない「よい汗」と、においのある「悪い汗」の2つがあります。汗を出す汗腺は、血液中の血漿(けっしょう/赤血球や白血球以外の液体成分)から汗をつくり、発汗します。その際、血漿に含まれるナトリウムやマグネシウムなど体に必要なミネラルをエクリン汗腺という器官で濾過(ろか)して血管に戻しています。この濾過機能がきちんと働いているのが「よい汗」で99%は水分です。

しかし、汗腺の濾過機能が鈍ると、ミネラルを血管に戻すこと(再吸収)ができず、汗と共に多量に排出してしまいます。これが「悪い汗」です。「悪い汗」には雑菌が繁殖しやすくなるため、においが生じるのです。なお、それぞれの汗の特徴は次の通りです。

「よい汗」

さらさらしていて蒸発しやすいため、少ない汗で効率よく体温調節ができる。少量の塩分を含み、皮膚を酸性に保つ。雑菌の繁殖が抑えられ、においは発生しにくい。

【よい汗の特徴】

  • 汗の粒が小さい
  • さらさらしている
  • 蒸発しやすい
  • じんわり出る
  • 必要に応じてかく

「悪い汗」

べたべたしていて蒸発しにくいため、体温調整がうまく行われず、だらだらと汗をかく。ミネラルを多く含み、皮膚をアルカリ性にする。雑菌が繁殖しやすいため、においを発生しやすい。

【悪い汗の特徴】

  • 汗の粒が大きい
  • べたべたしている
  • 蒸発しにくい
  • 一気にどっと出る
  • だらだらかく

現代人は、「悪い汗」をかきやすくなっているといえます。その原因は、汗をかくことが減り汗腺が衰えたことです。汗腺は、人間の進化の過程で最後につくられた未完成の器官といわれ、全体の約半分は、「休眠汗腺」といって通常は働いていません。汗をかかない生活を続けているとさらに汗腺が退化し、「休眠汗腺」を増やしてしまうため、よい汗をしっかりとかけなくなるのです。

良い汗 悪い汗
photo by Adobe Stock

悪い汗は夏バテの原因になる?

悪い汗をかくと水分とともに、体に必要なミネラルが多量に失われます。すると疲れやすくなるほか、夏バテや熱中症を招く原因になります。また、悪い汗で失われるミネラルは、代謝に不可欠な成分なので、悪い汗をかくことで代謝機能が低下し、夏でも冷える体になるだけでなく、太りやすい体質をつくってしまいます。

さらに、悪い汗をかき続けると、汗に含まれる免疫グロブリンという抗体の量が低下し、さまざまなウイルスや細菌などへの抵抗力が弱まってしまいます。

汗は、においやべたつきの原因として嫌われがちですが、実はそれは「悪い汗」だからで「よい汗」は、体温調整機能を高めて熱中症や夏バテを防ぐだけでなく、免疫力や代謝を高めるなど、健康な体づくりに欠かせないものなのです。

【悪い汗が招く悪影響】

  • 免疫力が低下する
  • 夏バテ、熱中症になりやすくなる
  • 太りやすくなる
  • 冷えやすくなる

簡単にできる汗のにおい対策

汗のにおいを予防するには、まずにおいの原因を断つことが大事です。ポイントは次の3つです。

①「汗を抑える」
外出前には、制汗剤を使用する。汗を拭き、しっかり乾かしてから使用するとより効果的。においが特に気になる場合は、抗菌作用が強いタイプを使用するとよい。制汗剤は汗腺をふさぐことで汗の量を減らすため、広い範囲の汗腺をふさがないよう「部分的」に「短時間」使用するのがベター。

② 「濡れタオルでこまめに拭く」
汗がにおいを発生するまでは約1時間。それまでに濡れタオルなどで、汗の成分や雑菌、皮脂汚れを取り除く。

③ 「衣類に汗を染み込ませない」
衣類に汗が染みると雑菌が繁殖しやすくなる。わき汗パッドや、消臭作用のある衣類などを上手に活用する。

また、においを抑えるには、汗腺の機能を高めて、においを発生しない「よい汗」をかく体づくりをすることも大切です。汗腺は、使わなければ退化しやすい反面、よい汗をかくほど機能は高まり、短期間で眠っていた「休眠汗腺」が目覚めるという特徴があります。汗腺の機能を高めるために、次のような生活習慣を心がけましょう。

よい汗をかくための生活習慣

□ エアコンに頼り過ぎない
エアコンが利いた環境ばかりにいると汗をかかなくなり、汗腺の機能が低下する。エアコンの温度設定は外気温-5℃以内に。

□ 運動で汗をかく
適度な運動を習慣にすることで汗をかき、汗腺の機能を高める。20分程度のウォーキングや大量に汗をかくホットヨガやサウナもよいでしょう。

□ 夏でも湯船に浸かり汗を流す
血行がよくなり発汗が促され、汗腺の機能が高まる。同時に、においのもととなる体内の乳酸が減り、においが軽減される。また、毎日の入浴を3週間続けると休眠汗腺の30%が目覚めるといわれています。

まとめ

「汗をかいてにおう」というのは実は大きな誤解です。本来、汗は99%が水分のため、それ自体がにおいを発生するものではありません。汗をかく汗腺の機能が低下し、汗の中にミネラルが多く残ったまま排出され、それが皮膚の常在菌のエサとなって菌が増殖することでにおいのもととなるのです。

エアコンの効いた部屋にいることが多い、運動習慣がなく普段汗をかかない、入浴はシャワーが多く湯船に浸からない、などの生活習慣がある人は汗腺の機能が低下し、「悪い汗」をかきやすくなっている可能性があります。手軽なデオドラント対策だけでなく、「よい汗」かける体をつくることが、根本的な汗のにおい対策といえるでしょう。

広告

AUTHOR

小笠原まさひろ 薬剤師

小笠原まさひろ

東京薬科大学大学院 博士課程修了(薬剤師・薬学博士) 理化学研究所、城西大学薬学部、大手製薬会社、朝日カルチャーセンターなどで勤務した後、医療分野専門の「医療ライター」として活動。ライター歴9年。病気や疾患の解説、予防・治療法、健康の維持増進、医薬品(医療用・OTC、栄養、漢方(中医学)、薬機法関連、先端医療など幅広く記事を執筆。専門的な内容でも一般の人に分かりやすく、役に立つ医療情報を生活者目線で提供することをモットーにしており、“いつもあなたの健康のそばにいる” そんな薬剤師でありたいと考えている。



RELATED関連記事

Galleryこの記事の画像/動画一覧

良い汗 悪い汗