「世はまさに大キャッシュレス時代!」…なのに、ちっとも馴染めないワケ【連載 #発酵適齢期】


第16回目の『発酵適齢期』、今回のテーマは「キャッシュレス決済」です。みなさんは買い物をするとき、現金派? それともクレジットカード派?
こんにちは。ライターの高木沙織です。
とある金曜日――。スーパーの食品売り場で買い物をして、有人レジに並んだときのこと。次は自分の番だというタイミングで、カバンから財布とポイントカードを取り出していると、あることに気づきます。ほかのレジから聞こえてくる店員さんの、「お支払い方法は?」の問い。それに対して、「カードで」と答える人がものすごく増えたなって。
誤解のないように言わせてもらうと、決して聞き耳を立てたり、ジロジロ見たりしたわけでは…ありません! それにしてもあのとき、通路を挟んで左右に2台ずつある有人レジで現金払いを選択したのは、私だけだったんじゃないかな。スーパーだけではありません。コンビニエンスストアやデパート、美容院、飲食店、書店、自動販売機…。現金が手元になくても、チャリーンと支払いが済んでしまう「世はまさに大海賊時代!(ワンピースOPより)」ならぬ、大キャッシュレス時代。それなのにちっとも馴染めない私は、ちょっとした孤立無援状態です。紙幣を片手に、1人でカタカタと震えるのでした。

第16回目の『発酵適齢期』、今回のテーマは「キャッシュレス決済」です。
20代で経験したクレジットカードでの失敗がトラウマに
クレジットカードで支払いをすることに抵抗感がある――。これは、私が20代前半のころにしでかしたある失敗が、今でも尾を引いているからだと思います。
場所はニューヨーク。メンタルは大失恋後、なかばやけ気味。1人旅の航空券代や食費、5泊分のホテル料金、観光、ショッピング、さらには急きょ購入したボストンまでの国内線の往復チケットなど、すべての支払いをクレジットカードで済ませました。現金を使わなくなったきっかけは、ほんの些細なことです。現地到着後、コインの種類に不慣れで紙幣ばかり使っていたら、お財布がパンパンになってしまったから。(お会計も楽だし、身軽でいいわ!)なんて思っていたら、悲劇は帰国後に…。
当時は今ほど円安ではなかったにしろ、レート計算をざっくりとしすぎていたこと。それと、よくありがちなお金を使っても財布の中の現金が減らない錯覚に陥り、金銭感覚がいとも簡単に狂ってしまったこと。若き日の私が、財布からクレジットカードを出す手を押さえつけてあげたいっ。のちに送られてきたのは、50万円超えの請求書…。さらにはそれをリボ払いに変えたため、支払いを終えるまでに数ヶ月かかってしまい、(私がクレジットカードを使うと、大変なことになる!)と刷り込まれたのでした。
それから10数年。今もなお、クレジットカードは私に際限なくお金を使わせる悪魔の切り札のように目に映っているのです。あの失敗から、クレジットカードは極力使わずに、それでいて請求金額の確認だけは神経質なくらいにしてきました。だけど、今度はカードにまつわる別の問題が発生します。
連日送られてくる、カード会社を装った詐欺メールに戦々恐々
ここ数年で守っているクレジットカードに関するマイルールがあります。それは、生命保険やペット保険の支払いと、2万円以上の買い物をしたとき、クレジットカード決済しかできないネットショップで買い物をしたとき以外は使わないということ。
2万円と聞くとハードルが低く感じるかもしれませんが、意外と使う機会ってないものです。なので、毎月の請求金額は保険料の1万円そこそこ。それがある日、10万円近くの請求がきたからビックリ。まさかの不正利用です。誰が使ったのかもわからないうえに、商品が手元に届くわけでもない、ましてや自分が欲しくもないものの買い物の代金を支払うだなんて、まっぴらごめん。すぐにカード会社に問い合わせをします。そこから数週間かけての調査ののち、不正利用であることが確実になり、何とか事なきを得たのだけど、(やっぱりカードって怖い)という新たな恐怖心を植え付けられる出来事となったのでした。これを機に、しばらく使っていなかったクレジットカードを2枚解約しています。
最近では連日のように送られてくるカード会社を装った詐欺メールも、(これって本物?)と区別がつかないことがある。時代の流れに逆らうかのように、クレジットカード離れはますます加速する一方です。
もとより、仕事柄お給料日が月に4回以上あること(出版社・ヨガスタジオごとに原稿料やフィーが振り込まれる日が異なるため)で収入と支出の管理が複雑。そのうえ、目に見えないお金を使うことに向いていない私が、クレジットカードで支払いを繰り返すようになった日には…ダメダメダメ! 煩雑すぎて、対応できる気がしません。
友人:「カードで払えばポイントが貯まるし、それをマイルに変えれば旅行にも行けるよ。私、国内なら2往復分くらい貯まってるかも」
私:「カードは怖いから、できるだけ封印しておくの」
これには、友人もあきれ顔。クレジットカードで支払いを済ますことで、さまざまなメリットがあるのはわかります。だけど、私にとっては、気持ちの面でのデメリットがあまりにも大きすぎる。それに、何人かで食事をしたときに、現金でキリのいい金額を払える人がいるって、カードでまとめて払いたい人にとっては悪くないのでは? 私が持ち歩いている紙幣や小銭、役に立ってるじゃん!と自分を正当化しはじめます。
そうこうしている間にも、まわりの人たちはキャッシュレス決済にうまく順応していっているのでしょう。私より長いこと現金生活をしてきたであろう諸先輩方も、何食わぬ顔でカードをスッと機械に通している。(いつ、どうやって切り替えたんだろう?)と、現金派なのにミニ財布を使っている私は、重くなったパンパンの財布をギュッと握りしめながら、小声で「げ、現金で…」と口にします。
初めてクレジットカードを持った日から、早20年。今40歳の私は、人生のちょうど半分をクレジットカードとともに生きているというのに、これっぽっちも親しみを感じることができずにいます。唯一、心を許しているのは交通系電子マネー。先にチャージを済ませているから、形を変えた現金としてときどきお世話になっています。使った分が、その場で銀行口座から引き落とされるデビットカードから慣れていくのもアリ?かもしれない。かたや、スマホ決済なんてものもあったりして、カバンから財布を出す~そこからクレジットカードを出すこともそのうちなくなりそう…。はぁ~~怖い~! こんなことを考えていると、もう物々交換で良くない?なんていう令和の時代からはかけ離れたところに思考が飛んでいくのを感じます。
当たり前にしてきた支払い方法を変えるのが、これほどまでに思い切りのいることだとは…。どうかしばらくのあいだ、この世界がキャッシュレス決済一辺倒になりませんように――。「私って、目に見えるものや直接触れられるものしか信じないの」なんて、何かの小説にありそうなセリフを添えて(※ 注:お金に関しては)。
それではまた、第17回目で。
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