Hygge（ヒュッゲ）は冬だけのもの？これもヒュッゲ、あれもヒュッゲ 【私のウェルビーイング】

デンマーク語の「Hygge（ヒュッゲ）」とは？

デンマーク語で「Hygge（ヒュッゲ）」とは、「居心地の良い空間」や「楽しい時間」のことを指すようです。それをあるデンマークの友人は、「寒い冬にキャンドルを灯し、大切な人や家族、友人と温かいココアを飲みながら、映画を観ること」だと教えてくれました。

以前の記事でもご紹介した通り、デンマークの冬は日照時間が短く、ほぼ毎日が曇天です。16時にはすっかり真っ暗なので、とにかく家の中で過ごす時間も長いのです。私のいたフォルケホイスコーレでは毎晩、夕食後に大人たちがこぞってボードゲームやトランプに勤しんでいました。

そして週末の映画会には、ポップコーンと合わせて各々ドリンクを持って集まります。ホットココアを飲む時には、小鍋でミルクを温め、ココアパウダーとお砂糖でお好みの甘さに仕上げます。日本にいるときにはやろうとも思わなかったそのひと手間さえも、私にとっては心地よい時間でした。

そんな夜長な時期にデンマークにやってきたことから、「Hygge（ヒュッゲ）」とは、冬のほっこりしたひと時を表す言葉なのだと思っていました。

「Hygge(ヒュッゲ)」は冬だけのものじゃない？！

季節はめぐり初夏の頃、私は友人とハイキングに出かけました。海沿いの崖をつたう遊歩道は、新緑が生い茂り木漏れ日も鮮やかです。1時間半ほどの道中には、なかなかの勾配もあり、おしゃべりも交えつつ黙々と歩いていました。すると、おもむろに友人が『チアキ、「Hygge(ヒュッゲ)」って知ってる？』と尋ねてきました。

私は「あの冬にココアを飲むやつでしょ？」と言うと、「それもそうだけど、Hygge（ヒュッゲ）に季節は関係ないよ」とのこと。その時ちょうど通りがかった、見晴らしの良い小さなカフェにいる老夫婦を指し、『あれも「Hygge（ヒュッゲ）」だよ』と言うのです。初夏にテラスでコーヒーを飲む、どうやらそれも「Hygge（ヒュッゲ）」だそうです。

目的地に着くと、私たちはアイスクリームを食べに行くことにしました。日差しが降り注ぐ中、外で食べるアイスは格別です。私は『これも「Hygge（ヒュッゲ）」？』と聞くと、『そう、これも「Hygge（ヒュッゲ）」』と教えてくれました。

おまじないのような言葉「Hygge（ヒュッゲ）」

たしかに思い起こしてみれば、学校の中でもみんな「Hygge（ヒュッゲ）だねぇ」とか、「この部屋をHygge（ヒュッゲ）に飾りつけよう！」とか、ことあるごとに「Hygge（ヒュッゲ）」と言っていたのを思い出しました（デンマーク語の文中では形容詞形になるのですが、ここでは詳細を割愛します）。

また一人で過ごす時間であっても、それを「Hygge（ヒュッゲ）」と呼べるそうです。たとえば、お気に入りのマグカップでコーヒーを飲みながら読書をすることや、お散歩など。

心地よいと感じる瞬間は人それぞれ違うのだから、さまざまな「Hygge（ヒュッゲ）」のかたちがある。これも私が好きなポイントです。とにかく自分たち、あるいは自分にとって心地よいと感じる小さなひと時を、日常の中にたくさん見つけることができること。そしてそれを、素直に声に出して伝え合うこと。そんな習慣が私はとても素敵だと感じました。

「Hygge（ヒュッゲ）」を声に出してみる

それからというもの、私は「Hygge（ヒュッゲ）」をここぞとばかりに使うようになりました(笑)。私の数少ないデンマーク語の中でも、おそらくベスト5には入る言葉です。そして、実際に声に出すことで、なんでもない日々の出来事が、とたんに噛み締めたくなる瞬間になるような感じさえもしました。それはまるで合言葉のようであり、おまじないのようでもありました。

日本語では、誰かと一緒の時に「楽しいねぇ」と言うことはあっても、「心地いいねぇ」とはなかなか言わないものですよね。それに代わる言葉を見つけようとしても、「気持ちいい」とも少し違う気がするのです。それから、「いい時間」と言うとなんだか有意義でないといけないような気がするし、「いい雰囲気」はオシャレなイメージです。

でも、「Hygge（ヒュッゲ）」はもっと素朴で、もっと個人の小さな気持ちに寄り添った感じがするのです。日本にいる時にも、そんな「Hygge(ヒュッゲ)」な瞬間をつかまえては、今の私はどのような気持ちかを声に出していきたいと思うのでした。