人間も地球も、美しさは自然の中に|ヘレナ・クリステンセンの見つめる先
90年代のファッションシーンに彗星の如く現れたミューズ、ヘレナ・クリステンセン。南米と北欧の血が織りなす独特の美しさと、健康的なイメージで世界中を虜にした彼女は、現在一児の母として、気候変動啓発のフォト・ジャーナリズムに力を注いでいる。
「女性が話すことと言えば、ルックスやキャリア上の業績など、見てわかりやすい物質面が主なことだけれど、男性はキャリアでどのくらい達成したか、といった部分がほとんどだと思います。この点だけでも、ジェンダーの不平等がいかに蔓延しているかが分かります。ずっと以前から叫ばれていることなのに、真のジェンダー平等の実現まで本当に先は長い。じゃあ、私に解決策はあるのか?と問われれば、正直なところ分かりません。ですが、私たちは今、正しい道を歩んでいるということだけは感じています」。
女性を取り巻く昨今の世界的な状況について、豪メディアにこう語ったスーパーモデルのヘレナ・クリステンセン。1968年、クリスマスの日にデンマーク人の父・フレミングとペルー人の母・エルサとの間にコペンハーゲンで生まれ育った彼女は、17歳の時に「ミス・ユニバース 1986」デンマーク代表の座を勝ち取ったことをきっかけに、モデルとしてのキャリアをスタートした。
ヘルシーでグラマラスなイメージに、ダークブラウンの髪とグリーンアイズのコントラストがエキゾチックなベイビーフェイスで、ナオミ、リンダ、シンディ、クラウディアらとともに90年代スーパーモデル“マグニフィセント・セブン”の一画をなし、世界を魅了した。その一方で、女優業に進出したり、雑誌「NYLON」を創刊と同時に自らフォトグラファーを務める傍ら、ブランド「Christensen & Sigerson」を立ち上げるなど、ビジネスパーソンとしても頭角を現した。
ヘレナ流美の哲学
「誰かのために美しく見せる、という思考ではなく、常に自分が気持ちよくなるために美しくありたい。それが本当に美しくなるということだと思っています。だから、私は誰かに美しく見えるかどうかなんて気にしないですし、見せようと思ったこともありません。ただ常に気分良くいることと、健康であることこそが私にとって大切であり、それが私の内なる充実感と自信に繋がっているのです」。
と、美に関して独自の見解をこう語ったヘレナ。一方で、デビュー当時からリーズナブルなコスメを好み、マッサージなどのオリジナルの美容法を確立し、ナチュラルなケアを大切にしてきた彼女は、現在もクリーンなコスメやNYのフェイシャリストのサロンに定期的に通い、美しく年を重ねる努力をしているという。
「顔には大量の筋肉があります。ですから、表情筋を活性化させ、身体と同じようにメンテナンスする必要があります。そのため、コラーゲンと皮膚や顔の筋肉を同時に活性化させるマッサージなどの外的トリートメントはとても効果的だと思っています。それから、マイクロダーマブレージョンで定期的に肌表面のケアをしたり、年1回は日焼けで出来てしまったシミ除去のためのレーザートリートメントを受けることも欠かせません」と、以前と変わらず、あるがままの美しさをできるだけ保つことを心がけているという。
フォトジャーナリストとして気候変動啓発活動に奔走
デンマークの大自然の中で育ったヘレナは、幼い頃から一貫して自然を愛し、自然の中にいることを好んだ。そしてその姿勢は、モデルとして頂点を極めた時も決して揺らぐことはなかった。
「私にとって、自然界はセラピストのようなもの。私に必要なものすべてがつまっています。モデル業で多忙を極めていた時も、私は世界中のどこにいても、小さな公園や緑のスポットを見つけて安らいでいました。いつでも鳥の声を聞きたいし、緑を見ていたいから。自然はあらゆる面で活力を与えてくれます。私は水際も好きなので、できることならずっと水の中で泳いでいたい。池でも川でも海でも、常に水場に呼ばれている気がしますし、飛び込みたい衝動にかられます。私は、自然無くしては生きていけないのです」。
現在は、モデル業とファッションブランド「Staerk & Christensen」のCEO業を続ける一方、モデル時代から趣味として続けてきた写真の腕を生かし、フォト・ジャーナリストとしても活躍。昨今の劇的な気候変動によって自然がこわれゆく姿をカメラに収め、世界に発表する活動に注力している。
そんな彼女がこの啓発活動に目覚めたきっかけは、2009年に母親の母国・ペルーでクスコ近郊のアウサンガテ氷河の消失の様子を目撃した時だった。
「ペルーでは、すでに気候変動による大きな被害が出ていました。実際に会って話を聞いた農家の人たちの生活は非常に厳しい状況に置かれ、今では急速に変化する気候の影響に適応することを余儀なくされています。雨の降る回数が減り、これまでのように予測ができなくなったため、作物の生産に大きな影響が出ているからです」。
このペルーでの撮影を皮切りに、世界中の気候変動の影響をカメラに収め、貧困と不正を根絶するための持続的な支援・活動を展開する国際団体・OXFAM等と連携して各国政府に圧力をかけるべく尽力するヘレナ。そんな彼女は、世界に向けて最後にこうメッセージを送った。
「私たちは今、重大な転換点に立っています。だからこそ、政府が必要な対策を講じるために、政府に圧力をかけなければなりません。私は100歳を超えても、孫たちに囲まれながら一緒に楽しく話がしたい。そんな未来がくることを、切に願っています」。
AUTHOR
横山正美
ビューティエディター/ライター/翻訳。「流行通信」の美容編集を経てフリーに。外資系化粧品会社の翻訳を手がける傍ら、「VOGUE JAPAN」等でビューティー記事や海外セレブリティの社会問題への取り組みに関するインタビュー記事等を執筆中。
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