パン教室、幼児教室、勉強会…「これが正解かも」と走り続けて気づいたこと|『自分軸手帳』代表・一番ヶ瀬瑶子さんに聞く
「もっとちゃんとしなきゃ」「みんながやっていることをやったほうがいい」。そんなふうに、自分では気づかないうちに“他人軸”で選択していることはないだろうか。「自分軸手帳」開発者の一番ケ瀬瑶子さんが、今回は手帳ではなく、自分自身と向き合うための本『「やるべきこと」に追われない 自分軸習慣』を執筆した。その背景には、実は瑶子さん自身の実体験に基づいたトライ&エラーの日々があった。
揺れるアイデンティティ
会社員時代は、人から期待される役割を果たすことで褒められ、自分のアイデンティティを得ていたという瑶子さん。ところが、出産して産休・育休に入り、育児があるとはいえ、自由な時間ができた途端、「私は何をしたいのか」が、よくわからなくなった。
「人からの期待がなくなったから、さあどうしましょうって。よくあるいいお母さんのイメージで、『ママだったらパンとか焼いちゃうものなのかな?』って、パン教室の500円キャンペーンに飛びついて、そのまま入会して(笑)。でも途中でハタと、私何やってんだ、みたいになって」
パン、幼児教室、MBA……
パンの次には、幼児教室。キャリアアップの勉強会にも、子どもをおんぶして通った。
「右にパン教室があるといえば走り、左に幼児教室があるって聞けば走り、なんかあったら飛びついて、これが正解かもしれないって。体力だけはあったので(笑)つい、ダッシュしちゃうんですよね」
振り返れば、そんな「失敗」は数多くあったという。
何か新しいことを始めている、学んでいる、子どものためにも動いている。傍から見れば、ずいぶんアクティブ。でも実は、その行動力と選択の根っこにあったのは「自分は何がしたいのか」ではなく、「これを身につければ安心できるかもしれない」という思いだった。
「正解を当てる」ことには、慣れているけれど
では、なぜ私たちは「私は何がしたい?」より先に、「何が正解?」「今、どうするべき?」と考えてしまうのだろう。
瑶子さんは、その背景のひとつに自分の受けてきた学校教育があるのではないかと話す。
「算数でも国語でも答えがあって、それを当てるっていう訓練を毎日毎日やる。答えがあって、それを当てたら褒められる、というのを子どもの頃からずっと反復してきたので。『これが好き』『自分の意見はこれです』みたいなことを話す機会はあまりない。だから『こうしたい』気持ちが育ちにくいんだと思うんです」
「正解を探す」。その癖は、想像以上に私たちの心に深く根を張ってしまっているようだ。
苦手なことは見つかるのに…

瑶子さんが本の中で丁寧に向き合っているのは、そんな「自分がわからない」という感覚だ。
「楽しいことは楽しいで終わって、それ以上深掘りできなかったんです。苦手をつぶすとか、弱みを克服することには意識が向くけど、得意なことや強みは、わからない。いわば私は『欠点を埋める主義』だったんです」
学校でも会社でも、「苦手を克服しよう」と言われる。そうやって欠けたところばかりを見ていると、すでに持っている「好き」や「得意」は、そのまま置き去りになってしまう。
「せっかくだから」が、自分の意思を遠ざけていた
その「自分がわからない」という感覚は、子育てをする中でも顔を出した。
水族館に行けば、せっかくだからイルカショーも見せてあげたい。旅行に行けば、予定を詰めて人気スポットを目指す。
けれど、子どもはあまり楽しそうではなかった。
そこで初めて、「せっかくだから」「みんながやっているから」という思いが先行してしまい、子どもの気持ちや様子を見ていなかったことに気づいた。
つい情報に振り回され、世間の正解を当てにいってしまっていた、というわけだ。
「自分がやりたいことより、これをしたらお得だよとか、みんながこれをしているよ、というものに、すごく自分が毒され、支配されてるなって気づいたんです」
「せっかく」という、よかれと思って使う言葉。その中にも、「こうしたほうがいい」が潜んでいる。そして、自分の中にある本当の「こうしたい」がどんどん遠ざかっていく……。
SNSを開けば、「このお店が人気」「今年買ってよかったもの」と、正解のような情報がいくらでも流れてくる。
失敗したくない。回り道をしたくない。できるだけ早く正解にたどり着きたい。
そんな環境にいると、自分が何を好きなのかを感じるセンサーが、少しずつ鈍ってしまう。
だからこそ、もっと小さなところから自分の物差しを持てばいい。
世間の正解じゃなくて
「自分の『好き!』とか『面白そう!』という判断軸があれば、役に立つかどうかとか、たくさん『いいね』がもらえるかじゃなくて、『私はこっちがいい』って言えますよね」
社会の中で生きている以上、人の期待に応えることも必要。しかし、生身の人間として心の動きはキャッチしておきたい。
自分の好きなものがわからない。自分で選ぶのが苦手。もしかしたら、それは「自分がない」からではなく、まだ練習の回数が少ないだけなのかもしれない。
自分軸で生きることは、ヨガと似ている
今日、なぜ楽しかったのか。なぜ、こっちを選びたいと思ったのか。
そんなふうに自分に問いかけることは、少しヨガに似ている。
ヨガは、ポーズの美しさや完成度を競うものではない。ポーズをとりながら、「今日の自分の身体はどう感じている?」「今、無理をしていない?」「どこまでなら心地よく動ける?」と、自分の身体や心の状態に気づいていく。
周りの人ができているから自分も同じところまでやるのではなく、今の自分を観察し、その感覚をもとに自分で選ぶ。ヨガは、そんな「自分を知り、気づき、自分で選択する」ための練習でもある。
だから、「今日、なぜ楽しかったんだろう」「なぜ私はこっちを選びたいんだろう」と、自分の心に問いかけてみることも、ヨガとよく似ている。
ポーズの完成よりも「今の自分」と向き合う。誰かの正解ではなく、自分の心地よさを知る。
ヨガも生き方も決して「競技」ではない。
今日の自分は、何が心地よかった?
「私は、こっち」と選べる小さな感覚を、少しずつ育てていく。
そんな小さなレッスンを、今日から始めてみるのもいいかもしれない。
プロフィール:一番ケ瀬瑶子(いちばがせ・ようこ)さん
自分軸手帳合同会社代表。外資系IT企業で働きながら二度の産休・育休と時短復職を経験し、「やるべきこと」に追われる日々をきっかけに『自分軸手帳』を開発。2021年に法人設立、2023年に独立。『自分軸手帳』は累計4万部、オンラインコミュニティ「自分軸手帳部」には延べ5,000人以上が参加。著書に『「やるべきこと」に追われない 自分軸習慣』。

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