政治家を推すのはアリ?忙しくて情報を追えない。セイジドウラクの2人に訊く政治に触れ続けるコツ
「政治の話」と聞いて、「難しそう」「簡単に語っちゃダメな気がする」といったイメージを持っている人は少なくないかもしれません。TBSラジオのポッドキャスト番組『セイジドウラク』は「趣味のように政治を楽しむ」をコンセプトに配信が行われています。本ポッドキャストがベースとなって誕生した本が『選挙・政治のふしぎ しくみがわかればガチでおもしろい!』(小学館)。著者の澤田大樹さん・宮原ジェフリーさんに、後編では、「選挙に行かないこと」の考え方、政治家を「推し」と見ることって?、忙しい日々の中で政治について知る方法などをお伺いしました。
選挙に行かないなら文句を言ってはいけない?
——最近はSNSを中心に「選挙に行こう」という呼びかけがよく見られるようになりました。一方で、「選挙に行かないなら文句を言うな」「○○に投票するなんてわかっていない」といった言葉も飛び交っています。この状況をどう見ていますか。
宮原ジェフリーさん(以下、宮原):選挙に行かない人にもその人の考え方があるので、尊重しなければいけないと思っています。みんなが政治のことを考えて、それぞれの意思を持って一票を入れて、投票率が上がっていくのは理想だとは思います。でも、選挙に行かない人を無理やり連れて行ったり、叱りつけたりするアプローチは、あまり健全ではないなって。怒られることを理由に選挙に行く人が増えたところで、それは健全な民主主義と言えるのでしょうか。
澤田大樹さん(以下、澤田):「○○に投票するなんてわかっていない」というのは、結局フィルターバブル(アルゴリズムによって自分と異なる意見や考え方に触れにくくなる現象)だと思うんですよ。自分のタイムラインに見えている世界だけで語っているということです。
選挙の後、色々な人から「なんであの候補者が落ちたんですか、あんなに話題になっていたのに」と聞かれることがよくあります。特定の候補者を応援する人ばかりが見えていたのだとしたら、自分の住んでいる空間がそうであっただけで、そうではない空間もあるということ。SNSはとても便利ですが、良くも悪くも自分の主義主張や思考に合った人たちのコメントばかりが流れてきます。そうすると気づかないうちに、「見えている景色=世界」だと思い込んでしまいます。応援している候補者が落選したということは、その人を支持する人は少数派ということ。それと同時に、少数派だからといってあなたの存在が否定されるという話でもないんですよね。
宮原:選挙結果という数字から見ると、自分が他者に対して「○○に投票するなんてわかっていない」と思っているのと同じように、自分も誰かから「わかっていない」と思われている可能性があるということ。選挙という機会を通じて、自分や自分が属しているコミュニティが、自分たち以外からどう見えているかを考えることが大事なんじゃないかと思います。選挙は自分から見えている世界を客観視するタイミングとして使えるのかもしれないですね。
澤田:人それぞれ大切にしたいテーマは異なりますよね。自分にとって一番大切にしているテーマを最優先にして選ぶ方法もありますし、他のテーマを含め総合的に判断して別の選択をする方法もあります。自分にとっての投票基準と、俯瞰したときの見え方と、両方の視点を持っていることが大事なんじゃないかと思います。
政治家のことを「推して」もいい?
——「政治に関心を持つ人を増やしたい」という思いから、政治家を「推し」と捉えるような見方を推奨する声もありました。この距離感について、お二人はどうお考えですか。
澤田:僕は以前「推し」の概念に肯定的でした。ただ最近は考えが変わってきていて。というのも、「推し」という関わり方には、ある種の盲信がつきものだとわかって、違和感を持つようになったからです。
宮原:応援すること自体はいいと思うのですが、全肯定はよくないと思います。SNS言論でよくあることですが、なんでもかんでも「全肯定か全否定か」の二択に引っ張られてしまうところがあるんです。自分が応援している人でも「ここはちょっと違うな」と思うところがあれば、それは指摘できるような関係性であるべきだと思うんですよね。
澤田:100点の政治家はいないので、「自分にとっては70点だけれど支持する」ことはあっていいと思うんです。ただ、残りの30点に目を瞑るのではなく、「ここは直してほしい」と言える関係性であってほしい。
僕は大隈重信の「相撲や芝居を見るように政治を見よ(※)」という話に影響を受けています。それは推し活的な熱量のある応援ではなくて、一歩引いて全体を見る温度感だと思うんです。僕自身、政党を問わず「この人頑張ってほしいな」と思う政治家はいるのですが、その人たちが何か変なことを言えば指摘します。
論評・批評ができるくらいの距離感が大事なのかなと思っています。でも論評・批評はその事柄についてある程度詳しくないとできないので、その過程として「推し」のフェーズはあってもいいんじゃないかって。それでも推しているうちに「あれ?」って思うことがあれば、少し距離をとってみるといいのではないでしょうか。もちろんそのコミュニティで意見を言えたら理想ですが、雰囲気的に言いづらいこともありますよね。それならそのコミュニティから距離を置くだけでも十分だと思います。
宮原:スポーツの世界大会について、日本に住んでいる人は「日本を応援します」と答えることが多い。でも「どこが優勝すると思いますか」と聞かれて、現状強くないのであれば、「日本」と答える人は「ちょっとわかってないぞ」となりますよね。応援するかと「今回の大会ではこういう組み合わせだから、このくらいの結果になりそう」と分析するかは別です。どちらの視点も持てるようになると、これから勝っていくにはどうしたらいいかという話もできるようになる。政治との関わり方も同じじゃないかと思います。
日常で政治に触れ続ける習慣
——選挙が終わったあとの日常で、政治に関心を持ち続けるにはどうしたらよいでしょうか。「忙しくて情報に追いつけない」という声も多いです。
澤田:僕の持論の一つですが、政治は筋トレなんです。いきなり筋肉がつかないのと同じで、選挙のときだけきちんと判断しようと思っても難しい。1日5分でいいので、ニュースに触れ続けることで変わってくると思います。NHKのニュースを見てもいいですし、新聞のウェブ版で国内欄のトップを朝と晩に見るとか。「この法案のとき、この政党はこう判断した」「この政治家はこんな発言をした」など、選挙のときに判断するための情報を普段から積み重ねていくことが大切です。
最近はいわゆるオールドメディアに否定的な声も大きいですが、事実についてはしっかり取材しています。論評についてはオールドメディアを批判するのもいいと思いますが、少なくとも事実部分については、SNSで適当なことを言っている人よりは信頼性の高いものを提供しています。
宮原:ずっと報道してきている人たちが「今はこれが大切」と判断している並びとして、新聞の一面や報道番組で取り上げられるニュースを知っておくことは大事だと思います。僕はできれば新聞を一紙とることを勧めたいです。「ニュースにお金を払う」という感覚も本当は持っておいた方がいいと思うんですよね。無料のニュースには広告が入りますが、それは見ている私たち自身が商品になっているということですから。
——「中立でいたい」と思っている人も多いと思いますが、そもそも偏らずにいることは可能なのでしょうか。
宮原:たとえば日本人であって、日本語が話せて、この年収で、この立場で……というそれぞれの環境の中でしか、基本的にはものを考えられない。誰もが今の自分が持っている属性から逃れることはできないんです。まっさらな原点からものを考えることはできないからこそ、自分がどういう立場であるかを意識して、かつ自分と違う立場の人はどういう視点を持っているんだろうと想像していく姿勢が大事であって、それこそが、中立的な視点なのかなと思います。
——政治の話はタブーとされがちですが、身近な人と政治の話をするコツがあれば教えてください。
澤田:大前提として、無理にする必要はないと思うんです。ただ、話したいなら引かれない話し方が必要ですし、罵倒するような態度だと当然嫌がられますよね。趣味の話であっても「お前が好きな○○はクソだ」みたいなことを言ったらケンカになりますし。SNSでは政治に関してそういったコミュニケーションをとる人もいますが、それは政治だからというより、コミュニケーションや相手へのリスペクトの問題ですよね。
宮原:「政治は誰もが関わるものだから」というのはその通りなんですけど、だからといって誰とでも話さなきゃいけないわけじゃなくて、僕は「話せる人がいるなら大切にしよう」くらいのトーンでいます。僕たちは政治の話をする家で育ったので普通に話しますけど、それでもTPOは選びます。たとえば居酒屋で隣になった人にいきなり政治の話はしないです。
澤田:普段の会話の中で、景気の話をしているうちに結果的に政治の話をしていた、ということはありますが、いきなり政治の話から始めることはないですね。政治の話をしたいなら、「政治の話をする」と掲げている場に参加するとか、タブーではない空間はあります。あるアイドルのファンが集まる場で、そのアイドルのことを語っても責められないように、場を選ぶことは必要ですよね。
宮原:政治だからと特別に構えなくてよくて、アイドルやスポーツ、プロレスなど、いろいろな話題のうちの一つとして話せればいいんじゃないかと思います。
——お話を伺って、お二人が政治を好きなことが伝わってくる一方で、熱狂的に政治を語るトーンとは違って落ち着いている印象を受けました。
澤田:僕たちは「誰かを当選させたい」といった目的はないですからね。ただ「社会が良くなってほしい」とは思っています。みんなが政治に無関心だと、権力者はやりたい放題できてしまうので、ある程度はみんなが関心を持っていた方がいいと思っています。
それに熱量が高すぎると受け手が引いてしまうと思うんです。熱量によって人が動かされることもありますが、一過性で終わってしまうことも多いと思っていて。一方で、自発的に興味を持つと、どんどん自分で調べるようになる。セイジドウラクが政治に関心を持つ入り口になれば、という思いでいます。
宮原:生きるのがつらいと感じるとき、その原因を自分に向ける人もいれば、環境や社会のせいだと考える人もいると思います。ただ色々な要素のうち、どれか一つだけを責めてしまう状況はあまりよくないと思うんです。自分について顧みるのと同じように、置かれている環境や、社会がどう回っているかも、分析的に見てみる。自分の苦しさの原因を探る一つのツールとして、政治のことを知っておくといいので、そのきっかけとしてセイジドウラクを聞いていただけたらと思います。
【プロフィール】
澤田大樹(さわだ・だいき)
TBSラジオ国会担当記者。「荻上チキ・Session」「武田砂鉄のプレ金ナイト」などに出演。取材範囲は政府、国会、省庁のほか、新型コロナ、東日本大震災、高校演劇など。著書に『ラジオ報道の現場から 声を上げる、声を届ける』(亜紀書房)、『永田町の人をウォッチしてみた』(カンゼン)。
X:@nankuru_akabeko
宮原ジェフリー(みやはら・じぇふりー)
選挙ライター、キュレーター。大学職員、美術館学芸員、専門学校講師などを経て現在フリーランスで選挙と現代美術を中心にライター、コメンテーターとして活動。著書に『沖縄〈泡沫候補〉バトルロイヤル』(ボーダーインク)。
X:@ichiro_jeffrey
※謡を謡うとか、角力を見るとか、芝居を見に行くというくらいに、政治の趣味がないといかぬ。今度の内閣はうまいことをやるとかなんとか始終批評をする。正直に批評をする。かくして始終批評をしていると、政治もそれに連れて段々善くなって来るのである。それでなければ善い政治は望めない。どうしても好い批評というものが必要だ(青空文庫『政治趣味の涵養』より:https://www.aozora.gr.jp/cards/001879/files/58120_64633.html)
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