秋の風物詩は山形だけじゃない。福島で出会った“つながる芋煮会”|管理栄養士 石松佑梨の二拠点暮らし

秋の風物詩は山形だけじゃない。福島で出会った“つながる芋煮会”|管理栄養士 石松佑梨の二拠点暮らし
石松佑梨
石松佑梨
2025-11-22

「芋煮って、山形の名物でしょ?」——そう思っていた私が、福島で初めて体験した芋煮会に心を動かされた。木々が紅く染まり、澄んだ空気の中に湯気が立ちのぼる。野菜の旨みが溶け込んだあたたかい汁をすすると、冷えた体の芯までじんわり温まっていく。東北の秋は、想像よりもずっと寒くて、そして美しい。外で食べるおいしさ、みんなで囲む安心感——福島の芋煮は、心までほどけるようなぬくもりをくれた。郷土料理に宿るウェルビーイングの形が、ここにある。

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福島にもあった“暮らしの中の芋煮会”

芋煮

芋煮の起源は江戸時代。山形を中心に、秋の収穫を祝って川原で鍋を囲む「なべっこ会」にあるといわれます。明治以降は牛肉しょうゆ味豚肉みそ味に分かれ、地域ごとの味として定着。昭和になると会社の親睦行事や学校行事としても広がり、「みんなで鍋を囲む=地域の絆を温める」象徴的なイベントへと成長しました。

芋煮文化そのものは山形発祥とされていますが、福島にも古くから“芋煮に近い煮物文化”がありました。特に会津地方や中通りでは、収穫した里芋や根菜、きのこを大鍋で煮て分かち合う風習があり、「芋煮会」という呼び方が広まったのは昭和以降でも、“里芋の収穫を祝って皆で食べる”文化自体はずっと根づいています。

山形のように川原ではなく、公園や畑のそば、地域施設などで行われるのが福島流。味はみそ味が多く、具材は里芋、豚肉、こんにゃく、にんじん、ごぼう、きのこなど。

「生活の延長線上の芋煮」=“暮らしに根づいた文化”——それが、福島の芋煮の魅力です。

山形「牛肉しょうゆ味」芋煮

芋煮

——江戸の“ごちそう文化”を受け継ぐ川原の鍋

芋煮の元祖といわれる山形では、江戸時代中期、最上川の川原で里芋を煮て食べる風習があったとされています。しょうゆ味に牛肉を合わせた甘辛い味わいが特徴。

背景には、米どころならではの農耕文化と、しょうゆ造りが盛んだった藩政時代の食文化があります。牛はもともと農作業の労働力として飼われており、その副産物として牛肉を料理に使う習慣が生まれました。さらに、山形のしょうゆは旨みが強く、寒冷な気候で熟成が進むため、芋煮のコクを深めます。

秋が深まり、紅葉が川面に映る頃、人々は薪をくべ、大鍋でぐつぐつと牛肉しょうゆの芋煮を炊く——。この「川原で食べる」という非日常の体験が、今も山形の秋の風物詩として受け継がれています。

福島「豚肉みそ味」芋煮

芋煮

——日常に溶け込む、福島のみそ仕立て芋煮

一方、福島の芋煮はみそベース。ここにしょうゆも少し加わるのが特徴です。具材は里芋、豚肉、こんにゃく、根菜、きのこ。実はこの組み合わせ、地域ごとに味がまったく違うのです。

福島は東西に広く、気候風土も三つに分かれます。

まず、西の会津。雪深く、冬の寒さが厳しいため、保存のきくみそが家庭の味の中心。牛よりも飼いやすい豚が身近だったことから、みそ×豚肉の濃厚な芋煮が定番です。

中央の中通り(郡山など)は、風が強く冷たい地域。体を温める根菜やきのこをたっぷり入れるのが特徴で、各家庭で微妙に味が違います。

そして海沿いの浜通りでは、温暖な気候に加え、海の幸も豊富。魚介を加えた“海の芋煮”を作る家庭もあるそうです。まさに「海の幸と山の幸の融合」。これは、他県にはあまり見られない珍しい文化です。

山形が“イベントとしての芋煮”なら、福島は“暮らしの延長線上にある芋煮”。公園や畑のそば、地域施設の庭先など、日常の風景の中で鍋を囲むのが福島らしさです。“特別じゃないのに、特別に温かい”—— それが、福島の芋煮の魅力。

【レシピ】福島の味!次田さんに教わる“みそ仕立て芋煮”

芋煮

今回、福島の味「芋煮」を教えてくれたのは、まざっせプラザの次田 美菜子さん。

「まざっせ」とは福島の方言で、「一緒に混ざって」「加わって」という意味。郡山駅前にあるまざっせプラザは、郡山で唯一のレンタサイクルを備え、飲食店や観光スポット、温泉、桜の名所まで── 街の“楽しい”が集まる拠点です。美味しい情報も満載で、観光客だけでなく地元の人にとっても頼れる存在。

実は筆者自身も、郡山に住まいを探していた頃、最初に足を運んだのがここでした。情報を手にして街を歩けば、郡山の魅力がいっそう広がって見えてくる。まざっせプラザは、そんなきっかけを与えてくれる場所です。

生まれも育ちも郡山という次田さんは、郷土の“おいしい話”の達人。今回は、そんな次田さんに福島流・みそ仕立ての芋煮を教えていただきました。

材料(4人分)

  • 里芋 …… 6〜8個(皮をむいて大きめの一口大に切る)
  • 豚こま肉 …… 200g
  • ごぼう …… 1/2本(斜め薄切り)
  • にんじん …… 1/2本(いちょう切り)
  • こんにゃく …… 1枚(手でちぎる)
  • しめじ …… 1袋(石づきを落として小房に分ける)
  • 白菜 …… 1/4玉(ざく切り)
  • 油 …… 適量
  • 長ねぎ …… 1本(斜め切り)
  • みそ …… 大さじ3(お好みで)
  • しょうゆ …… 大さじ1
  • だし汁 …… 800ml(昆布とかつおの合わせだしがおすすめ)

作り方

  1. 鍋に油を熱し、豚肉を炒める。色が変わったら、里芋・ごぼう・にんじん・こんにゃく・しめじ・白菜を順に加えて全体に油がまわるまで炒める。

  2. だし汁を加えて煮立て、アクを取り除く。里芋がやわらかくなるまで中火で煮る。

  3. みその半量を溶き入れ、しょうゆを加えてさらに10分ほど煮込む。

  4. 仕上げに残りのみそを溶かし入れ、長ねぎを加えてひと煮立ちさせる。

  5. 味をみて、足りなければみそかしょうゆで調える。

次田さんのひとこと

山形のしょうゆ味と違い、みそにしょうゆを少し加えるのが“福島流”。芋煮はね、“きっちり作る料理”じゃなくて“みんなで味をつくる鍋”なんですよ。里芋の煮え具合を見ながらみそを足したり、おしゃべりしながら火を見たり。すいとんを加えると一品でボリューム満点になりますよ。

【体験メモ】福島に息づく“暮らしの中の芋煮”|管理栄養士 石松 佑梨

里芋収穫

芋煮は、里芋を中心にさまざまな食材が組み合わさった、冬にぴったりの一皿です。

里芋には、食べたものを効率よくエネルギーに変えるビタミンB1・B2、寒さやストレスに立ち向かうビタミンC・E、塩分バランスを整えるカリウム、血流をサポートする、骨の健康維持に欠かせないカルシウム、筋肉や神経をほぐすマグネシウムなど、冬の体にうれしい栄養が豊富に含まれています。

さらに、里芋のぬめり成分であるガラクタンは水溶性食物繊維として腸内環境を整え、胃粘膜を保護。寒くて動きにくい冬の“便秘対策”にもぴったりです。

地域ごとの味の違いも楽しみのひとつ。山形では牛肉しょうゆ味、福島では豚肉みそ味が定番で、体調や目的に合わせて選ぶことができます。貧血気味なら牛肉疲労感を和らげたいなら豚肉と、栄養面でも楽しみながら選べるのが魅力です。

福島では、川原ではなく公園や畑のそば、地域施設など、暮らしの延長線上で鍋を囲むのが定番。日常の中で特別な体験が生まれるこの時間は、体を芯から温めるだけでなく、自然と会話が弾み、心まで満たしてくれます。栄養と人とのつながりを同時に楽しめる、福島ならではの秋の味覚です。

取材協力 :まざっせプラザ 

福島の方言で「仲間に入りなよ」「一緒に楽しもう」の意味を持つ“まざっせ”。県中地域の観光情報や郡山まちなかの今を“混ざれる形”で届けるローカル拠点。まち巡りにちょうどいいレンタサイクルも用意されている。

写真右が次田さん、左が戸田さん。その言葉のとおり、ここに来れば、いつもあたたかく迎えてくれる。

まざっせプラザ
  • 住所:福島県郡山市大町一丁目2番23号 KIK'B W13
  • 営業時間:10:00~18:30 
  • 定休日:月・火
  • HP:https://mazasse.com
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