沈黙より価値があるかもしれない、小さな挑戦【パリで見つけた生きやすさのヒント】

沈黙より価値があるかもしれない、小さな挑戦【パリで見つけた生きやすさのヒント】
MIKI
MIKI
2025-08-24

極度の人見知りだった私の人生を180度ひっくり返してくれたのが、20代後半からのパリ暮らしでした。東京でPR会社を起業して全国で仕事をする「今」につながる出会いの数々。本連載「パリで見つけた生きやすさのヒント」では、パリでたくさんの人や出来事から教わった、気持ちが少し楽になる生きやすさのヒントをご紹介します。

広告

「フランス語のナレーションやってみる?」。思わず目がまんまるになるオファーをくれたのは、フランスのテレビ業界で働くブランさんでした。驚いて「え! カタコトの私にどうして?」とたずねると「一生懸命に話そうとする姿がいいなって思ったんだ」という答えが。

ブランさんとの出会いは、テレビ局の企画でした。私の実家を、日本文化を取材する番組で取材してくれたのです。何気ない日常のひとこまを撮りたいと言われて、一緒にお茶を飲む体験をした記憶があります。パリに来ることがあったらぜひ遊びにおいでよと言われて、ある日、お言葉に甘えることに。

カメラマン
AdobeStock

老舗パティスリーのケーキを手土産に訪ねたご自宅は、日本とフランスの家具が調和したなんとも素敵な空間。ラベンダーカラーのアペリティフに始まり、次々と出てくる料理はどれも美味しくて、ご夫妻と息子さんとの会話も楽しく、その日、私は自分でも信じられないくらいおしゃべりになっていました。

ふと我に返り「あ、ごめんなさい。私、下手なフランス語でしゃべりすぎましたね。動詞の活用もちゃんと出てこないのに恥ずかしい。話したいことがたくさんありすぎて、考えるスピードに口が追い付かないんです」と言い訳をすると、ブランさんは大きな笑顔でこう返してくれました。「口が追い付かないって表現、最高だね。それだけ僕たちとおしゃべりしたいと思ってくれて嬉しいよ。Silence(シランス / 沈黙)は何も考えていないのと一緒。たくさん話してくれてありがとう」。

カメラマン
AdobeStock

沈黙は「無」と同じ。語学学校でもフランス人の先生に同じことを言われたなぁ…と思いながら、あらためて、考えを口に出すことの大切さを学んだ気がしました。「で、ナレーション、やってくれる? とても短い文章でいいんだ。日本語なまりがある方が、雰囲気があっていいんだよ」と畳みかけられて、思わず「Oui(ウィ / はい)」と答えた私。最終的には編集と滞在スケジュールが合わず実現しませんでしたが、予想外の提案のおかげでしばらく心躍る時間を過ごすことができました。思いがあるなら、怖がりすぎずに言葉にしてみる。そうすることで、扉の先にある新しい景色に出合えるかもしれない。これもまた、パリで見つけたヒントのひとつです。

広告

RELATED関連記事

Galleryこの記事の画像/動画一覧

カメラマン
カメラマン