「子どもに説明できない」親たちの本音…『性教育格差』が招く意外な問題とは【経験談】
性教育の重要性は社会で共有されつつありますが、家庭や学校で内容に差があるのが現状です。子どもと関わる大人向けに描いたコミックエッセイ「おうち性教育はじめます」シリーズの作者であるフクチマミさん。今回、子ども自身も読むことのできる『こどもせいきょういくはじめます』(KADOKAWA)を上梓しました。フクチさんに最近の性教育の課題と感じることや、本作のモデルとなった小学校を取材する中での気づきをお話しいただきました。
子ども同士でも、大人同士での性教育の知識のギャップが
——今まで大人向けの性教育の本を描かれてきて、今回は子ども(小学生)向けということで、背景の課題意識などをお伺いできたらと思います。
2020年に発売した第1弾では3~10歳の幼児期から学童期のお子さんを持つ親向け、2022年発売の第2弾では10~18歳の思春期の子を持つ親向けとして、子どもと関わる大人の方向けに描き、大きな反響をいただきました。ただ、「いざ子どもに説明しようとなると、言葉が出ない」「抵抗感に邪魔されてうまく説明できず戸惑いがある」という意見が出てきたんです。
自分が十分に学ぶ性教育を機会がなかった大人の方が、生活の中で子どもにふときかれた時、自然と言葉が出てくるようになるには、何度も練習したり、大人側のインプットも必要です。
そのため、大人から子へ伝えるためのこれまでの本のほか、子どもが自分で読める本の必要性を感じて制作しました。
——序盤でお母さんが自分の子どもたちにスキンシップとしておしりにタッチをし、子どもたちが同じことを同級生にして、「プライベートパーツだから」と注意される場面がありました。現状の性教育は、学校や家庭の差が大きいと思うのですが、ギャップを感じた経験などはありますか?
性教育の本を作っていると、周囲に性教育に興味がある保護者が集まってきて、そこで話をしていると「日本の性教育レベルも上がってきた」という気持ちになるんです。
でも、その輪から外れて別の保護者と話したときに「男の子なのに泣くのよ」みたいな話をしてたり、スキンシップとしておしりを触っていたり。「性教育って話題になってるけど、セックスの話をするのはね……」という声を聞くこともありますし、まだまだ届いていない層があるなと感じます。
——大人の間でも性教育に関する知識や意識に差が出始めているのですね。
そうですね。そうなると、家庭での性教育にも差が生まれ、子どもの知識にも差が出てきて、それゆえのトラブルも増えてくるんじゃないかという不安があります。
性教育は交通ルールと同じで、自分の子どもだけがわかっていてもトラブルを回避できるものではなく、みんなが同じ認識を持つ必要があると思うんです。そのでこぼこをできるだけならしていきたいですね。理想としては学校教育でできたら……と思うのですが、まだ実現は難しいので、せめて本で広く伝えられればと思っています。
今の親世代は家庭内のバウンダリー(境界)があいまいな環境で育って、自分のバウンダリーも適切に築けないまま大人になり、人間関係で苦しむ経験談を聞くことも少なくないです。小さい頃に自他の境界線をはっきり持てるようになると、その後生きやすくなるだろうと思います。
螺旋のように繰り返し伝えていくことが大切
——作品に登場する小学校にはモデルの学校があるのですよね。取材する中で初めて知ったことや印象に残ったことはありますか?
モデルとなった私立和光鶴川小学校では、1年生から6年生まで、それぞれに性教育の時間を取っているんです。日本では思春期から性教育を始めるイメージだと思うのですが、「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では、5歳から年齢に合わせて目標となる学びの内容があって、小1のタイミングでも十分伝えることがあるんです。それが6年生まで続いていきます。
子どもたちは1回聞いただけでは身につかないですし、習ったことも忘れてしまう。授業を見学していると「なんだっけ」みたいな瞬間があるんですけど、次の学年でも同じことを合わせて伝えていくんです。和光鶴川小で性教育の授業を考えた北山ひと美先生は「スパイラル」とおっしゃってましたが、年齢が上がっていくにつれて、ぐるぐる回るように同じメッセージを伝えることで定着していくという考え方を実践されていました。
家庭でのプライベートパーツについての話も、1回では子どもは理解しません。10回、100回と繰り返し伝えて子どもに染み込んでいくものなので、基本1回で終わると思わず、繰り返すものだと認識することが大切だと思います。
——日常で続けていくものだと思うことが大切なのですね。ほかに印象的だったことはありますか?
それだけしっかり性教育をやっている学校でも、5年生で「下ネタ」に関するトラブルが起きたことです。「聞きたくない」という子たちと「面白いからみんな喜ぶだろう」と思っている子がいて、学級で話し合いになったんですね。でも性教育をやっているからこそ違うと感じたのは、先生も子どもも、トラブルや問題にちゃんと向き合えていたことなんです。
下ネタ問題でも「あなたたちが言った言葉は実際どういう意味だと思ってる?」と、照れたりごまかさずに話ができる環境がある。ただ表面的に「謝りなさい。はい、握手して仲直りして終わり」とフタをするのではなく、性教育を積み重ねてきたからこそ、何が問題なのかまで掘り起こして話ができるのだと思いました。
——先生がそこまで説明したり話を聞いたりできるようになるにも、先生の学びも必要になりそうですね。
そうですね。先生の多くは性教育を学んでこなかった世代の人たちで、性教育は先生自身の価値観や生き方も問われるという厳しい側面もあるのですが、先生たちが真剣に向き合う授業を見て感動しました。
和光鶴川小では、性教育も担任の先生が教えるスタイルを大事にしているそうです。担任の先生ですと、一人ひとりの家庭環境や特性を理解した上で話ができるからです。家庭と学校の先生が両輪で性教育をやっていくことで、子どもは自分を見てくれる大人との関係性を築いていけるのだと思います。
とはいえ、私立だから実現できる面もあると思います。公立の学校で同じことをするのは今はまだ難しいので、外部講師を呼ぶのは第一歩として良いことだと思います。
——本作で登場するユニークな授業も印象的です。ふとんカバーや長ハラマキ、クッションで、子宮、腟、胎盤とへその緒を作って、自分が赤ちゃん側になって「生まれる」体験をする授業は初めて知りました。
思春期前の子どもたちは「生まれてくる側」「赤ちゃん側」の気持ちで性の話を捉えるんだと先生たちがおっしゃっていました。出産の体験も「あなたたちが生まれた時の話」として、自分事として語られるんです。子ども自身と赤ちゃんが別物ではなく「あなたたちがどう生まれてきたかの話」になっているところが奥深いと感じました。
大人からしたら「子どもにはまだ理解できないのでは」と思うような出産に関する話でも、子どもたちは「生まれる側」から自分ごととして受け止められるんです。
校外学習で動物園に行き、「赤ちゃんがどう生まれるか」を学ぶ様子も描いていますが、子どもにとっては、動物が交尾している姿も、生物の授業を見ているように、自然に受け止めていることが多いと感じました。
※後編に続きます。
【プロフィール】
フクチ マミ
マンガイラストレーター。日常生活で感じる難しいことをわかりやすく伝えるコミックエッセイを多数刊行している。著書に高橋基治氏と共著の『マンガでおさらい中学英語』(KADOKAWA)ほか、『マンガで読む 育児のお悩み解決BOOK』(主婦の友社)、『マンガで読む 子育てのお金まるっとBOOK』(新潮社)などがある。
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