糖尿病とお金「糖尿病になったら治療などにどのぐらいかかるの?」〈医師監修〉


糖尿病は一度かかると長く付き合う必要がある慢性疾患であり、日常的な治療と管理が必要です。それに伴い、通院費や薬代、検査費用など、さまざまな医療費が継続的に発生します。しかし、日本には手厚い公的医療保険制度があり、自己負担を大きく軽減する支援策も用意されています。この記事では、糖尿病の治療費の実情と活用できる公的支援制度について解説し、家計への影響とその軽減策について考えていきます。
糖尿病治療にかかる費用の実際
糖尿病の治療費は、患者の病状や治療方法によって異なります。初期の段階では食事療法と運動療法が中心となり、比較的費用は抑えられます。しかし、経口血糖降下薬やインスリン注射の導入、さらには合併症の発生によって費用は徐々に増えていきます。
例えば、経口薬のみを使用している場合の月額自己負担は、保険適用で約3,000~5,000円程度といわれています。インスリンを併用するようになると、注射器や自己血糖測定器具、検査代などが加わり、月1万円前後まで上がるケースもあります。
合併症による治療費の増加はさらに深刻です。糖尿病性腎症が進行し人工透析が必要になった場合、年間医療費は400~600万円にも上るとされており、自己負担割合によっては月に1万~2万円が限度額としてかかる場合があります(高額療養費制度適用後)。
出典:日本糖尿病学会『糖尿病の療養にかかる医療費』

公的支援制度の活用と注意点
日本の公的医療制度は非常に充実しており、糖尿病患者にとって大きな支えとなっています。まず注目すべきは「高額療養費制度」。1カ月の医療費が一定額を超えた場合、その超過分が払い戻されます。例えば、年収370〜770万円程度の人であれば、月の自己負担は87,430円が上限です。
また、合併症によって身体に障害が残った場合には、身体障害者手帳が交付されることもあり、医療費のさらなる軽減や福祉サービスの利用が可能になります。人工透析を受けている人は原則1級と認定され、医療費助成だけでなく、税制優遇や交通費の割引など多くの恩恵を受けることができます。
障害年金も重要な支援です。糖尿病によって日常生活や労働が著しく制限されるようになれば、障害年金の受給対象になる可能性があります。これは20歳前に発症した1型糖尿病の患者にも適用されます。
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医療費を抑えるための工夫と予防の重要性
医療費を少しでも抑えるためには、制度の活用に加え、日々の生活の中でできることを意識することが重要です。たとえば、処方薬をジェネリック医薬品に変更することで、薬代を3割以上節約できる場合もあります。また、通院間隔を主治医と相談し、状態が安定していれば受診頻度を調整するのも一つの工夫です。
糖尿病治療に対応する民間保険も選択肢として注目されています。最近では糖尿病患者を対象とした医療保険商品が登場しており、血糖コントロールの状況によって保険料が割引になるプランも存在します。こうした保険は、予期せぬ入院や合併症による高額出費に備える安心材料となります。
最も大切なのは、糖尿病を重症化させないことです。定期的な検診や血糖コントロールの維持、食生活の改善、適度な運動を継続することで、合併症のリスクを抑えることができ、結果的に医療費も抑えられます。「予防は最大の節約」という言葉は、糖尿病においても例外ではありません。
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まとめ
糖尿病の治療は、初期段階での生活習慣の見直しに始まり、病状によっては高度な医療や合併症治療に移行することもあるため、長期的な経済的視点が不可欠です。ですが、日本の医療制度には、患者の負担を軽減する仕組みが多く用意されています。高額療養費制度や障害年金、各種助成制度を賢く使い、医療費と上手に付き合っていくことが、糖尿病との長い付き合いのなかでとても大切です。
「病気とお金」のリアルを知ることで、備えと対策ができます。糖尿病になったからといって未来が閉ざされるわけではありません。正しい知識と制度活用で、安心して治療を続けられる社会を目指しましょう。
監修医師/甲斐沼孟
大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センターや大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センターなどで消化器外科医・心臓血管外科医として修練を積み、その後国家公務員共済組合連合会大手前病院救急科医長として地域医療に尽力。2023年4月より上場企業 産業医として勤務。これまでに数々の医学論文執筆や医療記事監修など多角的な視点で医療活動を積極的に実践している。
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