心穏やかにいれる場所をお裾分け。1日1組限定の宿「森のスープ屋の夜 お手当てのための宿」の魅力

心穏やかにいれる場所をお裾分け。1日1組限定の宿「森のスープ屋の夜 お手当てのための宿」の魅力
写真提供: 森のスープ屋の夜 1日1組お手当ての宿

「都会の喧騒から離れ、自然の中で心穏やかな時間を過ごしたい」そのように感じることはありませんか?鳥取県大山の森の中にある、1日1組限定の宿「森のスープ屋の夜 お手当てのための宿」には、癒やしと安らぎの時間を求めて全国から毎月数組のゲストが来訪。そこを訪れた人々は、「ここにいるだけで、心身が整う」と口を揃えて言います。一体どのようなお宿なのでしょうか。ご主人であるマスターと共に森のスープ屋の夜を営む、かずぅさんにお話をお伺いしました。

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自分の心地よさを求めていったら森に辿り着いた

森のスープ屋の夜 1日1組お手当ての宿
森のスープ屋の夜 1日1組お手当ての宿

– 「森のスープ屋の夜」は、かずぅさんと、マスターことご主人とお二人で、鳥取県にある大山の森の中で営まれていると伺っています。お二人とも、鳥取県のご出身なのでしょうか?

かずぅさん: マスターは、鳥取出身になります。私は東京で生まれて埼玉で育ちましたが、結婚がきっかけでこちらに来ました。

– ここ最近、都会に住んでいる方でも、山や森の中での暮らしに憧れる方が増えていると思います。かずぅさんも東京、埼玉と都会での生活を経験した上で森の中で暮らしはじめたわけですが、正直どう感じていますか?

かずぅさん: こんな生活があったんだということに日々驚きの連続です。毎日、植物の枝葉を集めて薬草風呂を作ったり、土のついた新鮮なオーガニック野菜を使って薪火でスープを煮たり、と日々自然と触れ合った生活を送っています。都会にいた頃とは、真逆の生活で、どんどん森の魅力に引き込まれていってますね。東京や埼玉での忙しい暮らしも多少なりとも経験した上で、森の中での暮らしなので、余計嬉しいのかもしれません。もしかしたら、生まれも育ちもこちらであれば、また別の感覚があったかもしれませんね。ただ実は、私はたまたま自分の心地よさを求めいったところ、大山の森に辿り着いたんです。

– つまり、森の暮らしは「自然の中で暮らしたい」といったような願望を持ってはじめたわけではないということでしょうか?

かずぅさん: そうですね。そもそも、関東にいた頃は、こういった選択肢があるということも知らずにいました。私は子どもの頃、庭もない小さな家で育ちましたし、満員電車に乗って東京に行くという生活をしていたこともあります。今でこそ、オーガニックレストランなども増えましたが、昔は本当に限られていたと思います。私もこちらに来るまで、土のついた野菜を見たことはありませんでした。ただ、例えば昔からパン屋さんに並んでいるパンの中でも、全粒粉を使ったような、より自然に近いかたちのパンなどにときめきを感じていたことは記憶しています。

森に動かされてできた、お手当てのための宿

森のスープ屋の夜 1日1組お手当ての宿
森のスープ屋の夜 1日1組お手当ての宿

– 現在は、森の中で「1日1組お手当てのための宿」としてお宿を営業されていますが、もともとは、スープ屋としてはじまったと伺っています。

かずぅさん: はい。スープ屋として、ランチの営業を3年ほどしました。その時は、ありがたいことに、毎日本当にたくさんのお客さまがいらしてくださって。そのため、美味しいスープを作ることに必死な日々を過ごしていたんです。一方で、自分の身の丈以上のことをしている、という感覚がどこかに、ずっとありました。例えば、10年後の自分が、これをずっと続けているかどうかというイメージが湧かなかったんです。 それで、今から5年前にお宿をやることにシフトしたんです。最初の頃は、月12組ほどのゲストをお迎えしていましたが、現在は月8〜9組ほどお迎えしています。あまり立て続けにお迎えしたり、無理のないように営業することを心がけています。なぜなら、ゲストを迎えてお帰りになった後に、一度リセットしたいからです。自分たちを整えて、森を整えてからお迎えするっていうのが、ゲストにとっても、私たちにとっても、お互いに良いことだと思っています。こういうスタイルのお宿なので、私たち自身が疲れた状態で迎えてしまうと、空間も整わなくなってしまうんです。

– 森に移住した当初から、スープ屋やお宿をやろうと思っていたのでしょうか?

かずぅさん: いいえ、全くそんなことは考えていませんでした。抽象的になってしまうかもしれないのですが、最初に湧いたイメージを具現化していった結果、スープ屋やお宿になったんです。最初、この森に出会った時は、一面が笹やぶでした。そこで、一年間かけて自分たちで笹かりをして、改めて森の中を見た時に、ぱっと浮かんだイメージがあったんです。それは、小屋が点々としていて、夜にはランタンや蝋燭を灯して、スープをいただくというイメージでした。そのイメージに徐々に近づける過程の中で、1つ目の小屋を建てた時に、短い時間でできることはないかと模索し、ランチ営業のスープ屋をはじめました。そこから3年経った時、当初描いていた小屋が点在していて、ランタンや蝋燭を囲んで食事をするイメージと重なった時、お宿にしよう、と思ったんです。もしかしたら森に動かされたのかなと思っています。マスターとも話しているのですが、私たちは森の管理人なのかもしれません。

– 「森の管理人」!素敵ですね。お宿は、ホスピスからインスピレーションを受けているというように伺いました。

かずぅさん: はい、オーストリアにあるホスピスからインスピレーションを受けました。以前、東京で2年ほどデパートの美容部員をしていたのですが、その時に体調を崩してしまったことがありました。当時は、きらびやかな美しい世界で働けることに誇りを持っていると信じきっていたのですが、体は正直でした。それで退職し、一度リセットするために、オーストラリアに渡りました。現地でボランティアを紹介してもらい、そこでホスピスに行ったんです。ホスピスは、終末期にある患者さんに対して緩和ケアや支援を提供する施設ですが、こういった場所を作ることができたらと感じました。漠然としているのですが、自分の探していたものは、これだったんだと思いましたね。国籍や宗教関係なく、とても平和で、心が穏やかになるのを感じました。

森のスープ屋の夜 1日1組お手当ての宿
森のスープ屋の夜 1日1組お手当ての宿

– 垣根を超えて人々が集まり、穏やかな時間を過ごす場所といったところでしょうか。

かずぅさん: そうかもしれないですね。けれど、正直な話、そのホスピスのことはその後、しらばくは考えていなくて。それから何十年も経ってから、スープ屋ができたときに、ホスピスのことを思い出しました。そのことを小屋を建ててくださった建築士さんにお話したところ十字の窓をつけてくれたんです。クリスチャンとかでは全然ないんですけど。それを柿渋塗料で塗った時に、あの時の気持ちを思い出して遠回りしてたものが全て繋がった瞬間を感じました。

– 点と点が繋がったんですね。「お手当てのための宿」というネーミングが、とても素敵です。これに込めた思いを教えて下さい。

かずぅさん: スープ屋が、「森のスープ屋」だったので、それに「の夜」をつけてお宿をはじめました。最初は、「お手当てのための宿」というのはつけていなかったんです。ただ、ある夏の朝、一人で泊まりに来られていたゲストの方がスープを涙しながらいただいていた姿を見た時に、この「森のスープ屋の夜」という場所が、いらっしゃる方々の心身を整える場所だということを感じました。それまで色々な方から「ここにいるだけで、体が整う」「森の治療院」と言われることがありました。私たち自身も森の中で整うということを日々実感していました。そのため、それをきちんと伝えることで、必要な人に届くのではないかと思ったんです。

– とてもメッセージ性が詰まっているように感じます。「お手当てのための宿」としたことで、何か反響はありましたか?

かずぅさん: 来られるゲストの方々が変わっていきました。最初の頃は、癒しを求めていらっしゃる方がとても多かったんです。一方で、「お手当てのための宿」としたことで、「滞在中に何かを実践して、学びや気づきなどを持ち帰りたい」といったような、より意図を持っていらっしゃる方々が増えたような気がしますね。

自分が心穏やかにいれる場所を作り、それをお裾分けしたい

– お宿がある森は、どういった森なのでしょうか?

かずぅさん: 大山は標高1740メートルの富士山の半分ぐらいの山になるのですが、私たちのお宿は、標高300メートルの場所にあります。写真を見ると、結構山奥の森など思われることも多いのですが、周りには良い距離感を保ちながら人がポツポツ暮らしていて、人気のない山という感じではないんですよ。先程もお話した通り、もともとは熊笹の背丈ほどの薮だったところを一年かけて笹をからせてもらいました。野生の木々に囲まれた場所で、特にクロモジという和製ハーブの木を中心に、栗の木や山桜の木などが点在しています。小屋の裏側には、大山の山頂が見えて、正面には日本海がうっすら見える、とても気の流れが良く、守られているということを感じられる場所です。

森のスープ屋の夜 1日1組お手当ての宿
森のスープ屋の夜 1日1組お手当ての宿

– 自然が身近にある環境ということですね。宿泊時、ゲストのみなさんは、どのように過ごされるのでしょうか?

かずぅさん: 薬草風呂に入って、スープをいただくということを私たちはお手伝いさせていただいています。その他、散歩をしたり、ハンモックに寝転んでいただいたり、暗くなったら寝る、というように、日常のことを一つ一つを丁寧に味わう方が多いですね。また、中にはヨガをされている方も多いので、自然の中で瞑想を練習される方もとても多いです。お風呂や宿泊の小屋、またお食事のも小屋は全て分かれているので、その都度、移動していただきます。

– 薬草風呂にはこだわっていらっしゃるんですよね?

かずぅさん: はい。いらっしゃったら、強制的(笑)にお風呂に入っていただくようにしています。お風呂は、クロモジの薬草風呂です。これで、心身に溜まったものを、ざっと落としていただきたいと思っています。やはりゲストの多くが、都会の忙しいエネルギーだったりを抱えてこられる方が多いので、クロモジの力でそういったエネルギーを流し落としていただくと、素に近い状態でとても楽になるとおっしゃっていただきます。クロモジには疲れを癒やす効果が期待できたり、抗菌や消炎作用もあると言われています。

– このクロモジの薬草風呂のアイディアはどこからひらめいたのでしょうか?

かずぅさん: たまたま、クロモジの研究をするためにこちらに移住してきたというスープ屋のお客さまがいらっしゃったんです。実は、私は森の中で暮らすようになるまで、クロモジという植物を知りませんでした。そこで、その方に色々教えていただいて、ハーブティーにしたりと生活の一部として私も取り入れるようになりました。ある時、飲み物として飲めるのであれば、お風呂にも使えるのではないか、と思ったんです。最初は、クロモジの葉を浮かすことからはじめて、もう少し濃厚にできないかと思い、グラグラ煮出してエキスを作るようになりました。

– 素敵ですね。ぜひ、浸かってみたいです! 都会からいらっしゃるゲストの方々が多いとのことですが、そういった方々は休むことに難しさを感じることなどないのでしょうか?

かずぅさん: そうですね。休息の手前のゆるみ方が分からないと感じる方が多くいらっしゃる印象です。けれど、先程もお話した通り、私たちのお宿は小屋が点在しているので、それが上手く作用しているようです。便利さで言えば、宿泊の小屋にお風呂をつけてしまうのが一番いいと思うんですよね。けれど、小屋から小屋へ移動することで、土の上を歩くことの心地よさだったり、星空を見上げることができたり、体感としてゆるめていただけるのではないかと思っています。狙ったわけではなくイメージ先行で小屋を点在させたので、結果的にそうなってしまっただけなのですが。

森のスープ屋の夜 1日1組お手当ての宿
森のスープ屋の夜 1日1組お手当ての宿

– マインドフルネスの効果があるんですね。ゲストの中にはリピーターの方もいるのでしょうか?

かずぅさん: ありがたいことに、多いですね。一番多い方だと11回も泊まりにきてくださっています!特にリピーターとして多いのは、40代から50代の女性ですね。一年に一回は季節を変えて、心身の大掃除に行きたいという方などが多いです。

– 11回はすごいですね!お宿というと、一期一会の出会いというのも決して珍しくないと思いますが、何度も再会できるのは嬉しいですよね。季節ごとに宿泊のスタイルも変わっていくのでしょうか?

かずぅさん: そうですね。まず、森の景色が変わっていきます。今(取材時は3月中旬)ですと、表面上では雪がまだ少し残っていますが、春の訪れを所々に感じます。本格的に春になると、クロモジの花が満開になって、夏は木々が鬱蒼となってきます。それは季節の変化の中で一番大きなことではないかと思います。また、冬は小屋の中では薪ストーブで温まっていただいたり、その他にもスープの材料(野菜)が季節で変わってきますね。

森のスープ屋の夜 1日1組お手当ての宿
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– お宿をはじめて良かったと思うことは、どんなことでしょうか?

かずぅさん: 一番は、人との出会いですね。私たちは、みなさんをゲストというよりかは、私たちの先生というように捉えているんです。様々な分野のプロフェッショナルの方々がわざわざここまで来ていただいて助言をくださっているように感じてます。私たちは、本当に特別なことはしておらず、場所と自分たちを整えて待っているだけで、必要なことはその道のプロの方が教えてくださっている感じです。そのように、ゲストと宿の人という垣根を超えて、宝となる出会いが数え切れないほどありました。それは、本当に良かったと思うことの一つですね。

– これまで、ゲストから言われたことで、印象的に残っていることってありますか?

かずぅさん: 「こんな場所を作ってくださってありがとうございます」と言われたことですかね。私自身は人のために作っているというつもりは全くないんです。自分が心穏やかにいれる場所を作って、それをお裾分け程度ですけど、本当に自分ができる範囲でお招きしているんです。お宿では、すべて私がいいなと思って使っているもの、取り入れているものをゲストの方へシェアしています。お宿のために、わざわざ探したりしたものは一つもないんです。クロモジの薬草風呂も元々は私が自分のためにはじめたものでした。また、食べるものも一緒で、お布団もパジャマも全て一緒です。それは、自分一人で喜んでいるよりか、「それいいね」と一緒に喜ぶ方がいたほうが、喜びは広がるなと思っているので。そんな中で、私以上にこの場所を愛でて喜んでくださるということは、本当にありがたいことですね。

– 自分の思いに共感してくださってくれる方が集まってくるということは、すごく嬉しいですよね。最後に「これからのこと」についてお話いただけますか?

かずぅさん: 正直な話、今も特に大きな目標があるわけではありません。これまでと同様に、私自身がより軽やかになるように整えていくことが、ここの全てだと思っています。そこを、見つめて生きていきたいと思っています。

【森のスープ屋の夜 1日1組お手当ての宿】

鳥取県大山の小さな森で1日1組限定のお宿。2016年にスープ屋として始まり、2019年、スープランチの営業を終え、1日1組の宿に。「お手当てのための宿」として、クロモジの薬草風呂や、野菜のスープなど、自分たちの暮らしの中で続けていることを取り込んだ宿泊プランを提案。

公式HP: 森のスープ屋の夜 1日1組お手当ての宿

Instagram: @soupyanoyoru
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