「自由自在に生きる人を増やしたい」絶望から回帰しアーユルヴェーダ医師となった澁谷るみ子さんの思い


アーユルヴェーダ医師/講師の澁谷るみ子さんへのインタビュー後編。壮絶な経験を繰り返したのちインドに渡り、そこで出会ったアーユルヴェーダに人生を救われた澁谷さんが感じる、アーユルヴェーダの本質的な凄さとは?
独立、そして50歳で鍼灸師の資格を取得
帰国後、澁谷さんは東京にあるアーユルヴェーダスクールで3年働いたのち、株式会社スヴァルナ・アーユルヴェーダを立ち上げた。独立後はアーユルヴェーダ講座の運営や、体質診断と健康法のアドバイスをするコンサルテーションなどを展開。すぐに口コミで評判となり、多くの人が澁谷さんのもとを訪れるようになる。
しかし、インドで取得したアーユルヴェーダ医師免許は、日本では医療従事者の資格としては認められていない。そこで、澁谷さんは鍼灸師の資格を取ることにした。アーユルヴェーダでも経絡というツボを使うので、鍼灸とも通じる部分があった。
ところが、鍼灸学校は週6日間ある。アーユルヴェーダの仕事は日曜日しかできず、鍼灸学校に通う資金調達の課題があった。そこで、知人の勧めで、夜間の電話占いを始めることに。以前から勘の鋭かった澁谷さんは電話占いでも活躍し、学費を賄うことができた。
日中は鍼灸の勉強、深夜に電話占い、そして日曜日だけアーユルヴェーダの仕事という生活を3年続け、無事に鍼灸師の資格を取得。このとき、すでに50歳を超えていた。
「その年齢で、難しい鍼灸の勉強をするなんてすごいですね」と言うと、「アーユルヴェーダには、記憶力がよくなる薬があるんですよ」と、澁谷さんはいたずらっぽく笑った。
「本格的に効果が出る治療を」同級生との再会
澁谷さんは日本から参加者を募り、インドで治療を受けるパンチャカルマツアーを毎年開催している。最初は南インドやスリランカなど、日本人にも人気のあるリゾート地のような場所に行っていたが、徐々に疑問を感じるようになっていく。
「南インドは緑も多いし、気候もいいのですが、リゾート化してしまっているので、本格的な治療というよりはリラクゼーションに近い感じでした。徐々に症状の重い人も参加するようになっていたので、もっと本格的な治療ができる病院はないかと思い始めていたんです」
そんな折、かつての同級生であるメフール先生が、アーユルヴェーダの聖典に則った伝統的な方法で治療の効果を出していると聞き、病院のある西インドのグジャラート州に行った。

メフール先生と妻のダーラ先生が運営するメーガダーラ・アーユルヴェーダ&パンチャカルマ病院(以降「メーガダーラ病院」)は、海外からの患者も受け入れており、外国人の対応にも慣れていた。

澁谷さんは、すぐに「日本人をたくさん連れてくるから、入院できる施設を作って」とメフール先生に依頼。入院できる部屋などの設備を整え、2019年からメーガダーラ病院でパンチャカルマツアーを開催している。
インド人と日本人の間には大きな文化、慣習の違いがある。時間感覚や衛生面など、インド人にとっては気にならないことでも、日本人の感覚では許容できない場合も多い。「南インドの病院では、日本人の感覚を伝えるのに本当に苦労した」と、澁谷さんは振り返る。
しかし、メフール先生たちは同級生だから気心が知れているだけではなく、澁谷さんのことを全面的に信頼し、日本人の感覚に合わせてくれる柔軟さも持ち合わせている。現在の澁谷さんのパンチャカルマツアーは、「家族以上の存在」だというメフール先生たちとの信頼関係によって成り立っているのだ。
一人ひとりに合わせた治療や食事内容のパンチャカルマツアー
取材した際、パンチャカルマツアーに参加していたのは合計12人。澁谷さんの講座の受講生やがん治療中の人、西洋医学の医者でアーユルヴェーダも学びたい人など、さまざまなメンバーが参加していた。
滞在中は朝6時半の護摩焚きから始まり、7時からコンサルテーションと治療が開始。瞑想の時間もあり、20時には各自の部屋に入り、静かな時間を過ごすことを推奨している。
毎日、体調や症状を聞き取り、それぞれに合わせた治療内容が組まれるだけではなく、食事内容も一人ひとりに合わせて丁寧に作っている。

治療内容は人によってさまざまだ。たとえば、全身のオイルマッサージやギー(牛乳を煮詰めて作るオイルの一種)を飲むことによって毒を体の1か所に集め、下痢や嘔吐で体外に排出する治療を受けている人が多かった。
他にも、薬草入りのオイルを浣腸する、目にオイルを入れるなどの治療を受けている人もいた。


治療中に8キロ痩せた人やキツイ性格がマイルドになった人など、治療の途中でも明らかな変化を見せる人もいた。
他にも、がんやリウマチ、身体麻痺、精神面の病気など、パンチャカルマによって幅広い病気を改善してきた実績がある。澁谷さんのパンチャカルマツアーがこれほどの成果を上げられるのは、やはりメフール先生による聖典に則った伝統的な治療によるところが大きいという。
また、インドの他の施設では、医師はたまにしか問診しない場合も多くあるというが、メーガダーラ病院では、メフール先生かダーラ先生が必ず問診し、食事の指示やチェックまでも自らが行う。澁谷さんは「メフール先生たちには深い愛情と奉仕の精神がある」と語った。
パンチャカルマが目指すのは、精神面も含めた根本治療

パンチャカルマは肉体だけのアプローチではなく、精神面にもおよぶ。澁谷さんが在学中に経験したように、感情の揺れ動きや考え方のクセなどは、その人自身に原因があるのではなく、体にたまった毒が原因だという。
「何十年もため込んできた毒が蓄積することが、病気や生きづらさの原因になります。パンチャカルマの素晴らしいところは、短期間で体の中の毒をオイルに吸着させて一気に排出させることで、肉体だけではなく精神までも浄化することです」
滞在中に毎日行われる澁谷さんのコンサルテーションは、ただの健康チェックではなく、その人の内面にまで深く潜り込む。患者さんには心の動きを毎日ノートに書き記し、夢の内容やささいな変化も報告するようにと伝えている。

過去に、がんになったことを10年以上家族にも隠していた患者さんがいたそうだ。その人は治療中いつもニコニコして、何を聞いても「大丈夫です」しか言わなかった。
しかし、治療の後半、今までため込んできた愚痴や本音が一気にあふれ出し、泣きじゃくりながら感情を爆発させたという。これまで、がんばりすぎて誰にも本音を言えず、嘘で塗り固めていた人がやっと本心を出せた瞬間だった。
「パンチャカルマで内面までアプローチするのは、肉体だけをよくしても精神が変わらなければ、また同じ病気になるからなんです。私たちは根本治療を目指しているので、自分をごまかしている人は見逃しません。パンチャカルマの期間中に、徹底的に自分と向き合うように促しますし、ときには厳しいことも言いますよ」
澁谷さんがここまで患者さんたちに向き合うのは、インドで健康もお金も失うどん底から立ち直った自身の経験があるからだ。「あんなにどん底だった私でも大丈夫だったんだから、どんな人でも、どんな状態でも絶対に大丈夫」と、澁谷さんは確固たる自信を持って患者さんたちを励まし続ける。
「私は人を応援するような役割を担っているような気がしています。みんなに自分らしい人生を生きてほしいんです。自分を責める人もいますが、『その感情はあなたが悪いわけではなく、毒に振り回されているだけなんですよ』と伝えます。毒が出ると美しい魂の自分に戻れるんです。だから『大丈夫、あなたは絶対に変われます』と徹底的に応援します」
インドに行かなくてもできるアーユルヴェーダ健康法

約3週間のパンチャカルマを終えて帰国した後も、メーガダーラ病院からアーユルヴェーダの薬を送ってもらう場合もある。
しかし、澁谷さんが行っているパンチャカルマツアーは一度に10人程度と限りがあり、誰もが長期休みを取ってインドに行けるわけではない。澁谷さんは誰でもできるアーユルヴェーダの健康法として「早起き」を強くすすめる。
「アーユルヴェーダには時間を区分けする考え方があり、日の出前が活動し始めるのにもっともいい時間とされています。アーユルヴェーダでは、朝は軽い風の時間であり、排泄の時間帯です。地球の動きに合わせて活動するだけで、排泄もうまくいき、頭もすっきりして、自然と心身が整っていくんです」
澁谷さんは、早起きで劇的に変わった人の例を挙げる。大手企業に勤める40代男性が、ストレスやありとあらゆる体の不調により、仕事を辞めざるを得なくなった。そして、田舎に家を買い、自分で修繕しているうちに、体の不調がみるみる消えてしまった。その秘訣が「早起き」だったという。
「田舎の家には電気もガスも通ってなかったそうです。それで、家族を呼ぶ前に1人で1か月ほど家の修繕をしていて、電気がないから早寝早起きになって。太陽に合わせて行動しただけで、自然と体が整ってしまったんですよ」
「早起きは三文の得」というが、どうやら三文以上の効果がありそうだ。
「アーユルヴェーダで自由自在に生きる人を増やしたい」

これまでに、100人近くの日本人をインドのパンチャカルマツアーに招いている澁谷さんだが、挑戦はまだまだ続く。
メーガダーラ病院は、道路に面した街中のビルにあり、日中はクラクションの音が聞こえてきて騒々しい環境にある。そこで、患者さんがもっと落ち着ける広い土地を探していたところ、ちょうど取材の1か月前に理想的な土地を見つけたという。
「オーガニックの野菜を育て、牛を飼ってミルクを絞って、安心して食べられるものを目の前で作れるような環境が理想でした。数年間探し続けて諦めかけていたところ、やっと理想的な土地が見つかりました。これから具体的に計画していきます」

さらに、現在59歳の澁谷さんだが、「また大学に行って博士課程を勉強しようと思っている」というから、向上心の高さに驚く。会社の経営は、同じ大学を卒業したシッダールタ先生に任せ、自身はさらなる学びを深めていきたいと考えている。
「アーユルヴェーダで心身が若返ることで、自由自在に自分の好きなことができるようになるんですよ。そうして自分が満たされると、今度は他人のために役に立ちたいとか、分け与えたいと自然と思うようになります。世の中がそういう人であふれていけば、世界は平和になると思うんです」
キラキラした目で語る澁谷さんの見ているビジョンは壮大だ。しかし、60歳目前にしてやりたいことが尽きず、若々しく活動を続ける澁谷さんの姿こそ、アーユルヴェーダが持つ力の何よりの証明かもしれない。
【プロフィール】澁谷るみ子さん

株式会社スヴァルナアーユルヴェーダ代表取締役
兵庫県出身。2001年よりインド国立アーユルヴェーダ医学大学で学び、インド政府公認アーユルヴェーダ医師免許(B.A.M.S.)を取得。日本で唯一、アーユルヴェーダ医師免許と鍼灸師の免許を持つ。アーユルヴェーダ講座や講演会、セラピスト育成に加え、インドへのパンチャカルマツアーを毎年開催し、さまざまな難病治療や若返り療法に取り組んでいる。また、但馬地方にある国有形登録文化財の生家では、アーユルヴェーダ薬草研究所(通称「あゆらぼ」)として宿泊型の治療も行っている。
公式サイト:https://svarnaayurveda.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/rumiko_ayurveda/?hl=ja
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