〈命に関わることもある熱中症〉重症レベル別の症状とは?薬剤師が教える、応急処置の方法
熱中症は体温が著しく高くなることで起こる症状で、3つの重症度に分けられます。疑われる症状が見られた場合、適切な処置を行わないと死に至る危険もあるので、本人だけでなく周囲の人も体調の変化に気づいてあげることが大切です。この記事では、熱中症の重症度別の症状と応急処置の方法を解説します。
熱中症とは?
熱中症とは、高温多湿な環境に長時間いることで、体の水分やナトリウムのバランスが崩れたり、体温調節機能がうまく働かなくなったりすることで起こるさまざまな症状の総称です。
熱中症の初期は、めまいや立ちくらみなど、比較的症状が軽いため、患者自身が気づかないことも少なくありません。発見が遅れて適切な治療がされないでいると、意識障害など重篤な状態に進行することもあるため注意が必要です。
熱中症の重症度と症状
熱中症の症状は重症度によって3段階に分けられ、「熱失神」「熱けいれん」「熱疲労」「熱射病」の4つの病態(種類)があります。それぞれの特徴は次の通りです。
【重症度Ⅰ】(熱失神、熱けいれん)
熱失神とは?
高温・多湿の場所で長時間にわたって活動すると、体温を下げるために体の表面部分の毛細血管が拡張し、血液が体表に集中します。そのため、一時的に脳への血流が減少し、めまいや立ちくらみ、頭痛、吐き気などが起こります。
<熱失神の症状>
・ めまい
・ 立ちくらみ
・ 頭痛
・ 吐き気
・ 顔色が白くなる
・ 一時的に意識を失う(失神する) など
熱けいれんとは?
炎天下で運動したときや、温度・湿度の高い室内などで大量に汗をかいたときなどに、体内の水分とナトリウムが失われます。このとき、水分だけを補給すると、血液中のナトリウム濃度が低下して筋肉の収縮を誘発し、手足のけいれんや筋肉痛、筋肉の硬直などが起こります。
<熱けいれんの症状>
・ 手足のけいれん(手足の筋肉がぴくぴくする)
・ 足がつる(こむら返り)
・ 筋肉痛
・ 筋肉の硬直
・ 手足がしびれる など
【重症度Ⅱ】(熱疲労)
熱疲労とは?
大量に汗をかいたときに、水分やナトリウムを補給しないでいると脱水症状が起こり、体液が不足して全身の血液量が減少します。そのため、食欲減退や全身の倦怠感、吐き気やおう吐などが起こり、場合によっては、ショック状態に陥ることもあります。
<熱疲労の症状>
・ 食欲減退
・ 吐き気・おう吐
・ 全身の倦怠感
・ 頭がズキズキ痛む
・ 判断力・集中力の低下
・ ショック状態(血圧低下、呼吸不全、意識が朦朧とする) など
【重症度Ⅲ】(熱射病)
熱射病とは?
高温・多湿の環境で脱水症状が起こり、それが進行すると脳の温度が上昇し、脳がつかさどる体温の調節機能に異常をきたします。汗が止まり、体温は急激に40℃を超え、皮膚は赤く乾燥します。吐き気や頭痛、全身の引きつけのほか、重篤になるとこん睡などの意識障害が起こり、場合によっては死に至ることもあります。
<熱射病の症状>
・ 体温が40℃以上になる
・ まっすぐ歩けない
・ 意識がなくなる
・ 体がけいれんする
・ 呼びかけに反応しない など
熱中症が起きたときの応急処置
熱中症の応急処置の基本は、「涼しい場所への移動」「水分や塩分の補給」「体を冷やす」の3つのほか、「医療機関への搬送」です。これら4つの処置を適切に行うことで、熱中症の重症化を防ぐことができます。症状によって次のように対処してください。
熱失神(重症度Ⅰ)の場合
涼しいところで休み、回復して水分がとれそうなら少しずつ飲ませてあげてください。失神の場合は一時的なもので、ほとんどの場合、すぐに意識が戻ります。水分を自分でとれない場合や、しばらくしても意識が戻らない場合は、救急車を要請してください。
熱失神の特徴は、自分で熱失神だと気づかずにいきなりバタンと倒れてしまい、周囲があわてて対応するケースが多いことです。暑いとき、少しでも疲れやめまいを感じたら、がまんしないで日陰や冷房の効いたところに移動して、水分をとって休みましょう。
熱けいれん(重症度Ⅰ)の場合
熱けいれんの場合、塩分の不足が原因のため、水分だけでなく塩分の補給が必要です。スポーツドリンクや経口補水液、もしくは水1Lに塩2gを入れ、吸収率アップのため少し砂糖を加えた飲み物などを、ゆっくり飲ませてあげましょう。
けいれんが起きている部分は、軽くマッサージしたり、筋肉をのばしたりするとよくなります。高温多湿の中でスポーツや作業をするときは、水分だけでなく塩分も一緒に摂るようにしてください。塩飴や梅干し、塩昆布などを持ち歩くといざというとき役に立ちます。
熱疲労(重症度Ⅱ)の場合
熱疲労の場合、まず、意識や呼吸を確認しましょう。意識を失っていたり、言動がおかしい場合には、すぐに救急車を要請してください。熱疲労は重症の熱射病(重症度Ⅲ)になる一歩手前の状態のため、そのまま放置しておくと、とても危険です。
また、意識や呼吸が確認できた場合は、体温を下げるために体を冷やしましょう。食塩水やスポーツドリンクなど、飲める状態なら飲ませてあげて、水分と塩分の補給をしましょう。しばらく休んで回復したと思っても、その日の運動や作業は中止して、医療機関を受診してください。
熱射病(重症度Ⅲ)の場合
熱射病になると、意識がなくなったり、脈が乱れたり、けいれん、手足の麻痺などが起こってきます。ただちに救急車を要請してください。救急車が来るまでの間は、涼しいところに移動させて、頭を低く足を高くして寝かせ、積極的に体を冷やすことが重要です。できるだけ早く体温を下げることが救命につながります。
いざというときの体の冷却法
熱疲労や熱射病の場合は、体を冷やすことがとても重要です。ここでは、体の冷却法を紹介します。
- ぬれタオルでマッサージ
衣類をできるだけ脱がせて体に水かぬるま湯をかけ、その上から冷水につけたタオルで、手足の先から体の中心に向かってマッサージします。扇風機やうちわ、タオル、服などであおいで、風を送りましょう。
- 氷(氷のう、アイスパック)などで冷やす
氷のう、アイスパックなどを、首の両側、わきの下、足のつけ根など、体の表面近くに動脈がある部分に当てて、血液を冷却します。
- 水を体に吹きかけてあおぐ
水やスポーツドリンクなどを、霧吹きや口に含んで、体全体に吹きかけて、うちわやタオル、服などであおぎます。くり返し吹きかけてあおぎ、気化熱(水が蒸発するときにうばう熱)を利用して冷やします。
熱中症予防のための日常生活のポイント
- 「服装」
外からの熱の吸収をおさえ、体の熱を逃がしやすい素材のものを着用しましょう。サラッとした綿や麻なら、体を締めつけず、肌と服の間に風が通り、体の熱が逃げやすくなります。シャツのすそを出したり、えりのボタンを開けるのも効果的です。また、<吸水性・速乾性>とうたっているような合成繊維などもよいでしょう。
- 「食べもの」
暑さに負けない体力づくりのためには、バランスのとれた食事を規則正しくとることが基本です。とくに、血や肉になるタンパク質をしっかり摂りましょう。体調を整えるビタミンやミネラルを含む野菜や果物も欠かさないように。
食事を抜いたり、お菓子で済ませたりすると、栄養が脳や体に行きわたらず、暑さに対応できなくなる恐れがあります。三食しっかり食べましょう。
- 「飲みもの」
熱中症予防のために、水分補給は欠かせませんが、緑茶や紅茶、コーヒー、など、カフェインが含まれているものは予防に向いていません。カフェインには、体の中の水分を出す働きがあるからです。
甘いジュースや炭酸飲料も、十分な水分がとりにくく、糖分を多くとることになりがちです。カフェインが含まれていない水や麦茶、そば茶、ナトリウム(塩分)を含むスポーツドリンクなどが熱中症予防には適しています。
まとめ
熱中症の重症度はⅠ度からⅢ度に分類され、「熱失神」「熱けいれん」「熱疲労」「熱射病」の4つの病態があります。
それぞれ、適した応急処置の方法があり、とくに意識障害がある場合や自分で水分補給ができない場合などは、すぐに救急搬送を要請することが重症化を防ぐことにつながります。いざというときのために、応急処置の方法を覚えておくとよいでしょう。
また、「暑さを上手に避ける」「服装を工夫する」「こまめに水分や塩分を補給する」「暑さに備えた体づくりをする」など、基本的な日常生活での注意事項を守ることが熱中症予防につながります。
AUTHOR
小笠原まさひろ
東京薬科大学大学院 博士課程修了(薬剤師・薬学博士) 理化学研究所、城西大学薬学部、大手製薬会社、朝日カルチャーセンターなどで勤務した後、医療分野専門の「医療ライター」として活動。ライター歴9年。病気や疾患の解説、予防・治療法、健康の維持増進、医薬品(医療用・OTC、栄養、漢方(中医学)、薬機法関連、先端医療など幅広く記事を執筆。専門的な内容でも一般の人に分かりやすく、役に立つ医療情報を生活者目線で提供することをモットーにしており、“いつもあなたの健康のそばにいる” そんな薬剤師でありたいと考えている。
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