熱中症予防の落とし穴?意識朦朧や昏睡状態となる場合もある〈ペットボトル症候群〉とは|薬剤師が解説
気温が高くなる季節には、熱中症予防のためにこまめな水分補給が大切です。しかし、清涼飲料水やスポーツドリンクなど糖分を含む飲料を多量に飲むと“ペットボトル症候群”と呼ばれる症状を引き起こす可能性があります。この記事では、ペットボトル症候群について解説します。
ペットボトル症候群とは?
ペットボトル症候群とは、炭酸飲料やスポーツドリンク、清涼飲料水などを多量に飲み続けることによって起こる“急性の糖尿病”のことです。のどが乾いたときに、糖分が入ったドリンクを飲むと、さらにのどが渇くという経験をしたことがあると思います。
血糖値が上昇すると血液中の糖分濃度を下げるため、水分を欲してのどが乾くのですが、このときジュースや糖分の入った清涼飲料水などを飲んでしまうと血糖値がさらに上がり、さらにのどが乾く……という悪循環に陥ります。
人の水分必要量は一日に2.5Lといわれており、このうち1Lは食事から摂取しているため、残りの1.5Lの水分を補給する必要があります。これを炭酸飲料や清涼飲料水などで摂取すると糖分を摂りすぎることになり、ペットボトル症候群が起こるのです。
また、気温が高くなる夏場には汗をたくさんかく分、水分の補給量が増えるため、糖分の入った飲料を長期間、多量に飲むとペットボトル症候群になりやすくなるため注意が必要です。
ペットボトル症候群の症状は?
血糖値が急激に上昇すると、血糖を代謝するインスリンというホルモンの働きが低下し、体内では脂肪を分解してエネルギーをつくろうとします。このときにケトン体という物質がつくられ、のどが乾く、尿の量が増える、疲れやすい、体がだるい、腹痛、吐き気、イライラするなどの症状が起こります。また、ひどくなると意識朦朧や昏睡状態となる場合もあります。
カロリーゼロの飲料なら大丈夫?
糖分を控えるために「カロリーゼロ」「ノンカロリー」などと謳った飲料を飲むこともあるでしょう。しかし、栄養表示基準では100mlあたり5kcal未満であれば、「カロリーゼロ」、「ノンカロリー」と表示してよいことになっています。500 mlに換算すると24.9kcalまではカロリーゼロと表示できます。
ですから、「カロリーゼロ」「ノンカロリー」と表示された飲料であっても、まったくの0kcalではないので、多量に摂取すればペットボトル症候群になるリスクがあります。また、ペットボトル飲料の摂取で発症することが多いため“ペットボトル症候群”と呼ばれていますが、缶やビン入りの飲料であっても多量に飲めばペットボトル症候群は起こります。
さらに、カロリーゼロ・ノンカロリーの飲料は、少ないカロリーでも甘みを強く出すために人工甘味料が使われています。人工甘味料は砂糖の数百倍の甘さを人工的につくっているため、依存性があるとの指摘もあります。飲めば飲むほど、また飲みたくなるという性質があることにも注意が必要です。
経口補水液にも要注意!
熱中症や脱水時の水分補給に市販の「経口補水液」を利用するとよいと考える人も多いかもしれません。経口補水液はナトリウム(食塩)やカリウムのバランスがよく熱中症対策には有効です。しかし、こちらも100mlあたり5kcalの糖分が含まれています。つまり、経口補水液でも多量に摂取すれば、ペットボトル症候群になりえることになります。
また、経口補水液は手作りすることもできます。基本的なつくりかたでは、1000mlあたり、40gの砂糖を入れます。そうすると100mlあたり4gの砂糖を使用することになり、上白糖の場合、1gあたり4kcalなので100mlで16kcalとなり500mlでは80kcalものカロリーを摂取することになります。経口補水液を手作りする場合は、砂糖の量を調節したほうがよいかもしれません。
ペットボトル症候群の予防法
ペットボトル症候群を予防するには、次のような対策を心がけるとよいでしょう。
- 水分補給やのどの渇きには、糖分の入っていない水やお茶、麦茶などを飲む。
- スポーツドリンクや清涼飲料水を一度に多量に飲まない。また、一日に何本も飲まない。
- カロリーゼロやカロリーオフの飲料だからといって飲みすぎに注意する。
まとめ
ペットボトル症候群は、水分補給のために、炭酸飲料や清涼飲料水、スポーツドリンク、経口補水液などを多量に飲むことによって起こる急性の糖尿病です。
これから暑くなる時期には、熱中症予防のためにこまめな水分補給は大切です。しかし、糖分の入った飲料を多量に飲みすぎると、のどが乾く、尿の量が増える、疲れやすい、体がだるい、ひどい場合には意識朦朧、昏睡状態などペットボトル症候群になるリスクもあるので注意が必要です。
AUTHOR
小笠原まさひろ
東京薬科大学大学院 博士課程修了(薬剤師・薬学博士) 理化学研究所、城西大学薬学部、大手製薬会社、朝日カルチャーセンターなどで勤務した後、医療分野専門の「医療ライター」として活動。ライター歴9年。病気や疾患の解説、予防・治療法、健康の維持増進、医薬品(医療用・OTC、栄養、漢方(中医学)、薬機法関連、先端医療など幅広く記事を執筆。専門的な内容でも一般の人に分かりやすく、役に立つ医療情報を生活者目線で提供することをモットーにしており、“いつもあなたの健康のそばにいる” そんな薬剤師でありたいと考えている。
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