最年少ヴィクシーエンジェル、テイラー・ヒルの成功と変わりゆくファッション業界の現在、そして未来
美しいブルネットの髪、澄んだブルーの瞳、そしてインパクトのある深い眼差し。筋肉質のヘルシーボディとベビーフェイスが醸し出す独特の魅力で、世界を虜にするトップモデルのテイラー・ヒル。17歳の時に最年少ヴィクシーエンジェルに抜擢された彼女が、自身の成功とコンプレックス、そして変わりゆくファッション業界を振り返った。
「ヴィクトリアズ・シークレットのショーへの出演は夢でもありました。ハイファッションのように特定の顧客層に向けたブランドではなく、ポップカルチャーの一部として、広く大衆をターゲットにしていましたから、エンジェルになれば私のことを世界中の人々に知ってもらえると思ったのです」。
2022年、デビュー当時の心境をウェブマガジン「Coveteur」にこう語ったモデルのテイラー・ヒル。1996年アメリカ・イリノイ州で生まれ育った彼女は、14歳の時にコロラドの牧場で乗馬中にスカウトに会い、大手モデルエージェンシーIMGと契約。直後から、ファストファッションブランド「フォーエバー21」「H&M」や「ランコム」等のモデルに起用され、現在パリ&ミラノ・コレクションの常連としても活躍中だ。中でも17歳の時に抜擢されたヴィクシーエンジェルは、自身の夢だったという。
そんな彼女は、自身の成功にはソーシャルメディアの普及が大きく関連していると語る。特にインスタグラムは、まだ無名だった彼女の存在を“スター”へと押し上げたとして、現在でも重視しているという。
「インスタ開設直後から、外を歩けば皆が私を知っている、という状況になってしまいました。当時は全く慣れなくて、むしろ“この状況に慣れるか、それとも死ぬか”と大げさなことを思っていたくらい(笑)。でも幸運なことに、当時の私はまだローティーンだったので、そんな状況にもすぐに適応することができました。ソーシャルメディアなくして、今の私はなかったと思いますし、今は自分のファンベースをチェックするのが楽しみの一つです」。
しかし、2018年に業界内のセクシュアルハラスメントを告発する#MeToo運動が起きると、事態は一変した。当時ブランドの親会社であるLブランズのCEOのレスリー・ウェクスナーとCMOのエド・ラゼックらのモデルや女性従業員たちへの不適切な行動や、有害な労働環境といった実態をNYタイムズ等のメディアが一斉に報じたのだ。同時に、キャンペーン画像や毎年開催されるファッションショーにも性的に不適切であるとの疑惑の目が向けられ、ブランドは窮地に陥った。一方、これまでブランドのセールスを支えてきた女性ファンたちも一斉に声をあげ始め、ブランドの姿勢から極端に細く現実離れした体型のエンジェルたちの起用に至るまで、SNSは反論で溢れかえったという。
女性たちの声がもたらした変革
こうした中、2019年にはミラ・ジョヴォヴィッチらかつてのエンジェルたちが、Lブランズを相手取り、モデルやモデル志望者に対する性的暴行等の疑惑解明と状況改善を求める公開書簡を送った。が、当時ブランドの顔を務めていたテイラーを含む他のエンジェルたちは、ブランドのクリエイティブな意思決定には関与しない、という中途半端なポジションにおかれていたため、直に声を挙げることができなかったと言う。その時の心境を、彼女はこう語る。
「実は私は、この状況に内心安堵していました。特にモデルの体型批判が集中した時は、本当に気分が良くなりました。なぜなら、“これで多くの人がポジティブな影響を受けるはず”と確信したからです。それに、ヴィクシーエンジェルを始めた時の私はまだ17歳で、26歳の今とは全く違う体型でしたが、デビュー前からいつも自分の下半身とお尻が大きすぎるというコンプレックスを抱いていたのです。だから、他のモデルたちと一緒にショーでボディラインを見せることはとても居心地が悪かった。そのことを指摘し、声を挙げてくれた女性たちには本当に感謝しましたし、いまでもしています」。
現在も同ブランドのモデルを務めるテイラーは、ブランドが新たな時代の流れに乗り、より包括的な取り組みを行っていることに、さらなる安堵を感じると語る。
「元モデルのサラ・ジフが立ち上げ、カレン・エルソンらがメンバーとなってモデル業界の不適切な実態を是正する“モデル・アライアンス”のような団体の働きかけのおかげで、今ではモデルの体型起用年齢基準の改定など、業界の労働環境はかなり改善されてきました。ヴィクトリアズ・シークレットでも、かつてのエンジェルで53歳のヘレナ・クリステンセンのカムバックなど、体型的・年齢的なダイバーシティも促進されています。私は、このような変革がとどまることなく、さらに広がっていくことを願っています。いずれにせよ、ランジェリーブランドは女性のための、女性そのものを賛美するものなのですから」。
AUTHOR
横山正美
ビューティエディター/ライター/翻訳。「流行通信」の美容編集を経てフリーに。外資系化粧品会社の翻訳を手がける傍ら、「VOGUE JAPAN」等でビューティー記事や海外セレブリティの社会問題への取り組みに関するインタビュー記事等を執筆中。
- SHARE:
- X(旧twitter)
- LINE
- noteで書く