ヨガは絶望からの「自立」を促せるのか|「がんフレンズヨガ」クラスを取材

 ヨガは絶望からの「自立」を促せるのか|「がんフレンズヨガ」クラスを取材
Mika Nakayama
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ヨガのプラクティスを通して、静かに心身を観察できる状態に導きたい

「がんフレンズヨガ」担当講師 中里貴子さん(乳がん経験者)

――「がんフレンズヨガ」のクラス作りでは、どんなことを大切にしていますか?

大切にしているのは、がんを経験したからこそ、体とじっくり向き合う機会を作ることです。そのためには一つのポーズに時間をかけ、私がしゃべり過ぎず生徒さんが主体的に体を観察する時間を作っています。もともとヨガがそうであるように、このクラスでもポーズの形や体の柔らかさに捉われる必要はありません。クラスでは、生徒さんの痛みの有無や体格に合わせてプロップスを使い、効果的かつ心地よく動けるようサポートし、静かに体を観察できる状態に導いていきます。

ほかには、できること、できないことを、自分で判断する力を養っていきます。生徒さんの多くは、治療中や治療後の体でどの動きができるのか、何をやってはいけないのか、最初は迷いを抱えてクラスに来ます。私自身の乳がん体験をもとに体と心の痛みに寄り添い、「このポーズは避けるべき」とアドバイスし、逆に「もっとがんばれるよ」と背中を押すことも。そうした経験を通して自分にとっての「適切」を知ってもらえたら。そして、「私はこのポーズはやりません」と言える判断力と自立性を身に付け、いずれはこのクラスを卒業し通常のクラスに戻っていってほしい。それが私の願いであり、クラスの目的でもあります。

ヨガで絶望からの「自立」を促す。アンダーザライト ヨガスクールのがんサバイバー向けクラス
Photo by Mika Nakayama

――クラスの構成は、毎回どのように決めているのですか?

最初に一人ひとり自己紹介をしてもらい、治療歴、体調、リクエストをもとに毎回クラスの内容を変えています。体調を聞くのは、クラスを作るにあたり私が生徒さんの体と心の状態を把握するためでもありますが、生徒さんに今の自分を客観的に観察してもらう目的もあります。最初にお伝えした「体と向き合うこと」につながっていますね。がんになったことや辛い副作用について自らの言葉で伝えられるのは、現実を受け入れ前に進んでいる証拠。これは、精神的な治癒に向けた大きな一歩だと思っています。

頑張り過ぎを卒業し、日常的に緊張と弛緩をコントロールできる自分に

――中里先生がご自身のがん体験を踏まえ、クラスを通して何を伝えたいですか?

私のがん体験を少しお話すると、自分で右乳房の異変に気付き病院を受診したところ、乳がんと診断されました。47歳のときです。乳房温存手術後はリンパ浮腫を発症し、ホルモン療法による関節痛やホットフラッシュ、うつなどの合併症も経験しました。がんの告知は、今振り返っても辛いですね。当時は病気になって「恥ずかしい」とも思いました。「体の変化に目を向けて」と生徒さんに言っておきながら、ヨガ講師の私が一番体と向き合えていないと思ってしまったから。私もそうですが、がんサバイバーには頑張り屋さんが多いんです。日常生活で頑張り過ぎて、頑張らなくてよい時にも頑張ってしまうから上手に力を抜けるようになってもらいたいです。クラスでは、意識的に体を緊張させることで力みに気付き、自分で力を抜けるようになるサポートをヨガポーズと呼吸法を用いて行っています。

もうひとつ、お伝えしたいことがあります。リハビリのためにがんサバイバー向けのヨガクラスに通う方は多いですが、私としては治療が始まる前から通ってほしいのが本音。術後多くは体の動きが制限されますが、かならずしも手術の影響だけとは限らず、日頃の運動不足も起因しているかもしれません。自分の体を知る意味で治療前からクラスに来ていただけたら。クラスでサバイバーの先輩たちがのびのびとヨガを楽しんでいる姿を見れば、がんになっても人生は終わらないという希望につながり、精神的にもいい影響があると思います。入院中、ベッドの上で行えるヨガもアドバイスしていますよ。

中里貴子さん
陰ヨガセラピスト。E-RYT500 YACEP リラックス&リニュー認定指導員、国際催眠連盟会員(ヒプノセラピー)。ヨガ指導歴は約20年、日本における陰ヨガ指導の第一人者。乳がん罹患を機にUTLでがんサバイバー向け「がんフレンズヨガ」を指導し、同スクールでは陰ヨガハタヨガ中級も担当。ほかに多摩エリアで「がん経験者のためのヨガ」などを指導。

ヨガは絶望からの「自立」を促せるのか|がんサバイバー向けクラス主宰者が伝えたい思い
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Text by Ai Kitabayashi



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