バレエを辞めても、私は「太っている」から自由になれなかった|連載 #Am I Fat? ヨガ講師のぐちかなこさん

バレエを辞めても、私は「太っている」から自由になれなかった|連載 #Am I Fat? ヨガ講師のぐちかなこさん
Poko
Poko
Poko
2026-10-17

「Am I Fat?」——私は太っていますか? あなたは自分の体を、太っていると思いますか? それとも、太っていないと思いますか? そもそも、その基準は誰が決めたのでしょうか。プラスサイズ女性を被写体に撮り続けてきた写真家のPokoが、さまざまな女性たちの体とその体にまつわる物語を通して、私たちが当たり前のように受け入れてきた「体型の価値基準」を問いかける連載。初回は、ヨガ講師ののぐちかなこさん。体と向き合うことを職業とする彼女が今、自分の体に思うこととは。

Google Newsでヨガジャーナルの記事が見つけやすくなります

Googleに登録する
広告

 「太っている」とは、誰が決めるのか

Poko: そもそも、この「Am I Fat?」がどんな企画なのか、最初に少しお話しさせてください。僕は15年ほど前から「ぽっちゃり女性専門写真家」として、プラスサイズの女性たちを撮影し、「痩せている=美しい」という価値観を問い直す作品を発表してきました。モデルは一般の女性たちで、主に公募で集まっていただいていたのですが、応募者の中には、僕から見るとそれほど太っているようには見えない方も少なくなかったんです。

「そんなに太っていないと思いますよ」とお伝えすると、「私は普通体型でもなければ、ぽっちゃりでもないんですね。撮ってもらえないんですね」「私の体型って、すごく中途半端なんですね」と言われることがあって。

写真に撮ったら、おそらく一般的には普通体型に見える。でも、ご本人は自分の体型をすごく気にしていて、自分は太っていると思っている。

そういう方を断ることに、だんだん苦しさを感じるようになったんです。それで、ご自身が太っている、ぽっちゃりしていると感じているのであれば、どんな方でも断らずに撮影するように変えました。

そもそも、どこからがぽっちゃりで、どこからが普通なのか。医学的な区分はあるかもしれないけれど、それと本人の感覚は必ずしも一致しないですよね。社会の価値観や時代によっても変わるし、本人の意識によっても変わる。見る人によっても違う。

「太っている」とは何なのか。その曖昧さについて問いかけてみたい、というところから始まった企画なんです。

のぐちさんはヨガ講師で、一般的に見れば、例えば電車に乗っていて「あの人はぽっちゃりしているな」と思われるような体型ではないように見えますが、ご自身ではどう思っていらっしゃいましたか?

「細いことが正義」の世界から抜け出して

のぐち:体型についてはずっと悩んできました。というのも、今私はヨガ講師として活動していますが、もともと、5歳から20年くらいクラシックバレエをやっていまして。

Poko: クラシックバレエは、体型管理がものすごく厳しいですよね。

のぐち: そうなんです。私は中途半端に「ちょっと上」のレベルにいたんですけど、その世界では、最終的に何が評価を決めるかというと、体の細さなんです。

細いことが正義なんですよ。体を揺らしても揺れるところがないくらいの細さが求められる世界で、私は常に「太っている人」でした。だから、舞台に乗せてもらえないこともありました。

結局、バレエを辞めて、結婚して、出産して。その世界から離れて10年以上経ってからヨガに出会ったんです。ヨガに出会って最初に一番嬉しかったのは「もう体型で自分をジャッジしなくていいんだ」と思えたことでした。ヨガはもちろん体も整えるけれど、結局は心を穏やかにしていくためのツールなんだと知ったときに、「じゃあ、もうこの”外側”に惑わされなくていいんだ」と思って、すごく嬉しかったんですね。

Poko
Poko
Poko

「ヨガ講師らしい体」ではない自分の体

のぐち: それからヨガの資格を取って、インストラクターになりました。大手ヨガスクールに、専業主婦から正社員として入社したんです。35、36歳くらいのときで、人生で初めての正社員でした。

いろいろな講座も任せてもらえるようになったんですけど、あるとき、講師のPRのために撮影が入ることになったんです。

講師が8人くらいいたと思うんですけど、スタジオで順番に撮影をしていて。私より後に入った先生も撮影に呼ばれているのに、私は撮影対象に選ばれていませんでした。「これは何の基準なんだろう」と思いながら、フロント業務をしていたんですね。

そうしたら、撮影を担当していた先輩講師から「かなこさんは、もうちょっとお痩せになった方がいい」と言われたんです。

そのときは、「ここも体型だったか」と思いました。ヨガは外側の美しさを競うものではなくて、心が大切なんだと教えている場所なのに、やっぱり見た目も求められるんだな、と。

Poko: ヨガの理念と、スクールとしてのPRやビジュアルづくりとの間には、難しい部分もあるんでしょうね。

のぐち: そうなんです。ダイエットを目的に通っている生徒さんもいらっしゃるので、外に見せる講師として、細い体型の人を起用したいという考え方も理解できるんです。

だから、先輩個人がどうこうということではなくて、ヨガの世界にもそういう価値観があるんだなと感じたことが、私にはショックだったんだと思います。

実はその先輩、後に部署を異動されるときに、「あのとき、あんなことを言ってしまったのがずっと気になっていた」と謝ってくださったんです。

その言葉を聞いて、先輩もあのときのことを気にかけてくださっていたんだなと思いました。

Poko: その頃は、今と比べてどれくらいの体型だったんですか?

のぐち: 今より5キロくらい重かったと思います。

Poko: それほど大きな違いではないですよね。

のぐち: ただ、今より若かったですし、体の張りもありました。比較すれば、確実に今より丸かったと思います。

Poko
Poko
Poko

「ヨガをする人は痩せている」という思い込みはどこからきたのか

のぐち: 一般の方から見ても、「ヨガ=痩せている」というイメージはあるようなんです。私が高校の同級生に「ヨガの仕事を始めたんだ」と話したら、「え、その体型でヨガやってるの?」と普通に言われたことがあって。「ああ、やっぱりヨガをやる人は痩せているというイメージなんだな」と思いました。

Poko: ヨガをやる人は痩せている、あるいはヨガを教える人は痩せているというイメージはどうして生まれたんでしょうね。日本にヨガが広まったときのイメージも関係しているんでしょうか。

のぐち: それはあると思います。日本でヨガがブームになったとき、華やかでスタイルのいい先生たちが目立っていたということもあるでしょうし。

Poko: 実際には、ヨガは体を整えるだけではないんですよね。

のぐち: そうなんです。実際にやってみると、違うんですけどね。

Poko: ヨガの精神性よりも、エクササイズとしてのイメージが強いんでしょうね。ヨガをやっていれば引き締まった体になるはずだから、そうなっていない人はちゃんとやっていないんじゃないか、というような。

のぐち: そうなんです。でも、ヨガをやったからといって、全員が同じクッキーの型で抜いたような細さになるわけではないですよね。骨格も体質も違うし、生活も違う。その人なりに健やかであれば、それでいいはずなんです。一人ひとりが「自分って、なんかいいじゃん」と思えて、ご機嫌で生きていけたら、それでいいんですよね。

Poko
Poko
Poko

欠点=欠かせない点、だと考えたら?

のぐち: とはいえ、私自身もまだ、どこかで劣等感を覚えることはあるんです。完全にゼロになったわけではなくて。というのも、広告などで前に出るのは、やっぱりモデルさんのような、スタイルのいい方が多いんですよね。

Poko: でも、そういう人ばかりを前に出すことで、かえってヨガをやってみたいと思っている人たちを遠ざけてしまっている気もしますよね。潜在的な生徒さんというか。

のぐち: 例えば、多くの方が目にする場所に貼られている広告には、すごくスタイルのいい方が登場しています。まずは「こんなふうになりたい」という憧れを持ってもらって、その次のステップで、もっと身近な、リアルな体型の先生を見て、「こういう人もいるんだ」「私でもできるかもしれない」と思ってもらう。

「憧れ」と「共感」という二つの入り口があるとしたら、私の立ち位置は、たぶん「共感」の方なんですよね。

Poko: そういう人がいることで、「自分もやっていいんだ」と思える人は、きっといますよね。

のぐち: 私も最初にヨガスクールで講師を始めたときは、ちゃんと痩せていなければいけないとか体型を意識しなければいけないとか、ずっと思っていました。でも、そうなれない自分は劣っているんだと思いながら仕事をしていると、すごく息苦しくなってしまって。レッスンをすること自体も、だんだんつらくなってきたんです。

でも、あるとき「自分が欠点だと思っていることを、"欠かせない点"だと思ってみたらどうだろう」と考えたんです。私がこの体型だからこそ、伝えられることがあるんじゃないか。この見た目だからこそ、感じてもらえるものがあるんじゃないかって。

自分を卑下するのではなくて、そのままの私でいることによって、親しみを感じてもらえたり、共感してもらえたり、「私でもできるかも」と思ってもらえたりする。ヨガに対するハードルを下げることができるんじゃないかと思ったんです。

すごくスタイルのいい先生が「誰でもできますよ」と言うのと、私のような丸みのある体型の人が「誰でもできますよ」と言うのとでは、受け取る側の印象も違うと思うんですよね。そういう入り口に、私はなれるんじゃないかって。

Poko: それは、自分自身のロールモデルとしての価値に気づいたということでもありますよね。

誰もが同じ体型になれるわけではないし、そもそも、なる必要もない。でも、細くてスタイルのいい人ばかりがロールモデルとして提示されていると、そこに自分を重ねられない人は、どんどん自分を否定してしまうかもしれない。いろいろな体型の人がいることで、「こういう自分でもいいんだ」と思える人が増えるわけですよね。

*インタビュー後編に続きます

Google Newsでヨガジャーナルの記事が見つけやすくなります

Googleに登録する
広告

All photos by Poko

RELATED関連記事

Galleryこの記事の画像/動画一覧

Poko
Poko
Poko
Poko
Poko
Poko
Poko
Poko
Poko