「500年という少し朧げな未来に手をかけて」齋藤紘良さんインタビュー〈後編〉

前編では、簗田寺を舞台に新たにスタートした「500年の学校」について、校長である齋藤紘良さんにそのきっかけや、人との関わり方について教えていただきました。後編では「YATOプロジェクト」のキーワードでもある「500年のcommon」から、その真意をお聞きしました。

ーー「500年のcommon」とありますが、私たちは何を共有していくことができるのでしょうか？

commonというのは、プライベートでもパブリックでもない中間にある、という意味を込めてつけた名前です。そのcommonというものを、500年間でみんなでつくりあげていくというイメージでやっています。

私は生まれ育ったこのお寺が大好きです。それにこの「簗田寺が大好き」という思いは、私だけでなくいろいろな人が持てると信じているし、希望があります。そのお寺をみんなが好きで、大事にしてくれているということをcommonにしたいというのが原動力です。その時に、所有欲というのが私にはあまりありません。もちろん欲しい物はたくさんありますが、自分が握ったままにしておくのはあまり好きではありません。握っているのは、たまたま今握る必要があるから握っているのであり、永久ではないという思いがあるからです。

ですから、簗田寺の副住職であり、今後もしかしたら住職になるかもしれないときに、そのある一定の人が握り所有してしまったら、その場もcommonも失われると思っています。だから、大切にしたいという思いはあるけれども、大切にしながらいかに手放すかを考えていくことが、commonを成り立たせる唯一の方法なのかなと考えています。その感覚に乗ってくれる人と一緒に、この場所を守って大切にしていきたい。それをふまえた上での500年のプロジェクトです。

ーー“500年”というのは、500年先の未来を想像してということですか？それとも、500年先に続く現在を見つめてということですか？

500年というのはメタファーで、ずっと先というイメージです。ですから、真に見つめているのは1万年後ぐらい先です（笑）。私が想像できるギリギリの範囲の、1万年ぐらいを見ています。

ですがそれと同時に、仏教的な考え方で「三界萬霊」というものがあります。それは、過去・現在・未来が今同時に起こっているという感覚のことです。だから「500年先のこと？」という質問に対しては「イエス」です。なぜなら、500年後のことも今のことのように目の前で起こっているから。そしてまた、500年前の人にも、私はこの山や環境をどのようにつくったのか問いかけています。それはつまり、500年の人と一緒にコラボレーションをしているというような感覚なのかもしれません。

500年後のことを考えるということは必然的に自分以外の人たちのことも考えるということになりますよね。それは人と人との繋がりを考えていくことであり他者を自らの視野に招いていくことであります。他者を招くということは具体的なプランよりも余白があるほうが可能になりやすい。100年だとうっすら手が届いてしまうので、500年という少し朧げな未来に手をかけてゆくということは、つまり誰かと共有するものを創っていくということ。それが共有知commonsなのかなと思います。

YATO『500年の学校』

1年間プログラム（第2期）
期　間｜2025年11月～ 2026年10月
日　程｜全12回／毎月第1日曜日 ※11月、1月のみ、第2日曜日
募集人数｜20名
対　象｜18歳以上
時　間｜10:00～16:30（昼食付き）
受講料｜月額22,000 円 ×12回（通年コースのみ）
会　場｜簗田寺（東京都町田市忠生2丁目5－33）
募集期間｜2025年6月11日～2025年9月末日　※定員に達したため、現在キャンセル待ちとなります
お問合せ先｜yato@ryoudenji.net
詳細・WEBサイト｜https://yato500.net
note｜https://note.com/yato_500

主催｜簗田寺　@ryoudenji
企画・制作｜株式会社マザーディクショナリー　@motherdictionary
協力｜合同会社めて

プロフィール　齋藤紘良さん

1980年生まれ。しぜんの国保育園などを運営する社会福祉法人 東香会理事長。寛永6年（1629年）に建立された簗田寺の副住職、楽曲提供やバンドCOINNで活動するプロミュージシャンなど多彩な顔を持つ。全国私立保育連盟研究企画委員、和光高校「保育と教育」非常勤講師（〜2023年）大妻女子大学家政学部児童学科講師（2023年〜）