「誰もが生きやすい社会」のために何ができるか|Ontenna開発者・本多達也さんの思い

 「誰もが生きやすい社会」のために何ができるか|Ontenna開発者・本多達也さんの思い
画像提供:富士通株式会社

<日常に埋もれた感覚を掬い上げる>をキーワードに、さまざまな領域で活動される方へのインタビュー企画。大人になると、いつのまにか「当たり前」として意識の水面下に沈んだ感覚たちを、一旦立ち止まり、ゆっくりと手のひらで掬い上げる試みです。第7回目は、富士通 Ontennaプロジェクトリーダーの本多達也さんにお話を聞きました。

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本多さんは、学生時代に聴覚障害者のためのデバイス「Ontenna(オンテナ)」の研究を始め、富士通に入社したのち製品化を実現しました。Ontennaとは、周囲の音を振動と光に変換することで、耳が聞こえない人でも音の大きさやリズムを体感できるようになるデバイスです。今では全国8割以上のろう学校に導入されています。

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本多さんは現在、富士通に所属されながら、2022年11月からデンマーク・デザイン・センターにてゲストリサーチャーとして勤務しています。

ーーなぜデンマークだったのでしょうか?

デンマークについて、これまでじつはそんなに意識をしたことはありませんでした。LEGOやロイヤルコペンハーゲンといった、なんとなくのイメージはありましたが。いちばん大きかったのは、デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)の共同代表である西野弘さんにご紹介いただき、デンマーク・デザイン・センター(以下DDC)の当時のCEOである、クリスチャン・ベイソンと出会った事です。私はもともと、Ontennaや※エキマトペのように、当事者と一緒につくっていくということを大切にしてきました。そんな中で、DDCはCo-Creation(共創)つまり、いろんなバックグラウンドの人たちを巻き込んで、同じ方向を向かせていくスペシャリストだという話を聞いて。それで彼に「ぜひ学ばせてください!」とお願いをして、ゲストリサーチャーというポジションを用意してもらうことができました。

その一方で、富士通を説得するのがすごく大変で(笑)。それでも、デンマークがデジタル先進国やスマートシティであること、(IMD)世界競争力ランキングでも2年連続1位など、会社にとっても魅力がありました。ですから、小国ながらこのような価値を生み出す秘訣を学ぶことで、企業や社会に還元する意義を理解してもらうことができました。そして私は、Ontennaの世界展開と、共創デザイン研究をするためにデンマークへと渡りました。

※エキマトペとは、駅のアナウンスや電車の音といった環境音を、文字や手話、オノマトペとして視覚的に表現する装置のこと。JR上野駅などで実証実験を行った。

画像提供:富士通株式会社
左側の建物の一角に、DDCのオフィスが入っている/画像提供:富士通株式会社

ーーデンマークでの取り組みについて教えてください

いま勤めているデンマーク・デザイン・センター(以下DDC)は、半官半民の研究機関です。デンマークには、日本でいう経産省や厚労省のようにデザイン省があります。もともとは、モノやロゴなどのデザインをしていたところから、組織や政策といった目には見えない仕組みのデザインにシフトをしています。

ここでは毎日のようにワークショップが繰り広げられ、バックキャスティングという手法をよく使っています。バックキャスティングとは「どういった未来でありたいのか」を描いて、そこから「今をどう変えていくか」を考える手法のことです。これはなかなか難しいことですが、それを支えるツールをつくったり、手に触れられる形でアウトプットをしています。たとえば、写真にあるピンク色のボトルは、塗ると抱きしめられているような感覚になるジェルです。これはあくまでも仮想のプロトタイプですが、高齢化社会の問題に関するワークショップの中から出てきました。

画像提供:Danish Design Center
ピンク色のボトルがジェル/画像提供:Danish Design Center

デンマークでは、触れられる感覚が欲しくてただ病院に来る高齢者がいたり、コロナになって、抱きしめられる感覚について人々が考えるようになったりしているそうです。また今は、AIによって多くの人の仕事が転機点にあります。ですが、介護職やデイケアといった肌と肌とが触れ合う仕事こそが大事な仕事なのでは?という再定義をここで行いました。そして、生まれたのがこのプロトタイプです。

これは同時に、ただジェルを塗って抱きしめられる感覚を得たら、それで本当にいいのか?という問いも生み出しています。このように、目の前の課題をすぐに解決するというよりも、そこから問いを出して、考えるきっかけをつくる。このように、人々の心を動かしながら、手に触れられる形にしていくことが上手いのが、DDCの特徴だと思います。

ーーワークショップには、どのような人が参加するのでしょうか?

参加者はテーマによって異なりますが、意思決定者が毎回参加するというのがおもしろいポイントです。たとえば、デンマークでは若者の自殺が深刻な問題になっていて、若者のメンタルヘルスに関する回がありました。その際には、教育庁の担当者や学校、あるいはコールサービスのトップなどが参加します。ですから、ワークショップと言っても、意味合いがちがうような気がしています。もう少し、意思決定あるいは認識を合わせる場という感じです。意思決定者がちゃんと参加するのは、そういった社会システムがあるからこそですが、ここは日本と異なる印象です。

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オフィスにてワークショップの様子/画像提供:富士通株式会社

その一方で、意思決定の透明性が高められる分、責任が全て自分に降りかかる厳しさもありますよね。あなたが決めたことでしょ?と。それに、もしやりたいことがなかったら、社会にとって自分の必要性を見出せなくなるぐらい、自由に選択することの厳しさもある。かと言って、生まれた環境によって自分の夢が叶えられないというのも、ちがうように感じます。だからこそ、豊かさとは何か?ということについても、改めて考えさせられます。

▶️後編では、デンマークでの暮らしを通して感じていることをお聞きします!

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大河内千晶

大河内千晶

1988年愛知県名古屋市生まれ。大学ではコンテンポラリーダンスを専攻。都内でファッションブランド、デザイン関連の展覧会を行う文化施設にておよそ10年勤務。のちに約1年デンマークに留学・滞在。帰国後は、子どもとアートに関わることを軸に活動中。



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