「お母さんは自分を犠牲にしなきゃダメ?」子育てだけに専念しようと思った漫画家が辿り着いた答え

『正しいお母さんってなんですか!?〜「ちゃんとしなきゃ」が止まらない! 今日も子育て迷走中〜』(幻冬舎)より
『正しいお母さんってなんですか!?〜「ちゃんとしなきゃ」が止まらない! 今日も子育て迷走中〜』(幻冬舎)より

テレビ局で働きながら、漫画を描いている真船佳奈さん。『正しいお母さんってなんですか!?〜「ちゃんとしなきゃ」が止まらない! 今日も子育て迷走中〜』(幻冬舎)は、外出時に周囲の目が気になる一方、優しく声をかけられたことの喜び、「ママ友」との付き合い方、夫が忙しくてどうしてもワンオペにならざるを得ない……など、共感のエピソードがギャグたっぷりで笑いながら読めるコミックエッセイです。インタビュー後編では、「ママ友」の考え方や、漫画の制作を再開したときのことなどをお伺いしました。

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夫が本当に忙しくてワンオペ

——夫さんが一緒にいるときは少し安心できるということも描かれていましたが、母親と子どもだけだとナメてくる人がいる問題というのはネットでも見かけますが、実際に感じることはありましたか?

感じることはしばしばありました。夫がいると、まるで用心棒を一人連れているような安心感があります。単に味方がいるという利点に加えて、出産直後の女性と生まれたての赤ちゃんという、臓器丸出しみたいなか弱そうなペアから、成人男性が一人加わることで、周囲からの見られ方が変わると感じました。

幸い、私はまだ子どもといる時に「ぶつかりおじさん」に会ったことがなく、怖い人に絡まれたこともないのですが、親子二人だとびくびくすることも多くて、夫がいてくれると心強かったです。

——夫さんがとても忙しくて、どうしてもワンオペにならざるを得ないことも描かれていましたが、こうしていてよかったことと、こうすればよかったと思うことはありますか?

前作の『令和妊婦、孤高のさけび! 頼りになるのはスマホだけ?!』では、夫との衝突を描いていますが、あれはまだ衝突する余地があったというか。私たち二人とも育休中だったので、同じ土俵にいたんです。どちらも休みなのに、なぜ夫だけマイペースなのかということで喧嘩になる、割とよくある出来事でした。

育休が明けた瞬間、状況は一変します。今の社会ではまだ、制度上は変わりつつも男性は育休から戻った瞬間に子どもができる前と同じように働き続けなければならないケースも多いのではないかと思います。うちの夫もその一人で、途端に深夜まで帰ってこない生活が始まりました。そうなると私は「家のことは全部私がやらなければ」と一気に背負い込んでしまいました。

そのため多忙な夫に育児の相談もできず、喧嘩すらできない状態でした。今考えると、それは夫婦として不健康だったと思います。夫がどんなに忙しくても、帰ってくる家のことについては知っておきたい部分もあったはずですし、私もきちんと話して適切にSOSを出せていれば、入院するところまではいかなかったかもしれません。

私の場合は入院が良い方向に作用しましたが、家庭のことについては今まで以上に綿密に話し合い、SOSを出したり、自分の気持ちを言葉にしていくことが大切だと感じました。

「ママ友」との付き合い方

——真船さんは気の合うママ友に出会っていますが、子育てをきっかけとしつつ、気が合う友人を見つけるためには、どんなことが必要だと思いますか?

難しい問題ですね。そもそも「ママ友」が必要かどうかという議論もありますが……。

私は今でも作中に登場した「舞さん」以外のママ友がいません。孤独を解消するため、一緒に行ける場所を増やしたり、心強い仲間がいることで外出しやすくなるなら、積極的に友人を作った方がいいのかもしれませんが、一概には言えないですね。

私は「ママ友」というカテゴリーで「変に個性を出して危険因子だと思われたくない」という気持ちが先行して、本音が話せなくなっていました。あと、ママ友の世界では「〇〇くんママ」というように、自分の名前で呼ばれないこともよくあって。同い年の子どもがいる、という理由だけで知り合い、お互いのバックグラウンドを知らないまま付き合うことになります。

本当は母親たち個人の個性を知りたいのに、そういう話題自体を嫌だと思う人もいるんじゃないかと、探り探りになって疲れてしまいます。「このお母さんとまた会いたい」と思う人がいたら、もっと踏み込んでよかったと思いますし、自分の個性を出して、それで距離を置かれるなら、合わない相手だったということです。

赤ちゃん時代は子ども同士でまだ一緒に遊べないので、もっと自分の気持ちを大事にしてよかったと思います。普通の友達を作る感覚で、もっと相手を信頼して、腹を割って話せていたら、ママ友ももっとできたかもしれません。ただ体力もいることなので、現状私は一人の友人がいれば十分だと思っています。

——本のタイトルに「子育て迷走中」とありますが、特に難しいと感じた子育ての局面や、逆にこれで良かったと感じた瞬間をお聞かせください。

難しいと感じることとしては、赤ちゃんの時期は「生かす」という、育児というより世話をする段階で、明確にやることが決まっていました。「今日も生きていたらOK」というラインでした。

子どもが自分でできることが増えてくると、「世話」から本当の意味での「育児」へとステップアップし、いつどう叱るべきかという躾の線引きや、どう伝えれば理解してもらえるかなどのコミュニケーションを考えなければならず、そこに難しさを感じています。子どもだからわからないこともあるし、大人の都合で作られたルールもあります。自分が子どもの頃は親の言うことが全部正しいと思っていましたが、実は親も悩みながら育ててくれていたのだと今はわかります。

良かったと感じる瞬間としては、私は「まあいっか」とよく言いながら適当に生きているのですが、息子がそれを真似して「ママ、“まあいっか”だよ」と言ってくれるようになりました。自分が落ち込んでいるときに「それは“まあいっか”だよ」と息子に言われると、本当にその通りだと思います。

息子に励まされながら、自分も自分を許せるようになり、将来息子が悩んだときにこれじゃなきゃダメだ、ではなく「“まあいっか”だな」と思えるなら人生100点だと思います。そういう考え方を息子が持ってくれたのでしたら、これでよかったと感じています。

『正しいお母さんってなんですか!?〜「ちゃんとしなきゃ」が止まらない! 今日も子育て迷走中〜』(幻冬舎)より
『正しいお母さんってなんですか!?〜「ちゃんとしなきゃ」が止まらない! 今日も子育て迷走中〜』(幻冬舎)より

「私は恵まれているから我慢しなきゃ」と悩んでいる人へ

——入院中に漫画を再開したことがメンタルヘルスの回復に大きな影響があったと感じましたが、「お母さんは子どものために犠牲にならないといけない」という考えについて、真船さんの今のお考えをお聞かせください。

「お母さんになったら自分のことは二の次で、子どもを第一にしなければならない」という風潮はまだあるのかな、と感じています。例えば、「お母さんが子どもを誰かに預けて自分の趣味の用事に出かける」という出来事に対して、「子どもを差し置いて自分を優先するなんて…」といった抵抗の意見を見聞きすることはあります。「子どもはお母さんと一緒にいるのが一番幸せ」、という思想からくるものなのだと思います。

でも私は、お母さんになるために自分の感情も全部抑え込む時代はもうおしまいにしたいなあ、と思っていて。「子育てのためにみんな我慢しなきゃいけない」と言う気持ちのまま育児をすることは、親にとっても、子にとっても幸せなことではないな、と。

子どもを可愛い、と思うためには、心の余裕が絶対に必要で、そのために自分の世界を持ち続けることは、ある意味「努力義務」かもしれません。私自身も「子育てだけに専念しよう」と漫画をあまり書かなかった時期がありましたが、人間はそんなに単純ではありません。30年以上かけて培ってきた好きなことや欲求は、簡単には諦められないものです。

そういったものを我慢し続けると、叶えられなかった欲求を子どもに押し付けたり、子育てに対する視野が狭くなってしまったり、過干渉になってしまったりすることもあるかもしれません。自分の叶えられなかった夢を子どもに押し付けてしまう、という話も珍しくはないかもしれません。自分を抑圧するストレスから心身に不調をきたすくらいなら、あらゆる手を尽くして自分の時間を持ちたいと私は思っています。

自分の世界を持ち続け、いつか息子にも自分の好きなことを見つけてほしいから、私は自分の好きなことをやっている姿を子どもに見せる、そういう教育をしたいと思っています。

もちろん「子育てが好きで生きがいだから、子育てに集中したい」という考え方の人もいます。それは素晴らしいことだな、と思っています!

でも、私のように子どもを持ってみたいけど、今の人生も好きだなと思う人もいるでしょう。そういう方に向けて言いたいのは、決して自分の人生を諦める必要はないと思います。お母さんもお父さんも自分らしい道を歩みながら子育てができる社会になれば、みんな安心して子どもを産み、好きなことを諦めずに生きていけると思います。

——「私は恵まれているから」と悩まれたことが描かれていましたが、今そう思っている方がいたら、どんな声をかけますか?

私も複数人子どもがいたり、実家が遠いなどで誰にも頼らず子育てをしている人を見ると「本当にすごい」と思いますし、「それに比べたら私は子どもが一人だから楽なのに…」と思ってしまい、SOSを出すのを憚った時期もありました。でも、子どもの人数や実家の近さなど、いわゆる「恵まれた環境にいるかどうか」を比較してするのではなく、大事なのは「自分の気持ち」だと思います。

SNSで自分より恵まれた境遇にある人が「育児がつらい」と言っているのを見ると、「私はもっと大変なのに」と言いたくなる気持ちもわかります。ですが、他のお母さんとの比較は関係なく、自分が今どう感じているか、その環境でつらいと思っているのか、どうしたいのかが一番大切です。

家庭によって状況はまったく異なります。周囲から「恵まれている」と見えていても、見えない部分ですごく大変だったりする。子どもの数や親の住まいの近さ、経済状況にかかわらず、大変なときは大変。どんな境遇の人もヘルプを求めて「大変なんです」と言える環境になるといいと思います。

『正しいお母さんってなんですか!?〜「ちゃんとしなきゃ」が止まらない! 今日も子育て迷走中〜』(幻冬舎)
『正しいお母さんってなんですか!?〜「ちゃんとしなきゃ」が止まらない! 今日も子育て迷走中〜』(幻冬舎)

【プロフィール】
真船佳奈(まふね・かな)

2012年にテレビ東京に入社。 バラエティ番組のADとして働いてきた経験をモチーフにした 『オンエアできない!~女ADまふねこ(23)、テレビ番組つくってます~』(朝日新聞出版)で漫画デビュー。2022年には自社でアニメ化も。 現在はテレビ東京のプロモーション部で働きながら漫画家としても活躍中。 ほかの著書に『オンエアできない! Deep』(朝日新聞出版)『今日もわたしをひとり占め』(サンマーク出版)『令和妊婦、孤高のさけび! 頼りになるのはスマホだけ?!』(オーバーラップ)がある。 Xアカウント:@mafune_kana

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