ヨガ的メンタルヘルスガイド【コロナ禍で「健やかな心」を保つためのヒント】

 ヨガ的メンタルヘルスガイド【コロナ禍で「健やかな心」を保つためのヒント】

ヨガジャーナルアメリカ版の人気記事を厳選紹介!今、世界中の人々が新型コロナウイルスのパンデミックと闘っている。専門家によると、私たちが次に直面するのは未曾有のメンタルヘルス危機だという。本記事では、コロナ禍でも健やかに成長し続けるための最新科学や専門家の助言、心を癒す実践を『ヨガジャーナル日本版』76号、77号に渡って紹介する。

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この18カ月、恐れや不安、絶望、暗い気持ちにさいなまれているのは、あなただけじゃない。ウイルスの世界的流行、社会不安や失業、低迷する経済、さらには数え切れないほどのZoomミーティングなど、はっきり言って散々な1年半だ。
米国心理学会(APA)によると、この致命的なコロナウイルスのパンデミックはワクチン接種の普及によって転換点を迎えたものの、まだ収束にはほど遠い。
APAの最高経営責任者、アーサー・C・エバンス・ジュニア博士は「パンデミックに伴う長期的なストレスが、悲しみやトラウマや孤立感によってさらに増大していることを危惧しています」と述べている。APAが実施したストレスに関する最新の調査によると、アメリカの成人の67パーセントがパンデミック以降、睡眠の質が悪化し、約4分の1の人がストレス解消のための飲酒量が前よりも増えたと回答している。
『ヨガジャーナル』初のメンタルヘルス調査でも同様の結果が出ており、アメリカ版読者の大多数が以前よりも不安(66パーセント)や心配(56パーセント)を感じていることがわかった。
これらの数字が示している精神衛生の危機的状況は、今後何年にもわたって精神的、肉体的に深刻な影響を及ぼすと思われる。
ヨガや瞑想、マインドフルネスが精神的な不調や感情のコントロールに役立つことは、多くの研究で明らかになっている。だが『ヨガジャーナル』読者の半数以上が過去1年間にストレス、不安、気分の落ち込みなどの理由でヨガを中断したことがあると答えている。確かに、悩んでいるときに自分の思考に寄り添う余裕なんてないかもしれない。でも忘れないでほしい。気が進まなくても、ひとたび練習に戻れば自分自身の治癒能力に気づくはずだ。
「どのような経験をしても、それがあなたという人間を決めるわけではありません」とリーダーシップと〝小さな習慣メソッド(Tiny Habits)〞の認定コーチのアミット・ライカーは言う。「困難な状況に陥っても、あなたの心の奥の本質は既に完全な存在であることを忘れないでください」
その完全性を取り戻せるように、私たちはヨガ実践者のためのメンタルヘルスガイド決定版として、この特集を組んだ。専門家によるカウンセリング(調査時点では36パーセントの人々が利用していた)に代わるものはないが、心理学者や一流のヨガ・瞑想の指導者たちによる最新の研究、アドバイス、実践が満載のこの記事を活用して、より明るい明日を迎えてほしい。
 —リンゼイ・タッカー

落ち着きを育もう:不安を解消する方法

落ち着きを育みたいとき...

昨年の春にロックダウンが数週間行われる可能性が出てきたとき、私たちはスナックを買い込んでリトリート(短期間の隔離生活)に備えた。当時はこんなに長期にわたって規制措置がされるとは思いもしなかった。パンデミックが長引くにつれ、不安症状を訴える人が急増した。米国疾病予防管理センター(CDC)によると、調査対象者の約40パーセントが精神的な不調があると回答しており、その数はなんと前年の3〜4倍にものぼる。
応用心理学者で、ヨガ療法士、E・RYT500ヨガ指導者のダイアン・マラスピーナ博士は、このような状況下で不安(心配、緊張、気分が落ち着かない)を感じるのは当たり前で、異常ではないと話す。結婚式の準備や離婚などストレスがかかるライフイベント(ポジティブとネガティブなものの両方)に際して不安が増すことはある。だが、ストレスフルな状況が終わっても心配事が消えない場合は、全般性不安障害(GAD)の可能性がある。

ストレスが体に与える影響
身の危険を感じると、体はストレス要因に対処するためにホルモンを分泌する。脳は本能的に闘争、逃走、凍結の反応を始め、心拍数が上昇して呼吸は浅く速くなる。脅威がなくなれば、少なくとも次の脅威が発生するまで、体のシステムは正常に戻る。
だが「脅威」が継続していて、容易に逃げられない危険な状況に容易に逃げられない危険な状況にある場合、私たちは完全にリラックスすることができない。ストレスホルモンが増え続けて全身に負担がかかり、高血圧、心臓病、胃腸障害、免疫力低下などの慢性的な健康問題を引き起こすリスクが高まる。
「不安を抱えている患者には、頭痛や背中の痛み、肩や背中の緊張などの身体症状がみられます」と、ノースカロライナ州の臨床カウンセラーでRYT200ヨガ指導者のジョネット・ウォルサーは言う。「身体的な不調に見えるので、不安によるものだと気づかないのです」

ヨガでリセット
幸いなことに、ヨガは昔から不安を和らげる手段として用いられてきた。マラスピーナ博士によると、その効果は科学的にも裏付けられており、医療従事者たちも患者の治療プランにヨガを取り入れ始めているという。
ネガティブな思考パターンをリセットするのに役立つマインドフルネスの実践や、迷走神経を整える動きや呼吸法(後ページ参照)は、不安を抱える人に特に有効だという。
突然不安に襲われたときは、取り急ぎランニングや散歩をしたり、呼吸に気を配るだけでも頭がすっきりする。その後、準備ができたら瞑想などのマインドフルネスの実践や、ナーディショーダナ(片鼻呼吸法)のような呼吸法を行うとよいだろうと、彼女は説明する。
 —タマラ・ Y ・ジェフリーズ

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落ち着きを育もう

カモミールは昔から安眠に効くとされてきたが、長期的な不安を和らげる効果も期待できる。ペンシルベニア大学の研究者によると、医薬品グレードのカモミールエキス500㎎を1日3回摂取した人は、不安症状が軽くなり、副作用もほとんどなく、摂取をやめた後の再発までの時間が長いことがわかった。その後の追跡調査でも、カモミールを摂取した被験者は、プラセボを摂取した被験者よりも不安症状が少ないことが確認された。さらに健康効果として、摂取者の血圧低下や体重減少がみられたという報告もある(「幸福感をもたらすレシピ」を参照)。

落ち着きを失わないために

心のバランスを保つために、専門家が勧める不安を和らげる習慣を参考にしよう。

1.座ったままでいない
不安感が強いときに黙想やシャヴァーサナ(亡骸のポーズ)を長く続けると、かえって動揺することがある。「私のまわりの人の多くは、たとえ5分でも瞑想クッションに座ると緊張してしまいます」とE-RYT500ヨガ指導者で臨床精神衛生カウンセラーのリン・ビーゼッカーは言う。代わりに、穏やかなヨガフローで体を動かしたりストレッチをしてみよう。 

2.1つのことに集中する
「私たちの社会は最大化やマルチタスクを好む傾向にある」と、ビーゼッカーは言う。だがそれでは刺激が強すぎて不安に陥りやすい。代わりに、一度に1つのタスクに集中しよう。「犬の散歩に行くなら、ただ犬を散歩させればいいのです。歩きながらポッドキャストを聴いたり、ほかのことをする必要はありません」と彼女は説明する。

3.姿勢に気をつける
精神的な問題が原因で姿勢が悪くなるのか、それとも姿勢の悪さが精神衛生に影響するのか、専門家にもよくわかっていない。いずれにしても、シャラバーサナ(バッタのポーズ)、ウシュトラーサナ(ラクダのポーズ)、ゴムカーサナ(牛の顔のポーズ)などのポーズは首の緊張を和らげ、肩を開き、背中を鍛えるのに役立つ。

4.睡眠をとる
睡眠不足は不安を悪化させることが複数の研究でわかっている。また、夜寝ていないと朝寝坊しやすくなり、さらに気持ちがふさぎやすくなる。7~8時間眠れる時間に就寝するようにし、慌ただしい朝を過ごさないように早起きをしよう。

ストレスを解消する

「さあ、呼吸をして」
不安や興奮を感じている人がいたら、私たちはまずこのように声をかける。これは本能的な行為であるだけでなく、科学的な裏付けがある。
スタンフォード大学の神経生物学者であるアンドリュー・ヒューバーマン博士は「生理的ため息」と呼ばれる、心を落ち着かせる呼吸法を提案している。やり方は、まず鼻から息を吸い、さらに少し息を吸う。その後、口から長く息を吐きだす。これを3回繰り返す。
博士の研究によると、この呼吸法をわずか40秒行うだけで心拍のペースが遅くなるという。
この習慣は生まれつき備わっているようだとヒューバーマン博士は述べている。自己鎮静行動として、私たちは普段から睡眠中や一日のなかで無意識に行っている。これはストレスによって肺や血液中の酸素と二酸化炭素のバランスが崩れたときに体が自ずと行う対処法なのだ。

不安への対処 

不安の基準は人それぞれだ。自分は気にならなくても、ほかの人にとってはトラウマになる場合がある。とはいえ、これらの対処法はよくある不安の解決に役立つだろう。

不安の例:
「パートナーが私に暴言を吐くようになった。毎日びくびくしながら過ごしている」
対処法:

「危険を感じたときに、とっさに逃げたり、身を守るのは当然の反応です」とジョネット・ウォルサーは述べている。優先すべきことは、身の安全を確保すること。心的外傷後ストレス障害の症状がある場合は、マインドフルと洞察の実践に加えて、カウンセリングを受けよう。トラウマを抱えている人にとっては必ずしも黙想が最善とはかぎらず、アーサナや動きのある瞑想のほうがいい場合もある。

不安の例:
「有色人種なので、特定の地域や店に行くのが怖い。最近は教会でも安心できない」
対処法:

「その恐れや不安は、有色人種であるが故に何か悪いことが起こるかもしれない、という知識に根ざしています」とウォルサーは説明する。多様な文化に理解のあるカウンセラーに相談すれば、不安が和らぐかもしれない。「そんなことは起こらないと頭ごなしに言う人や、そんなふうに感じるべきではないとあなたを否定する人は避けてください」と彼女は言う。さらにサポートが必要な場合は、有色人種のためのヨガや瞑想のグループを探してみよう。

不安の例:
「私は健康で安全で、すべて順調です。でもなぜか不安で目が覚めることがあります」
対処法:

自覚していなくても、不安になるのには必ず理由がある。カウンセラーのもとで、認知再構成法を試そう。「つまり、無意識に繰り返されるネガティブな思考に気づくための手助けです」とダイアン・マラスピーナ博士は言う。不安な考えを日記に書きだしたら、意識的にポジティブな考えや中庸な考えと置き換えてみよう。それによって無意識下の心配事を根こそぎ取り除き、ほかのことに集中できるように脳を鍛え直すことができる。
 —タマラ・Y・ジェフリーズ

デジタルデトックスを意識する

グループチャット・スラックやメールやインスタグラムのフィードすべてがポケットの中のスマホに入っているのは便利ではあるが、それには心理的、精神的な代償が伴う。ピュー研究センターの調査によると、アメリカ人の20パーセント以上が、毎日受け取るデジタル情報の量に圧倒されていると回答している。また、学術誌『Computers in Human Behavior』では、ソーシャルメディアを利用するほど、気分の落ち込みや不安が増すと報告されている。
でも大丈夫。画面を見る時間を制限すればいいのだ。「仕事に関係のないソーシャルメディアを避けたり、1日の利用時間を制限したり、起床時と就寝前はスマホやメールを見ないようにするなど、一見小さな変化でも大きな効果がある」と『デジタル・ミニマリスト:スマホに依存しない生き方』の著者であるカル・ニューポートは述べている。『Journal of Social and Clinical Psychology』で2018年に発表された研究によると、ソーシャルメディアの使用を3週間にわたって1日30分に制限したところ、孤独感と憂鬱感が減少したという。
では、テクノロジーとのつながりを保ちながら、疲労感を最小限にするには? 
ぜひヨガを利用してほしい。八支則の第二段階ニヤマは自己探求を促し、第五段階プラティヤハーラは、意識や感覚を外界から自分の内側に向ける機会を与えてくれる。次に自分がドゥームスクローリング(ネットでネガティブな情報を読み続ける)にはまっていると気づいたら、以下のマインドフルな実践を日常生活に取り入れてみよう。

タイムラインから距離を置く
ソーシャルメディアから離れると、大切な人と別の方法でつながるようになり、個人的な実践の時間も増やせる。画面をスクロールする代わりに自己探求や創作活動に取り組んでみよう。ヴィンヤサ・フローに身をゆだねたり、マインドフル・ムーブメントを実践したり、ただ自然の中で過ごすのもいいだろう。

自分と向き合う
自分の気持ちがどこからきているのか自問自答してみよう。そしてSNSに投稿する代わりに、自分の内なる思いを書き出す。ディヤーナ(瞑想)や観照を通じて自分の感情を処理する時間を設けよう。

ソーシャルメディアでの意図を設定する
投稿する前に、「なぜ投稿するのか?」と自問してみよう。重要な問題についてデジタルコミュニティに情報を提供したいのか、それとも注目や賞賛を集めたいのか?正直になろう。そして、グラウンディングする呼吸法を行って自分の中心的価値観に立ち返り、世界に発信したいという思いから、ぶれない行動をとろう。

フォローではなくコミュニティを重視する 
自分の作品をアピールするために、オンラインで観客を集めることに時間を費やしていないだろうか?そうではなく、既存のコミュニティにとって意味のあるコンテンツづくりにエネルギーを注ごう。自分を支えてくれる人々に気づき、彼らとの関係を育むようにしよう。

完璧であるよりも今に身を置く
どこにいても、最高の写真を撮ろうと必死になるのではなく、今この瞬間に完全に身を置く練習をしよう。自分のためだけの瞬間があれば、それで十分なのだ。自分が幸せで平和なら、バランスのとれた精神的な強さを保てるようになる。

自分を愛する練習をする
自分の価値を「いいね」の数で測っても、精神的な豊かさにはつながらない。自己肯定で自分を元気づけたいときは、瞑想をしたり、ホームスパをしたり、感謝の日記を書いてみよう。

休息する
研究によると、ソーシャルメディアは人間の自然な睡眠パターンを乱すため、結果として睡眠の質が下がり、一日中疲れを感じやすくなる。時間外の仕事のメールは、あなたの健康よりも緊急度が低い。意識的に休息をとるようにしよう。
  ̶モニカ・カデナ

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デジタルデトックスを意識する

呼吸で穏やかさを取り込み、恐れを吐き出す

マインドフルネスや呼吸法は、心を静めてエネルギーを目覚めさせ、ストレスの多い状況を乗り越えるための強力なプラクティスとなる。ローマのサピエンツァ大学の研究者たちが、パンデミックの最中に医療従事者たちにこれらの練習を4週間行わせたところ、その効果が実証された。参加者たちがボディスキャン瞑想、マインドフルネスな呼吸法、歩く瞑想を実践した後、不安や緊張、心配事が20%減少したと報告されている。

気持ちがくじけたり、緊張したり、恐れを感じたときは、マインドフルな呼吸と瞑想を試してほしい。ミラクルブレスと呼ばれる次の呼吸法は、意識を深め、感情のバランスを整えてくれるだろう。

●スカーサナ(安楽座)の姿勢で座り、両手を膝の上において、手のひらを上に向ける。

●目を閉じて、眉間にある第三の目を見るようにし、そこに意識を集める。

●唇を少し開いたまま、すぼめる。

●ストローで空気を吸うような柔らかい音を出しながら、4カウントで口から息を吸い、舌の先端を上口蓋に押し付ける。4秒間ホールドしたら、鼻から息を完全に吐き出す。

●1~3分間、呼吸を続ける。
 —カイル・ハウスワース

ヨガへの献身

2013年のある嵐の冬の夜、突然私はゆり起こされた。水道管が破裂して、家が水浸しになっていた。当時の私は、脳卒中の父の介護や腎臓移植が必要な夫の心配に追われながら、3人の子どもを育てていた。それに加えて学校図書館での仕事や、家の用事もすべて行っていた。
私は廊下で階段の下に立ち、茫然としていた。女性、特に有色人種の女性は、気を強く持って必死に頑張るようにと教えられる。でももう限界だった。助けが必要だった。私は涙ながらに夫にたずねた。「私たちがほかのみんなの面倒を見ている間、誰が私たちの面倒を見てくれるの?」
そんな時、オプラとディーパック・チョプラが主宰する21日間の瞑想プログラムに出会い、ヨガに興味を持った。初めてのヴィンヤサ・クラスで私の魂は揺さぶられた。翌年には10日間のサイレント・メディテーションリトリートに参加し、2017年には200時間ヨガティーチャートレーニングを初めて受けた。
その1年後、私はトラウマに配慮したヨガトレーニングに申し込み、腎臓提供登録をしている女性とそのパートナーに出会った。ふたりは夫の腎臓ドナー探しを手伝ってくれて、私たちは家族のようになった。昨年パンデミックの最中に夫が移植を受けた時も、彼らは私を気遣ってくれた。
ヨガと瞑想は、私に平和と喜びを与えてくれる。静けさのなかで助けを求めたら、驚くような方法で助けがもたらされた。ヨガに献身するほど、ヨガとは統合であり、私たちはひとつのコミュニティだと深く感じるようになった。
 —タマラ・クレス (聞き手:ケイトリン・カールソン)

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ヨガへの献身

ヨガで脳を活性化

うつや不安の影響から脳を守るためには、ヨガや瞑想が重要な役割を果たす。正確なメカニズムはまだ解明されていないが、これらの実践が気分や記憶、感情に関わる脳のさまざまな領域を刺激するためではないかと、整骨医でスポーツ神経学と外傷性脳損傷が専門の神経学者、ニケシュ・バジャジは述べている。

前頭葉
脳の司令塔として知られる前頭葉は、一次運動野で顔、腕、体の動きを制御するほか、意思決定や問題解決を司っている。行動や気分のコントロールや自制は、前頭葉で処理される。ヨガによって前頭葉の機能が向上することが証明されている。

大脳辺縁系
食べる、生殖するなどの生存行動は、嗅覚、記憶、感情などを司る複雑なネットワークである大脳辺縁系とつながっている。慈愛に満ちた瞑想が、大脳辺縁系を強化するという研究結果がある。

海馬
大脳辺縁系の中には学習、感情、記憶に関わる海馬がある。複数の研究で、ヨガ実践者は非実践者よりも海馬の体積が大きく、作業記憶力がより優れていることがわかっている(うつ症状は記憶力の不調と深く関連している)。

頭頂葉
感覚を司る中心部としてさまざまに機能する頭頂葉は、特にヨガのポーズに入るときに体を認識する役割を担っている。研究では、マインドフルネス瞑想によって頭頂葉の厚みが増したとされている。

後頭葉
視覚処理を司る後頭葉は、ヨガポーズの動きを追うことを可能にする。また、メンタルヘルスにも重要な役割を果たしている。後頭葉の機能低下はうつを引き起こす可能性があるが、ヨガ実践者の後頭葉は活性化していることがわかっている。

小脳
小脳は、動きとバランスを調整する。ヴルクシャーサナ(木のポーズ)やヴィーラバッドラーサナⅢ(戦士のポーズⅢ)で立てるのは小脳のおかげだ。ヨガ実践者は小脳の灰白質が増加する傾向がみられ、これは記憶力、注意力、運動機能の向上や、認知障害が少ないことと相関している。

脳幹
脳と脊髄をつなぐ脳幹は、呼吸や心拍など生命維持に欠かせない無意識の運動を調節している。脳幹の最上部には、睡眠と覚醒のサイクルを制御すると考えられている脚橋被蓋(神経核)がある。ヨガが睡眠の質に良い影響を与える理由はここにあるのかもしれない。脳幹の深部には、深い呼吸とリラックスと不安を結びつけるニューロン(神経細胞)があり、ヨガの練習中に体を包み込む瞑想的な落ち着きをもたらしてくれる。

脳下垂体
豆粒ほどの大きさの下垂体は、神経系と内分泌系(成長・発育から代謝まで司るホルモンを分泌する全身の腺)をつなぐ主要な役割を果たしている。ブラマリ・プラーナヤーマ(蜂の呼吸)は、血圧を下げることによって脳下垂体にじかに効果を与えるという研究結果がある。

側頭葉
聴覚認知や言語処理には、側頭葉が関わっている。扁桃体はここに位置し、感情や情動に重要な役割を果たしている。瞑想やヨガを実践している人は、扁桃体の過剰反応が抑えられ、より感情のバランスがとれていることが研究で示されている。
 —メーガン・ジョンソン

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ヨガで脳を活性化

気分を高めよう:うつ症状を和らげる方法 

気分を高揚させるには...

米国国立精神衛生研究所によると、持続する悲しみや無関心を引き起こす深刻な気分障害である臨床的うつ病は、アメリカで最も一般的な精神疾患のひとつであり、年間1100万人以上のアメリカ人が罹患しているという。そして新型コロナウイルスは、その人数を劇的に増加させた。『JAMA Network Open』ジャーナルに掲載された研究によると、2020年4月に抑うつ症状を訴えた成人の数は、ウイルスが蔓延し始める前の3倍になったという。
だが気分の落ち込みが臨床的うつ病とは限らない。〝うつ〞という言葉は、季節的な気分の変動や長期的な悲しみなど広い意味を持つ。また、喜びや希望を見いだすのに十分なエネルギーが欠乏していたり、自分の人生やまわりの世界についてネガティブな考えを反芻して気持ちが落ち込んだ状態もいう。
「うつ症状(無気力、罪悪感、絶望感、不満、かつては楽しんでいた活動への興味の喪失、気分の落ち込み、悲しみなど)が悪化していると気づいたら、無理に我慢せずに専門家の助けを求めるべきだ」とボストン大学公衆衛生大学院の学部長室のチーフスタッフ兼、戦略構想ディレクター、JAMAの筆頭著者のキャサリン・エトマンは言う。最近は電話やビデオ通話で対応してくれる心理カウンセラーも多いので、近所にいなくても自分のニーズに合う人を見つけやすいだろう。

そしてヨガも実践しよう。「うつ症状があるときは、幸福感と関係する脳内の神経伝達物質であるドーパミンやセロトニンが減少してしまう(あるいは既に減少している。その原因や影響は完全には解明されていない)」と、ネバダ大学ラスベガス校の社会・行動衛生学教授であるマノジ・シャルマ博士は言う。彼は、ヨガがうつ症状の緩和にどのように役立つかを研究している。「アーサナは体をリラックスさせ、幸せを生み出すホルモンを本来の最適なレベルに回復させる」とシャルマは言う。実際には、ヨガの八支則のすべてが神経伝達物質(ドーパミンやセロトニンなど)と他のホルモンとの最善のバランスを取り戻すのに役立つとみられている。
専門家の助けに代わるものはないが、すべてが敵に思えるようなときに気分を高揚させる助言と実践方法を次にまとめた。
 —ターシャ・アイヘンゼア、ケイトリン・カールソン

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気分を高めよう

元気になるための9つの方法

気分を高め、憂鬱な気分を和らげるライフスタイルの処方箋

うつ症状は、脳内化学物質やホルモンバランスの乱れ、ストレスフルな出来事、遺伝、その他の無数の持病など、さまざまな要因が複雑に絡み合って起こる。
抗うつ剤の処方が必要な場合もあるが、科学的な根拠に基づく自然療法も有効だ。
統合医療や自然療法の一流医師たちが提案する、症状を緩和して気分を高める方法を紹介しよう。

1.腸活のすすめ
デューク大学統合医療センターのデボラ・アン・バラード医師・公衆衛生学修士は、「気分の改善には、消化機能と腸内の常在菌の健康状態を最適化することが重要だ」と述べている。気分に最も影響を与えるセロトニンは、消化管内の細菌によってつくられる。腸が炎症を起こして過敏になっていると、その不快感がうつ状態を長引かせる。それを解決するには、腸内に常に善玉菌を増やしておく必要がある。ガス、膨満感、便秘など胃腸の調子が悪いときは、多くの場合、悪玉菌が暴走している兆候なので、一般的なプロバイオティクスを試してみよう。常在菌間のバランスが回復しセロトニンの生成がサポートされる。臨床試験では、乳酸菌とビフィズス菌のプロバイオティクスが精神的な健康に最も有効となっている。

2.栄養面での工夫
うつ症状の改善には、セントジョーンズワート、L-テアニン、5-ヒドロキシトリプトファン(5-HTP)、ビタミンD、ビタミンB12、魚油などのサプリメントが役立つと示唆する研究結果もあるが、バラード医師は、不足している栄養素のほとんどは食事で解決できると述べている。彼女が勧めるのは、色とりどりの野菜や脂肪分の少ないタンパク質を多く食べること。これにより、オメガ3脂肪酸、ビタミンB、マグネシウムなど、感情のコントロールや身体の健康に必要なミクロとマクロ栄養素を摂取できる。精製された砂糖や炭水化物は、うつ症状との関連が指摘されている炎症を引き起こす可能性があるので避けたほうがいいだろう。

3.よく眠る
自然療法の医師であり、『Holistic Solutions for Anxiety & Depression in Therapy』の著者ピーター・ボンジョルノは、うつ症状には、良質な睡眠をとることが重要だと言う。疲労感はうつの症状でありながら、根本的な原因になっている場合もある。気分が落ち込んでいるときは、睡眠が不規則になりがちだ。「就寝時間を決めると、睡眠時間を調整しやすくなる」と全米精神疾患患者家族会は述べている。

4.体を動かす
睡眠の質を上げる方法はほかにもある。体を動かすことだ。
特に屋外がいい。日光を浴びると、概日リズム(睡眠と覚醒のサイクルを調整する生来の体内プロセス)が整いやすくなるためだ。バラード医師は、週に150分の有酸素運動と、筋力とバランスのトレーニングに焦点をあてた30分のセッション(ヨガも含む)を数回行うことを推奨している。

5.マインドフルネスのための5分間
忙しい人に朗報がある。呼吸を意識しながら5分間の瞑想を1日4回行うだけで生活の質が向上し、ネガティブな思考が緩和されるという研究結果が、今年の初めに学術誌『マインドフルネス』で発表された。瞑想やマインドフルネスは、脳のデフォルト・モード・ネットワークを静め、うつ症状によく見られる反芻や心配を減らし、ネガティブな考えにとらわれない新たな神経回路をつくるのに役立つことがわかっている。

6.セラピーを試す
思考や行動のパターンを変えることに焦点を当てた治療法である認知行動療法(CBT)や、他の手法のカウンセリングは、人生における有害な要素を理解し、それらに向き合う力を得るのに役立つ。また、「よりポジティブな感じ方、あり方、思考に脳をチューニングできる」とバラード医師は言う。医学誌『ランセット』に掲載された、うつ症状の効果的な治療法に関する最近の研究では、CBTを受けた成人の66%に改善の兆しが見られたと報告されている。

7.創造性を発揮する
気分が落ち込むと、なかなかネガティブな状況から抜け出せなくなる。そこでバラード医師は、創造性を発揮できる方法を見つけるように勧めている。「喜び、創造性、愛、好奇心に関連する脳の部分を刺激するように、患者たちの手助けをしています」と彼女は言う。芸術作品をつくったり、読書をしたり、瞑想にビジュアライゼーションを取り入れたりしてみよう。研究によると、誰かが説明していることを心の中で視覚化する“誘導イメージ法”は、うつ症状や疲労を和らげ、気分や心身のQOLを向上させる効果があるという。

8.逆さまになる
「逆転のポーズは、脳への酸素豊富な血流を無理なく促し、エネルギーを高め、即座に幸福感をもたらします」
と“Constantly Evolving”と“Inner Series Method”の創始者で、ヨガ講師のナディア・ザキは言う。ヴィパリタカラニ(壁に脚を上げるポーズ)は、場所を選ばずに実践できる若返りのポーズで、消化機能や睡眠を改善し、うつや不安を和らげる効果がある。

9.自分への挑戦
時には正面から向き合ってやり通すことが、問題から抜け出す最善の方法となる。
ヨガでは、不安な瞬間に心を静めることを学ぶ。「カカーサナ(カラスのポーズ)のような難しいポーズに挑むときは不安になりやすい」とザキは言う。だが、このような身体的な緊張があっても穏やかでいられるようになれば、人生のほかの場面でも、より落ち着いて過ごせるようになるだろう。
 —ターシャ・アイヘンゼア

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気分を高め、憂鬱な気分を和らげる

幸福感をもたらすレシピ

気分や感情を司る神経伝達物質セロトニンの90%は、消化管でつくられている。「食生活とメンタルヘルスは切っても切れない関係にあります」と語るのは、『This is Your Brain on Food』の著者で、ボストンのマサチューセッツ総合病院の栄養・生活習慣精神医学部長を務める栄養精神科医のウマ・ナイドーだ。腸と脳は迷走神経でつながっているため、腸での炎症が脳の不調を引き起こすと、不眠、うつ、不安、やる気の低下などの症状が現れる。ここでは、科学的根拠に基づいた、気分を高揚させるレシピを紹介しよう。

サーモンのターメリック風味 ヨーグルトソース添え
アボカドとクルミのサラダ
カモミールアイスティー

ヨガ的メンタルヘルスガイド
サーモンのターメリック風味 ヨーグルトソース添え
アボカドとクルミのサラダ
カモミールアイスティー

サーモンのターメリック風味

材料(2人分)
●サーモンの切り身……………………… 2切れ
●エキストラバージンオリーブオイル… 大さじ3
●ターメリック…………………………… 小さじ1
●ガーリックパウダー…………………… 小さじ1/4
●クミン…………………………………… 小さじ1/4
●塩………………………………………… 小さじ1/2
●オレンジ(半分は輪切り、残りは搾ってジュースに)…1個 

つくり方
オーブンを220度に予熱する。耐熱皿にサーモンの切り身を並べる。バット等にオリーブオイル、ターメリック、ガーリックパウダー、クミン、塩、オレンジの搾り汁を入れて混ぜ、サーモンにまぶし、オレンジの輪切りをのせて1~15分漬け込む。サーモンを取り出し、220度のオーブンで表面がカリッとするまで15~20分焼く。

ヨーグルトソース

材料(2人分)
●ギリシャまたは非乳製品のプレーンヨーグルト…1カップ
●パセリ(みじん切り )…………………1カップ
●挽いたコリアンダー…………………… 小さじ1/4
●レモン汁………………………………… 大さじ2
●ピンクヒマラヤンソルト……………… 適量 

つくり方
よく混ぜて、調味料で好みの味に調整する。焼きあがったサーモンに添える。

アボカドとくるみのサラダ 

材料(2人分)
●ほうれん草(ちぎる)……………………6カップ
●アボカド(薄切り)………………………小1個
●砕いたくるみ………………………………1/2カップ
●ビーツ(角切り)…………………………中2個
●オレンジ(皮をむいて、ざく切り)……中1/2個

つくり方
材料を全て混ぜ合わせ、皿に等分に盛る。

ドレッシング

材料(2人分)
●バージンココナッツオイル (溶かしたもの)………大さじ2
●リンゴ酢……………………………………大さじ3
●生のオレンジジュース……………………大さじ2
●ハチミツ……………………………………小さじ2
●しょうが……………………小さじ1/2、みじん切り
●ピンクヒマラヤンソルト…………………小さじ1/4
●塩、こしょう………………………………各適量 

つくり方
小鍋にココナッツオイルを入れて中火にかけるか、電子レンジで数秒加熱して液状にする。容器にココナッツオイル、リンゴ酢、オレンジジュース、ハチミツ、しょうが、塩を入れて、よく混ぜたら、サラダにかけて、塩、こしょうで味をととのえる。
 —リンゼイ・タッカー

【脳を活性化する食物】
葉物野菜には、ビタミンK、ルテイン、葉酸、βカロテンなど、脳に良い栄養素が豊富に含まれており、認知機能の低下を遅らせる効果があるという研究結果が出ている。
アボカドには、チロシン(気分を高揚させるアミノ酸)と葉酸(うつ病を緩和する可能性がある)がたっぷり含まれている。
くるみには、脳に良い成分がほかのナッツ類よりも多く含まれる。
ビーツは硝酸塩を多く含み、脳への血流を増やす効果がある。
ココナッツオイルの中鎖脂肪酸は、ストレスを軽減し、認知能力を高めることがわかっている。
ハチミツの抗酸化、抗炎症作用は記憶力を向上させ、うつ病につながる神経変性疾患を予防する。
カモミールエキスは、全般性不安障害の軽減を助けるとみられている。

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photos by WACOMKA/SHUTTERSTOCK, SUPAKRITPUMPY/ISTOCK, VECTORV/ SHUTTERSTOCK,
illustration by SIMON2579/ISTOCK
food styling by Nancy Zamparelli
translation by Sachiko Matsunami
yoga Journal日本版Vol.76掲載

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