急にカッとなる・イライラが止められない…アーユルヴェーダ的「感情コントロール・精神安定」のヒント
最近、「子供が急にイライラして手が付けられない」というご相談をよく受けます。コロナ禍で生活が変わり、家族や友人との距離感が変わり、大人も子供も戸惑っているようです。現代医学では病気と診断されないような、ちょっとした気分の落ち込みなどの心の乱れも、アーユルヴェーダでは病気の始まりとして扱い、様々な対処法があります。今回は、日常生活の中でできるアーユルヴェーダ的な精神安定のヒントをご紹介します。
腸内環境が乱れると、心が乱れる
「何を食べるかによって、性格が変わる」と聞いたらどう思うでしょうか? 性格というのは、一般的には、生まれつきであったり、後天的な人間関係や教育によって作られると思われていますが、実際は精神の状態は、体調や体内環境に大きく左右されています。例えば幸福感をもたらすセロトニンや、意欲をもたらすドーパミンなどの神経伝達物質は、ほとんどが腸でできています。神経伝達物質は、気分に影響を与えるので、腸内環境が気分に影響を与えるということです。つまり便秘になったり、下痢になったりして腸内環境が乱れていると、神経伝達物質がうまく働かずバランスを崩し、虚しさやイライラ、不安感を感じることがあるということです。最近では、現代医学でもこれを「腸脳相関」と言って、腸と脳の間には相関関係があることが主張されていますが、アーユルヴェーダでは、5000年以上も前から腸と脳(精神)の関係を「アーマの理論」で説明していました。
アーマ(未消化物)とは?
腸と精神の乱れを説明するのに必要な概念に「アーマ」があります。アーマとは、サンスクリット語で「未消化物」のことです。私たちが口から食べ物を入れると、食べ物は食道や胃を通り、消化された物質が小腸から吸収されます。その時、消化がうまくいかずに不完全な消化状態のまま小腸から吸収されてしまう未消化の食べ物のカスのことをアーマと言います。アーマはネバネバしていて悪臭を放ち、体内の毒素とも言えるようなものです。このアーマが血液に乗って全身を巡ると、肩こりや頭痛など痛みを生じたり、病気の原因になったり、体のあちこちで悪さをします。さらに、アーマが悪影響を与えるのは肉体だけではなく、精神にも影響を与えます。アーマが多い人は、疲れやすく、やる気がなく、怒りっぽくなったり落ち込みやすくなると言います。これが腸内の環境が精神に影響を与える理由です。アーユルヴェーダでは、精神の乱れの原因の一つとして、アーマが体内に溜まっていることと考えます。
精神疾患と腸内環境
ある研究では自閉症(コミュニケーション能力に支障をきたす精神疾患の一種)と腸内細菌の関係がわかっています。薬剤を使って自閉症と同じ症状のマウスを作り、そのマウスの腸内環境を調べてみると自閉症マウスは腸内環境が乱れています。さらにそのマウスから生まれたマウスも、自閉症の症状が現れるのですが、子供マウスに腸内環境を整えるために、プロバイオティクスという乳酸菌などの微生物を投与すると、自閉症の症状が改善することがわかっています。つまり自閉症は腸内細菌の異常が関係していると判明したのです。(「腸内細菌の逆襲」江田証 著)他にも、実験的にマウスの腸内細菌をなくしてしまうと、無感動や無感情になってしまうということもわかっています。また、過敏性腸症候群などの腸の病気がある人は、頭がぼーっとしたり、意思表示がうまくできなくなることも。
何が言いたいかというと、精神の乱れは抗うつ薬や抗不安薬で症状を抑えるのではなく、日々の食事を見直し、消化に負担をかけない食べ方をしたり、腸内環境を整える生活習慣を送ることで、改善の可能性があるということです。日本ではアーユルヴェーダにオイルマッサージのイメージしか無い方も多いですが、アーユルヴェーダの治療法は幅広く、その治療のほとんどで、消化力を高め体内に溜まった未消化物を排泄することが基本となっています。
今回は特に、イライラや、カッとなる場合の食事の見直しポイントを見ていきます。
イライラや気分のムラを抑えるには?
まず、前述した通り、気分にムラがあったり、急にカッとなるのはアーマが原因のことがあります。その場合はまず、アーマができない食事をすることが重要です。
アーマは、揚げ物や、脂質の多い肉を多く食べていたり、炭水化物の摂りすぎ、特にパンなど精製小麦など、消化に負担をかける食事をしているとできやすいです。他にも添加物や農薬、抗生物質、薬も消化できずにアーマになります。そこで、イライラや落ち込みが気になる場合は、まず普段食べているお菓子や調味料に添加物が含まれていないかや、野菜や果物に農薬が多く使われてないか、薬を飲み続けてないか、などを見直してみると良いです。イライラしてジャンクフードを食べて、腸内環境が乱れてまたジャンクフードを欲する、という悪循環を断つために、1〜2週間のリトリートや食事改善プログラムで、オーガニック野菜中心の食生活を送ると、驚くほど精神が安定するという例を多く見てきました。
また、アーユルヴェーダではドーシャエネルギー理論というものがあり、イライラしやすい・怒りっぽい性格にさせるエネルギーというものがあります。そのエネルギーを火のエネルギー、「ピッタ」と言います。このピッタのエネルギーはすべての人が持っていますが、ピッタのエネルギーが増えすぎると、怒りっぽくなったり、自分の思い通りに物事が進まないとイライラするようになります。ですので普段からピッタエネルギーを増やさないように食事を見直すことができます。
ピッタのエネルギーを増やすのは、油を多く使った食事や、トマト、玉ねぎ、にんにく、赤身の肉、発酵食品、辛い食べ物、酸味が強い食べ物などです。これらの食材を日常的に食べていると、特に生まれつきピッタエネルギーが高い「ピッタ体質」の人は、心が乱れやすくなります。
今回はイライラを抑える食事のことについて少し、ご紹介しましたが、他にも日常の行動や、睡眠やホルモンバランスでもエネルギーのバランスが乱れるので、その点についてはまた今度、ご紹介したいと思います。
AUTHOR
アカリ・リッピ―
アーユルヴェーダ著者・セラピスト。本場スリランカでアーユルヴェーダ医師のもと修行。帰国後、1万人の体質改善コンサルをしながら講座で実践的なアーユルヴェーダを指導。著書「アーユルヴェーダが教える、せかいいち心地よいこころとからだの磨き方」 (三笠書房)5刷。都内でサロン経営。大手企業の営業マンだった時の経験を活かし、「忙しい人でも無理なくできる」現代的なアーユルヴェーダを発信。
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