外側に向いた感覚を内側にしまい込む「プラティヤハーラ(感覚の制御)」とは?実践のためのヒント
ヨガジャーナルアメリカ版の人気記事を厳選紹介!プラティヤハーラ(感覚の制御)で自分の内側に意識が向いたとき、真の静けさが訪れる。
ある早朝、いつも通っているスタジオで仲間のアシュタンガヨギたちと練習していると、このあたりでは見かけない男性が私の横にマットを広げた。彼が動き始めるやいなや、私たちの練習とは違うことに気づいた。実践するポーズの難度が高いこともあったが、それだけではなかった。
どこがどう違うのか、はっきりとは言えないが、とにかく今まで見たことのないような力強さと安定感と優美さが彼にはあった。私は彼がヘッドスタンドから後屈に入り、その複雑な姿勢から頭を軸にして、そのまわりをぐるぐると各方向に5回ずつ歩く様子を眺めていた。彼はそのポーズの技術的な難しさにもまったく動じていなかった。その顔には苦痛も落胆も興奮も尊大さも浮かんでいなかった。呼吸は深く、視線は揺るがず、動きは滑らかで軽く、静かだった。そして何よりも、彼は自分の世界に入り込んでいた。
当時はわからなかったが、これは、感覚を内側に向けるプラティヤハーラの実践だった。プラティヤハーラは、パタンジャリの『ヨーガスートラ』で説かれているヨガ八支則の第5段階にあたる。第1、第2段階のヤマ(禁戒)とニヤマ(勧戒)には、ヨガを実践するうえでの哲学的な基礎が含まれており、非暴力、正直、不貪、清浄などの教えがある。第3段階のアーサナは、ヨガの身体的な実践。第4段階のプラーナヤーマは呼吸法に特化した実践であり、第5段階のプラティヤハーラの準備段階でもある。そして最後の3つの段階において集中(ダーラナ)と瞑想(ディヤーナ)を学び、悟り(サマーディ)に至る。プラティヤハーラは、最初の4段階での外的な実践から、後半の内的な三支の実践に入るための懸け橋となっている。だがなぜか、プラティヤハーラの重要性は見過ごされている。
呼吸の必要性
プラティヤハーラは実践と意識の進化において不可欠なステップだ。パタンジャリが説く八支則の各段階は綿密に構成されており、互いに支えあっている。集中して瞑想に没入するには、まずはプラティヤハーラの実践で、身の回りで何が起きていても感覚が外側に向かないように内側にしまい込む能力を高める必要がある。
「マインドに内側を見るように言うと、マインドは逆のことを行います。つまりプラティヤハーラは決心して行うものではないのです」とパラヨガの創設者ロッド・ストライカーは言う。「けれども呼吸法と合わせて実践すると、マインドは自然と内側に向きます」。そのため、プラティヤハーラの実践に入るには、プラーナヤーマ(調気法)を習得しておく必要がある。また別の方法としては、感覚器官をゆるめてリラックスさせると外部刺激に対する反応が低下し、プラティヤハーラの状態に入りやすい。「五感は外界や物質世界に向けられるアンテナです」と彼は説明する。「プラティヤハーラとは内的感覚、いわば内なるアンテナを目覚めさせることです」。つまり、プラティヤハーラは単に外界を遠ざけるだけでなく、自分の内側に広がる世界に気づくための実践なのだ。
実践の前に
紹介するアーサナ・シークエンスは、プラティヤハーラへの入り口を提供してくれるだろう。シークエンスから最大限の効果を得るために、各ポーズの後はバーラーサナ(子供のポーズ)を行って内側に意識を向けるようにする。ポーズ中は穏やかな長い呼吸を続ける。あご、喉、胸を締め付けず、深く心地よい呼吸を心掛けよう。はじめは各ポーズで 7〜10回呼吸、練習に慣れたら15 〜25回に増やしていく。
ポーズに出入りするときの感覚に 意識を集中させよう。ひとたびポーズに入ったら、動いたり微調整したくなっても、ぐっとこらえること。あるひとつの感覚だけにとどまらずに、全身に意識を向けたら、再び呼吸を観察して内側に意識を向ける。
最後に、動的なポーズと受動的なポーズでの反応の違いに注意を向けていく。たとえば重力に逆らって体を引き上げるシャラバーサナ(バッタのポーズ)やバランスをとるアルダチャンドラーサナ(半月のポーズ)では、硬さや保持する感覚があるだろう。舌、あご、長く伸ばしている喉、目のまわり、耳の内側、鼻すじ、皮膚の外側から内側に生じているあらゆる緊張に気づこう。それらの感覚と、子供のポーズに入ったときの弛緩や解放感との違いを味わう。体の外側から内側に向かって緊張が解けていく様子を想像しながら、感覚器官とその周辺の余分な力をゆるめてみよう。練習の間は、これらのポイントに何度も注意を向けて、緊張を解くように努めること。目、耳、鼻、皮膚、舌に注意を向ける練習を繰り返し行うことで、マットの上でも外でも、意識が内側に向き穏やかさを感じられる。
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