ネガティブを手放すヨガ|ヴィニヨガ上級指導者ゲイリー・クラフトソーに学ぼう
アメリカン・ヴィニヨガ・インスティチュートを創設したゲイリー・クラフトソーがヴィニヨガについて解説し、薬物などへの依存行動を管理するのに役立つシークエンスを紹介する。
ヨガ療法士ゲイリー・クラフトソー「シークエンスのつくり方」
私たちは一人ひとりの状態や必要性、目的に合わせて行うヨガをヴィニヨガという言葉で表しています。これは区別、順応、適切な応用を意味するサンスクリット語です。伝統的なヨガの系統に属するヴィニヨガは、自己発見と自己変容を実現させるのに必要なものをもたらしてくれます。
ヴィニヨガを実践している私たちは、ヨガをすれば一人ひとりに好ましい変化が起きると信じています。ただ、そのためには自分の現在の状態、潜在的な能力、目指すものを把握していなければなりません。ヴィニヨガではポーズの練習、呼吸法、バンダ、音、チャンティング、瞑想、個人的な儀式、文献の研究などの指導や実践を通して、痛みや悲しみ、抑鬱感、薬物依存などを克服する総合的な練習を一人ひとりに合わせてつくっていきます。
ヴィニヨガとほかのヨガでは、アーサナの取り組み方に大きな違いが4つあります。まず、ポーズの形よりも働きを重視する点です。ヴィニヨガでは、さまざまな効果を得るためにポーズの形を科学的に変えていきます。
次に、呼吸を重視することと、呼吸をポーズに合わせていく点が異なります。ヴィニヨガでは呼吸をポーズに入る手段と考えて重視しており、ポーズのなかで呼吸のパターンを変えます。それによって、目的に合った効果を生み出していきます。3つ目の違いは反復と保持です。ポーズを繰り返すことと、ポーズを保持することによって、構造的にもエネルギー的にもヨガの効果が高まります。
最後に、シークエンスのつくり方が異なります。ヴィニヨガの指導者は、練習の目的や、一人ひとりの志向性に合わせて、シークエンスの方向性、長さ、強度をさまざまに変えます。
西洋で行われているほとんどのヨガの父祖クリシュナマチャリアはかつて、ヨガを指導しようと思ったら、生徒が本当に必要としていることを理解して、それに合わせて練習を変えるよう努めなければならないと言いました。クリシュナマチャリアは、指導者たちに断固たる口調で言い聞かせました。「指導は生徒のためのものであり、指導者のためのものではない」と。さまざまな選択をしながらシークエンスをつくることによって、特定の生徒に適した練習をつくり上げることができるのです。
パタンジャリをはじめとする賢者たちは、人間は多様であり、ひとりの人を見ても人生のどの段階にいるかによって大きく変化することをはっきり理解していました。そこで賢者たちは、ポーズ、呼吸法、瞑想、儀式、チャンティングまたはマントラ、祈りなど多様な手段を示して、どれを採用するかは各指導者に任せました。 ヴィニヨガのシークエンスは、論理的に組み立てられた、前後関係が明確な戦略です。そして、目的を達成するためにさまざまな手段が使われています。ヴィニヨガのシークエンスは効果的かつ効率的で、優雅です。
今回紹介する薬物依存のためのシークエンスでは、上に挙げたさまざまな手段をバランスよくすべて使っています。薬物依存になると全身に多面的な影響が及びます。解剖学的にも生理学的にも影響がありますし、感情、認知、行動にも火の粉は及びます。このため、以上のすべての面に働きかける総合的な練習をすることが、人生を前向きに舵取りするためにきわめて重要になるのです。
VINIYOGA SEQUENCEヴィニヨガのシークエンス
1.シャヴァーサナ(亡骸のポーズ)
自分の注意力にどのような傾向があるか観察しよう。くつろいで心を集中させて、意識を今に向けよう。そこで次のことを感じ取ろう。
自分は空間的にどこにいるのか。自分は時間的にどこにいるのか。自分はなぜヨガの練習をしているのか。自分の目的は何か。自分は何を求めているのか。落ち着ける静かな場所を見つけて、呼吸に意識を集中させながら次のシークエンスを行いましょう。ヴィニヨガでは呼吸が何よりも重要です。クリシュナマチャリアはこう言い残しています。「呼吸を制御しなければ、あなたがしているのはただの自重トレーニングです」
2. 思い描こう
シャヴァーサナのまま、山の中の森にいるところを思い浮かべよう。
森の匂いを吸い込み、そよ風を感じ、周囲の音に耳をすまし、木漏れ日を眺めよう。次に、森の中を歩いているところを思い浮かべよう。泉が見えてくる。上流には何もない。紛れもなく地面から水が湧き出ている。見えるだろうか。匂いもかいでみよう。この泉を神秘的な人間の誕生の象徴であると捉えよう。水は地中深く、地球の神秘的な深層部から湧き出ている。私たちが母親の子宮から現れてきたように。その泉から少しずつ水が流れ出ていく。その流れは幼少期の記憶だ。この水の流れに沿って歩いていこう。さまざまなことを経験するにつれて水の流れは幅広くなっていく。
山を下りながらその流れを追っていこう。楽しかったことや大変だったことをできるだけ思い出してみよう。初めてできた友達を思い出そう。学校に入ってからどのように自己の概念が形成されただろうか。やがてこの水の流れは別の流れと合流する。合流した流れは私たちの社会生活だ。思春期を過ぎて大人になると、細かった水の流れは幅広い川に合流する。この川は川幅を広げながら穏やかに流れ続ける。楽しかったことやうまくいったことを思い出そう。
川幅が狭くなり、流れが速くなるところが見えてくる。大変だったことや不安だった時期を思い出そう。川の流れは現在につながっていく。人生の川が現在に至るまでにどんな選択をしただろうか。また、どれほど早く時間が過ぎたのか考えてみよう。次に前を向いて、この川が否応なしに海に注いでいることをしっかり理解しよう。そこで人生が終わり、私たちは自分の源とひとつになる。
3 .タダカムドラ
A:仰向けに寝て、両腕を体側に伸ばす。
B(息を吸いながら):吸う息で右腕を高く上げながら、左足先を反らす。呼吸を2秒間止める。
C (息を吐きながら):吐く息で右腕を下げながら、左足をゆるめる。反対側も同様に行ったのち、息を3秒間止めながら、左右をもう1回ずつ行う。
D(息を吸いながら):次に、吸う息で両腕を高く上げながら、両方の足先を反らす。2回数える間息を止める。吐く息で両腕を体側に下ろし、両足をゆるめる。息を吸いながら、再度両腕を高く上げる。3回数える間その姿勢を保ったら、息を吐きながら両腕を下ろして、両足をゆるめる。
4. ドゥヴィパダピタム(両足のポーズ)
A:膝を曲げ、腕を体側に伸ばす。
B(息を吸いながら):腰を引き上げ、左腕を頭上に伸ばし、右腕を天井に向ける。2回数える間息を止める。
C(息を吐きながら、反対側も行った後両腕を下ろす):息を吐きながら最初の姿勢に戻る。反対側も同様に行う。息を3秒間止めながら、再度両側で行う。
D(息を吸いながら):次に両腕を頭上に伸ばし、腰を引き上げる。2回数える間息を止める。息を吐きながら最初の姿勢に戻る。3数える間息を止めながら、もう一度行う。息を吐きながら腰を床に下ろす。
5. パヴァナムクターサナ(ガス抜きのポーズ)
A:膝に手を当てて胸に引き寄せる。腕を真っすぐに保つ。
B (息を吐きながら):右膝をさらに胸に引き寄せる。2回数える間息を止める。
C(息を吸いながら 反対側も行った後両腕を伸ばす):右膝を胸から離す。左膝も同様に行う。息を吐いたのち3秒間息を止めて、片膝ずつもう一度胸に引き寄せる。
D(息を吐きながら):両膝を同時に胸に引き寄せる。2回数える間息を止める。息を吸いながら、両膝を胸から離す。息を吐いたのち息を3秒間止めて、同じことを繰り返す。
6. 思い描こう
楽な姿勢で座って、人生の川の現在の状態に意識を向ける。人生の川が流れ続けていることをよく考えよう。どれほど先であっても、この川は必ず海に行き着いて人生という旅は終わりを迎える。このことを意識することから、自分の最高の価値と自分の目標について考えよう。人生の川が海に流れ込む前に何を成し遂げたいだろう。どんな経験をしたいだろう。どんな功績を残したいだろう。
7 .チャント
座ったまま脊柱と一体になり、次に呼吸と一体になる。呼吸を深める。何回か呼吸を繰り返したら、チャントを唱え始 める 。
チャント
オーム
オーム ナマハ
オーム ナモ ナマハ
オーム ナモ ナモ ナマハ
8.ヴィーラバッドラーサナI (戦士のポーズI)
A:片足を前に出して立つ。両足の左右の間隔は腰幅程度にして、腕を体側に下ろしておく。
B(息を吸いながら):前の膝を曲げて、胸部を骨盤より少し前に出し、背中を反らす。腕を外側から上げていき、チャントの1行目を声を出さずに唱える。
C(息を吐きながら):息を吐いてチャントの1行目を声に出して唱えながら、両手を頭上に上げて、次に顔の前を通って胸の前に重ねる。これを4回繰り返す。2回目は2行目、3回目は3行目、4回目は4行目を唱える(8~11までのシークエンスではこのようにチャントを唱える)。反対側も同様に。
9.ウトゥカターサナ(チェアーポーズ)のバリエーション
A:足を腰幅に開き、腕を体側に下ろした姿勢から始める。
B(息を吸いながら):両腕を頭上に上げて、声を出さずにチャントを唱える。
チャント
オーム
オーム ナマハ
オーム ナモ ナマハ
オーム ナモ ナモ ナマハ
C(息を吐きながら):前屈して、膝を曲げて胸を太腿に当て、両手を両足の前に下ろす。声に出してチャントを唱える。
チャント
オーム
オーム ナマハ
オーム ナモ ナマハ
オーム ナモ ナモ ナマハ
D(息を吸いながら): 腕を上げて、立位に戻る。声に出さずにチャントを唱える。
チャント
オーム
オーム ナマハ
オーム ナモ ナマハ
オーム ナモ ナモ ナマハ
E(息を吐きながら):腕を下げて、声に出してチャントを唱える。これを4回繰り返す。
チャント
オーム
オーム ナマハ
オーム ナモ ナマハ
オーム ナモ ナモ ナマハ
10.ウールドゥヴァムカシュヴァーナーサナ(上向きの犬のポーズ)のバリエーション
A:チャイルドポーズから始める。
B(息を吐きながら):膝を床につけたまま上向きの犬のポーズに入る。声を出さずにチャントを唱える。
チャント
オーム
オーム ナマハ
オーム ナモ ナマハ
オーム ナモ ナモ ナマハ
C:チャイルドポーズに戻って、声に出してチャントを唱える。これを4回繰り返す。
チャント
オーム
オーム ナマハ
オーム ナモ ナマハ
オーム ナモ ナモ ナマハ
11. パリヴルッタスカーサナ(ねじった安楽座)
座った姿勢から、左手を右膝におき、右手を背後の床に下ろす。息を吸いながら、脊柱を伸ばして、声を出さずに右のチャントを唱える。息を吸いながら胴体をねじり、右肩越しに後ろを見て、声に出してチャントを唱える。息を吐くたびに少しずつねじりを深めていく。これを4回繰り返す。反対側も同様に行う。
チャント
オーム
オーム ナマハ
オーム ナモ ナマハ
オーム ナモ ナモ ナマハ
12. ビティラーサナ(牛のポーズ)
A:四つん這いになる。
B(息を吐きながら):チャイルドポーズに入り、肘を曲げて頭を床に下ろす。
C(息を吸いながら):四つん這いに戻る。これを4回繰り返す。
13.チャント
床に座る。脊柱、呼吸と一体になる。息を吸うときも吐くときも、声を出さずに次 のチャントを唱える 。
チャント
オーム
オーム
オーム ナマハ
オーム ナマハ
オーム ナモ ナマハ
オーム ナモ ナマハ
オーム ナモ ナモ ナマハ
オーム ナモ ナモ ナマハ
14. 思い描こう
座ったまま、 湧き水から神秘的に始まって、現在まで流れてきた川の流れをもう一度思い描いてみよう。どうやって今の場所までたどりついただろうか。
A 日々習慣的に体に何をしているか正直に考えてみよう。一日を通して、どのように時間を過ごしているだろうか。自分の体の使い方は本当に自分の最も高い目標の達成を可能にするものだろうか。
B 日々習慣的にどのように言葉を使い、どのように人と話をしているか正直に考えてみよう。また、何を話題にしているのか、自分自身やほかの人に正直に話しているかどうかも考えてみよう。言葉の使い方は本当に自分の最も高い目標の達成を可能にするものか自分にたずねよう。
C 日々習慣的にどのように心を使っているか、何について考えているか、それがどんなふうに自分に役立っているか正直に考えてみよう。
15.内観しよう
座ったまま、自分の心の使い方が本当に自分の最も高い目標の達成を可能にするものなのか自分にたずねてみよう。今自分のいるところから、 次のことを考えてみよう。
A 自分が本当に欲しているものは何なのか、ここからどうやって前進したいのか自分自身と会話しよう。体、言葉、心が正常に機能しなくなる原因は何だろうか。その原因は自分自身と他者に痛みを引き起こしながら、自分をどのように支配しているだろう。それをどうやって克服したいだろうか。このような問題をどうやって解決したいだろうか。具体的に考えよう。
B 助けを求めよう。勇気、明晰さ、忠実さ、強さを求めて祈ろう。問題の原因を解消して、幸せと喜び、対立がない状態を見つけよう。
C 将来について自分自身に誓いを立てよう。何をすることを止めて、何を始めたらいいだろう。
16. チャント
脊柱、呼吸と一体になる。息を吸うときにも吐くときにも、言葉を出さずにチャントを唱える。
チャント
オーム
オーム
オーム ナマハ
オーム ナマハ
オーム ナモ ナマハ
オーム ナモ ナマハ
オーム ナモ ナモ ナマハ
オーム ナモ ナモ ナマハ
オーム ナモ ナマハ
オーム ナモ ナマハ
オーム ナマハ
オーム ナマハ
オーム
オーム
17. 瞑想
座った姿勢で無言で休む。
ポーズへの入り方 ヴィーラバッドラーサナI
戦士のポーズI
virabhadra = インドの叙事詩に登場する英雄または戦士 asana =ポーズ
力まずに動こう
立った姿勢から片足を無理のない程度に前に踏み出し、後ろの足に少し角度をつける(前の足に対して45度またはそれ以下)。腰と肩を正面に向ける。吸う息で前の膝を曲げて、胸部を骨盤より少し前に出しながら、背面を反らせて両腕を上げる。息を吐きながら、前の膝を伸ばして、両腕を下げ、最初の姿勢に戻る。
あごは平らに。こうすると首の圧迫を防ぐことができる。
胸部は骨盤より少し前に。こうすると腰の圧迫を防ぐことができる。
膝は足首の上に。こうして関節を守ろう。膝を足首の前に出さないように。
ヴィーラバッドラーサナIのバリエーション
祈るような形のバリエーション。息を吸いながら、前の膝を曲げ、両腕を横に広げてぐるっと頭上に上げる。息を吐きながら、両手を頭頂部から顔の前を通って胸の前に重ねる。これを2~3回繰り返す。息を吐きながら最初の姿勢に戻る。反対側も同様に行う。
腰筋のストレッチを重視したバリエーション。息を吸いながら、前の膝を曲げ、反対側の腕を上げて後ろに引く。そのまま数回呼吸しながら、背中の上部を反らせる。息を吸うたびに上げた腕をさらに高く上げて後ろに引く。息を吐きながら、前の膝を伸ばし、両腕を下げる。反対側も同様に行う。
胸椎が過度に後弯した人や胸椎が扁平化した人のためのバリエーション。菱形筋が伸びて強化され、肋間筋が伸びる効果もある。息を吸いながら、前の膝を曲げ、両腕を肩の高さで大きく広げる。息を吐きながら、自分を抱きかかえるようにして手を反対側の肩に当てる。これを2~3回繰り返す。息を吐きながら最初の姿勢に戻る。反対側も同様に行う。
指導●ヨガ療法士のゲイリー・クラフトソーは、インド、マドラスのT.クリシュナマチャリアとその息子のT.K.V.デシカチャーによって伝えられた指導方法を発展させてこの独特なヨガをつくり出した。現在はアメリカン・ヴィニヨガ・インスティチュートでディレクター兼上級指導者を務めている。また、2点 の 著 作『Yoga for Wellness』『Yoga for Transformation』が あり 、4点のDVDを 製 作 し て い る 。さらに、固定されていない呼吸法、固定されていない瞑想、鬱を解消するヨガ療法、安眠を得るためのヨガ療法、不安を解消するヨガ療法、固定されていないアーサナなどをテーマにオンライン講座も開催している。viniyoga.com
モデル●エヴァン・ソロカはコロラド州アスペンで活 動しているヴィニヨガのヨガ療 法 士 。詳しくはウェブサイトへ。evansoroka.com
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