"筋肉に焦点をあてた指示"がもたらすダメージとは|指示の生体力学的分析
たとえば、皆さんはセツバンダサルヴァーンガーサナ(橋のポーズ)で「ハムストリングを働かせましょう」と指示されたとき、実際にハムストリングを精いっぱい働かせているだろうか。それとも「かかとをお尻のほうに位置を変えず(等尺性)に引きましょう」と指示されたほうがハムストリングをもっと効率的に働かせられるのだろうか。
さらに重要なのは、特定の筋肉を働かせる指示によって、骨の配列が整えられて、究極的には高度の統一感を味わうという本来の目的が達成できるかどうかだ。科学的なデータが、これを否定している。運動性学習に関する研究では一貫して、内側に焦点をあてた指示(つまり、「ハムストリングを収縮させる」のような筋肉の動きに関する指示)は、外側に焦点をあてた指示よりも、筋肉に収縮を起こさせる点ではるかに効果的でないことが示されている。
外側に焦点をあてた指示とは、たとえば、「かかとをお尻のほうに引きましょう」のように、筋肉に何らかの動きを引き起こす具体的な指示である。『MedicalEducation』に発表された研究結果によれば、外側に焦点をあてた指示を受けると自動的に運動指令が出されて、それを実行するのに必要な筋肉が活性化されるという。
実際、この研究論文の著者らは、特定の筋肉の活性化を求める指示を受けるとそれとは対照的に、自然な運動制御系が抑制されて運動の計画と実行が妨げられる結果、ポーズをうまく行うことができなくなるほか、筋肉の活性化に不均衡が生じる可能性があるとしている。それは理にかなっている。動作を指示されると、脳が視覚系と前庭系(内耳にあって平衡感覚と関係がある)と固有受容系(自分の関節の位置や動きを感じ取る)を活用して運動指令を出し、それによってその動きに必要な筋肉を自動的に活性化させるからだ。特定の筋肉を働かせるよう指示を出さなくても自然に筋肉の動きが引き起こされる。
もちろん例外もある。けがからの回復期や、不規則な運動パターンを是正しようとしている場合は、特定の筋肉を働かせるほうが良いこともある。ただ、私の個人的な考えでは、そのような指示は最終的な目標が具体的かつ明確で指導者が結果をつぶさに観察できる1対1の個人指導で出すべきである。グループレッスンでは、筋肉を働かせる指示の結果を把握できず、効果よりもダメージのほうが大きくなる可能性がある。
私たちはこのような指示を受けたときに体に見られる相違点を明らかにするべく、筋肉を働かせる指示を2つ選択した。橋のポーズで臀筋を働かせるかゆるめるかに関しては、見解の一致をみていない。臀筋を働かせるよう指示する人もいれば、臀筋を「枝に実った桃のように垂らしておくよう」指示する人もいる。また、私たちはこのような指示に対する体の反応だけではなく、橋のポーズで臀筋を働かせる(または働かせない)ときに起きることを生体力学的に正確に説明したいと思った。
そこで、ひとりのヨギにワイヤレス筋電計を装着して、7つの主要な筋肉(大臀筋、大腿二頭筋、背柱起立筋、広背筋、大腿直筋、腓腹筋、前脛骨筋)の活動電位を計測した。
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