科学的に考える「ジャンプバック」で安全にプランクポーズに移る方法
ジャンプバックで安全にプランクポーズに移るには、どのように行うのが最適か。科学的な視点から解明していく。
ジャンプバックで安全にプランクポーズに移れますか?
ほとんどのヨギがある時点でこう注意されるだろう。「後ろにジャンプしてプランクポーズに入らないように。チャトランガダンダーサナだけにしておきなさい」。しかし、フィットネスの世界にはこの警告が存在しない。ジャンプしてプランクポーズに移るエクササイズは、自重トレーニングの中でも特に人気があるのだ。
マーク・シングルトン著『Yoga Body』によれば、西洋のヨガの始祖T・クリシュナマチャリアが、1930年代に西洋で行われていた体操から、後方にジャンプしてチャトランガダンダーサナに移る動きを借用し、のちにアシュタンガヨガとなるシステムを考案したとされている。ヴィンヤサやパワーヨガのほとんどがアシュタンガヨガの系統から派生しているため、この動きは広く行われるようになり、今では欧米のパワフルなヨガクラスのほとんどに採用されている。
しかし、最近になり肩や手首のけがの問題が出てきたことを考えると、この動きをめぐって耳にする誤解について、改めて考えてみるのがよいと思われる。まず、皆さんも耳にしたであろう俗説を見ていこう。
ジャンプしてプランクポーズに移ると、膝がきしむと同時に、肘を曲げてチャトランガダンダーサナに移るときには分散される衝撃を、この動きでは手首と肘と肩が吸収しなければならないという説だ。しかし、Journal of Bodywork and Movement Therapiesが2011年に実施した研究では、(腕を伸ばしている)プランクポーズよりも(肘を曲げている)チャトランガダンダーサナのポジションのほうが、手首と肘と肩の筋肉に大きなトルク(回転力)が発生することがわかった。この研究結果は、後方にジャンプしてそれぞれのポーズに移る場合にも当てはまる。ジャンプしてプランクポーズに移る場合、肩は手首の上に積み重ねられ、肘は相当伸びているか真っすぐ伸びている。つまり、肘の周辺の筋肉が、チャトランガダンダーサナで着地するときほどトルクを生み出す必要がないことを意味している。その代わりに、もっと大きな肩と腰の筋肉が動きを制御するため、肩、肘、手首は損傷を受けにくくなる。
また、プランクポーズでの着地については、骨を積み重ねたポジションによって靭帯損傷(ligamentstrain)が起きるという誤解もある。「strain」とは、単に元の状態から長さが変化することを指す。言い換えれば、「ストレッチ」「伸び」のことだ。ストレッチをするたびに体には伸び(strain)が起きている。伸びること(strain)自体は損傷(injury)と同義ではない。体の組織がその回復力を超えて伸びたときに、損傷が生じる。たとえば、肘を曲げてチャトランガダンダーサナに入るときには、肘関節の靭帯と腱が伸びる。靭帯と腱が伸びるのは、関節を曲げているか過度に伸ばしているときだけで、骨を積み重ねたときではない。プランクポーズでは、肘関節の靭帯と腱は長さが変わらない。靭帯と腱には伸び(strain)が起きないことを意味している。
最後に、後方にジャンプしてプランクポーズで着地するほうが、チャトランガダンダーサナで着地するよりも腰に負担がかかるという俗説も耳にしたことがあるかもしれない。どちらの着地でも体幹部を働かせなければ、腰は沈む。すると、椎間関節(椎骨と椎骨の間の関節で、背骨の曲げ伸ばしを可能にする)が圧迫される。これを長期間繰り返せば、骨の変性につながる。その反対に、どちらの着地でも背中が丸くなりすぎれば、椎骨に過大なトルクが生じて、そのために椎間板が圧迫されて損傷につながる可能性がある。体幹部を働かせてジャンプすることによって、どちらの状況も回避しよう。こうすると、背骨をニュートラルに保つことができる。
生体力学研究室を訪ねてみた
私たちはプランクポーズに移る動きとチャトランガダンダーサナに移る動きの生体力学的な違いを検討した科学的研究を見つけられなかったため、コロラド大学ボルダー校の応用生体力学研究室に出向いて、自ら検証することにした。この研究室には、10台のカメラを用いたモーションキャプチャシステムと特殊なプレートがあり、床反力(床に体重がかかるとき床に接している部分が床から受ける力)を録画することができた。
私たちはひとりのヨギの両手と腰にセンサーをつけ、そこを基準点として、ふたつの動きの最中に重心がどこに移るのか明らかにしようとした。その結果、垂直方向の床反力ピーク値(最大値)について、両方の動きの間に差が認められないことがわかかった(どちらも体重の約1.5倍)。この結果は、どちらのほうが衝撃が大きいとは言えないことを意味している。実際、どちらの垂直方向の床反力ピーク値も、走行時の値(体重の2.5倍)よりも歩行時の値(体重の1.3倍)に近いことがわかった。このことは、必要な力があって適切な形を保つことができれば、後方にジャンプしてプランクポーズに移っても、チャトランガダンダーサナに移っても、歩行時よりもやや高い衝撃が加わるにすぎないということを意味している。私たちは追跡試験を行って、両方の動きの最中に被験者の手と足に受ける床反力を別々に測定した。その結果、チャトランガダンダーサナで着地するときに上半身が受ける床反力のほうが、プランクポーズで着地するときよりも4.5kg(被験者の体重の7%)大きいことがわかった。しかし、プランクポーズで着地するときには逆のことが明らかになった。プランクポーズで着地する場合、肩と手首が受ける力はチャトランガダンダーサナよりも小さいが、足が受ける力は3.6kg(被験者の体重の5%)大きかったのだ。つまり、プランクポーズで着地するときには重心が腰の近くに留まるが、チャトランガダンダーサナで着地するときには頭のほうに10cm移動するということだろう。この結果が意味しているのは、チャトランガダンダーサナに着地する場合、床反力が加わって腕が支える体重がさらに大きくなるため、安全な関節の位置を保って着地するために、肩、肘、手首が生み出すトルク量が増大するということだ。筋肉に必要とされる力が大きくなるほど、けがをする可能性が高くなる。特に、関節のまわりの筋肉が、着地やチャトランガダンダーサナを支えるのに十分な力をつくり出せない場合には、関節を損傷する可能性が高くなる。
後方へのジャンプを解剖学的に見てみよう
後方にジャンプしてチャトランガダンダーサナやプランクポーズに移るときにはどの筋肉が働いているのだろうか。
答えはこの図の中に。
チャトランガ vs プランクポーズ
後方にジャンプしてプランクポースに移る場合とチャトランガダンダーサナに移る場合の床反力(床に接している部分が床から受ける力)を測定し、下の図に主な結果を示した。この図から、床反力と重心の両方を考慮に入れると、プランクポーズで着地する場合とチャトランガダンダーサナで着地する場合には大差がないことがわかる。
チャトランガダンダーサナに移る場合は、上半身が受ける床反力がプランクポーズに移る場合よりも4.5kg(モデルの体重の7%)大きいことが明らかになった。
プランクポーズに移る場合は、肩と手首への負担はチャトランガダンダーサナに移る場合よりも小さいが、足への負担が約3.6kg(モデルの体重の5%)大きくなることがわかった。
どれを選ぶべきか?
今や両方の動きの生体力学的特徴がわかったので、自分の必要性と目標に合わせて、ヨガを教えている人であれば生徒の必要性と目標に合わせて、情報をふまえた選択ができるはずだ。以下の指針を参考にしていただきたい。
★後方に足を引いてプランクポーズになり、体を低くしてチャトランガダンダーサナに
最もけがをしにくい選択肢を求めている場合は、これを選ぼう。初心者のほか、手首、肘、肩、腰にけがをしやすい人や足の可動性が十分でない人にとって最高の選択だ。
★後方にジャンプしてプランクポーズに
プランクポーズをきちんと(背中上部の筋肉を働かせて、腰を沈めずに)保つことができて、痛みも感じず、さらに挑戦したいと思っている人は、これを選ぼう。体幹部と腕と肩を働かせ、腕を比較的真っすぐに保とう。
★後方にジャンプしてチャトランガダンダーサナに
チャトランガダンダーサナをきちんと(背中上部の筋肉を働かせ、腰と腹部を沈めずに、肩と肘を一直線に)保つことができて、プランクポーズへのジャンプも問題なくこなし、プランクポーズからチャトランガダンダーサナへ痛みを感じず移行できる人は、これを選ぼう。この練習をするときには、体幹部と肩を働かせ続けよう。関節に痛みや違和感を感じたら中止すること。
指導&モデル/ロビン・カポビアンコ
ヨガを実践しており、ヨガの科学的側面への興味から神経生理学で博士号を取得した。動作の神経制御をテーマとする自らの科学的研究に、20年以上にわたるヨガの学びと実践と指導の経験を活かしている。自らの研究では、ヨガの指導方法を根本的に変えることと、ヨガ界に欠けていると感じている科学的根拠を提供することを目指している。詳しくはウェブサイトへ。
指導/ジェイナ・モンゴメリー
生涯変わらぬ学習者でありアスリートでもある。科学とスポーツへの情熱から、人間の動作の生体力学的研究で博士号を取得した。自らの研究では、外力や装置(具体的には補装具やその技術)が人間の動作に及ぼす影響を明らかにすることに取り組んでいる。詳しくはウェブサイトへ。
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