ヨガでケガしやすい4つの典型的な姿勢パターンとリスクを減らす方法
姿勢と怪我というのは密接な関係にあります。今回はヨガでケガを引き起こしやすい典型的な姿勢のクセ、そして安全にヨガを行うための解決策を紹介しましょう。
最近の調査によれば、ヨガによるケガが増えていることが示唆されていますが、私たちの中でも熱心な生徒でさえも毎日の練習時間は1日の中のほんのわずかでしかありません。それでは残りの時間にしていることは何でしょう。姿勢そして動作のクセです。それらはヨガのプラクティスよりもはるかに我々の関節、筋肉、筋膜に与える影響が高いのです。ヨガが批判の的となっているものの、実際は普段の生活の中で長年続けてしまった体の左右の不均衡などの体への負担がヨガポーズをきっかけに一気に我慢の限界を超えてしまったというケースも少なくありません。
今回は注意すべき典型的な姿勢パターン、よりケガのリスクの高いポーズやプラクティス、そしてバランスが崩れてしまった患部をもう一度整えるためのいくつかのヒントを紹介しましょう。
ケガをしやすい姿勢パターン①上位交差症候群と二頭筋腱炎
太陽礼拝をした何度も繰り返した後に肩の上の筋肉に痛みを感じたことはありますか?これは「上位交差症候群」と呼ばれる典型的な姿勢のクセに関連した症状です。
解剖学からの見解
私たちの多くは日常的に運転やパソコン作業を行い、自分の体の前に腕を置くことが多いでしょう。この姿勢パターンは肩の前方と胸筋(大胸筋と三角筋前部を含む)を縮めて硬く締める傾向があります。その一方、後部肩と中背部の筋肉(肩甲骨を動かすのを助ける上背のいくつかの筋肉、中部僧帽筋、棘下筋を含む)を弱めます。この体の不均衡によって、上腕骨頭がソケット(肩甲骨のくぼみ)に引っ張られてしまうのです。
このような歪みの生じた状態で体重のかかるポーズをすると、肘を曲げ、重力は前方の肩にかかり、肩関節の前にある二頭筋腱(上腕二頭筋長頭にある腱)に負荷をかける傾向があります。これを繰り返していると、腱に余分な負荷が掛かって炎症が起こり、肩の前側に痛みを感じます。
ヨガクラスではよくこの姿勢は繰り返され、四肢で支える杖のポーズ(チャトランガ・ダンダーサナ)は最も注意を要するポーズです。 カラスのポーズ(カカーサナ)や八曲がりのポーズ(アシュタヴァクラーサナ)、バッタもしくはドラゴンフライのポーズ(マクシカーナグアーサナ)などの肘を曲げてバランスをとるポーズもまた注意の必要があるでしょう。横向きの板のポーズ(ヴァシシュターサナ)でさえも、体重のかかった肩の上部を胸に向かって前方へと移動させると二頭筋腱に負担がかかる可能性があります。
肩の怪我のリスクを減らす方法
積極的なストレッチと能動的なストレッチとを組み合わせて、胸部と前部の肩の慢性的な緊張を和らげましょう。例えば、ハンブルウォーリアーの腕組みや逆の祈りのポーズ、T字型またはサボテンの姿勢で仰向けになってみましょう(おそらくロール状に巻いたブランケットやマットを背中の下におき、胸を高くするとより良いでしょう)
腕を外側に回したり、積極的に引き込んだりする腕を使った姿勢を取ることで肩の後部の筋肉を目覚めさせます。例えば、腕をT字またはサボテン型にして行うバッタのポーズなどが良いでしょう。
四肢で支える杖のポーズをする際には肩上部に負担が掛からないように、鎖骨を広げて胸骨を前方に向けて、より体の中心に体重をかけられるようにしましょう。このポーズをキープするためには、肩を肘の高さにして、体の位置をより高くした方が楽になります。
ケガをしやすい姿勢パターン②下位交差症候群(Lower Crossed Syndrome)とハムストリング腱炎
もう1つの一般的なヨガのケガは、骨盤底の坐骨結節についた筋肉であるハムストリングスの腱炎です。ちょうど座骨の下あたりに引っ張るようなしつこい痛みを感じます。特に長時間のストレッチや座り姿勢の後は痛みが悪化します。
解剖学からの見解
私たちのほとんどは毎日何時間も座って過ごします、そして軟部組織はこの習慣に適応します。そのような体の調整は一般的によくある筋肉のパターンで「下位交差症候群」と呼ばれます。その場合、骨盤と大腿部の前面(腸腰筋と大腿直筋を含む)にある股関節屈筋が硬くなり、骨盤と大腿部の後部にある股関節伸筋(大臀筋やハムストリングスを含む)は弱くなり、骨盤を前方に傾ける傾向があります。
ヨガでは、ハムストリングをストレッチすることで、強化するというよりむしろ悪化させてしまうこともあります。過度にこの弱った筋肉をストレッチすると、坐骨に付いている腱に負担をかけてしまいます。この骨盤底の下にある腱というのは、毎日の座り姿勢によって圧迫され、血流が減り、なかなか治癒しにくいという可能性があります。
(特に足をまっすぐな状態で)股関節を屈曲させる度に私たちはハムストリングスを伸ばします。このことから体を伸ばすポーズには注意すべきでしょう。具体的には以下のようなものが挙げられます。立位の前屈、座位の前屈、足の親指を掴んで伸ばすポーズ(ウッティターハスタパーダングシュターサナ)、側面を強く伸ばすポーズ(パールシュヴォッターナーサナ)、猿王のポーズ(ハヌマナーサナ)、立位の前後開脚のポーズ(ウルドヴァ・プラサリータ・エカ・パダーサナ)、膝に頭をつけるポーズ(ジャーヌシールシャーサナ)、横たわった足の親指をつかむポーズ(スプタパダングシュターサナ)、下向きの犬のポーズなど。
ハムストリングのケガのリスクを減らす方法
ハムストリングのストレッチをする時はお腹の筋肉に意識を集中させます。ストレッチしているときに坐骨が強く引っ張られるように感じた場合には、膝を曲げたり、体を動かす範囲を狭めたりするなどして、速やかにその違和感から離れましょう。
ストレッチを行う度にハムストリングの強化に努めましょう。バッタのポーズと橋のポーズのバリエーションをプラクティスに頻繁に取り入れるようにしましょう。橋のポーズをする際は胴体から数センチ足を遠くへ離し、臀部の収縮ではなく、ハムストリングの収縮を意識するようにしましょう。そして最後に、下向きの犬のポーズの時に後方に向かって足を引き上げたり、肘をついた鳥と犬のポーズでハムストリング(そして大臀筋)をしっかり収縮させたりする際は、マットに対して腰を直角に保ちましょう。
ケガをしやすい姿勢パターン③後部骨盤の傾きと 腰椎椎間板の損傷
腰椎椎間板の決裂や突出を経験したり、成人の8割の人が経験する背下部に何らかの痛みを感じたりしたことがあるとしたら、その背中の痛みの原因となった動きや姿勢、だいたいどれくらいの頻度で痛みが起きるかはっきりと記憶することでしょう。
解剖学からの見解
脊柱は、背骨の後ろで2つの椎間関節によって連結されており、背骨の前で椎間板に挟まれています。背骨を傾けたり、背骨を伸ばしたりすると(後屈)、椎間関節に負荷がかかります。つまり、脊椎を前に傾けたり、曲げたりすると(前方へのカール)、椎間板に負荷がかかります。もっと深く前屈すると、腕も伸びて体重がかかり、脊椎を曲げることにより滑るように力が働き、座り姿勢によって骨盤の位置が移動し、椎間板への負担が増えます。
皆が「下位交差症候群」を経験するわけではありません。ある人は前屈みな姿勢によって骨盤が後屈になります。骨盤の位置が変化すると他の体の部位にも影響をもたらします。その1つとして、腰椎のニュートラルな曲線が平らになり、屈曲がわずかになります。このことからわかる通り、(ヨガで)前屈姿勢をしたり、体重の負荷をかけたり、骨盤の位置を変えたりする以前にすでに私たちは日常生活の姿勢でも、椎間板に大きな負担をかけているのです。
健康な椎間板であれば、負荷をかけることが必ずしも悪いことではありませんが、椎間板が損傷していたり変性していたりする場合、ヨガのプラクティスで余計な力がかかると椎間板損傷につながる可能性があります。例えば椎間板の中にあるプロテインのようなゼリー状の組織が漏れ出したり、近くにある別の神経を刺激して脊椎機能を低下させてしまったりすることもあります。
脊椎椎間板に負荷をかけるポーズや動きには特に注意を払う必要があります。パシモタナーサナや膝に頭をつけるポーズ(ジャーヌシールシャーサナ)、座位のツイスト(アルダマッツェーンドラーサナ)、それから山のポーズ(ターダーサナ)や立位前屈(ウッタナーサナ)やローランジ、三日月のポーズの中の太陽礼拝のような立位ポーズから、またそのポーズへの移行の際も注意しましょう。
椎間板のケガのリスクを減らす方法
ケガのリスクを減らすための全体的なテーマは、ヨガのプラクティスを通じ、より意識的に姿勢を整えることです。本来のニュートラルな腰椎と骨盤の姿勢や位置を知れば、椎間板に負担をかけないよう慎重な決断を下せるはずです。むしろ自然に負担のない姿勢を体自体が選択するでしょう。
鏡、写真、友人からのヘルプ、または床や壁もしくは背中にポールを置くなどの触覚的なフィードバックを利用し、重力に対してさまざまな向きでニュートラルな腰椎と骨盤のラインを作れるようプラクティスをしましょう。(シャヴァーサナのように)仰向けでスタートし、直立状態(ターダーサナ)に移行し、次に体の脇を伸ばすポーズ(ウッティタ・パールシュヴァコナーサナ)または戦士のポーズIII(ヴィーラバドラーサナ III)のようなその他の立位ポーズを試しましょう。
特に座る際にはニュートラルな腰椎と骨盤のラインを意識しましょう。ブランケットの端を坐骨の下に敷くなどして床に直接座るのを避け、骨盤を後屈した状態からニュートラルな位置へと導くのも良いでしょう。
ニュートラルな腰椎のラインをキープする方法を学び、椎間板に負担をかける動きについても知りましょう。立位から前屈へ移行する場合、またその逆の場合も腰椎に負荷がかかるため、コアマッスル(体幹の筋肉)と足をうまく使って力を分散すれば、椎間板をしっかりサポートできます。これはヨガのレッスン以外でも役立つ習慣となります。
ケガをしやすい姿勢パターン④「テックネック」と首のケガ
私たちの生活の中で、スマートフォンやデバイスは重要なアイテムとなっていますが、スクリーンに費やす時間によって副作用がもたらされる可能性があります。「テキストネック」または「テックネック」と呼ばれる前方に頭が移動してしまう状態は最近では一般的になり、毎日何時間もスマートフォンやデバイスを見下ろす習慣に起因すると考えられています。
解剖学からの見解
テックネックは私たちの頭の重さを考えれば、自然と前傾姿勢となってしまうために一般的に起こりえることだと言えるでしょう。
今回説明したすべての姿勢の習慣と同様、テックネックは頚椎の生体力学的なパターンを変化させる可能性があります。そして頸椎にある椎間板にもさらに負荷がかかります。この状態は、どのヨガポーズにおいても問題になる可能性がありますが、ヘッドスタンド(シールシャーサナ)や肩立ちのポーズ(サーランバ サルヴァンガサナ)など特定の反転ポーズは劇的に体重の負荷がかかります。
ニュートラルな背中のラインを作るためにヘッドスタンドをするのはかなり挑戦的です。ましてや背中に歪みがある場合にはさらに負担が大きくなります。ヘッドスタンドする際に頭を前傾させてしまうと、全体重を頭に(さらに脆い椎間板にも)かけてしまうことになりかねません。無論、本来この重さに耐えられるはずはありません。
肩立ちのポーズもまた物議をかもすポーズです。テックネックの前傾の頭と全体重がかかってきます。つまり、ヨガの生徒たちの中にもテックネックの人がかなり多いとはいえ、このポーズによる恩恵はそのリスクに見合う価値がないかもしれません。
首のケガを減らす方法
骨盤の後屈と同様に、首のケガをしないように再確認しましょう。無意識の習慣で行うのではなく、いつ、どのようにして首を動かすのかを意識し、ニュートラルな頭と首の位置を見て確認し、感じてみましょう。
様々な重力の向きを試し、ニュートラルな頭と首の位置を探す練習をしてみましょう。例えば、背中を床につけて感覚を確認したり、壁にまっすぐ立って頭をつけてみたり、それから何もサポートのない姿勢、例えばターダーサナ、三角のポーズ(トリコナーサナ)、下向きの犬のポーズやドルフィン・ポーズ(アルダ・ピンチャ・マユラーサナ)などを行ってみてください。
もしヘッドスタンドをプラクティスしたい場合、じっくり時間をかけて努力し、肩に安定した筋肉をつけましょう(ニュートラルな頭と首のポジションはもちろん重要です)。頭ではなく、腕を使って負荷に耐えられるようになりましょう。
もし肩立ちのポーズをしたいのであれば、体が直線になるように肩の下にブランケットを重ねていれるなどして、首の屈曲を軽くするか、膝を曲げてより体重を支えられるようにします。腕と手を使って体重を支え、頭と首への負担を軽減しましょう。
どんな身体活動にもリスクがあり、ヨガも例外ではありません。しかし、最近報告されているヨガによるケガの増加は、プラクティスが理由というよりも、毎日の生活習慣に関連している可能性があります。ヨガのプラクティスの大きな利点の1つは自分自身を見つめ直すことができることです。起こり得るリスクの可能性を考えてヨガのプラクティスをあきらめるよりもむしろ、毎日の姿勢を意識し、よりマインドフルになって自分の日々の姿勢が強い影響力を持つことを認識しましょう。
教えてくれたのは…レイチェル・ランドさん
レイチェル・ランドさんは、ニュージーランドのクイーンズタウン在住。グループ&個人セッションを提供するだけでなく、ヨガ・メディスン ティーチャーのトレーナーとして世界を旅しています。解剖学やアラインメント(骨・関節の配列)など実生活で役立つ学術研究に熱心で、ヨガを通じて生徒たちが心の強さ、安定、透明性を手に入れられるよう手助けしています。レイチェルは今年5月、スペインにてヨガ・メディスン ヨガティーチャー200時間トレーニングを主導します。
ヨガジャーナルアメリカ版/「4 Common Postural Patterns That Cause Yoga Injuries」
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