"筋肉に焦点をあてた指示"がもたらすダメージとは|指示の生体力学的分析

 "筋肉に焦点をあてた指示"がもたらすダメージとは|指示の生体力学的分析
Paul Miller
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指示の生体力学的分析

橋のポーズを行っている人が、筋肉に焦点をあてた指示(「臀筋を働かせなさい」または「臀筋をゆるめなさい」)を受けたときと、動きに焦点をあてた指示(「膝を前に押し出してかかとを後ろに引きなさい」)を受けたときに活性化した7つの筋肉の%MVCを比較した。

「臀筋を働かせてください」

この指示では、臀筋が最も大きな仕事をすることがわかった。
 臀筋(お尻)…94%
 脊柱起立筋(脊柱を支える筋群)…78%

広背筋(背中)…12%
大腿二頭筋(ハムストリング)…15%
大腿四頭筋…3%
腓腹筋(ふくらはぎ)…1%
前脛骨筋肉(すね) …5%

「臀筋をゆるめてください」

この指示では、脊柱起立筋が最も大きな仕事をすることがわかった。
臀筋(お尻)…48%
脊柱起立筋(脊柱を支える筋群)…77%

広背筋(背中)…13%
大腿二頭筋(ハムストリング)…3%
大腿四頭筋…4%
腓腹筋(ふくらはぎ)…1%
前脛骨筋肉(すね) …5%

「膝を前に押し出して、位置を変えずにかかとを後ろに引いてください」

この指示では、臀筋と脊柱起立筋が負荷を分け合って、最もバランスがとれた筋肉の動きが起きることがわかった。
 臀筋(お尻)…82%
 脊柱起立筋(脊柱を支える筋群)…77%

広背筋(背中)…15%
大腿二頭筋(ハムストリング)…15%
大腿四頭筋…2%
腓腹筋(ふくらはぎ)…1%
前脛骨筋肉(すね) …5%

その後、3つの指示に対する筋肉の活動電位を比較した。

私たちは最初に、7つの筋肉に最大限の力を発揮(最大随意収縮)するよう被験者に求めた。具体的には、目的の筋肉を主に使うような動きをしたときに、それに対抗する力をかけた。たとえば、被験者に椅子に腰掛けてもらい、その椅子に装着されているストラップに指の付け根を押し付けて、ふくらはぎの筋肉(腓腹筋)を活性化してもらった。被験者がどの程度この筋肉を随意的に活性化することができるか理解する必要があった。最大随意収縮(MVC)の値が得られれば、これを基準値にしてポーズのさまざまなバリエーションにおける活動電位を標準化することができる。私たちは各筋肉に対してこれに類することを行った。

次に、橋のポーズを行っている最中にさまざまな指示を受けたときの活動電位について、最大随意収縮に対する割合(%MVC)を計算した。(今回は損傷歴のないひとりのヨギのみを被験者としたが、ほとんどの健康な成人のヨギでは筋肉の活動電位のパターンはほぼ同等であると考えられる)。まず、筋肉に関する指示「臀筋を働かせなさい」について検討した。この指示を受けたとき、臀筋の活動電位が最も高く94%MVCであり、背柱起立筋(78%MVC)がそれに次いだ(指示を受けたときに観察された7つの筋肉の%MVCについては、167ページの生体力学的分析を参照のこと)。

次に、筋肉に関する指示「臀筋をゆるめなさい」について検討した。皆さんも橋のポーズで臀筋をゆるめると、ハムストリングがその埋め合わせをすることを聞いたことがあるだろう。しかし、実際にはその反対のことが起きた。「臀筋をゆるめる」指示を受けたときのハムストリングの筋活性度は、わずか3%MVCにとどまった。一方、「臀筋を働かせる」指示を受けたときには15%MVCになった。ただし、背面の筋肉と大腿四頭筋がその不足分を補っていた。

ふくらはぎとすねの筋活性度も、「臀筋を働かせる」指示を受けたときよりも顕著に低下した。では、橋のポーズをしている間に「膝を押し出してかかとを引きなさい」という動作の指示を受けたときには何が起きただろうか。臀筋はMVCの82%に活性し、脊柱起立筋は77%MVCに活性して、臀筋と共に負荷を支えていた。さらに、橋のポーズを支えるべく働いている筋肉(広背筋とハムストリング)がいずれも15%MVCと、MVCに対して同じ強度で活性していることがわかった。

以上の結果から、筋肉に関する指示ではなく動きの指示を受けると全身の筋肉に相乗的活性化がみられることがわかる(ポーズを保つためにひとつの筋肉がほとんどの仕事をするのではなく、複数の筋肉が同時に働くことを意味している)。

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Photos by Paul Miller
Model by Karena Virginia
Hair&make-up by Beth Walker
Illustration by Michele Graham
Translation by Setsuko Mori
yoga Journal日本版Vol.62掲載



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