「大災害が来るかも」と言われる今、知っておきたい備えの話|福島TV気象予報士だから知っていること

「大災害が来るかも」と言われる今、知っておきたい備えの話|福島TV気象予報士だから知っていること
石松佑梨
石松佑梨
2025-07-04

いつか来るかもしれない災害。そう思いながらも、日々の忙しさに追われ、どこか他人事のまま過ごしてはいないでしょうか。私も「備えなきゃ」と思いつつ、なにもできずにいました。 そんな中で出会ったのが、気象予報士の斎藤恭紀さん。福島でお天気を伝え続ける斎藤さんの言葉は、驚くほどリアルで、実感に満ちていました。 「災害は防げません。でも、知っていれば守れる命があります」 大切なのは「正しく怖がる」こと。防災は、暮らしそのものなのだと気づかされました。

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気象と防災の原点としての「福島」

地震
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—— 福島で長年にわたりお天気を伝えてこられた中で、さまざまな災害に直面されたと思います。そうした経験を経て、自然や気象との向き合い方に変化はありましたか?

私はこれまでに、阪神・淡路大震災(1995年)、東日本大震災(2011年)、台風19号(2019年)、さらに相馬で震度6の地震を2度経験しています。そうした経験から強く感じるのは、「災害とは、一瞬でそれまでのすべての幸せが失われてしまうものだ」ということです。

残念ながら、自然災害はなくなりません。日本は自然の恵みにあふれた国で、四季折々の美しい風景や温泉など多くの恩恵を受けていますが、その裏側には、私たちが太刀打ちできない自然の力があるということを、忘れてはいけません。

大切なのは、「無駄に怖がる」のではなく、「正しく怖がる」こと。そして心の準備を整えておくことです。

テレビからSNSへ。「情報の届け方」の変化

SNS
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—— 私はテレビを持たない生活をしており、斎藤さんをSNSで知りました。災害時はもちろん、日常的にもSNSから情報を得る人が増えています。SNSでの発信について、どのように意識されていますか?

SNSやラジオは、災害時にとても有効な情報ツールです。被災時は電話が通じなくなることも多く、SNSでの情報共有が命を救うこともあります。

たとえばLINEは、もともと東日本大震災をきっかけに開発されたアプリです。返信がなくても既読であれば「生きている」と確認できたり、ステータスメッセージに「〇〇にいます」と入力しておくだけでも家族との安否確認につながります。私は、災害時のLINE活用についても発信を続けています。

一方で、SNSには誤情報やデマが広がりやすいリスクもあります。熊本地震では「ライオンが動物園から逃げた」というフェイク動画が拡散されました。これは、興味本位や悪ふざけで発信されたものが、正義感や善意によって加速度的に拡散されてしまった典型例です。

被災直後は、恐怖と混乱の中で冷静な判断が難しくなり、真偽を見分ける力も鈍りがちです。さらに近年ではフェイク動画の精度が高く、専門家でも見分けがつかないケースも出ています。

だからこそ、私たちが平時から「情報リテラシー」を意識し、ファクトチェックを習慣化しておくことが重要です。テレビや気象庁の公式情報など、信頼できる情報源に当たるクセをつけましょう。

天気は暮らしそのもの。感覚でとらえる防災

ゲリラ豪雨
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—— 雨や風など、日々の天気の中に災害の前触れが隠れていることもあります。私たちがそうした“小さなサイン”に気づくために、できることはありますか?

昔の人たちは「感天望気(かんてんぼうき)」という方法で、雲や風の変化をもとに天気を予測していました。これは経験と感覚に基づいた知恵で、現代にも通じるものがあります。

たとえば、私たち気象予報士がもっとも苦手とするのがゲリラ豪雨です。国土交通省のデータでは、1時間に50ミリ以上の非常に激しい雨は、1976年〜2020年の約45年間で約2倍に増加しています。特に夏の夕立や線状降水帯に起因する局地的な豪雨は、予測が非常に難しいのが現状です。

ただ、予測が難しくても、すでに発生している事象なら確認できます。天気は西から東に移るので、自分の西側で起きている天気を気象庁のサイトなどでこまめにチェックする習慣をつけましょう。

たとえば、西の空が暗くなって冷たい風が吹いてきたら、雷雨のサイン。日常生活の中で、洗濯物の干し方や取り込みタイミングなどに天気を意識してみるだけでも、天候への感覚が養われます。

受け身ではなく、能動的に情報を取りに行く姿勢が、いざという時に生きてきます。

完璧を目指さない防災

ペットボトル
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—— 「防災グッズをちゃんと揃えなきゃ」と気負いすぎてしまう人も多いです。斎藤さんが実践している、無理のない備え方があれば教えてください。

災害を経験していない人にとって、「突然すべてが止まる」という感覚は、なかなかリアルに想像しづらいものです。ですが、電気・水道・ガスなどのライフラインは、最低でも3日間は止まると思ってください。

東日本大震災では、電気は3日で復旧しましたが、水道は2〜3週間、ガスはそれ以上かかりました。今後は避難所ではなく“自宅避難”のケースも増えると予想されます。マンションでは、停電によってポンプが止まると、トイレの水が流れません。飲料水だけでなく、生活用水の確保も必要です。

たとえば、お風呂の水をすぐに抜かずにためておく。ペットボトルの水を箱買いしておき、普段から使いながら補充する。こうした“ローリングストック”の習慣が役に立ちます。

食料についても同様で、私はフリーズドライ食品をおすすめしています。軽くて場所を取らず、最近は味もとても美味しくなっています。これも“備える”のではなく“日常使い”していれば、賞味期限も気になりません。

こうした「いつもの暮らしの中で備える」という考え方を「フェーズフリー」と言います。非常時と日常の境界をなくし、「特別な準備」ではなく、「普段の暮らしの延長」として防災をとらえる。これは、忙しい現代人に合った実用的な防災のかたちです。

「防災=暮らし方」── 今日からできる備えとは?

防災
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—— 災害とともに生きる私たちが、日常の中でできる“はじめの一歩”として、どんなことから始めればいいでしょうか?

まずは「知ること」から始めてください。たとえば、自分の住んでいる地域が水害に強いのか、地震に弱いのかを知るには、自治体のハザードマップや、JHIS(防災科学技術研究所)の地震ハザード評価などが参考になります。

地盤の強さや震度6以上の地震が起こる確率が可視化されているので、それに応じて住まいの備えや保険の見直しにもつながります。

さらに今後は、自然災害に加え、有事(戦争やテロなど)による“人的災害”にも目を向ける必要があります。

災害は防ぐことができませんが、「大切な人が途方に暮れないためにどうするか」を考え、小さな行動を積み重ねていくことが大切です。

管理栄養士・石松佑梨の【取材メモ】

郡山市三春町のしだれ桜
郡山市三春町のしだれ桜

最近、私は東京と郡山(福島)の二拠点生活を始めました。テレビを持たない暮らしをしていることもあり、斎藤さんの存在を知ったのはSNSを通じてです。福島の桜の開花予想をぴたりと当て、Instagramで丁寧に発信されていたおかげで、わたしも満開のタイミングを逃さずに桜を楽しむことができました。

その“的中”は、空模様だけを読んだ結果ではありません。この土地の気候や風土を知り尽くし、日々の観察と積み重ねられた経験があるからこそ生まれるものです。斎藤さんの姿勢から、「知る」という行為は、私たちの暮らしを豊かにし、そして、いざというときに自分や大切な人を守る力にもなるのだと実感しました。

取材を通じて特に印象に残ったのは、「本気で想像することの大切さ」という言葉。災害を“自分ごと”としてリアルに想像することで、日々の行動が変わっていきます。たとえば、エレベーターに乗っているときに地震が起きたら? 台所で火を使っている最中だったら? そんなふうに、身近な日常の一コマ一コマを具体的に想像しておくことが、いざというときの行動に直結する。防災は、特別なことではなく、日々の暮らしの中にある。そう感じさせてくれる取材でした。

お話を伺ったのは…

斎藤 恭紀(さいとう やすのり)さん

気象予報士・防災士。
テレビ朝日「スーパーJチャンネル」、東北放送「ウォッチン!みやぎ」などで気象キャスターを務め、現在は福島テレビ「テレポートプラス」「サタふく」に出演中。郡山市の気象防災アドバイザーとしても活動。SNSでも防災情報をタイムリーに発信中。

X(旧Twitter):福テレ空ネット @ftv_tenki 

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