【体の仕組みを学ぼう】視点が変わる!?「逆転ポーズ」のメリットと安全な行い方
ヨガジャーナルアメリカ版の人気記事を厳選紹介!理学療法士であり、アイアンガーヨガの正式認定指導者であるジュディス・ハンソン・ラサターから、逆転のポーズのメリットとその構造について学ぼう。
上下逆さまになると、世界の見え方が変わる。文字どおりの意味でも比喩的にも。古来のヨガの英知を紐解けば、逆転のポーズが体のバランスにも心のバランスにも素晴らしい効果をもたらすことがわかる。私は個人的に、逆転こそがヨガのポーズの神髄であると考えている。そして、ほぼすべての人が無理なくできる修正ポーズが、ほぼ必ず存在すると思っている。可能なかぎり、何らかの形で逆転のポーズを練習に組み入れるべきである。
逆転のポーズとは
私の定義では、逆転のポーズとは頭が心臓より低くなるあらゆるポーズを指す。ウッターナーサナ(立位前屈)、プラサリタパードッターナーサナ(立って両脚を伸ばすポーズ)、アドームカトルシュヴァーナーサナ(ダウンドッグ)、セツバンダサルヴァーンガーサナ(支えのある橋のポーズ)、ヴィパリタカラ二(壁に脚を上げるポーズ)をはじめ、多数のポーズが該当する。
私は逆転のポーズをふたつに分けて考えている。一方は頭が心臓より低くなるが、頭以外の部分は必ずしも低くならないポーズだ。もう一方はもっと大きな筋力と柔軟性を必要とし、経験豊かな指導者の下でのみ練習すべきポーズで、具体的には、サーランバシールシャーサナ(支えのある頭立ちのポーズ)、アドームカヴルクシャーサナ(下向きの木のポーズ)、ハラーサナ(鋤のポーズ)、サーランバサルヴァーンガーサナ(支えのある肩立ちのポーズ)、ピンチャマユーラーサナ(クジャクの羽のポーズ)である。
私が逆転のポーズを薦める理由
ヨガの通説のなかで私が気に入っているのは、逆転のポーズをすれば脳に運ばれる血液が増えるという説だ。これは事実ではない。実際は、足で立っているときも、肩や手や頭で支えて逆立ちしているときも、脳の血液の量は一定に保たれるよう厳密に調節されている。
ただ、逆転のポーズは体内の血流に確実に影響を及ぼす。逆転のポーズをホールドすることによって、静脈還流量(心臓に戻ってくる血液量)が増えるため、心臓にじかによい効果が及ぶ可能性がある。静脈還流量が増えることによって、通常、心臓の動きが鈍化して心臓を休ませることができる。
逆転のポーズによって心が平穏になり自分の内側に焦点を絞れるようになれば、脚のむくみが改善するのと同じように、ストレスと不安も緩和する可能性がある。ヨガの生徒のなかには、定期的に逆転のポーズを行ったら閉経期のほてりが軽減したと報告してくる人もいる。
安全に留意して逆転のポーズを行おう
逆転のポーズの構造
私たちの足と脚部は体重を支えて移動を促すようにできている。それに対して、前腕(肘から手首までの部分)と手首と手は、通常は体重がかからないようになっている。手は足に比較して、はるかに力が弱く、体重を支える準備ができていない。しかし、逆転のポーズでは、頭や首、肩、前腕、手に体重がかかる。手首と手で全身の体重を支えようと思ったら注意が必要であることは容易に理解できる。前腕の2本の骨(橈骨〈とうこつ〉と尺骨)と上腕骨とは肘関節でつながっている。尺骨は橈骨よりも可動性が小さく、肘関節の裏側を受けるように曲線を描いて上腕骨に連結している。一方、橈骨はもっと可動性が確保される形で上腕骨に連結している。このことを知っていれば、体重を支えるうえで腕と手の配置がどのような影響を及ぼすか理解しやすくなるため、これは逆転のポーズに役立つ知識だ。支えのある頭立ちのポーズでは、前腕はニュートラルであり(つまり回外していて)、主に肘が体重を支える構造になっている。肘関節では、尺骨は橈骨よりも厚く、構造的な可動性もその分大きくなっている。このような構造のために、上腕骨から吸収する負荷も上腕骨に伝える負荷も尺骨のほうが大きくなる。
逆転のポーズで手と前腕を意識的にマットにおくことが、力強いポーズの安定した土台をつくることにつながる。ハンドスタンドでは、ポーズの重みが真っすぐ手に向かう。手と手首にかかるこの余分な負荷を受け止めるために、手に丸みをつくろう。具体的には、床に手のひらを平らにおいて指の付け根を引き上げれば、手の縁だけが床についていて指は弧を描いた形になる。
手と手の間隔は肩幅と同じにしよう。手のひらを肩関節の真下におくと、鎖骨が押し込められる感じがするため、腕と腕の間隔が少し広がって、最終的に鎖骨がニュートラルな位置と形に保たれるようになる。
肘関節では、尺骨のほうが橈骨(とうこつ)より厚くなっているため、上腕骨から吸収する負荷も上腕骨に伝える負荷も尺骨のほうが大きくなる。
サーランバシールシャーサナ(支えのある頭立ちのポーズ)
短い辺が壁に接するようにマットを敷く。その上にしっかりしたブランケット1枚を敷く(頭と前腕をのせるためのもので、厚すぎると体を安定させにくい)。
壁に向かって四つん這いになる。肘を床に下ろす。肘が肩関節の真下にくるようにして、上腕骨を床に垂直にする。前腕でしっかりマットを押し下げたのち、手首を回して手のひらを向かい合わせる。手の外側の骨でしっかり床を押す。両手の指を組む。このとき強く握らずに、水かきの部分でしっかりつながるようにする。体重を前に移して、前腕と手と手首を働かせる。
手首の内側に頭を当てて、頭頂部の前方に少し体重がかかるようにする。ここからポーズに入っていくにつれて、頭が自然に逆転していって頭頂部が下になり、体のバランスが見つかるようになる。目線を真っすぐ部屋のほうに向ける。膝を曲げたまま足を胴体のほうに歩かせる。片足を蹴り上げて、反対の足も床から離れたら、すぐに両足を壁にもっていく。肩を力強く引き上げ続けて、首を長く保つ。ゆったりと自然な呼吸を続ける。両脚を内側に向けることによって、足の指の付け根が壁に接して、かかとが互いに離れるようにする。足の指の付け根まで全身を引き上げる。
体を下ろす準備ができたら、片足ずつゆっくり下ろして、すぐにチャイルドポーズで座る。
【安全第一を心掛けよう】頭立ちのポーズで首を守る
このポーズで頭に多少の圧力を感じるのは正常な反応で、かなり気持ちよく感じられることもある。ただ、それとは違う感覚が首にあったら、すぐにポーズを中止すること。理学療法士、カイロプラクター、リハビリの医師など専門家に首を診てもらう必要を感じることもあるかもしれない。
頭立ちのポーズは、ほかのほとんどのポーズとは異なり、何回も練習することを勧めたいポーズではない。強烈な影響を及ぼす力強いポーズだ。ヨガをするとき1回行えば十分である。
私はこれまで55歳以上の人にこのポーズを指導したことがほとんどない。年齢を重ねると首の自然な曲線が失われ始めるため、頭でバランスをとることが難しくなる。そこで、頭立ちのポーズではなく、半分の頭立ちのポーズを紹介している。
◎出典は、ジュディス・ハンソン・ラサター著『Yoga Myths:What You Need to Learn and Unlearn for Safe and Healthy Yoga Practice』(仮題 ヨガの通説:ヨガを安全で健康的に行うために知るべきこと、忘れるべきこと)。©2020 by Judith Hanson Lasater 写真©2020 by David Martinez コロラド州ボルダーのShambhala Publications Inc.と協定を結び転載。
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