体幹の筋肉や内臓の役割とは?|ヨガのための解剖学
よく鍛えた腹筋は、柔らかくしなやかで、変化にすばやく適応することができる。
もっと腹部に注目しよう
私たちは体幹の力強さというと腹筋を思い浮かべるが、体幹は腹筋がすべてではない。「第二の腸」と呼ばれる腸神経系と消化器系が感情に影響を及ぼすため、体幹は感情や気分にも結びついている。腸の調子が良くないとその不調は全身に及び、腹部が硬いと元気がなくなることもある。また、ストレスや気分の落ち込みがあったり睡眠不足のときに、胃のむかつきを感じる人もいる。今回は体幹を詳しく見ていこう。体幹部とは、横隔膜から骨盤底までの空間を指す。胴体を包み込んでいる部分であり、「胴体中央部」または「腹腔」とも呼ばれている。
●体幹には腹直筋、内腹斜筋、外腹斜筋、腹横筋、多裂筋、脊柱起立筋、腰方形筋、腸方形筋、広背筋など、表層から深層にあるものまで多数の筋肉がある。
●体幹には胃から脾臓、大腸、小腸、肝臓、胆嚢、腎臓、膵臓、膀胱、生殖器官まで、臓器のほとんどが収まっている。
体幹の筋肉の役割
体幹の筋肉は姿勢を維持するのを助けている。たとえば、腹直筋は主に、骨盤に対して胸郭を安定させており、腹横筋と多裂筋は、骨盤底および横隔膜と協力して腰椎を安定させている。また、ヴィンヤサやランニングのような力強い動きをする際には、体幹の筋群は力を生み出して伝達すると同時に、脊柱を安定させて神経、椎間板、関節、結合組織を保護している。下のポーズを行って、腹部の安定性をさらに高めよう。
A 四つん這いとプランクポーズのバリエーション
四つん這いになる。手首を肩の真下に、膝を腰の真下に揃える。膝を腰より少し後方に引いてもよい。こうすると腰椎を安定させながら骨盤の重さを支えるために、腹筋群がさらにしっかり働くようになる。片方の腕と反対側の脚を同時に上げる。骨盤と胸郭が回転しようとする力に耐えよう。腕のみを上げると腹筋(特に上部の腹筋群)が強く働くことに注目しよう。なぜそうなるのだろうか。臀筋が働いていないからだ。ポーズの強度をさらに高めるには、同じ動きをプランクポーズから始める。どちらを選んでも体幹の筋群がほぼすべて使われる。
B ナーヴァーサナ(舟のポーズ)
仙骨の下から3番目の骨と坐骨の後方の縁で座る。腹部(特に腹直筋)をできるだけ働かせるために、浮遊肋骨(胸骨に結合していない第11、12肋骨)を上前腸骨棘(骨盤の正面の突出した部分)と水平に保ちながら、上のほうの腹筋の動きを妨げずに浮遊肋骨を引き入れる。胸部を引き上げたくなるのをこらえる。胸部を引き上げると、腹筋の力が弱まり股関節屈筋群が過度に働かざるをえなくなる。舟のポーズは腹部で支えよう。
C ヴァシシュターサナ(サイドプランクポーズ)のバリエーション
上側の胸郭を回転させずに、下側のウエストを内側に引き入れる。上側の腰を後ろに回転させたくなるのをこらえながら、骨盤を安定させて、下側の腰の上に上側の腰を重ねて維持する。腰、肩、腰の外側の筋肉が腹斜筋と一緒になって全身を安定させている様子を観察しよう。
呼吸筋を助ける
体幹の筋肉の中でも腹筋群(腹直筋、内腹斜筋、外腹斜筋、腹横筋)は呼 吸 補 助 筋 と し て も 働 く た め 、深 い呼吸ができるかどうかを左右し、ひいては気分にも影響を及ぼしているが、次の簡単な呼吸法によって腹部にかける力を調節してみよう。筋肉の働かせ方を変えると気持ちや感情にどんな変化があるだろうか。
●椅子または床に座るか床に横になる。楽に感じられるように必要なだけプロップを使って体を支える。
●自分のペースで6~10回呼吸をする。呼吸に合わせて体が動くのに任せる。
●少なくとも6回呼吸したら、息を吐きながらへそを脊柱のほうに引き、呼吸の深さや体の感覚に変化があるか観察する。
●息を吸って腹筋をゆるめ、呼吸が元に戻ったと感じるまで呼吸を続ける。
●次に、息を吐きながら、骨盤と胸郭を動かさずに下腹部を仙骨のほうに引き入れる。
●下腹部を引いたまま、4~6回呼吸をして、ここでも呼吸の深さや体の感覚に注目する。
●息を吸って腹筋をゆるめ、呼吸が元に戻ったと感じるまで呼吸を続ける。
●最後に息を吐きながら、ほかの部分はいっさい動かさずにウエストの両側を体の中に引き入れる。
●幅広いベルトをきつく締めるようにウエストの両側を引き入れたまま、4~6回呼吸する。
●息を吸った後、自然な呼吸を繰り返す。呼吸と体にどんな変化があるか観察する。
体幹の内臓の役割
私たちの幸福感は腸神経系の状態にかかっている。腸神経系は迷走神経などの経路を介して中枢神経系に結びついている神経である。第二の脳と呼ばれる腸は中枢神経系とともに、消化機能を制御するほか、ストレスへの反応を調節している。お腹が痛いとき、胃酸が上がってくるとき、胃が重く感じるときには、そのような不調がさまざまな感覚や神経系にそのまま現れることが多い。そんなときは偏狭な考えに固執したり、変化に適応するのに苦労している可能性がある。特に、慢性疾患、睡眠不足、仕事と生活のバランスの崩れなどのストレス要因や精神的苦痛があると、迷走神経に影響が及び、ホルモンの量、代謝、頭の冴え具合に変化が起きる。
研究の結果から慢性的なストレスが迷走神経の調子に悪影響を及ぼすことがわかっている。特に、過度なストレス反応と過敏性腸症候群のような胃腸の不調との間には相関関係が認められている。体を休ませて、消化と体の回復を促すためにリストラティブヨガが効果的だ。特に、プロップで体を支えて体の背面を伸ばすと、腸が心臓と頭より高い位置におかれるために、腹部にかかっている圧力を取り除くことができる。直感(英語では、はらわたの感覚と表現される)が強く働いて、頭で考えたことがかき消された経験がある人も多いはずだ。背面を伸ばすポーズを行えば、直感がさらに冴えてくる。腹部を軽く引き上げると、今この瞬間を最大限に受け入れることができるようになり、考えがまとまらない場合には頭がすっきりしてくる可能性もある。
腹部の力を信頼できるようになるには、ゆっくり練習を続けていくしかない。不安や疲れがあるときや落ち込んでいるときには、脚を伸ばして行うセツバンダーサナ(橋のポーズ)のバリエーション(下の写真)を少なくとも20分間続けよう。ただし、妊娠、腹直筋離開、脊椎管狭窄、脊椎すべり症、異常な出血(月経過多)、胃食道逆流症がある人には禁忌。
このようにプロップで体を支えてセツバンダーサナを行うと、硬くなっている股関節屈筋群と腹筋群が動くようになる。また、脳にかかるエネルギーが取り除かれるため、不安や抑鬱感が和らいで、脳ではなく体が主導権を握るようになる。また、頭を心臓と腹部より低くすることによって、脳がでしゃばらないようになる。
四肢を伸ばして行うセツバンダーサナ
ボルスター(2個)とベルト(1本または2本)を用意する。必要に応じて、ブランケット、ヨガブロック、アイピローを利用する。
●ボルスターを縦につなげて置き、かかとから肩甲骨の先端までを支える。足がボルスターからはみだす場合は、足の下にブロックを置く。ボルスターが厚くて自分の可動域を上回っている場合は、ボルスターではなくブランケットをたたんで使う。
●ボルスター(またはブランケット)の上に座る。太腿を内側に回転させる。膝の下と大転子の上にストラップをゆるめに巻いて、脚を安定させる。足先をボルスターの横に下ろしたほうが楽な場合は、膝の下にストラップを使わずに足を横に下ろす。
●肩甲骨の下の端がボルスターの先端の上にのって、頭部に最も近づくように胴体の位置を足のほうに下げる。頭は無理なく床に下ろす。必要であればブランケットの上に頭をのせる。首の角度は楽につばを飲み込める程度でなければいけない。
●両腕は横に伸ばすか頭上に伸ばす。必要であれば、たたんだブランケットを手首の下だけに敷く。手首を高い位置におくと、肘が下がり、肩の緊張が和らぐ。
●ブランケットで目と体を覆う。この姿勢で20分間休む。ポーズから出るには、ストラップをゆるめて膝を曲げ、何回か呼吸をする。床に体を下ろして、膝をゆっくり左右に下ろすか、ジャタラパリヴァルタナーサナ(腹部のねじりのポーズ)を行う。その後、キャット&カウかパヴァナムクターサナ(ガス抜きのポーズ)を行う。体幹がどんな感じがするか観察する。腹部は柔らかいほうが丈夫で強いことを覚えておこう。
さらに深く学ぼう!
今回紹介したポーズをしている姿を写真に撮ってフェイスブックかインスタグラムに投稿しよう。@yogajournalまたは@experiential.anatomyのタグ付けをすれば、メアリー・リチャーズとジュディス・ハンソン・ラサターによるオンライン講座Experiential Anatomy: Movement Literacy for Yoga Teachersを無料で受講するチャンスがある。
指導●メアリー・リチャーズは30年間近くヨガを行っていて、現在はアメリカ各地で解剖学、生理学、運動学を指導している。筋金入りの運動好きで、大学時代はNCAA(全米大学体育協会)で活躍する選手だった。ヨガ 療 法 で 修 士 号を取 得して い る 。詳しくはウェブ サ イト へ 。maryrichardsyoga.com
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