【心理学者兼ヨガ指導者が教える!】時間がスローダウンする?時間の体感が変わる4ステップ

 【心理学者兼ヨガ指導者が教える!】時間がスローダウンする?時間の体感が変わる4ステップ

いつも慌ただしいのはもう懲り懲り?アインシュタインの言う通り、時間は相対的なもの。だがその体験をスローダウンさせる方法を紹介しよう。

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86歳の父は晩年、時間との関わりを深めていた。80歳の頃から毎日ヨガをしていた父は、次第に車椅子に縛られるようになり、外に出てニューヨーク・タイムズを手に取るといった簡単なこともできなくなっていた。人からも「ゆっくりになったね」と言われるようになった。

憂いを込めた言葉だったのかもしれないが、私の感覚は異なっていた。窓の外のスズメの口論や飛び方を観察したり、チョコレートトリュフをの包み紙をほどいたり、空を飛ぶ雲を眺めたり、虫眼鏡で娘と孫の写真を見て似ているところを探したり、父はゆったりと、その瞬間瞬間の詳細に没頭して生きていた。

彼のマインドフルネスや充足感は、猛烈なペースの私の生活とは対照的だった。私は、クライアント、クラス、ミーティング、父の家、そして自分の家へと駆け回り、夜中まで働くこともあった。給油中にガソリンスタンドのスタッフが話しかけてきたり、スーパーのレジで遅いレーンに列んでしまった時には、遅れをとる、とやきもきして、私の善の心は吸い取られていった。父は今この瞬間を幸せに生きているように見えた。一方で、他の人々がよりマインドフルに生きる助けをするヨガの指導者であり、心理学者でもある私は、時間を追いかけていたのだ。

私の知り合いのほぼ全員が、同じような時間の欠乏感覚を共有しているようだ。「時間が足りない。 」と同僚からメールがきた。「すぐにでも始められますか?10ヶ月以内にトレーニングを修了できるでしょうか?」ある人は最近、私のヨガのティーチャートレーニングについてそう問い合わせをしてきた。「果たすべきことが何もないときはいいんだ。でも、ゴールがあるときは時間が敵となる。 」本を執筆している最中のヨギーの友人は言う。

もちろん、私たちの多くは、ほとんどの場合、ゴールを持っている。仕事を持つこと、学校に行くこと、子供を育てること、全て決まったスケジュールに従って物事を成し遂げることが要求される。生産意欲を持つことは何ら悪いことではない。それは、創造という生命力と響き合う。しかし、私たちは、生産性とスピードを重視する文化に生きている。そして気付けば、時間との永遠の戦いに呑まれ、より深い自己とのつながり、より深い他者とのつながりを失っているのだ。

時間を切望しながら、持っている時間を誤用し、そして時間の欠乏を不満の原因にする、というサイクルから私たちを解放する生き方はないのだろうか。

答えは「ある」だ。世間と距離を置いたり、やりたいことを極端に減らしたりする必要はない。さらに効率よいスケジュール作りのコツに注力する必要もない。それよりも、時間の体験の仕方に、より強い意識を持つのだ。

時間の体感を変える方法 

ヨーガスートラに記された哲学、特に「スヴァディヤーヤ(読誦、自己探究)」「サティヤ(正直であること)」「アパリグラハ(不貪、執着を捨てること)」に根ざしたこのアプローチは、時間とより深く調和し、すべての瞬間により完全に繋がることを可能にする。

時間を違った形で体感するためには、ヨガや瞑想の練習を育むように、時間との新しい関係を築き、実践する必要がある。最初は、「もっと多く」「もっと速く」という文化の流れに逆らって泳いでいるような感覚になるかもしれない。変えることは容易ではないかもしれないが、それによる報酬は計り知れないものとなる。

1. 自分の時間との関わり方を理解する

最初のステップは、ヨガの教えのひとつである「スヴァディヤーヤ(読誦、自己探究)」だ。スヴァディヤーヤは、自分の内側に目を向け、自分自身をよりよく知ることを求める。自分自身の自然なリズムと、周りの世界のリズムの違いを感じ取ることを教えてくれる。集中すべき実用的で有益なことは何で、委ね、手放すべきものは何なのかを教えてくれる。

時間との関係を形成している行動や、思い込みについて吟味したことはあるだろうか。時間の棚卸しは、時間の使い方の習慣の根底にある価値観を覗き見る窓となる。

自己探究は、次のような自問自答から始めてみよう。食事と睡眠以外に、私は24時間のうち、通常どのように時間を割り振っているだろう?私が最も時間を費やす活動は、私を育んでくれるものだろうか、それとも義務的なものだろうか?他人のニーズを優先した結果、自分自身に鬱積が残らないだろうか。もっと時間が欲しいと願う時、その切望した時間で何をすることを想像しているだろうか?

人は一時期的な伝染病のように、自分の時間感覚を周囲の人に合わせてしまうことがよくある。ワープするようなスピードで動く人たちと一緒にいると、自分には速すぎるペースで自分もつられて動いている、と感じることはないだろうか?

自問自答の答えを熟考していくと、自分にとって本質的に重要な活動や、自分の根本的なリズムと最も相性の良いペースが見えてくるはずだ。

2. 自分自身に正直であること

自分の時間の使い方をよく観察し、生まれつきの優先順位とペースを理解し始めたら、ヨガの「サティヤ(正直であること)」の教えを探求する準備が整った。サティヤは、自己探究の自然な副産物だ。自分の真実が何であるかを知っていれば、その真実を十分に尊重しない方法で世界を動いているときに、それに気付く可能性が高くなる。

もし、常に次から次へと、枯渇を感じるような方法で走っているのだとしたら、遅かれ早かれ、「自分が達成可能なもの」について持っている考えが、現実とずれていることに気づく必要があるのだろう。

この気づきは痛みを伴うもののように聞こえるかもしれない。しかし実のところ、何が可能で何が不可能なのかをより明確にすることで、自由を得ることができるのだ。自己探究と相まって、自分にとって何が一番大切なのか、より良いアイディアを与えてくれる。そしてこのプロセスは、内なる世界と外の世界により調和をもたらす。

私たちの多くは、時刻や締切、プレッシャーなど、直線的で時系列的な時間の中で生きている。このような時間の積み重ねは、私たちの最も重要で、生き生きとした本質的な部分を蝕んでいく。しかし、また別の豊かな時間も存在する。それは「非日常の時間」だ。音楽家やアスリートが「ゾーンに入る」と表現するように、その瞬間に在り、強く集中できる状態だ。同様に、臨死体験もまた、内への認識と内との繋がりの深まりが伴いながら、時間の流れがスローダウンすると言われている。動きの速さ遅さは関係ない。非日常的な時間を実現するのに最適な体験、それに十分なだけマインドフルであるかどうか、なのだ。

3. 手放す

非日常的な時間がどれだけ活力を与えてくれるものかを味わえば、直線的な時間へのこだわりは前向きに手放したくなるだろう。そこでヨガの「アパリグラハ(不貪、執着を捨てること)」という教えが姿を現す。アパリグラハは、もっと生産しなければならない、もっと達成しなければならない、もっと獲得しなければならないという欲求を手放すよう教える。この教えは、物質的または目に見える成果に対する強固なしがみつきを緩めるように促してくれる。

私は週に2回、近くの池で泳いでいる。25分ほどの距離にあり、全部で2時間くらいかかる。行きは直線的な時間に縛られ、帰宅後に待つ山積みの仕事に不安になることもしばしばある。しかし一度水に入れば、そんな心配は消えてしまう。息つぎに顔を上げるたびに、池に立ち並ぶ松の木の香り、野草の姿、水面を抜ける魚の光景に満たされていく。私は一気に非日常的な時間へといざなわれる。

時間を犠牲にすることで、必ずや思いがけない収穫がある。それにより、その後のすべての行動に流動性、創造性、容易さが行き渡り、そして事実、生産性も向上するのだ。しかし、時間的な余裕がなくて泳がない日は、何をするにも、より時間がかかってしまうのだ。

目標達成のために力を使えば使うほど、体力を消耗し、達成しようとしたことが台無しになってしまうという、生産性のパラドックスだ。たとえほんの少しの間でも、しがみつくことから離れられれば、フロー状態にアクセスでき、今ここにとどまり、利用可能な時間を楽しみ、収穫することができる。

4. 移行の時に気付く

時間の内部とその中にあるリストに目を向け、自分にとっての理想的なペースと焦点に正直になり、執着を手放す術を迎え入れ、非日常的な時間の体験も叶えたなら、次は「タイムフルネスプラクティス」と私が呼ぶものをあなたの生活に取り入れて始めてみよう。

これらの練習の心臓部となるのは、意識を今ここにに繋ぎとめることだ。すべての瞬間が、時間の変容体験の可能性を秘めているのだ。私は心理学者やヨガセラピストとして活動する中で、このような移行の時を目にしてきている。仕事の間、パートナーとの間、人生の何らかのステージの間、そしてヨガのポーズの間でさえ、全て可能性に満ちている。もはや古い意識や習慣に縛られてはおらず、だがしかし新しいタイムフルネスへの可能性、今この瞬間への開示性がまだ完全に定着しているわけでもない、その移行期こそが頂点となるのだ。

スピードを落とし、移行の時に意識を向けることで、時間をより豊かにすることができる。仕事からの帰宅時など、1日の中の小さな移行も、時間をより深く体験するための出発点となる。実際、すべての瞬間がある種の移行期なのだ。ただ、私たちはそれをあまりにも速く通り過ぎてしまい、それがどんなものなのか認めることができていないのだ。

以下の実践を毎日行うことはできないかもしれない。だが、まず1つから始めて、継続して行うことが助けとなる。これらの小さな変化の一つ一つが、あなたの日常にスペースをもたらし、直線的な時間からの休息を与えてくれる。

起床時

睡眠から覚醒への移行は、夢や直感的な衝動が得やすくなる時だ。スローダウンし、今ここに在るようにしよう。自分の一日により意識をもたらし、そしてそれぞれの瞬間にオープンになる意思を持とう。

仕事の前

大切な人に心から挨拶をする時間を持とう。目を見て、自分がどれだけその人たちを大切に思っているか、その人々が自分の人生に存在してくれることがどれだけ幸運なことか、感じてみよう。赤信号で止まる時や、公園や景色の良いところで「マインドフルな遠回り」をする時に、リラックスし、呼吸を整える。一日の中で最も退屈な仕事をする時でさえも味わおうと決めたり、昼食を急がずにゆったりと食べたりする。

仕事と仕事の合間

完了した感覚を味わうことなく、次から次へとタスクを急ぐと、何もかもが足りないという錯覚に陥ってしまう。アパリグラハ休憩を取る。何かを終えたら、完了した感覚と執着を手放す感覚を得るために、一旦立ち止まる。吸う息で体にエネルギーを迎え入れ、吐く息で完了したものを手放す。

仕事の後

15分間、リストラティブヨガのポーズをとって、自分自身とのつながりを取り戻す。落ち着かないように感じている時は、胸の下にボルスターやい枕をいくつか置いて、バラーサナ(チャイルドポーズ)のような前屈で神経系を落ち着かせよう。疲れ果てているときは、スプタバッダコナーサナ(横たわった合せきのポーズ)のような回復のための後屈ポーズが理想的だ。

就寝前

その日に経験したあらゆる課題に目を通し、そしてそれらを手放す。瞑想指導者である私の同僚は、自分の一日の棚卸しをする時間をとっているという。たとえばその日に誰かとの衝突があった場合、その相手に思いやりの思考を送り、次の日にその相手を受け入れるための心のメモを作成する。2:1呼吸(吸った息の2倍の長さで息を吐く呼吸法)を2分間行うと、脳を落ち着け、睡眠に導いてくれる。

時間が味方で在ることを知る

直線的な時間だけを過ごしていると、外側の自分と真の内なる自分を繋ぐ意識の糸がほどけてしまう。しかし、直線的な時間と、非日常的で変容的な時間への認識のバランスをとることが人生に意味をもたらす。なぜなら、非日常的な時間には、隠れていたあなたの魂を呼び覚ます働きがあるからだ。最初は直感や衝動、夢のささやきにしか聞こえなかったものが、時間が経つにつれて、響き渡る魂の声として明らかになるのだ。

父が亡くなった日、兄と姉と私は集中治療室で父を抱き、一緒に呼吸をした。枕元には父の親友が立ち、いとこが父の好きだったチェロのコンチェルトを演奏した。ICUの看護師は、父の余命は読めず、数分かもしれないし、数時間かもしれない、と言った。

どれくらいの時間だったのかはいまだにわからない。だがどんなに長かったとしても、父は私たち全員をその瞬間に繋ぎ止め、「今、完全にここに存ること」の重要性をあらためて教えてくれたのだ。非日常的な時間と、そこに宿る深い魂のつながりを、彼は私たちに最後に体験させてくれたのだ。

教えてくれたのは…ボー・フォーブス
ボー・フォーブス(Psy.D.)は、ボストンの臨床心理学者、ヨガ講師、統合ヨガセラピスト。

ヨガジャーナルアメリカ版 / 「Tired of Always Feeling Rushed? These 4 Steps Will Change Your Relationship to Time」

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by Bo Forbes
translation by HIDEMI

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ヨガジャーナルアメリカ版

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全米で発行部数35万部を超える世界No.1のヨガ&ライフスタイル誌。「ヨガの歴史と伝統に敬意を払い、最新の科学的知識に基づいた上質な記事を提供する」という理念のもと、1975年にサンフランシスコで創刊。以来一貫してヨガによる心身の健康と幸せな生き方を提案し続けている。



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