たった200時間のトレーニングでヨガ指導者になれるのか?YTTの実態と問題に迫る

 RYT ヨガインストラクター
PAUL MILLER
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問題視される生徒の受講前のヨガ経験値

 YAが対処していない問題の一つは、生徒がティーチャートレーニングを受講する前の経験値だ。中にはほとんどヨガをやったことのない人もいる。それを解決すべく、カプートのような指導者たちは独自の条件を設けている。カプートの場合は、ティーチャートレーニングの受講を許可するにあたり、2年間ヨガの実践を定期的に行っていて、指導者からの推薦状を提出できる人を条件としている。スマートフローヨガの考案者であるアニー・カーペンターも、生徒にポーズを指導するには経験が必須だと賛同している。カーペンターは、80年代にインテグラルヨガの創始者、スワミ・サッチダーナンダのもとでヨガを始め、アシュタンガヨガアイアンガーヨガの両方の指導者たちと学んでいる。彼女は、どのポーズでも生徒たちに「自分にはどこまでこのポーズができるか?」と聞くように促しながら、それを具現化して教えられるのが良い指導者だと考えている。必ずしもトレーニングを受けなくても、長年の経験からその能力は得られる。だからカーペンターは自分の200時間プログラムを、生徒たちがより深くヨガに接し、自分が本当に教えたいかを見極める場、そして、彼女が生徒たちの資質を見極める場として位置づけている。もし生徒たちに教える資質があれば、その後さらなるトレーニングを用意している。「500時間トレーニングを修了するまでは教えるべきではないわ」とカーペンターは言う。「ヨガアライアンスは、誰を受講させるかという基準を設けないことによって、ティーチャートレーニングを複雑にしているのよ」。

 カーペンターは、スマートフローヨガ指導者と名乗りたい生徒には、必ず彼女の500時間トレーニングと、彼女のメンタープログラムを修了することを条件としている。メンタープログラムを推奨しているのはカーペンターだけでなく、他の熟練指導者たちやヨガジャーナル共同創立者のジュディス・ハンソン・ラサター、次世代を担うティーチャーのアレクサンドリア・クロウも同様だ。ヨガフィジックスの考案者で、ヨガワークスでティーチャーたちに教えているクロウは、個人メンターやオンラインセッションを通じて生徒たちと長期の関係を築くことを奨めている。メンタープログラムで焦点を当てるのは、身体的機能、応用技能、哲学などの項目だ。「メンタープログラムは、ハンドスタンドのやり方を習うワークショップのように人気はないし、売上げになるわけでもないわ」と彼女は認める。だが、自信を持って送り出せる指導者を育てるためなら財政リスクもいとわない、とクロウは言う。

 ある分野の実践をさらに深めたいと考える指導者向けの、専門性に特化したトレーニングも国内各地で増えてきている。たとえば、サンフランシスコの老舗スタジオ、ヨガツリーのティーチャートレーニング・ディレクター、ダレン・メインは、200時間トレーニングは単なる足がかりにすぎないと見ている。ヨガツリーでティーチャー職を得るには、たとえばヨガ哲学や、産前ヨガ、ヨガ心理学などの専門分野に特化したトレーニングをさらに300時間受講する必要がある。メインに言わせば、200時間トレーニング修了は週1回ジムでストレッチクラスを教えるレベルだ。「だが、ちゃんとヨガを教えたいなら、最低500時間のトレーニングが必要だ、1,000時間ならなおいいだろう」と彼は言う。「YAは通りにくい針の穴に糸を通すために必死になっているが、設定した基準があまりにも低すぎる」。

 だが、新たな非営利団体ヨガネクストが、その基準を上げようと奮闘している。創立者のアーヴィンド・チチュマラは幼い時からインドでヨガを実践し、現在はロサンゼルスでヨガを指導している。ヨガネクストでは、350時間の基礎トレーニング、500および750時間の上級トレーニングを基準とし、5〜10年の指導経験の条件を満たして初めて登録ができる(チチュマラによると、およそ100名がすでに登録している)。2012年、彼は自分が提案した基準を35名のシニアティーチャーとともに見直し、2013年から実施している。チチュマラは、YAはアーサナ以外の実践に十分な注意を払っていない、と主張する。ヨガネクストの基準ではさらに細分化された時間数と教育を定めており、それにはプラーナヤーマバンダムドラサンスクリット語、バクティヨガ、カルマヨガラージャヨガアーユルヴェーダなどが含まれる。「これらの項目がYAの基準に含まれていたら、より多くのスクールが教えたいと思うだろう」とチチュマラは言う。

  ヨガネクストではさらに解剖学と生理学の直接指導を最低45時間受けることを条件としており、筋肉と骨をみる西洋医学と、チャクラや微細身をみる東洋医学の両方を網羅している。一方、YAでは解剖学と生理学に20時間と定めており、そのうち直接指導は10時間のみとなっている。「本当に無意味な基準だわ」と言うミーガン・デイヴィスは、ワシントンDC在住のヨガティーチャーでヨガセラピストだ。「多くの人が私に言ってくるの、『医者からヨガを練習するように言われた』ってね。彼らのような人たちが深刻なけがをするかもしれない。肩けん鎖さ関かん節せつ離り開かいの生徒と一緒にオールレベルのヴィンヤサクラスはしないでしょう? でも、中にはやってしまうティーチャーもいるのよ」。デイヴィスはDCや海外で解剖学トレーニングを教えており、主要なけがについても網羅するようにしている。「20時間の解剖学レッスンなんてほんの一瞬よ。生徒やティーチャーたちにけがをして下さいって言っているようなものだわ」とデイヴィスは語る。

 一方、ヨガコミュニティの医療専門家たちは、新米ティーチャーのクラスでけがをする生徒が増えているという調査報告はないと主張している。『メディカルヨガ(原題:Yoga as Medicine)』の著者で、ヨガジャーナルの医学編集者であるティモシー・マッコール医学博士は、ヨガ人気と、ペースの早いクラスやトレーニングによる体への負担、さらに熟練ティーチャーの不足がけがの増加の要因だと見ている。「けがの報告をしたがらない人が多いんだ」とマッコールは言う。「彼らは先生を慕っているから、歯を食いしばって大丈夫だと言う。だがひそかに整形外科に通っているんだ」。このような場合は、どのティーチャーでも管理しきれないだろう、と彼は理解を示す。「ティーチャーは、やってはいけないことをやらないように、と生徒たちに促すことはできるが、生徒たちの多くはやりたいからやってしまうんだ」。

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Story by Tasha Eichenseher
Translated by Sachiko Matsunami
yoga Journal日本版Vol.51掲載



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