たった200時間のトレーニングでヨガ指導者になれるのか?YTTの実態と問題に迫る

 RYT ヨガインストラクター
PAUL MILLER
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熟練指導者たちはどんな指導を受けてきたのか

 30年以上の経験を積み上級トレーニングを行うヨギたち、たとえば、リチャード・フリーマン、メアリー・テイラー、ゲイリー・クラフトソウ、パトリシア・ウォルデンのような欧米の熟練指導者の多くは、メンターやグルのもとで何年も実践を行う昔ながらのやり方で指導者になった。解剖学トレーニングの時間数を記録するタイムシートやチェックリストはなかった。必要な時間数を満たしたら哲学のような課目は省く、ということもなかった。それどころか、師からクラスを任せてもいいという許可が出るまでは、学べることはすべて吸収しながら何カ月も練習に没頭した。「心から学びたいと思わなければだめよ」と言うテイラーは、35年前にヨガに出会い、師であるスリ・K・パタビジョイスから教える許可をもらうまで、一日も欠かさず何年も練習をしてきた。彼女は、昔ながらの習得法ではヨガの良い面と同じくらい重要な悪い面も経験できる時間があった、と思っている。「かつては練習を通じて成長する時間や、慈悲の心を育む機会が持てたの」とテイラーは言う。 

 この世代の指導者たちは、80年代の空前のフィットネスブームから、90年代に入って欧米でヨガが主流になるまでの過程を目の当たりにしている。アメリカの主要都市のジムでは、伝統的なアシュタンガヨガヴィンヤサヨガの身体的な練習だけを抜き出したクラスが新設され、同時に週末プログラムでヨガティーチャーを修了させるYTTも現れた。同じ頃、ヨガは代替医療としても一気に注目され始めた。スワミ・サッチダーナンダの弟子で、カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部教授のディーン・オーニッシュ博士は、心臓病は食事や瞑想、支援グループ、エアロビクス、ヨガによって回復しうるという研究結果を発表した。彼の研究は病院関係者の注目を集め、彼のヨガプログラムを取り入れる病院も出てきた。このすべての流れが最悪の事態を引き起こした。ヨガティーチャーの需要が急増し、ほんの数日で指導者になる能力が求められたのだ。

RYT ヨガインストラクター
(Photo by PAUL MILLER)

 長年ヨガを実践する指導者や練習生たちは心配し始めた。もしジムや病院、保険会社、あるいは政府機関が、彼らの勝手な指導基準をこの古代伝統に義務づけてしまったらどうなるだろうか? 「それなら、自分たちで基準を設けたいと思ったんだ」とレスリー・上府は言う。彼は非営利教育団体「ブリージング・プロジェクト」の創始者で、シバナンダヨガとTKVデシカチャーの生徒である。カミノフも参加した基準をめぐる議論は80年代後半から徐々に表に出始め、90年代に入ると、議論の場はヨガカンファレンスを主催する非営利団体のユニティ・イン・ヨガに移った。「ヨガのすべてを含む、流派にかたよらない基準にしたいという強い思いがあったんだ」とカミノフは語る。

熟練ヨギたちが、最低トレーニング時間を200時間に制定

 1988年になると議論は再び活発化し、さまざまな流派から十数人の熟練ヨギたちが集まって話し合った。彼らは自分たちを「アドホック・ヨガアライアンス」と呼ぶようになり、コロラド州エステスパークでのヨガジャーナルカンファレンスで、聴衆を前にヨガティーチャーの基準についてのプレゼンテーションを行った。ほどなくして、ユニティ・イン・ヨガから非営利法人格を譲渡されたアドホック・ヨガアライアンスは、ヨガアライアンスに改名した。その後、何カ月にもわたる審議や交渉や譲歩を経て、1999年ヨガアライアンス(YA)メンバーは、ティーチャーが生徒を安全に指導するための最低トレーニング時間を200時間とすることに合意した。数十年間インドのアシュラムで行われていた、一カ月の研修プログラムに基づいた時間数だった。

 この200時間にはさまざまな分野の実践が割り当てられ、今でもその内訳は次のようにほとんど変わっていない。100時間のトレーニング、テクニック、実践。20時間(現在は25時間)の指導法、20時間の解剖学と生理学、20時間(現在は30時間)のヨガ哲学、ライフスタイル、倫理、10時間の実習、30時間(現在は15時間)の予備時間(上記の全カテゴリーをカバー)だ。「幅広く順応性のある構成なので、『これこそがやりたかったことだ』と言う人はいなくても、誰もが『いいね』とは言うだろう」と語るのは、アナンダヨガのディレクターで、元アドホックのメンバーであり今でもYAの取締役をつとめるナヤスワミ・ギャンディヴ・マッコードだ。

 新たな基準とスヴァルーパヨガの創設者であるスワミ・ニーマラナンダ・サラスワティの指揮のもと、YAはヨガスクールと指導者たちの認定登録を開始した。ヨガスクールとして認定を受けるには、条件を満たしていることを示す書類を提出し、年間200ドルを支払う。指導者として認定資格を得るには、YTT修了証明書と55ドルを支払わなくてはならない(現在はどちらにも申請費がかかる)。

 今日では、YA認定校は5,500以上、YA認定指導者は6万人以上にのぼる。「200時間基準がヨガ産業全体を生み出したんだ」とYA広報のタナーは言う。通常の場合YTTプログラムは、政府の認可を受ける必要がない。実はこの点がヨガコミュニティ内外での論争のポイントとなっている。デンバー在住のヨガティーチャー、サンディ・クラインは、信頼して指導を受けていた上級ヨガトレーニングのインストラクターたちが無資格者だと知って驚いた。2014年の終わり、彼女は80以上のヨガスクールが州の認可を受けずに操業していることをコロラド州の私立職業専門校部門(DPOS)に報告した。コロラド州上級教育省は、1981年から州法によってヨガスクールを含むすべての私立職業専門校の管理を委任されている。だが州内の何十校ものYTT認定校のうち、申請をして1,750ドルのライセンスフィーを支払っているのはわずかに13校のみだ。

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Story by Tasha Eichenseher
Translated by Sachiko Matsunami
yoga Journal日本版Vol.51掲載

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