ヨガでのけが予防・痛みから得る価値は?世界的エキスパート4名が対談
ヨガマットの上はけがのない場所ではない。本記事で紹介する2013年に『ヨガジャーナルアメリカ版』が行ったインタビューは、今日でも重要な意味を持つ。ここでは4人の著名なヨギたちが、けがをする理由とその予防法、痛みから得る価値ある学びについてディスカッションをしている。
ヨガの最中にけがをしたことがありますか?
ソーシャルメディアのフォロワーたちにこの質問をしたところ、瞬く間に返答が寄せられた。6時間の間に400人もの読者が反応し、大勢の人がけがと治癒について詳しく語ってくれたのだ。個人の経験は、アーサナのプラクティスでどんなけがをするのか、なぜけがをするのかを知るヒントとなる。けがの多くは、無理をしたり、体からのメッセージに耳を傾けないことによって起こる。ある人はこんなコメントを残した。
「友人たちのけがやエゴから多くを学んだけれど、彼女たちの誠実さ、意図、忍耐と気づきからは、それ以上のものを学んだわ。そのすべてが自分の道を進んでいく助けとなったの」
これに応えて、何年にもわたる学びとプラクティスの経験を持つ、さまざまな流派の指導者であるエキスパートたちに、ヨガにおけるけがについて率直に話してもらい、安全なプラクティスに最も大切なアドバイスをもらった。そこで生まれた対話ではけがからの学びに焦点が当てられ、初めからけがをしないよう、気づきと意図を持ってアーサナのプラクティスに取り組むという課題が示されている。
バクスター・ベル(以下、BB):本日は「ヨガアーサナのプラクティスとけがについて」というテーマのディスカッションに参加いただき、ありがとうございます。まずはこの質問から始めます。「ヨガをするとき、プラクティス中のけがに配慮する必要があると思いますか?」
ゲリー・クラフトソー(以下、GK):以前は僕のヨガの生徒のほとんどがけがをしていたよ。だから、けがが起こることははっきりしている。ただ問題はヨガではなくて、生徒と指導者の両方によるヨガの不適切な練習方法だと思うんだ。アーサナの目的について考えることが大切だよ。
生徒は、体のためにアーサナをマスターするという目的を改め、ポーズは体に役立つツールであることを学ばなくてはいけない。きちんとしたヨガの教育を受けた人にとっては、どんなポーズも問題はないんだ。何をするにしてもある程度の注意は必要だよ。どんなことにも言えるけれど、機械的に動くことがいちばんけがにつながりやすいからね。
パトリシア・ウォルデン(以下、PW):わたしはクラスの前にこんな言葉を唱えてから始めるの。「これから私たちは体を使います。体は私たちの最初の道具です。敬いの気持ちを持って扱い、なぜアーサナをするのかを思い出しましょう」
アナ・フォレスト(以下、AF):
生きていればけがを経験するのも当然だわ。けがは、痛みや弱さなど、いろんなものを連れてくるのよ。けがで何年も外に出られず苦しむこともあるわ。ポーズをマスターすることより、体のためになることを優先すべきだ、というゲリーの発言にお礼を言うわ。
BB:ヨガ実践者として自分の進化や、始めた当初のことを思い出すと、クラスの間にけがをしたこともありました。同じような経験がありますか?ある場合、それはどんな結果をもたらしましたか?ヨガのセルフプラクティスでけがを体験した後、プラクティスや指導はどんな形に変わりましたか?
GK:僕にはセルフプラクティス中にしたけがで苦しんだ経験があるんだ。だから、先生になるためにトレーニングを受けている生徒がけがをすると「おめでとう。これでみんなが経験していることがわかるようになるよ」と言うよ。
プラクティスを始めた当初は、シールシャーサナ(ヘッドスタンド)のやりすぎと不適切なシークエンスが原因で、首と肩に違和感と問題を抱えていた。急いでいる時に十分な準備もせず、体が温まる前に深くポーズに入ったりしてセルフプラクティス中にけがをしたおかげで、やってはいけないことと、けがの治し方について知ることができたよ。僕の場合、けがはより良いヨガセラピストになるためのきっかけになったんだ。
PW:私の場合は、プラクティス中のけがは一度だけ。先生と一緒にインドにいたとき、エーカパーダシールシャーサナ(片足を頭の後ろにかけるポーズ)で、足を頭のほうへ持っていったの。でも、先生が私を見ているのが見えていたから、自分の意識が内側の感覚ではなく、外側へ向いてしまったのね。
そこで少し夢中になりすぎてしまって、足を頭にどんどん深くかけていったら、椎骨の1つに痛みが走ったの。そこで、見せつけようとするのはいけないと学んだわ。自分のしていることに注意を払わずに、先生を感心させようとしていたの。でも幸運なことに、40年以上プラクティスをしているけれど、自分が原因のけがはそれだけよ。
AF:ヨガを始めたときには、けがをしやすい体の動かし方をしていて、あちこちをひねったり痛めたりしていたわ。当時はまだお酒を飲み、ドラッグもやっていたから、意識的なポーズのプラクティスをしていたとは言えないわね。自分の生き方がけがを引き起こしている、ということに気づくまで長い時間がかかったわ。
呼吸という知性を使い、体を感じながらポーズへ入るスムーズな動きを学んだら、ほかの人たちにそれをどう教えるべきかがとてもよくわかったの。どんなけがも学びへの大きなきっかけよ。けがを治すためには、自分が進化しなくてはいけないから。
BB:ヨガのプラクティスでは、自分とその内側だけでなく、周囲の状況や、その状況がその時やっていることに与える影響についても意識すべきだと思います。私はティーチャートレーニング初日に、不注意からけがをしました。アドームカヴルクシャーサナ(ハンドスタンド)の練習中、仲間のひとりがポーズを終えてそばを何の気なしに通り過ぎた時、彼の足が手に当たって指を骨折したのです。それはかなりの戒めとなり、その後18
カ月間、周囲の状況には常に気をつけていました。
GK:けがには、指のけがのように瞬時に起こるものと、機能障害となる動きのパターンを繰り返すことでゆっくり進むものがある。その多くはプラクティス中に起こり、症状が完全に現れるまで何年もかかることもあるんだ。神経筋の動きのパターンや、それを意識せずにするアーサナのプラクティスによって、機能障害となるパターンが強化され、組織に負荷がかかって何年も気づかないような損傷を起こす可能性があることを教えるのがとても大切だよ。
動きのパターンを意識すれば、新しい神経筋の回路をつくることができるけれど、そのためには自分の動きに注意する必要がある。その方法のひとつは、意識的に呼吸をすることだ。呼吸と動きを合わせ、意識的な気づきを持って呼吸すると、自分の動きのパターンを突き止め、変えることができるんだ。
PW:鍵となるのは呼吸ね。呼吸にフォーカスしているときには、リラックスしないほうが難しいの。
AF:ゲリーが指摘したポイントの中で、指導者を育成するという観点から重要だと思うのは、適切なシークエンスの組み方を学ぶこと。クラス中やその後で体が痛いようだったら、それはおそらくシークエンスが正しくないのよ、少なくとも、そこで自分がチャレンジしていることにはね。ウォームアップをきちんとするのは大切なポイント。これは汗をかくためだけでなく、その後とるポーズのために体を温めておくことよ。
BB:カウンターポーズを入れて、きついポーズで起きた緊張をゆるめる方法は知っていなくてはいけませんね。ここにいる全員が、けがの経験によって自分が形づくられたわけですが、特にアーサナのプラクティスによる場合、けがとはどんなものなのでしょう? それをきっかけに、自分の体やプラクティスへの学びが深まった、ということがありましたか?
GK:けがをしたとき、自らの行動を通してコンディションが良くなると、そこから大きな力が得られるものだよ。自分には望む方向に人生を変える力があるとわかるんだ。
PW:私はセラピーのクラスを受け持っているの。けがの痛みがある人が来て、毎週クラスを受けていると、治っていくことが体の経験以上のものになるの。その人たちは、自分の持つあらゆる側面について学び、誠実でいなくてはいけない。自分自身を深く見つめる必要もあるわ。治癒には多くの要素が関わってくるの。体だけではないのね。
AF:ここではヨガのけがについて話し合っているけれど、ヨガは問題に向き合うために使えると知ってもらうことが大切よ。高血圧でも、膝のけがや関節炎でもね。これは、治癒、セルフ・エンパワーメント、自己教育のためのプラクティスなの。同時に、楽しくてチャレンジを要するものでもあるわ。いろんな方法で心地よさを感じさせてくれるものなのよ。
BB:安全で正しいヨガのプラクティスの効果はリスクをはるかに上回る、ということを忘れないようにしたいですね。話を終えるにあたり、みなさんそれぞれに伺います。ヨガをする人が安全なプラクティスをするために、いちばん大切なアドバイスはなんですか?
AF:ポーズについてよく知らなかったり、怖かったりしたら先生に助けてもらうこと。何が痛みとなり、何が不快感やけがのエリアを緩和するのか、ということに好奇心を持ってね。
GK:アーサナのプラクティスの前には、そのプラクティスをする意図を心に留め、ヨガはヨガをする人に役立つものであると思い出してほしい。アーサナを学ぶとは、ポーズをマスターすることではなくて、ポーズを使って自分を理解し、変化を遂げていくことなんだ。僕は、プラクティスの目的は、体に機能的な効果をもたらすことだと教わった。ポーズは自分の体を理解し、それを変えるためにつくられたツールにすぎないんだ。
ポーズはマスターするためのものではなく、気分や体の機能を高めるためのものだと知ってクラスを受ければ、無理をせずに、知性を持って体を動かすことができる。生徒を見て体の状態を見て取り、生徒が自分に必要なことをより深く理解する手助けをし、コンディションを高めるためにどうプラクティスを用いられるのかを教えてくれる先生を探してほしいな。
PW:意図を定めてからプラクティスをしてほしいわ。呼吸をガイドとして使い、体のさまざまな感覚を理解しながら注意深く行えば、不快感と痛みの違いもわかってくるの。たとえば、呼吸がなめらかでなければ、その多くは無理をしすぎているというサイン。自分のエゴは後ろのポケットにしまっておくのも忘れずにね。
教えてくれたのは…
バクスター・ベル、MD
医師、医療鍼灸師、ヨガ・エデュケーター。15年以上にわたり、ヨガを通して生徒や患者の治癒を助けている。さまざまな国で教え、共著に『Yoga for Healthy Aging』がある。
ゲリー・クラフトソー
ヨガセラピスト、American Viniyoga Institute創設者、ディレクター。1974年にT.K.V.デスカチャーの下でヨガを学び始め、現在ではViniyogaのアプローチを用いたヨガとヨガセラピーを教え、指導者を育成している。アメリカ国立衛生研究所の研究において腰痛のプロトコルを担当し、著作に『Yoga for Wellness』『Yoga for Transformation』がある。
アナ・フォレスト
Forrest Yogaを40年にわたって発展させ、ヨガとヨガを用いた体と心の癒しに取り組む。鍼灸、ホメオパシー、ハンズオンヒーリング、マーシャルアーツ、サイコセラピー、回帰セラピーを学ぶ。さまざまな国で教え、著作に『Fierce Medicine:Breakthrough Practices to Heal the Body and Ignite the Spirit』がある。
パトリシア・ウォルデン
アイアンガーヨガのシニアアドバンスティーチャー。40年にわたってB.K.S.アイアンガーに学ぶ。マサチューセッツ州サマービルにB.K.S. Iyengar studioを共同開設し、2002年に近隣のケンブリッジにB.K.S.Iyengar Yogamalaを開設するまで17年間運営する。さまざまな国でワークショップやティーチャートレーニングを指導し、共著に『The Womans’ Book of Yoga and Health』がある。
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