陰ヨガが心と体のバランスを整える理由|ストレスや疲労を解放する陰ヨガ12のポーズ
陰ヨガの背後にある科学
陰ヨガのポーズによって筋肉、靭帯、筋膜にどのようなストレスがかかるのかもっとよく理解するには、ボストンで統合医療を行っているOsher Center for Integrative Medicineの所長、ヘレーン・ランゲヴィン(医学博士、哲学博士)による先駆的研究が参考になる。ランゲヴィンは医師であると同時に鍼医であり、鍼療法のメカニズムと、穏やかなストレッチを数分間かけたときにみられる組織の反応を研究してきた。ランゲヴィンの研究では、鍼をツボに打って素早く前後にねじると、目の粗い結合組織のコラーゲン線維が「フォークにからまるスパゲティのように」鍼に巻きつくことがわかっている。このように鍼にコラーゲン線維が巻きつくことにより、その結合組織に微小なストレッチが生じ、鍼がそこにあるかぎり持続する。このように鍼に誘発されたストレッチ(鈍い痛みの感覚を伴うことが多い)の30分後には、周辺組織の細胞が、鎮痛作用のある分子を放出することによって反応するようになる。ランゲヴィンは、鍼を使わず、手技による穏やかなストレッチを30分間行うことによって、この効果を再現することができた。これは私たちが陰ヨガで体をストレッチするのとよく似た方法だ。もちろん、皆さんは陰ヨガのひとつのポーズを30分も続けないだろう。それでも、(以下のページのような)陰ヨガのシークエンスを行えば、一箇所あたりの累積ストレッチ時間は30分に近づいて、同じような効果を得られるようになる。ランゲヴィンの研究では、長い穏やかなストレッチ(1日2回、10分間)が、炎症の緩和と結合組織の健全な可動性の回復につながることがわかっている。また、(筋膜の研究に生涯を捧げてきた)ロバート・シュレイプ博士による別の研究から、結合組織を15分間穏やかにストレッチすると、ストレッチを解除した30分後にはストレッチが起きる前よりも結合組織が水和することが示されている。以上の研究を併せると、陰ヨガが身体面では、結合組織の強度、活力、水和作用を促す可能性が示唆される。しかし、陰ヨガはエネルギーにも作用する。つまり、こういうことだ。ランゲヴィンは鍼のツボの位置と筋肉間の結合組織の面との間に相関関係があることを発見した。鍼医である私自身もこれには納得がいく。伝統的な鍼治療の教科書では、筋肉と筋肉の間、筋肉と骨の間、骨と骨の間にツボがあると書かれていることが多い。この「間」には何があるのだろうか。結合組織だ。漢方医療でいえば(体のかすかなエネルギーの循環経路である)経絡のある場所に当たる。以上のことから、陰ヨガはエネルギーの流れを大きくし、エネルギーの循環を高めるひとつの方法であることがわかる。鍼治療と陰ヨガを併せて行えば、特に関節でのエネルギーの停滞が解消される。エネルギーが妨げられずに循環すれば、その後に得られるものは、静けさと充足感である。陰ヨガをしている多くの人が、ヨガをした後に副交感神経系の深い反応を感じて、長時間くつろいだ感覚が続くことを報告しているのは、このことによるのかもしれない。
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