【痛みに関する最新科学が示唆】神経痛の緩和と予防に役立つ「ナーブフロッシング」とは?練習法も解説
ヨガの練習がどのように神経痛のケアと予防の手段となり得るか。
痛みに関する科学の新たな情報によると、ある特定のストレッチを実践し、「ナーブフロッシング」と呼ばれる手法を用いることで、痛みを予防・緩和できる可能性が示されている。
周囲の神経組織内で神経を穏やかに動かすことが、痛みの対処、及び神経系の一般的な健康にとって重要であることが調査により示唆されている。神経は、神経組織内で穏やかにスライドし、伸び、角度を変えることができるはずだという解釈だ。これにより、神経系がさまざまな負荷に適応可能になる。また、感覚を変化させたり、既存の痛みを悪化させたり、新しい痛みのパターンにつながるような神経への圧迫を最小限に抑えることができるのだ。
「ナーブフロッシング」とは?
神経組織は適切な血流の維持を周囲の組織の圧力勾配に依存している。組織の張力がわずかでも変化すると圧迫され、その結果、血流や脳への神経信号が乱れ、痛みの一因となることがある。
ニューロダイナミクスとは、神経経路、及び周囲の組織を介した神経の動きを研究する学問だ。神経の両端に交互に張力をかけて動きを作り出すことで、神経の適応性、そして神経の保護が維持できることが明らかになった。これは、「ナーブフロッシング」またはグライディングと呼ばれる。神経を動かすことにより、神経がさらに自由に動き、脳とのコミュニケーションをより効率的に行えるようになる可能性があるのだ。
脚の裏を走る坐骨神経を考えてみよう。スプタパダングシュターサナ(横たわった足の親指をつかむポーズ)で、持ち上げた膝を曲げて足首を90度にすると、足側の神経の端が緊張し、膝側の端は緩む。この動きは坐骨神経とその分枝を足のほうに引き寄せる。次に、膝を伸ばしたり真っ直ぐにしてつま先をポイントすると、緊張する部分と緩む部分が入れ替わり、坐骨神経の分枝が膝のほうに引き寄せられる。これらの動作を組み合わせることで、坐骨神経が組織内で楽に動けるよう促すことができる。
このような神経の動きは、局所的な炎症反応を抑制し、神経への健康な血流を回復させ、そして免疫系と神経系の最適な機能にとって欠かせない、脳と身体間のコミュニケーションをより効率的に促進する可能性がある。
痛みの予防と緩和に役立つストレッチ
「ナーブフロッシング」のポイントは、無理のない可動域で優しく動かすことだ。筋肉や筋膜ではなく、神経を痛みなく動かすことが目的なので、ほんのわずかな感覚のみ体感していく。これは、身体においても、行っていることから感じ取れる感覚や、エンドルフィン的な気持ちよさだけではない、もっとたくさんのことがその背景にはあるのだということを気づかせてくれる。「ナーブフロッシング」は痛みに対処する安全な方法であることに加え、シンプルで穏やかな動きなのでとても取り掛かりやすいものでもある。
以下のストレッチを行う際には、自分がフォーカスしたい神経を選び、痛みがなく、ほんのわずかな感覚、もしくはほとんど感覚を感じない可動域を見つけるようにする。1日1~2回、5~10往復から始める。予防的に行うのであれば、週に何回か、以下からローテーションして普段の練習に取り入れてみよう。
坐骨神経のためのストレッチ
坐骨神経は、体の中で最も大きく長い神経で、腰から足まで伸びている。また、最もよく炎症を起こす神経でもある。坐骨神経痛になる前に、この神経を健康に導いておくことは、スタートに最適な場所であり、また何度も立ち戻ってくる場所ともなる。このストレッチは、スプタパダングシュターサナ(横たわった足の親指をつかむポーズ)のバリエーションとなる。
仰向けになり、左脚をマットの上に伸ばし、右膝を曲げて胸に引き寄せ、右太ももの後ろで指を組む。右足首を曲げてつま先を天井に向け、坐骨神経を足の端に引き寄せる。
右脚を伸ばしていったり、真っ直ぐにする。必要であれば、脚を真っ直ぐには伸ばさず、膝を曲げたままにしておく。両手の平を右脚の後ろ側に預ける。つま先を天井にポイントし、坐骨神経を背骨のほうに引き寄せる。痛みや無理のない可動域で行うことを忘れないようにしよう。右膝を曲げ、5〜10回繰り返す。左右を入れ替えて行う。
脊髄のためのストレッチ
脊髄は原則的に、脳幹から腰にかけての中枢神経系を収めた管である。首(頚椎)と背中の上部、中部、下部(胸椎、腰椎)で逆の動きを使うと、脊髄に集中的なフロッシング効果が生まれる。マルジャリャーサナ・ビティラーサナ(キャットアンドカウ)に慣れている人は違和感があるかもしれないが、普段とやり方を変えることで、中枢神経系をターゲットにすることができるのだ。
四つん這いになり、肩が手首の上に、股関節が膝の上にくるようにする。背中を丸めて猫のポーズに入ったら、下を向くのではなく、前の壁をまっすぐ見て首を伸展させるようにする。
次に、背中を反らせてお腹を下げ牛のポーズに移るが、あごを少しひいて首を屈曲させる。無理は禁物だ。緊張を感じない程度に、無理のない範囲で行う。5~10回ほど繰り返す。
大腿神経のためのストレッチ
大腿神経は股関節と太ももの前面を走っており、背中の中部と腰(第2~4腰椎)の健康維持に重要だ。このスフィンクスのポーズのバリエーションは、強い緊張や負担を感じることなく実践したい。
マットにうつ伏せになり、肘を肩より少し前にスライドさせてスフィンクスのポーズに入る。手の平をマットに預ける。息を吸いながら右脚を持ち上げ、前を見て、少し上を向く。
次に脚を下げ、息を吐きながらあごを引き、無理のない可動域を見つける。これを5~10回繰り返す。左右を入れ替え行う。
大腿神経と坐骨神経のためのストレッチ
アンジャネーヤーサナ(ローランジ)のバリエーションにより、1つの動きで2つの神経に働きかける。後ろ脚の動作はその脚側の股関節前面にある大腿神経を、前脚の動作はその脚の背面にある坐骨神経をターゲットにしている。
右脚が前で右膝を右足首の上に位置させ、左脚は後ろで足の甲を寝かせたローランジでスタートする。両手を右足を挟んで置き、股関節からやや前傾する。(高さが必要な場合はカップハンズにするか、手の下にブロックを1つ、もしくはいくつか重ねる。) 頭を持ち上げて、まっすぐ前を見る。
背中を丸めてあごを引き、右足を真っ直ぐ伸ばす(完全に伸ばす必要はない)ようにしながら、腰を持ち上げ少し後ろに傾ける。これを5~10回繰り返す。左右を入れ替え行う。
坐骨神経を守る予防的なストレッチ
このバージョンのウルドヴァプラサリータエーカパーダーサナ (スタンディングスプリット)は、痛みのない人であれば誰でもできる、よりチャレンジングで機能的なストレッチの方法となる。あくまでも痛みの緩和のためではなく、予防のための練習として「ナーブフロッシング」を行う場合のみ用いる。
タダーサナ(山のポーズ)でマットの前の方に立ち、前屈をしてウッタナーサナ(立位前屈)になり、胸を太ももに近づける。両膝を軽く曲げ、真っ直ぐ前を向き、左膝で右脚のふくらはぎにタッチする。
両脚を真っ直ぐ伸ばし、左脚を後ろに上げながらあごをひき、右のかかとを上げ、つま先立ちになる。無理のない範囲で行う。右のかかとをマットに下ろし、両膝を曲げる。5~10回繰り返す。左右を入れ替えて行う。
正中神経のためのストレッチ
正中神経は、手や腕にある神経の中で最もよく炎症を起こす神経だ。この神経が圧迫されることで、手根管症候群の症状が引き起こされる。ヴィーラバッドラーサナII(戦士のポーズII)を応用したこの穏やかなストレッチは、手根管症候群だけでなく、その他の手首の痛みの緩和にも役立つ。
右脚が前のウォーリアIIでスタートする。手の平をマットの長辺に向ける。右手首を曲げ、右手の甲が後ろの壁を向き、手の平がマットの正面に向くようにする。左手首を曲げ、指が手の平へ向かうようにする。頭を右肩の方にゆっくりと傾ける。
両手と頭を入れ替え、右手の指が手の平に向かうようにし、左手の指と手の平をマットの後ろに向ける。頭を左肩の方にゆっくりと傾ける。痛みのない可動域を見つけてストレッチを行う。5~10回ほど繰り返す。左脚を前にし左右を入れ替えて行う。
教えてくれたのは・・・ティファニー・クラックシャンク
ティファニー・クラックシャンクは、解剖学と西洋医学を伝統的なヨガと融合させることにフォーカスした指導者のコミュニティ、「Yoga Medicine」の創設者。詳しくは、yogamedicine.comでチェック。モデルのジェナ・ニシムラは、ヨガメディスンのゼネラルマネージャーであり、コロラド州デンバーでジェントルヨガ、陰ヨガ、リストラティブヨガを指導している。
ヨガジャーナルアメリカ版 / 「What Science Tells Us About Preventing Nerve Pain With Stretching」
AUTHOR
ヨガジャーナルアメリカ版
全米で発行部数35万部を超える世界No.1のヨガ&ライフスタイル誌。「ヨガの歴史と伝統に敬意を払い、最新の科学的知識に基づいた上質な記事を提供する」という理念のもと、1975年にサンフランシスコで創刊。以来一貫してヨガによる心身の健康と幸せな生き方を提案し続けている。
- SHARE:
- X(旧twitter)
- LINE
- noteで書く