ストレッチで若く健康に? 科学が解き明かすヨガの効能

Chris Andre

ストレッチで若く健康に? 科学が解き明かすヨガの効能

プラーナと柔軟性

クラフトソウは神経系に働きかけるあらゆる運動において、呼吸が重要であることも強調し、呼吸が意識と自律神経系をつないでいることを指摘している。「呼吸が自己開発のための主な手段としてふさわしいかどうかは、呼吸の質によります。」

プラナヤーマ、つまり呼吸の制御、調気法、はサマディに向かうヨガの八支則の第四段階にあたる。ヨガの練習のなかで最も重要なもののひとつで、全身のプラーナ(生命エネルギー)の動きをコントロールする力を得るのに役立つものだ。深遠なヨガの哲学を通して見ても、西洋の生理学を通して見ても、弛緩とストレッチと呼吸の間の関係は明らかだ。生理学者は、動きと呼吸の間の機械的かつ神経学的な相関関係を、共同運動の一例だと表現している。つまり、体のある部分の運動に伴って別の部分に起きる不随意運動であると言うのだ。

深く落ち着いた呼吸をしながらパスチモッターナーサナを保っていると、呼吸の波に呼応して、筋肉の伸びに干満があることに気づくかもしれない。息を吸うと、筋肉は少し硬くなり筋肉の伸びは抑えられる。ゆっくり息を吐き完全に吐ききると、腹部が背骨の方に引かれ、腰の筋肉が長くなるように感じられて、胸部を太腿に近づけることができる。

息を吐くことによって肺がしぼみ、横隔膜が胸部まで上がることによって、腹腔に空間ができて腰椎が前に倒れやすくなることは理解しやすい。(息を吸うとこの反対のことが起きる。風船のように腹腔が満ちて背骨を完全に前に倒すことがむずかしくなる。)しかし、息を吐くことによって背面の筋群が緩み、骨盤が前傾していることを実感できない人もいるだろう。

パスチモッターナーサナでは、腰の筋肉組織には他動張力が働いている。前述の『Science of Flexibility』に引用されている研究によれば、息を吸うたびに腰に能動的収縮(前屈する方向とは正反対の方向に生じる収縮)が発生する。次に、息を吐くと腰の筋群が解放されて、ストレッチを容易にする。腰のすぐ上に手のひらを置いて深く呼吸すれば、背骨の両側の脊柱起立筋の働きを感じることができる。脊柱起立筋は息を吸うたびに活性化し、息を吐くたびに緩む。よく注意すれば、息を吸うたびに背骨の先端にある尾骨の周りの筋群も働いて、骨盤を少し後方に引くことがわかるだろう。息を吐くたびにこの筋群は緩み、骨盤は解放されて股関節を軸に回転する。

肺が空っぽになって横隔膜が胸部に引き上げられると、背面の筋群が緩んで最高の前屈が可能になる。いったんそこに到達すれば、永遠とも思える内なる平和を経験できるだろう。それこそまさに、古くから前屈の恩恵のひとつに数えられてきた神経系を鎮める働きなのだ。

この時点で、あなたはヨガの精神的な側面に触れることができたと感じているだろう。しかし、西洋の科学もまた、この経験を本質的に説明することができる。オールターの『Science of Flexibility』によれば、息を吸っている間に横隔膜が押し上げられて心臓にぶつかり、心拍数を下げる。すると、血圧が低下し、胸郭と腹壁と肋間部にかかるストレスも低下する。その結果、筋肉が弛緩して、ストレッチへの抵抗が弱まると同時に、幸福感が高くなる。

柔軟性のメカニズム

柔軟性への近道?

しかし、ヨガを行っている時がいつでも穏やかであるとは言えない。ハタヨガが目指す最終地点に到達した人は、ある程度の痛みと恐怖と危険を伴う新たな地平を経験することがある(つまるところ、ハタとは「力強い」という意味なのだ)。B.K.S.アイアンガーによる『ハタヨガの真髄(Light on Yoga)』のなかで、パスチモッターナーサナを行っている生徒の背中に乗ってB.K.S.アイアンガーがマユラーサナ(孔雀のポーズ)を取って、強制的に前屈を深めている写真を見た人もいるだろう。あるいは、バッダコナーサナ合せきのポーズ)を行っている生徒の両太腿の上に立っている指導者を見たことがある人もいるかもしれない。そのような指導は危険な印象を与えるし、ヨガを行っていない人には冷酷とさえ映るだろう。しかし、経験豊富な指導者が行えば、そのような方法は極めて効果的なのだ。しかも、科学的な柔軟性トレーニングで用いられている、神経系のメカニズムの再調整に注目した最先端の方法と驚くべき類似点がある。

この記事のために調査している時、友人がこんな話をしてくれた。彼は偶然、ここで紹介した神経学的メカニズムのひとつを働かせることに成功して、何年間も練習してきたハヌマナーサナ猿王のポーズ、前後開脚)を完成させることができたそうだ。友人はその日もこのポーズに挑戦していた。左脚を前、右脚を後ろにして、両手を床に下ろして軽く体を支えていた。両脚をいつもより離すように伸ばして、上体のほぼ全体重が腰にかかるようにしたところ、突然、骨盤周辺に強い温かみを感じ、その直後、固定されていた両脚が解放されて両方の坐骨が床に下りたのだという。私の友人はストレッチではめったに得ることができない生理学的反応を引き起こしていたことになる。つまり、ストレッチ反射とは対照的でストレッチ反射より重要な神経学的「ブレーカー」を作動させていたのだ。ストレッチ反射は筋組織を緊張させるのに対して、この反射(専門的には逆伸長反射という)は腱を保護するべく筋肉の張りを完全に開放する。

この反射はどのように働くのだろうか。あらゆる筋肉の末端には、筋膜と腱が撚り合わさっていて、そこには負荷を感じ取る感覚器が存在する。この感覚器はゴルジ腱紡錘(GTO)と呼ばれる。ゴルジ紡錘は、筋肉の収縮や伸長によって腱に過度の緊張が生じた時に反応する。

旧ソ連が出資していた巨大なスポーツ施設では、主にこのゴルジ腱紡錘の反射を操作することによって、神経学的な柔軟性トレーニングが考案された。ロシア人の柔軟性トレーニングの専門家、パヴェル・ツァツーリンはこう言っている。「みなさんの筋肉には、前後開脚や高度なポーズをするのに必要な十分な長さがあります。ただ、柔軟性をコントロールするには、自律神経機能のコントロールが必要になります。」ツァツーリンは背後にある椅子に片脚を乗せて、「これができれば、すでに前後開脚をするだけのストレッチができています」と語った。ツァツーリンによれば、柔軟性を阻んでいるのは筋肉でも結合組織でもないという。「高い柔軟性は、脊髄にある幾つかのスイッチを入れることによって得られるのです。」

しかし、GTOメカニズムを利用して柔軟性を高めようとすると、ある種のリスクが避けられない。十分に伸びている筋肉に極度の緊張がかかった時に、GTO反射が引き起こされるからだ。(ロシアの方法やヨガの上級テクニックのような)高度の柔軟性トレーニングを実施するには、骨格の配列が正しいことと体が練習で生じる圧力に耐えられることを確認できる経験豊富な指導者が不可欠だ。自分がしていることを理解できない場合は、簡単に怪我をしてしまう。

しかし、この方法は正しく用いれば、大きな効果を発揮する。ツァツーリンは、自分が指導すれば、柔軟性トレーニングを受けたことのない体の硬い中年男性でさえ、約6ヶ月で前後開脚ができるようになると自信を見せている。

Translated by Setsuko Mori

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