ストレッチで若く健康に? 科学が解き明かすヨガの効能
応用生理学
ここで、「西洋のストレッチ技術はヨガとどんな関係があるのだろう」と疑問に思う人もいるだろう。
ただ、ストレッチが(生命エネルギーをさらに通せるヨギの体を意味する)yoga-dehaを築くための重要な要素であることは間違いない。主要なハタヨガのスクールが、理想的な可動域を具体的に示す一連の古典的アーサナの練習に基礎を置いているのには、そういう理由もあるのだ。
しかし、優れた指導者であれば、ヨガが単なるストレッチでないことも教えてくれるはずだ。理学療法士のジュディス・ラサター博士は次のようにヨガを定義している。「ヨガとは苦しみの種への執着を断ち切れるように、世界を経験する新たな方法を学ぶ鍛錬方法です。」ラサターによれば、アーサナには2種類しかないという。意識を向けたアーサナと無意識のアーサナだ。言い換えれば、特定の姿勢をアーサナと呼べるかどうかは、私たちの意識の集中によって決まるのであって、単に体の形ではないということだ。
身体的なポーズの完成に夢中になりすぎるあまり、アーサナの練習の「目標」であるサマディへの到達を見失ってしまう可能性がある。しかし、その一方で、柔軟性の限界を探ることは、古典的ヨガの「内的支則」に必要な一点集中を可能にする完璧な手段でもある。
西洋の科学の分析的洞察力を利用して、何千年と続くアーサナの練習の実証的洞察力を高めることに、本質的になんら矛盾はない。実際、ハタヨガを西洋に広めた人物のなかで最も影響力の大きいB.K.S.アイアンガーは、常に科学的探求を奨励し、アーサナの練習を向上するために生理学の原理の応用を提唱していた。
一部のヨギは、ヨガと科学の統合を熱狂的に受け入れている。マサチューセッツ州ボストンにあるMeridian Stretching Centerのボブ・クーリーは、柔軟性の欠如を診断したうえでアーサナを処方するコンピュータプログラムを開発し、現在試験的に運用している。クーリーはセンターを初めて訪れた人に16のポーズを行ってもらい、CADで用いるスキャナに似たスキャナを使ってデータをデジタル化しながら、それぞれの人の解剖学的特徴を記録していく。そして、クライエントの体から読み取ったデータをコンピュータで計算し、柔軟性の最大値と平均値の両方に関してモデルの数値と比較する。また、クーリーのコンピュータプログラムはレポートを作成し、クライエントの進歩を基準に従って評価して指導を行っている。このレポートには、改善が必要な分野とお勧めのアーサナも明記されている。
クーリーは古典的なヨガのポーズにPNFに似たテクニックを組み合わせることによって、ヨガの知恵と科学の知見の優れた点を融合させて活用している。(さまざまな要素を試すクーリーは、西洋の精神療法、エニアグラム、中国の経絡の理論をヨガへの取り組みに組み込んでいる。)
ヨガの純粋主義者であれば、時間によって磨き上げられたヨガの練習に目新しい科学的知見を組み合わせた寄せ集め的なヨガは好きになれないかもしれない。しかし、いつの時代も「新しくて改良されたもの」がアメリカのスローガンであったし、東洋の経験に基づく知恵と西洋の分析的科学の優れた点を融合させたことが、ヨガの発展に果たしたアメリカの主な貢献だったと言えるだろう。
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