シンガポールの人気インストラクターが推す、ネガティブな思考パターンを断ち切る不規則な呼吸法とは?


呼吸法や瞑想というと、あなたはどういったイメージを思い浮かべますか?一定のリズムで、鼻から吸って、鼻から吐くゆっくり丁寧な呼吸。あぐら座で、微動だにしない。もしかしたら微笑を浮かべている人をイメージする人もいるかもしれません。今回、お話を伺ったシンガポール人インストラクターのTricia Tanさんが取り入れているのは、既存の呼吸法、瞑想とは異なった手法のもの。一体どんな練習なのか、またどんな効果が期待できるのか、お話を伺いしました。
インストラクターになるのは自然な流れだった

– 2016年にヨガインストラクターをはじめたと伺っています。
Triciaさん(以下、敬称略): はい。23歳の時です。中学校を卒業後、美術学校に進学してアートマネジメントを専攻しました。卒業後は、客室乗務員としてシンガポール航空に入社したのですが、最初の健康診断で背中の病気(S字側弯症)の深刻さに気づき、訓練生プログラムを中退しました。正直なところ、痛みや疼きで自分のカラダがベストな状態ではないと感じていたので、当時はとても落胆しましたが、自分のカラダを直したかったので、ヨガのインストラクターになることを目指しました。それから1年後、バーとピラティスを教え始めるようになったんです。
– 若くしてヨガインストラクターを選んだのは、何か理由があったのでしょうか?
Tricia: 一番大きな理由の一つは、昔からカラダを動かすことが好きだったからです。私はシンガポールで生まれ育ったのですが、幼少期はかなりおてんばな女の子でした。私が幼少期を過ごした地域は、手つかずの自然がいっぱいだったため、父はよく私と妹たちをハイキングやサイクリングに連れて行ってくれたんです。大人になってからは、バレエ、フェンシング、ダンスを通じてアクティブに過ごしました。そして成人後、S字側弯症を発見したことをきっかけに、自分のカラダと姿勢を治すことが急務であることを悟りました。新たな目的と生来のアクティブな性格を武器に、私が成長し、この分野に挑戦するのは自然な成り行きだったと思います。
– それから、8年間以上インストラクターとして活動しているわけですね。
Tricia: 実は、新型コロナウィルスのパンデミックがあった3年間、技術系の仕事をしていたことがあるんです。洞察に満ちた経験でしたが、フィットネスやウェルネスへの愛着はそれ以前の数年間で培われたものだったので、この業界は自分には向いていないと気づきました。デスクに座っていると、周りの同僚たちの姿勢の悪さなどに気づいたんです。平日の夕方、仕事を終えてから私のセッションに参加するクライアントが、首や肩、腰の痛みをどうにかしたいと相談してくるのを思い出しました。その時、私は長年にわたって私のクライアントが訴えていた痛みについて、心から共感することができたんです。そして、インストラクターとして毎日感じていた目的意識が懐かしくなりました。Barreやヨガのセッションを終えて、帰っていくクライアントの姿は、本当にキラキラ輝いていました。たった1時間でも、彼ら彼女らがポジティブに変化し、心とカラダのつながりが改善されるのを見るのはとても嬉しいことでしたね。ちょっとした回り道をした結果として、フィットネスとウェルネス業界への情熱にさらに火をつけたと思っています。
不規則呼吸法でネガティブな思考パターンを打ち破る

- 今年、呼吸法のファシリテーター・トレーニングを受けたんですよね?
Tricia: はい。 タイのサムイ島に2カ月間行きました。 本当に面白かったです。 色々な呼吸法のテクニックを学び、実践しました。 呼吸というと、ヨガのプラーナヤーマを思い浮かべるかもしれません。一方で、私は一般的な呼吸法にとどまらない、かなりユニークなテクニックを学びました。
- 呼吸法の勉強をはじめようと思ったきっかけは何かあったのでしょうか?
Tricia: 私は長い間、主にヨガやBarreなどカラダを動かす指導をしてきました。 前述した通り、幼い頃からカラダを動かすことが好きだったのでインストラクターになったのですが、今でも5レッスン続けて教えても、「まだやれる」という気持ちになるくらいエネルギーがあります。けれどここ数年、カラダを動かすだけでなく、心身を健康に保つための他の方法についても勉強を深めたいと思うようになったんです。 そこで思い浮かんだのが呼吸法でした。 呼吸法にもいろいろな流派がありますが、サムイ島でトレーニングすることに決めたのは、ほとんど直感的でした。サムイ島は、私がちょっとした旅行で訪れるお気に入りの島で、土地勘があるということもありました。また、私が選んだ学校は海沿いにあるということも魅力的なポイントだったんですが......正直なところ、美しさではなく、エネルギーとタイミングが私には合っていると感じたんです。
- 心身の健康のために勉強を深めようと思ったわけですね。どういった呼吸法を学んだのでしょうか?
Tricia: たくさんあります。 私はいろいろな呼吸法、主に意識的なつながりのある呼吸法、リバーシング、ホロトロピック、Osho Dynamic(オショー・ダイナミック)などのテクニックを練習しました。
– 中でも、印象的だったのは、どの呼吸法でしょうか?
Tricia: オショー・ダイナミックという瞑想法は印象的でしたね。 瞑想というと、静寂の中で、穏やかな表情で座っている人を想像するかもしれません。けれど、オショー・ダイナミックは、そのイメージからはとてもかけ離れている。
- 具体的に何をするのですか?
Tricia:このテクニックには全部で5つのステージがあります。 所要時間は約60〜75分で、目を閉じたまま、あるいは目隠しをして行います。 まず最初の10〜15分間は、速く、深く、混沌とした「不規則呼吸法」を行います。次に10〜15分間は、「カタルシス」です。その後、10〜15分間ジャンプして「マントラ」を叫びます。そして、15分間「静止」し、最後に15分間ダンスで「祝い」ます。 タイマーが切れる前に、分かりやすいようにデモンストレーションが行われます。
– とてもユニークですね!まず、ステージ1の「不規則呼吸法」について詳しく教えて下さい。
Tricia: 不規則呼吸法では、自分のパターンを観察します。 この方法を通して、参加者は自分がパターンに陥りがちであることに気づくかもしれません。 もし同じ呼吸パターンを行っていることに気づいたら、切り替えるようにします。 こうすることで、物理的な呼吸パターンを壊すことができ、精神的なループから抜け出せない依存状態から心を目覚めさせることができるんです。
- 不規則呼吸を練習することで期待できることは、何なのでしょうか?
Tricia: 不規則な呼吸を練習することで、自分の思考パターンを理解することができるようになるかもしれません。 呼吸と思考は連動しています。 例えば、落ち込んでいるとき、いつも同じ思考パターンに陥っていると思ったことはありませんか? 不安になったり、「なんであんなことを......」と後悔したり。 一般的に、脳は最も抵抗の少ない道を通りたがります。 不規則呼吸法は、私たちに自分のパターンに気づかせ、それを断ち切ることを目指します。この呼吸法を通して、私たちは呼吸のパターンに気づき、心身に染み付いたパターンをシフトさせながら、自分自身とのつながりを少し深めることを目指していくことができるようになるんです。
- 興味深いですね。 呼吸法というと、私は一定の長さの規則的な呼吸法しか実践したことがないので......。ですから、不規則な呼吸は私には少し難しいように感じます。
Tricia: もしかしたら、パターンに当てはまらずに不規則な呼吸をすることに、身体的な違和感を覚えるかもしれません。 けれど、大事なのは、それを意識すること。 最初からできなくてもいいんです。
- ステージ2ではどんなことをしますか?
Tricia: ステージ2では「カタルシス」です。 例えば、悲しみや怒り、喜びを感じるかもしれません。 それを叫んだり、泣いたり、笑い転げたりして表現します。
– 大胆というか、枠にとらわれない感じがします。
Tricia: おそらく文化的に、感情を大きく表現することに抵抗がある人がいるかもしれません。 例えば、アジアでは協調性を重んじ、他人に不快な思いをさせないことが大切とされていますよね。 だから、周りに人がいる中で大声を出したり、泣いたり、笑ったりすることを不快に感じるのは普通のことです。 それはとても礼儀正しい生き方でもありますよね。 一方で感情を押し殺すことはカラダにも負担をかけることもあります。例えば、感情を吐き出さないと、他の多くの病気を引き起こす可能性があります。安全な空間で感情を吐き出すことで、束縛するものは何もなくなります。 そうすれば、恥や悲しみや不安に囚われることはなくなります。 少なくともその場では、泣いたり叫んだりすることを批判する人はいません。 その場にいる参加者は目隠しをされていますし、ジャッジされることなく、好きなように感情を吐き出すことができる安全な空間を作り出します。
-日常生活では、 意識的に、あるいは無意識に自分の感情を隠していることが多いですよね。 けれど、少なくとも、自分の感情を率直に、自由に表現したり、声に出したりできる場所があることは、とても有意義なことだと思います。けれど、感情が湧き上がってこない場合は、どうすればいいのでしょうか?
Tricia: 何も感じなくても、それはそれでいいんです。 直感に従って何かを表現する実験をしてみればいいと思います。 また、私たちは "fake it till you make it "(できるまで、できるふりをする)というロジックを推奨しています。 特に感情を「感じない」場合は、好奇心に従って、笑ったり、泣いたり、叫んだりして、何が自分の心に響くかを試してみるといいかもしれません!
- 日本の文化には、そういった発想があまりないためとても新鮮だと思います。ステージ3では何をするのですか?
Tricia:「マントラ」を唱えながらジャンプします。 両腕を頭上に高く上げ、マントラ「フー!」と叫びながら、できるだけ深く上下にジャンプします。
- マントラを唱えながらジャンプするだけですか?
Tricia: はい。これは強い意志の力を生み出し、私たちのエネルギーをグラウンディングさせ、残っているブロックをさらに解放するのに役立つんです。 このマントラは、体の芯から深く響くように、確信を持って唱えるのがポイントです。個人的に私は、肉体的に疲労を感じているにもかかわらず、この一声を押し続ける戦士をイメージし、ジャンプをするのが好きなんです。 膝に痛みがある人などは、ジャンプができないかもしれませんが、安心して下さい。代替手段が提供されます。
- 15分間、両手を上げてジャンプするのはかなり疲れそうです。 ステージ4では何をするのですか?
Tricia: ステージ4は「静止」が全てです。 両手を上げて静止します。 15分間ジャンプを続けた後、「ストップ」の声が聞こえたら、フリーズします。基本的には、前の練習で両腕を上げていますので、ステージ4ではそのままの姿勢で静止します。 例えば、途中で汗を拭いたり、頭を掻いたりすることもできません。私の考えでは、静止は身を委ねることを学ぶステージだと思っています。人生のほとんどの場合、私たちは結果を完全にコントロールできるわけではないですよね。変化に抵抗すれば、自分自身をさらに苦しめることになりかねません。 だからここでは、生じる不快な感覚や感情にただ身を委ね、それに適応することを学ぶことが大切だと思うんです。腕や肩の痛みに抵抗しようともがけばもがくほど辛く感じるかもしれませんが、いったん精神的に受容の感覚と折り合いをつけると、腕はそれに対処できるように感じ、少し良い状態でいられることもあるかもしれません。
– ジタバタせずに、ありのままを受け入れる練習ということですね。そして、最後のステージでは何をするのでしょうか?
Tricia: 最後のパートは「祝い」の時間です。 それまで感じてきた感情、エネルギー、活力を好きなように表現することで、これまでの旅を祝うんです。 ダンスや動きを通して。 なぜ祝うのかというと、人生には楽しみながら人生を祝うことが必要だからです!
オーショー・ダイナミックのメリットは?

– お話を伺っていると、オーショー・ダイナミックでは、全体を通して、人生を体験しているようです。この瞑想法を実際に試してみて、率直に感じた効果はありましたか?
Tricia: 何回か練習しているうちに、肩の力が抜けて、姿勢もよくなった気がします。 私は、それまでもBarreやヨガを長い間練習していたのですでに肉体的には良い姿勢だったと思うのですが、感情の解放という観点からはさらに良くなったように感じました。
– 瞑想法で、体の緊張がほぐれるというのに意外と感じられる人もいるかもしれませんね。精神的な効果は、何か感じられましたか?
Tricia: この特定のスタイルだけでなく、私は他の瞑想、例えば意識的につながる呼吸法も指導しています。私の呼吸法のセッションに参加した人たちから、様々なスタイルで、終わった後に気分が良くなったというフィードバックを受けました。 PTSDや、ロシアとウクライナ、イスラエルとガザなど、現在進行中の戦争を経験したことのあるクライアントもいたのですが、彼らはセッションの前後に、呼吸法のセッションから強烈なカタルシスと解放を感じたという体験をシェアしてくれた人もいます。自分の潜在意識を通して、安全な手に委ねられたと感じたことをシェアしてくれました。一般的に、クライアントは肉体的な健康やウェルネスを優先する傾向があります。一方で、内面では苦しんでいることも珍しくありません。ファシリテーターは具体的に、参加者が瞑想中にどのような旅に出るかは知りません。それでもクライアントのためにスペースを確保します。重要なのは、感情的なブロックを解放するために、サポート的で偏見のない空間を提供することです。
- 今後、呼吸法や瞑想をヨガやバー、ピラティスと組み合わせる予定はありますか?
Tricia: そうですね。運動はもちろん心身の健康にとって重要な要素です。 私たちの体にはその両方が必要です。それに加えて、呼吸法や瞑想も、より大きな効果を得るためにとても役立つと思います。
- いいですね! 楽しみにしています! 最後に今後の目標を教えてください。
Tricia: ワークショップのような形で、より多くの人がフィットネスや呼吸法を通して、潜在意識を解きほぐせる場所を持ちたいと思っています。正直なところ、私自身が誰かを変えられるとは思っていません。私ができるのは、エクササイズというツールを使って、その人が自分自身をより深く発見できるようにすることと、神経系が成長するための、うまく調整された安全な環境の基礎を整えることだけかもしれません。そのためには、私もその過程で成長していかなければならないと思っています。好奇心を持ち続け、自己発見と成長し続けていきたいと思っています。
[プロフィール】Tricia Tan

1993年、中国系シンガポール人の父とヨーロッパ系シンガポール人の母の間にシンガポールで生まれる。2016年よりヨガインストラクターとして活動を開始。 翌年、Barreとピラティスの指導を始め、2024年に呼吸法ファシリテーターの資格を取得。 ウェルネスとはライフスタイルであり、身体にどのように栄養を与え、どのように動き、そして最もシンプルな形で呼吸をすることだと彼女は信じている。
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