【座りっぱなし生活の恐ろしさとは?】理学療法士による「下半身リセットエクササイズ」
理学療法士の堀川ゆきさんが、座りっぱなしの生活習慣が招くリスクと、下半身リセットエクササイズを紹介します。
座りっぱなしの恐ろしさ
一日のうち、イスに座っている時間は大体どれくらいか考えたことはありますか?テレワークで通勤の機会も減り、一日中座りっぱなし、座り過ぎで腰痛や肩こりが辛い、最近何だか気分が落ち込みがち、という人は要注意です。座りっぱなしは心と身体の両方に悪影響を及ぼします。
生活の中で座り過ぎている人は、そうでない人と比較して、寿命が短く、肥満度が高く、2型糖尿病罹患率や心臓病罹患率が高いことが報告されています。
また、世界20か国における平日の座位時間を比較したところ、日本人の座位時間が約7時間と20か国の中で一番長く、日本人は座り過ぎのリスクが大きいと考えられます。また別の研究では、1日に11時間以上座っている人は4時間未満の人と比べて死亡リスクが40%も高まることが分かっています。
姿勢をチェンジしよう
イスに座った姿勢に限らず、長時間同じ姿勢でいることは、それがたとえどんなに正しい姿勢だったとしても、好ましくありません。実は正しい姿勢をずっと維持することよりも、こまめに姿勢を変えたりエクササイズを行なうことの方が重要なのです。
早稲田大学スポーツ科学学術院教授の岡浩一朗先生によると、デスクワーク中でも、30分に1回、最低でも1時間に1回のペースで立ち上がることで、座りっぱなしによる健康リスクを軽減すると言われています。更に歩いたり何かエクササイズを行えるとより良いことはお分かりだと思います。
イスに座った姿勢の特徴
長時間イスに座った姿勢は、股関節を約90°に曲げていて(屈曲)、太ももを引き上げる筋肉である腸腰筋がずっと縮まった状態のため腸腰筋が硬くなります。また、お尻の筋肉である大臀筋は、伸ばされた状態のまま座面に圧迫されて血行が悪くなり弱くなってしまいます。さらに、太ももの裏のハムストリングスも、イスに座っていると膝が約90°ずっと屈曲したままのため、縮まった状態が続いて硬くなってしまうので、伸ばしてあげないといけません。逆に、太ももの正面の筋肉の大腿四頭筋は、膝を前に伸ばす際に働く筋肉ですが、イスに座っていると伸長されたままの状態が長時間続いていることになります。大腿四頭筋は人体で最も大きな筋肉であり、下半身の筋肉では一番重要と言っても過言ではありません。そして、座りっぱなしが続くとふくらはぎの筋肉も働かないので、循環が悪くなり、むくみや冷えや疲れにつながります。
下半身リセットエクササイズ
そこで紹介したいのが、これから紹介する5つのエクササイズです。長時間の座位姿勢により負担がかかってくる下半身の筋肉は、先程あげた、
・腸腰筋
・大臀筋
・ハムストリングス
・大腿四頭筋
・下腿三頭筋
の5つです。その5つの筋肉を刺激する下半身リセットエクササイズはこちらです。
・ランジ(腸腰筋)
・バックキック(大臀筋)
・ハムストリングスストレッチ(ハムストリングス)
・レッグエクステンション(大腿四頭筋)
・カーフレイズ(下腿三頭筋)
ではやってみましょう! いつも仕事中座っているイスを使って行いますが、キャスター付きのイスだと動いてしまい支えになりません。その場合はキャスターのないイスや、机、壁を支えにして行ってくださいね。
ランジ(腸腰筋)
イスの後ろに立ち、イスの背を両手で持ちます。 両脚を前後に大きく1メートル以上開き、後脚の踵は床につけずに爪先で支えます。 そこからゆっくりしゃがんでいきます。前脚の膝は90度くらい曲げて、膝がつま先より前に出ないように気を付けます。後脚の膝は床に触れるギリギリで止めます。前脚ばかりに体重を乗せず、後脚にも体重を分散させましょう。 ゆっくり両膝を伸ばしていき、もとの位置へと戻る動きを5回繰り返します。 反対脚も5回行います。
バックキック(大臀筋)
イスの後ろに立ち、イスの背を両手で持ちます。 片脚の膝を90°に曲げて、足の裏で天井を押すような感じで後方に蹴り上げます。 膝を伸ばして行うと、もも裏の筋肉のハムストリングスが働いてしまうので、膝を曲げて行います。お尻の筋肉にキュッと力が入るのを感じながら10回ゆっくり後ろに蹴ります。 反対脚も10回行います。
ハムストリングスストレッチ(ハムストリングス)
イスに浅く腰掛けます。片脚を前方に膝を伸ばして踵を床につき、つま先は起こして天井に向けます。反対脚は膝を直角に曲げて足裏は床につけます。 骨盤を立てて、背筋を伸ばしたまま、股関節から折りたたむように上体を前に倒します。 もも裏が伸びるのを感じながら、20秒ゆっくりキープします。 反対脚も20秒キープします。
レッグエクステンション(大腿四頭筋)
イスに浅く腰掛けます。片脚を床と並行になる高さで前方に伸ばします。そこからその脚を伸ばしたまま天井方向に更に持ち上げます。両手は座面や肘掛けを掴んで構いません。 太ももの正面に力が入るのを感じながら、床と並行の高さから上に持ち上げて、床と並行の高さまで戻す動きをゆっくり10回行います。持ち上げる脚の足首はダランとさせた方が、スネの力が抜けて大腿四頭筋にしっかり効きます。 反対脚も10回行います。
カーフレイズ(下腿三頭筋)
イスの後ろに立ち、イスの背を両手で持ちます。両手はバランスを取るためだけで、両手に体重を乗せると効果が半減するので体重を乗せ過ぎないよう注意します。 その場で両足でつま先立ちになり、踵を床に降ろす動きを20回繰り返します。 この5つのエクササイズを、仕事中1時間おきに1セットずつできると理想です。
1セットとは、
・ランジ(左右5回ずつ)
・バックキック(左右10回ずつ)
・ハムストリングスストレッチ (左右それぞれ20秒キープ)
・レッグエクステンション(左右10回ずつ)
・カーフレイズ(20回)
この全てを行なって1セットです。 「仕事中はなかなか難しい・・・」という人は、少なくとも1日に3セットは自宅でも良いので行ってください。また、デスクワーク中は1時間おきに必ずイスから立ちがって3分ほど歩くことを心がけてください。
正しい座り姿勢とは
さて、次に正しい座り姿勢についてです。 「正しい座り方を教えてほしい」 「正しく座れているかどうか見てほしい」 日々患者さんや生徒さんから良く声があがります。 そもそもの正しい座り姿勢とはどのような状態か知っていますか?まずは正しい座り姿勢を知ってそれを身につけることが重要です。 正しい座り姿勢のポイントは、次の10項目です。
・足の裏が床にしっかりつく
・膝の角度は90°
・坐骨に体重を乗せる
・骨盤は中間位
・下腹部を引き入れる
・おへそを縦長にしてみぞおちを引き上げる
・背骨を長く天井に引き上げる
・肘の角度は90°〜110°
・肩や肩甲骨は力を抜く
・あごを軽く引く
正しい座り姿勢を知り、それを身につけることは、デスクワーカーにとっての基本であり、非常に大切なことです。しかし先述しましたが、正しい座り姿勢を何時間もキープすることよりも、こまめに姿勢を変えたり、立ち上がって歩いたり、先程紹介したようなエクササイズを行なうことの方がはるかに重要です。 長時間イスに座っていると、頚椎、胸椎、腰椎、肩甲骨、骨盤のアライメントが崩れた不良姿勢になりがちです。その影響であちこちの筋肉に負担をかけてしまいます。 そのリスクを知った上で、基本の正しい座り姿勢を身につけてもらえると幸いです。
まとめ
我こそはデスクワーカーという人に、毎日の仕事の合間に実践してほしいことを今回まとめました。 まずは5つの下半身リセットエクササイズです。なぜその5つを行う必要があるのか、イスに座った姿勢の特徴とともに解説しました。 そして、正しい座り姿勢について紹介しました。10項目のポイントを押さえて、早速デスクワーク中に今日から意識してみてください。 今回は下半身の筋肉について触れていますが、他にも座りっぱなしの弊害は、腰、肩、首、内臓など多岐にわたります。他の部位のエクササイズは今度紹介していきます。 また、以前のコラムで、長時間座位姿勢を続けることによる身体への弊害と推奨エクササイズについても紹介しているので、こちらhttps://yogajournal.jp/4214もぜひ参考にしてください。 毎日のデスクワークが健康で快適な時間となるよう、できるところから始めてみてくださいね。
参考: 厚生労働省「座位行動」https://www.mhlw.go.jp/content/000656521.pdf、スポーツ庁「テレワークで座位時間が増えた方向け」リーフレット https://www.mext.go.jp/sports/content/000081493.pdf
AUTHOR
堀川ゆき
理学療法士。ヨガ・ピラティス講師。抗加齢指導士。2006年に渡米し全米ヨガアライアンス200を取得。その後ヨガの枠をこえた健康や予防医療に関心を持ち、理学療法士資格を取得。スポーツ整形外科クリニックでの勤務を経て、現在大学病院にて慢性疼痛に対するリハビリに従事する。ポールスターピラティスマットコース修了。慶應義塾大学大学院医学部博士課程退学。公認心理師と保育士の資格も持つ二児の母。
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