【更年期ヨガ】思春期に匹敵するほどの強烈なホルモン変化「更年期」を快適にするヨガ
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新型コロナウイルスによる感染が世界中に広がるなか、私は取りつかれたようにローイングマシーンでボート漕ぎを始めた。汗を流して体を伸ばしていれば最悪の事態を避けられるにちがいないと考えたのだ。毎日、アプリを利用して、私と同じ50代の人たちと回数を競い合った。ある朝、全年代のランキングを開いてみた。すると驚いたことに、50代の女性が男女を問わずどの年代にも圧勝していた。
しばらく喜びに酔いしれたあと、なぜ50代の女性がそれほど成績がいいのか考え始めた。単に世代的なことなのか。それとも、女性は50代に入ると(子育ても昇進も色恋沙汰もほぼ過去のものとなり)、気が散ることが少なくなって自分自身のために時間を使えるようになるからだろうか。
答えは両方の要素を少しずつ合わせたものだろう。ただ、50代の女性をオリンピックの有望候補のようにボート漕ぎに駆り立てている現象がもうひとつある。この年代の女性たちは、「おばあちゃん」に近づいてきている(あるいは既に、なっている)のだ。一般に人は年齢を重ねるにつれて減速していくものだと考えられているが、私の経験からしても、実は人生の最良のときに向かって回転数を上げていくのではないだろうか。
更年期について語っていない私たちは、何を語っていないのか
アメリカでは更年期に達した女性が4100万人いる。カリフォルニア州の人口に相当する数だ。それなのに、私たちは更年期についてほとんど語っていない。私はこの変化の時期に自分ができることをすべて知りたいと思った。ストレスがあるときにいつも頼りにしてきたヨガがこの変化を楽にできるどうかも知りたかった。
私たちの文化は出産可能年齢を過ぎた女性を社会の隅に追いやることで有名である。ロンドンを拠点としているヨガ講師で、更年期ヨガ(Menopause Yoga)の考案者であるペトラ・コヴニーは、ヨガを取り入れた更年期ワークショップを世界中で開催しており、年齢を重ねて若い頃より知恵がある女性たちがいかに社会で低く評価されているか毎回話している。コヴニーはこう語っている。
「参加者の皆さんに、ある程度の年齢の女性が皆さんの文化でどう呼ばれているかたずねると、『しわくちゃ婆婆』『老婆』『魔女』『販売期限切れ』という言葉が返ってきます」
女性自身が無意識のうちにこのような固定観念をいつまでもはびこらせている。女性たちは膨大な時間とエネルギーをほかの人の世話に費やして自分の欲求を抑え、自らをないがしろにしていると事実上認めていることを語ってこなかったのだ。
抑えがたい激しい怒り
女性は40代半ばに、思春期に匹敵するほどの強烈なホルモンの変化を経験する。これが閉経周辺期である。この時期が数年続いたのちに更年期のさまざまな症状が現れてくる(正式には丸1年間生理がなくなるまで更年期に入っているとは言わない)。女性の体内ではこの時期にエストロゲンの産生量が減少していく。エストロゲンは、生殖器官の発育を促し、月経周期を制御し、心の状態を調整するホルモンであり、この影響は劇的である。
エストロゲンが減少すると、不安や気分の落ち込み、集中力の低下、物忘れ、体重増加のほか、突発的に猛烈な勢いの感情の変化が引き起こされることがある。
ある7月の暑い日の午後のことだ。私は自分の50歳の誕生日のお祝いに着て行く服を選ぶのに悪戦苦闘していた。鏡を覗くと、むくんだうえにたるんだ顔が映っていた。一晩で20キロ太ったにちがいないと感じるような姿だった。服を着ては脱ぎ、また着ては脱いだ。パンツは妙なところがきつくて、靴までも憎らしく思い始めるしまつだった。
自分を責めて自信がなくなったうえに、「家中の鏡を割ってカシミアのスウェットパンツで生活したらいいんじゃない」とささやく内なる声まで聞こえてきて、内心きれいに見えたいという気持ちを諦めようとしていた。
しかし、夫が大胆にもこのままではディナーの予約に遅刻すると言った瞬間、私は激しい怒りに駆られて、近くにあった鏡に思い切きりメガネを投げつけた。すっきりした。すると、誰かが15歳の時の私によく似た声で「彼女は今日はもう行かないよ」と言うのが聞こえてきた。更年期、それは私のことだ。
私がその時感じた激しい怒りを表す言葉がある。「更年期ギレ」だ。更年期に近づいている女性のなかには、何十年間もエストロゲンの作用でぼんやりしていた状態から目覚めて、これまで自分は何をしてきたのか、なぜそれをしなければならなかったのかと自問し始める人がいる。特定の上司や1時間の通勤、使いにくいパソコンソフト、職場の座り心地の悪い椅子になぜ黙って耐えてきたのだろうと思うこともあるかもれしない。今の生活の不条理さが浮き彫りになることで、新たな職業や知的活動、すっかり新しい考え方に駆り立てられる可能性もある。
心の健康にしのび寄るリスク
ホルモンの変化はこのような恩恵ももたらすが、潜在的な危険もはらんでいる。中年の女性は重大なうつ状態を経験するリスクが明らかに高いことがわかっている。イリノイ大学医学部シカゴ校の心理学、精神医学、産科学、婦人科学の教授、ポーリン・マキ博士によれば、中年の女性はこの15年間で自殺率が45%高くなっているいるという。マキ博士は2008年に、「閉経周辺期のうつ病評価およびホルモン補充療法をはじめとする治療に関する新たな指針」の執筆責任者を務めた。
この指針の目的は、閉経周辺期がうつ病につながる「脆弱性の窓」であることを認めることにあった。この指針は、閉経周辺期にはそれまでうつ状態を経験していない女性も含めて、うつ病のリスクが高まることを明らかにしている。また、エストロゲン療法の潜在的な利点と危険性についての勧告も盛り込まれている。エストロゲン療法の体への影響については、あまりにも長いこと十分な研究が行われなかった。
2018年にファッションデザイナーのケイト・スペードが55歳で自ら命を断ち、その後スーパーモデルのステラ・テナントが50歳で(おそらく自ら)命を絶った時に、中年の女性のリスクが注目された。私の義理の姉も55歳で自ら命を絶った。追悼式では友人たちが、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や睡眠薬など、義理の姉に処方されていた数々の治療薬について話していた。残された遺書には、十分に治療されていない更年期の問題、つまり計り知れないほどの深いうつ状態と形容しがたい怒りを示す文字がつづられていた。
更年期の問題は十分に治療されず、十分に対処されないことが多い。女性の健康と心の健康が交わる寒々しい領域に存在しているからだ。老化によって女性が感じる症状は、ほとんどの診断でははっきり「見えない」ため、簡単にかたづけられている。しかも、20年間にわたってアメリカ全土の女性の健康を検討した研究(The Study of Women's Health Across the Nation)では、人種や民族が異なると更年期の経験のしかたも異なることが示されている。たとえば、黒人女性は白人女性よりも体のほてりや寝汗を経験することが多く、黒人女性とスペイン系女性はほかの女性たちよりも睡眠の質が悪いが、ホルモン補充療法のような治療を受ける可能が低いことがわかっている。
医療の世界では、人種的な違いだけでなく女性特有のデータも十分に考慮されていない。たとえば、アメリカの女性健康局は同局のウェブサイトで、女性は男性よりも心臓発作の典型的な症状を経験する可能性が低いと報告している。全人口の51%女性であり、(多数派である)女性たちが自分の「典型的な」症状を表に出していないとしたら、そのような症状を「典型的」と呼ぶべきではないのかもしれない。
体のほてり、不安、不眠は心臓発作ほど命を脅かす症状のように見えないかもしれないが、ホルモンの変化と更年期の慢性的症状はひとりの人間の幸福感をすり減らせてしまう。既にうつ病の危険がある女性にとっては特に深刻な問題である(思春期、妊娠、出産後など、ホルモンが関わる事象はどれもうつ病を引き起こす可能性があることに注意する必要がある)。
ただ、進歩も見られる。アメリカでは閉経周辺期に運動、抗うつ薬などによる治療と併用して、ホルモン補充療法の慎重な利用を勧められることが多くなっている(ホルモン補充療法はかつては好まれていたが、1990年代にがんの発生率が高くなる可能性を示唆する研究が発表されて以来あまり用いられていなかった)。
前述の指針では次のように記され、医療の現場が進化する必要性以上に、適度な運動に治療効果があることが無条件に認められている。「うつ状態にある閉経周辺期および閉経後の女性に適度な運動を勧めること、特に、推奨されている心理療法および薬物療法と併用することは妥当である」
そこで、コヴニーのヨガ療法(と私のローイングマシーン)の出番となる。
ヨガを通じて変容を受け入れる
コヴニーは更年期の症状を感じ始めたときに、何年もかかる壮大な旅路に乗り出した。女性たちが自分の人生をコントロールする力を取り戻すのに役立つプログラムを生み出そうとしたのだ。マインドフルネスと認知行動療法に、アーユルヴェーダ、呼吸法、瞑想を組み合わせたプログラムである。ただ、そのような方法は、ホルモン補充療法を用いるかどうかにかかわらず、もっと大きな治療の枠組みの一部としてとらえるべきものであり、一人ひとりの症状と担当の医師らの提言に応じて実施すべきものであるとコヴニーは強調している。コヴニーは2020年に、自らが知るかぎりでは世界で初めて、更年期に的を絞ったヨガの指導者養成講座を立ち上げた。
コヴニーは更年期を、さなぎから抜け出たり羽が生え変わるような大きな変容の時であると見ている。そして、閉経に至る期間を冬眠にたとえている。女性は閉経という大きな出来事を迎える前の数年間に、消化の働きが鈍くなり、頭がぼーっとし、体重がゆっくり増加する。しかし、春を迎えた生き物と同じように、時が来ればお腹をすかせた状態で元気に眠りから抜け出すのだ。
女性はひとたびここを抜け出して閉経後の段階に入ると、それまで背負っていた多くの責任や期待から解放されたと感じるようになるとコヴニーは語っている。コヴニーはさらに、この変容を最大限に活かすためには、「直感的な自己と再び結びついて内面を観察し、自分自身の幸福と健康のためにならない思考、癖、行動を見極めて手放すべき」であると指摘してる。
コヴニーは人生の第三幕が約束している驚くべき出来事を女性たちに知ってほしいと考えて、更年期に的を絞ったヨガの指導者養成講座を丁寧につくり上げた。コヴニーはヨガのシークエンスを、更年期の時期に応じて違った形で現れるアーユルヴェーダのドーシャと結びつけている(ドーシャについては下の「ドーシャ別の更年期ヨガ」を参照)。
コヴニーはワークショップの冒頭で、更年期に生じる生理学的変化に関する最新の研究結果を、女性を力づける観点から紹介している。そしてそのうえで、そのような変化と心の健康との関連を説明している。
つながることによって生まれる力
コヴニーの取り組み方は科学によってしっかり裏付けられている。数件の研究によって、更年期の女性がヨガのポーズと呼吸法を定期的に行えば、気分が高まり、うつ状態が解消され、明るい展望を抱けるようになることがわかっている。
また、ヨガでは不愉快な症状があるときに心拍数と呼吸を操ることを学ぶこともできる。これを知っていると、体がほてる前に起きる心の動揺が始まったときに役に立つ。前述の研究では、定期的なヨガの実践と生活の質の改善との間に正の相関関係があることが示されている。
女性が更年期を乗り越えるうえできわめて重要な助けになるのが、リストラティブヨガと呼吸法と瞑想である。さらに、集団でヨガを行えば、科学的な効果も得られるようになる。
コヴニーによれば、ヨガスタジオや更年期のワークショップに集まって互いの経験を語り合っている女性たちは、そこで単に会話をしているのではないという。人は互いにつながり始めると、愛情や幸福の感覚を促すホルモン、オキシトシンが放出されるようになる。私は世界中に感染症が蔓延しているなかでも、毎日ボート漕ぎをしてエンドルフィンによる幸福感を得ていたが、このとき同時に、同じ運動をしている世界中の同年代の女性とつながっていたのだ。中年以上の女性たちが集まるとオキシトシンの放出量が増加することから、女性たちは目に見えない愛情ホルモンを使って実際にお互いの不調を治しあっていると考えることができる。
女性同士のつながり、バンザイ!
ドーシャ別の更年期ヨガ
更年期ヨガの考案者ペトラ・コヴニーによれば、ヨガとアーユルヴェーダは更年期の症状を緩和するのに役立つものであり、更年期の症状は(代謝のタイプを示す)3つのドーシャのバランスが崩れた状態であると見ることができるという。誰にも優勢なドーシャがひとつあって、この大きな変容に対する反応のしかたに影響を及ぼしている。栄養、運動、ヨガ、睡眠を軸にして定期的にドーシャのバランスをとることは、更年期の総合的治療のなかのひとつの有益な要素となる。
カパ(水/元素)
カパが過剰になると、無気力、気分の落ち込み、代謝機能の低下につながる。動的なハタヨガのポーズを10~30秒間ホールドすれば、筋肉と骨の力が維持され、気分の落ち込みが解消されてやる気が出るようになる。
ヴァータ(風/心)
ヴァータが過剰になると、不安、パニック発作、集中力の低下、疲労、打ちのめされた感覚につながる。ヴルクシャーサナ(木のポーズ)のような立位のバランスポーズが、心を集中させるのに役立つ。また、息を吸う、息を止める、息を吐く、息を止めるを同じ長さで繰り返す呼吸法(Box Breathing)のような呼吸法をしっかり地に足をつけて行えば、大地に根を下ろしていると感じられるようになる。
ピッタ(火/体)
ピッタが過剰になると、体のほてり、寝汗、怒り、攻撃性、いらいらにつながる。陰ヨガを試してみよう。陰ヨガは許すこと、感情を解放すること、変化に身をゆだねることを促す。プロップを使ってリストラティブヨガをするのもよい。体も心も支えられていると感じられるようになる。
文●レイチェル・スレイドは、ボストン在住の作家、編集者。ベストセラー小説『Into The Raging Sea』(Ecco,2018)の著者。同著は米紙『ニューヨークタイムズ』の優れた本に選ばれ、同じくアメリカの雑誌『アウトサイド』では2018年夏のベストブックスの一冊に挙げられた。
イラスト●ジェシー・フォードは、イギリス人のイラストレーター。色鮮やかな作品が、オリオンブックス、ランダムハウス、米紙『ウォールストリートジャーナル』、英紙『ガーディアン』などに掲載されてきた。イギリス、ホヴの海岸沿いに位置する日当たりのよいスタジオで、作品の制作を楽しんでいる。
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