股関節の屈曲をスムーズに行うには|ためになる解剖学的知識

 股関節の屈曲をスムーズに行うには|ためになる解剖学的知識
Christopher Dougherty/Michele Graham
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股関節伸展筋群とはどのような筋肉か

股関節伸展筋群とは、ハムストリングと総称される筋肉のうち大腿二頭筋の短頭を除く全筋肉と大臀筋を指す。このほか、股関節の屈曲のごく一部が中臀筋後部線維によっても引き起こされている。股関節の伸展とは、ボールを蹴ろうとするときのように、立った姿勢から大腿骨を後方に引く動きだ。ヨガではアドームカシュヴァーナーサナ(ダウンドッグ)のバリエーションで片脚を上げる動き(片足の下向きの犬のポーズ)や、ウールドゥヴァダヌーラーサナ(上向きの弓のポーズ)に入るときの動きがこれにあたる。ここに挙げた動きはどれも、股関節伸展筋群の短縮性収縮である。しかし、股関節伸展筋群はウッターナーサナに入るときも働いている。逆説的ではあるが、ウッターナーサナは股関節の屈曲である。

私たちはこのポーズで前屈しながら、重力に従って動いている。上体を少し前傾させ始めると、たちまち重力によって地面のほうに引かれていくのがわかる。このとき股関節伸展筋群には伸張性収縮が生じている。股関節伸展筋群は上体をゆっくり下げていくのを可能にしている。ちょうど崖の縁越しにロープを垂らして誰かを下ろしているような感じだ。股関節伸展筋群はブレーキのように働きながら、上体が徐々に下がる動きを制御して、股関節の屈曲をもたらしている。この動きのほうが代謝的に効率が良い。言い換えれば、重力に従って動くほうが重力に逆らって動くよりも必要なエネルギーが少なくてすむ。つまり、股関節伸展筋群を使うことによって、少ないエネルギーで股関節の屈曲を生み出せるということだ。股関節伸展筋群に伸張性収縮が生じなければ、体は重力に引っ張られるため、脚の上か床に崩れてしまうだろう。

体の仕組みを学ぼう|重力を意識しよう
股関節伸展筋群・中臀筋後部線維/Photo by Christopher Dougherty,Illustration by Michele Graham
体の仕組みを学ぼう|重力を意識しよう
Photo by Christopher Dougherty,Illustration by Michele Graham

サーランバシールシャーサナ(支えのある頭立ちのポーズ)では、股関節伸展筋群に正反対のことが起きる。両脚を真っすぐ伸ばしてこのポーズに入る場合を考えてみよう。このポーズに入るためには、股関節を屈曲させ、腕と頭をヘッドスタンドの位置にしっかりおき、体重を足の指の付け根にのせる。ここから重力に逆らって股関節を伸展させながら、両脚を引き上げて、足先を股関節の真上に揃えることによって、ゆっくりポーズに入っていく。ここでは重力に逆らいながら股関節の伸展に入っている。だからこそ股関節伸展筋群がこの動きを引き起こしているわけだ。このポーズから出るときには股関節を屈曲させるが、ここでもまだ股関節伸展筋群が動きを制御している。具体的には、股関節伸展筋群に伸張性収縮が生じて、重力に逆らいながら体の下降を制御して、私たちをけがから守っている。

自分でヨガをするにしても生徒にヨガを教えるにしても、筋肉のあらゆる動きをいちばんに意識し続けることは難しいだろう。しかし、重力が体に及ぼす影響を第一に考えるようにすれば、強化すべき筋肉や伸ばすべき筋肉をもっと容易に把握できるようになる。

シールシャーサナで両脚を伸ばしたまま上げていくためには、ハムストリングに十分な伸びと力強さの両方が必要だとは思いもよらないのではないだろうか。またウッターナーサナでは、上体を下げるときも上げるときも、ほとんどの動きがハムストリングによって生み出されているようには見えないかもしれない。しかし、ウッターナーサナをしているときの股関節屈筋群は、股関節の屈曲を引き起こしていない。私たちは重力の海を泳いでいるため、上体の上げ下げをほぼ全面的に制御しているのは、実際にはハムストリングなのだ。

これからはヨガを行っているときにどの筋肉が活性化しているのか注目してみよう。今回挙げた2つのポーズからゆっくり始めていき、順にほかのポーズでも筋肉の働きを観察してみよう。筋肉の働きを学ぶ効果的な方法であるだけでなく、本当は人体の動きがどれも驚くほど繊細で知的なものであることを今以上に実感できるようになるだろう。

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by Judith Hanson Lasater
Photos by Christopher Dougherty
Model by Megan O’Donnell
Illustrations by Michele Graham
Translation by Setsuko Mori
yoga Journal日本版Vol.64掲載



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