「肩」の動きをヨガポーズで整理しよう!理学療法士が解説、肩関節の8方向の動き
ヨガで肩を動かす時に気をつけること
肩関節は、可動性が高い反面、安定性に欠けるとてもデリケートな関節です。その肩関節を怪我や故障がないよう安全に動かすために、ヨガのポーズで気をつけてほしいポイントが2つあります。
肩の「インピンジメント」に注意
1つ目は、肩の「インピンジメント」です。インピンジメント(impingement)とは、「衝突」という意味です。肩は外転90°から自動的に外旋することにより、上腕骨の大結節が後方に回り、大結節と肩甲骨の肩峰との衝突を回避しています。このリズムが崩れると大結節と肩峰がぶつかり、その間にある棘上筋腱や滑液包をはさみ込んで傷つけてしまい炎症が起こり、痛みや故障の原因になります。
インストラクターがヨガの最中に「手のひらを天井に向けながら腕を上げて」や「腕を外回しにして腕を持ち上げて」と言っている場合は、きっとインピンジメントを避けるための安全なガイドだと思います。
肩のインピンジメントは、屈曲よりも外転で腕を上げた際に頻発します。ですので肩を痛めている人や肩に不安のある人は、外転ではなく屈曲で腕を挙上する方が安全です。実際に、肩に痛みを訴える患者さんを評価した場合、屈曲より外転で腕をあげた時に痛みの訴えが圧倒的に多くなります。
「スキャプラプレーン」上を意識
頭上から身体を見下ろした際に、左右の肩甲骨は一直線上ではなく、横長の楕円形をした胸郭の関係で、約35°前方に向いています。それを「肩甲骨面」または「スキャプラプレーン」(scapular plane)といいます。
腕を外転させる時は、身体の真横まで外転させずにこの肩甲骨面上で、もしくはそれよりも内側で腕を挙上することで、インピンジメントを避けることができます。これは肩関節が最も強く安定するポジションでもあります。スキャプラプレーン上に腕を揃えることで、上腕骨頭をよりまっすぐ関節窩に向けて適合させ、棘上筋の起始と停止が一直線上に並び、関節包や腱板のねじれや歪みを防ぎます。
しかしヨガの時に、常に腕をこの斜め35°方向に限定して動かすなんてことはムリですよね?ヨガのポーズでは正面や真横や後ろなどあらゆる方向に腕を動かします。
そこで、肩甲骨を土台として肩を動かせば大丈夫です。肩甲骨と上腕骨とが一直線上に並んでいる状態が、肩への負担を最小限に抑えられるということなので、肩を屈曲して腕を挙上する時は肩甲骨を「外転」させて、肩を外転させて腕を挙上する時は肩甲骨を「内転」させて、というように、肩甲骨と上腕骨とのラインをできるだけ揃えるということを徐々に意識していけると良いです。私がよくヨガの時間に「肩甲骨から腕が伸びているイメージで」と言うのはこのためです。
最後に
肩関節の8方向の動きの整理はできましたか?ヨガのポーズとセットで8方向を考えてみると、意外とスッと理解できたのではないでしょうか?
肩のインピンジメントを起こさない工夫と、スキャプラプレーン上での動き、そして肩関節を動かすためには、肩甲骨の動きが土台となって伴うことを忘れないでください。肩に痛みや不安のある人は特に、そしてそうでない人も今後自分の肩を守るために、今回お伝えしたことを理解した上で安全にアーサナをおこなってみてくださいね。
参考
川島敏生「ぜんぶわかる筋肉・関節の動きとしくみ事典」成美堂出版,2012
中村尚人「体感して学ぶヨガの運動学」BABジャパン,2019
D.A.Neumann「カラー版筋骨格系のキネシオロジー第2版」医歯薬出版,2012
ライター/堀川ゆき
理学療法士。ヨガ・ピラティス講師。抗加齢指導士。モデルやレポーターとして活動中ヨガと出会い、2006年にRYT200を取得。その後、健康や予防医療に関心を持ち、理学療法士国家資格を取得し、慶應義塾大学大学院医学部に進学。現在大学病院やスポーツ整形外科クリニックで、運動機能回復のためのリハビリ治療に携わる。RYT200解剖学講師も務める。
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